放課後イントルーダー



りーちゃん(一〇)男性。小学五年生。
フルーチェ(一一)女性。同。

まんだむ(一〇)男性。同。
こじゃっく(一一)男性。同。





●公園・昼
   植え込みの後ろに隠れた三人の少年。
   チンチクリンのりーちゃん。
   ごっつあん体型のまんだむ。
   五厘刈りのこじゃっく。
   まんだむ、双眼鏡で偵察中。
りーちゃん「どうだ、まだ無事か?」
まんだむ「捕虜は健在のようですぜ」
りーちゃん「それは朗報だ。だがあまり猶予
 はない」
こじゃっく「そりゃまたどうしたわけで?」
りーちゃん「六時以降の降水確率は八〇%。
 きのうヤン坊マー坊が言ってた」
   ガッデムと悪態をつく二人。
こじゃっく「決行するしかないですな」
まんだむ「正気か? 正面からの敵中突破に
 なるぞ!」
   同時にりーちゃんを見る二人。
   希望を託すような眼で。
   りーちゃん、諸葛亮のごとく沈思黙考。
りーちゃん「・・・いや、やろう」
   まんだむから双眼鏡を受け取る。
りーちゃん「さっきゅんを救い出して我らの
 陣地へお迎えするのだ」
   双眼鏡の視界。
   公園に隣接したフェンス越しの廃墟。
   雑草生い茂る庭先に一冊の雑誌。
   まだ汚れていない男性向け大衆誌。
   微かに見えるド派手な見出し。
   『あのアイドルが脱いだ!』。
   廃墟からズームバック。
   廃墟と植え込みの中間で遊ぶ少年たち。
   見るからにヤンチャな小六集団。
   植え込みの三人と比べて遥かに強そう。
りーちゃん「H‐アワーは一時間後。弾薬を
 補給してくるからここで待機しておけ」
   ラジャーと小声で応じる二人。

●タイトル
   穿たれた弾痕がタイトルを描く。

●自宅・りーちゃんの部屋・昼
   静寂に包まれた一軒家。
   押入から何か引っ張り出すりーちゃん。
   弾薬箱という名のゴーフル缶。
   中には銀玉鉄砲とBB弾。
   爆竹、花火、木製短刀、ブーメラン。
   学習机の抽斗からはトランシーバー。
   装備一式をリュックに詰め込んで。
   その時、玄関のチャイムが鳴る。
   手を止め、息を潜めるりーちゃん。
   一拍置いて、再度チャイム。
りーちゃん「誰だよ、こんな時に・・・」
   居留守を続けていると。
   高橋名人顔負けの連打が始まる。
   堪りかねて部屋を飛び出すりーちゃん。

●同・玄関・昼
   りーちゃん、勢いよくドアを開く。
りーちゃん「すいません、大人はいません」
フルーチェ「やっほーい」
   玄関先に佇むフルーチェ。
   小学生離れしたスタイルの女の子。
   ワンピースに黒髪が涼しげ。
りーちゃん「な、なんだオマエか・・・」
フルーチェ「オマエとはなんだ。レディーに
 対して失礼だぞ」
りーちゃん「なにがレディーだよ妖怪デカ女。
 ウチに何の用だ」
フルーチェ「今日ね、ママいないの」
りーちゃん「は? 知ったこっちゃねえよ」
フルーチェ「だから、おばさんがウチでお昼
 食べて行きなさいって」
りーちゃん「いや、ウチの母ちゃんもいねえ
 から。何かの間違いだろ?」
フルーチェ「朝会った時に聞いたんだもん。
 とりあえずお邪魔しまーす」
りーちゃん「バカ、勝手に・・・。国境侵犯
 だぞ!」
   制止も虚しく上がり込むフルーチェ。
フルーチェ「あ、これお持たせ。何か超レア
 なチーズケーキだって。冷蔵庫入れといて」
   紙袋を押しつけてさっさと奥へ。
   玄関に取り残されるりーちゃん。
りーちゃん「・・・VUCAだ」

●公園・昼
   植え込みでグルグルキュ―と異音。
まんだむ「俺、腹減っちゃったよ」
こじゃっく「我慢しろ。すぐに軍曹が戻って
 くるって」
まんだむ「食いもん持って来ると思う?」
こじゃっく「さあな。りーちゃんって意外と
 気がきかないから」
まんだむ「ちょっとだけ抜けて、ふくまん屋
 行ってきていい?」
こじゃっく「いいわけあるか。特命中だぞ」
まんだむ「くっそー、アイツら飯食いに帰ん
 ないかなあ。そしたら離脱できるのに」
   相変わらず我が物顔で遊ぶ小六ども。

●自宅・台所・昼
   冷蔵庫の扉を開くりーちゃん。
   麦茶と調味料少々、後は半端な野菜。
   ケーキの紙箱を入れて扉を閉める。
りーちゃん「昼飯になるようなモン、何にも
 ねーぞ」
   乾物棚を勝手に漁っているフルーチェ。
りーちゃん「おま、ちょっとは遠慮しろよ」
フルーチェ「いいものあった!」
   したり顔で振り向くフルーチェ。
   その手に二つのペヤング大盛り。

●公園・昼
   植え込みの蔭でへばる少年たち。
   まんだむのビショ濡れのシャツの裾。
まんだむ「見てこれ、めっちゃ絞れそう」
こじゃっく「ハハ、塩取れたりして」
まんだむ「自由研究にちょうどいいかもね。
 なんか入れもん持ってない?」
こじゃっく「さっき食ったヨーグルならある
 けど」
まんだむ「さすがにちっこすぎ!」
   小六の打球が廃墟のフェンスに当たる。
こじゃっく「ちょっ、やばいって」
   フェンスの方に向かうニ、三人。
こじゃっく「六年に見つけられちゃうぞ」
まんだむ「どうするどうする・・・」
   パニクるまんだむ。
こじゃっく「ここは俺がデコイになる!」
   茂みを飛び出すこじゃっく。
   廃墟に向かって韋駄天のごとく。
   ダラダラ歩く六年を追い越して。
   フェンス際のボールを拾って。
   明後日の方向へ逃げ出す。
こじゃっく「いいもん見ーっけ!」
   怒声を上げて後を追う六年たち。
   廃墟付近がノーマークに。
まんだむ「・・・今なら行けんじゃね?」
   茂みから立ち上がるも逡巡。

●自宅・台所・昼
   コンロの前に並べられた食材。
   ペヤング、白ねぎ、ごま油。
   味の素、オイスターソ―ス、塩胡椒。
   コンロにかかった鍋とフライパン。
   髪を後ろでくくるフルーチェ。
フルーチェ「こういうのもちょっとした工夫
 でごちそうになるんだから」
りーちゃん「親がいない時に火使うと、俺が
 キレられるんだけど・・・」
フルーチェ「信頼されてないんだ。お手伝い
 とかしたことないの?」
りーちゃん「まあ・・・風呂掃除くらい?」
フルーチェ「そんなだと結婚できないよ」
   二口同時に火をつける。
フルーチェ「戦力にならなそうだし、今日は
 そこで見てなさい」
   壁掛け時計を気にするりーちゃん。
りーちゃん「何分かかんだよ・・・」

●公園・昼
   反対の入口から戻ってくるこじゃっく。
   ぜえぜえ言って汗を滴らせながら。
   茂みにうずくまっているまんだむ。
こじゃっく「きっつー。学校の近くでまいた
 からしばらく戻らねーと思うけど・・・」
   廃墟の方を見て。
こじゃっく「完全にお留守じゃん。のんびり
 休憩してる場合かよ。今のうちに行っとか
 ねーと」
まんだむ「行こうとはしたんだよ・・・」
   なぜか半べそ声。
まんだむ「でも・・・」
   尻を押さえて立ち上がるまんだむ。
   ズボンが大きく裂けている。
   植え込みの枝に引っかかった端切れ。
こじゃっく「・・・隠れろ!」
   まんだむの頭を押さえつつ端切れ回収。
   文句垂れながら戻ってくる六年生。
こじゃっく「思ってたより早かったな。けど
 ボールはもう無いし疲れてるし、ソッコー
 で帰るだろ」
   足で土にラインを引く六年生たち。
こじゃっく「何やってんだ?」
   遅れてきたやつがドッジボール持参。
   たちまち始まる楽しい大乱戦。
こじゃっく「アイツらタフマンでも飲んでん
 のか!?」

●自宅・ダイニング・昼
   向き合って座る男女二人。
   それぞれの前にネギ塩焼きそば。
フルーチェ「いっただっきまーす!」
   りーちゃんを待たずに食べ始める。
フルーチェ「うまっ、最高!」
   あまりにも幸せそうな姿。
   溜息をついて箸を運ぶりーちゃん。
   一口食べた瞬間雷に打たれたように。
   無限に止まらなくなる箸。
   無言で貪り食うりーちゃん。
   母親のように見守るフルーチェ。
   安心したように大あくび一つ。

●公園・昼
   暇を持て余す男子二人。
   双眼鏡を手にしたこじゃっく。
   レンズ越しに雑誌の無事を確認。
こじゃっく「手が届きそうなのに届かないの、
 マジ拷問だな」
まんだむ「今の俺よりマシじゃん。飢え死に
 しそうなのに出るに出れないんだぞ」
こじゃっく「ナサケナイ声出すなよ。軍曹が
 来たら替えのズボン取りに行ってやるから」
まんだむ「こじゃっくのじゃ入んないよ」
   まんだむ、恨み節モード。
   地面に枝で三目並べを書きながら。
まんだむ「第一、軍曹どのは何してんだよ。
 まさかアイツ、抜け駆けしてメシ食ってん
 じゃ・・・」
   カシオウォッチを見るこじゃっく。
こじゃっく「マズイな。お昼過ぎたら幼稚園
 のガキどもがワンサカ来るぞ」

●自宅・りーちゃんの部屋・昼
   物珍しそうに部屋を見回すフルーチェ。
   気が気でないりーちゃん。
りーちゃん「おい、あんまジロジロ見んな」
フルーチェ「えー、いいじゃん。男子の部屋
 初めてなんだもん」
りーちゃん「てか、昼食ったんだから帰れ」
フルーチェ「ママが帰るまでいていいって、
 おばさんが」
りーちゃん「・・・あのババア」
   密告者の目で見てくるフルーチェ。
りーちゃん「・・・あのお母さま」
フルーチェ「せっかくケーキもあるんだし、
 オヤツも一緒に食べよ」
   遠慮なくベッドに尻から着地。
   長い生足が無邪気に跳ねる。
   思わず目を逸らすりーちゃん。
りーちゃん「やめろよ、お前の重さでベッド
 潰れっから」
フルーチェ「フフン♪」
   無視してベッドの上に腹ばいに。
   その勢いでベッドの下を覗く。
フルーチェ「なーんだ、埃ばっか」
りーちゃん「他に何があるって言うんだよ」
フルーチェ「ん? それあたしに聞く?」
   小悪魔の眼差し。
りーちゃん「・・・やなヤツ」
   暫くの間、甘酸っぱい沈黙。
   フルーチェが足パタさせる音だけ。
フルーチェ「もうすぐ夏休みだね」
りーちゃん「・・・ああ」
フルーチェ「今年はプール行くの?」
りーちゃん「なんでそんなこと・・・たぶん
 行くけど、中丸とか夏木と」
フルーチェ「ふーん・・・」
   ベッドに顔を埋めて上目遣い。
フルーチェ「二回行くのって、どう?」
りーちゃん「・・・嫌だよ。飽きるし」
フルーチェ「一回でどんだけ泳ぐつもり?」
りーちゃん「他に行きたいとこだってあるし」
フルーチェ「え、どこどこ?」
りーちゃん「花火大会とか・・・だからお前
 に言う必要ねーだろ」
フルーチェ「代わりに、あたしの行きたい所
 教えてあげるけど?」
りーちゃん「うわーいらねー」
   ニヤニヤするフルーチェの視線が下へ。
フルーチェ「もしかしてお出かけだった?」
   ベッドの足元のリュックに気づいて。
りーちゃん「そうだよ。だから迷惑してんの」
フルーチェ「ふーん。じゃ、あたしもついて
 行こっかな・・・」
りーちゃん「あ、頭おかしいんじゃねーの」
   急にアタフタしだすりーちゃん。
フルーチェ「わかったわかった」
   フルーチェ、悟り顔。
フルーチェ「いいよ、行ってきたら?」
りーちゃん「ハア?」
   大あくびするフルーチェ。
フルーチェ「あたし、今なぜか超眠いんだ。
 ここで寝させてもらうから行ってきなよ」
りーちゃん「・・・・・・」
   立ち尽くすりーちゃん。
   再びの沈黙。
   おちょくるように蝉ががなり出す。

●公園・昼
   植え込みの蔭、背中合わせの少年たち。
   傷ついた戦友のように。
こじゃっく「・・・軍曹どのは裏切ったのだ」
まんだむ「はかないよな、友情って」
こじゃっく「まんだむは今何円持ってんの?」
まんだむ「小遣い出たばっかだから五百円」
こじゃっく「奇遇だな、俺もだよ」
まんだむ「あ、このあときなこ棒買うつもり
 だから百円マイナスで」
こじゃっく「クソ暑いのに三個も食うの?」
まんだむ「だって一番腹ふくれるし・・・」
   汗に濡れた硬貨を見つめるこじゃっく。
こじゃっく「二人合わせたら買えるかな」
まんだむ「餅太郎?」
こじゃっく「雑誌だよ雑誌」
まんだむ「買うの?」
こじゃっく「買う」
まんだむ「子どもが買えるの?」
こじゃっく「親のお使いみたいな顔しときゃ
 いいんだよ」
まんだむ「でも、すぐそこにあるのに・・・。
 その金でヤングドーナツだって・・・」
こじゃっく「こんな所で干からびたミミズに
 なるよりマシだろ」
   鬼ドッジに興じる六年生を恨めしげに。
まんだむ「りーちゃんには何て言うの?」
こじゃっく「何も言わなくていいし、アイツ
 には見せない。俺らの金で買うんだから」
まんだむ「楽しみにしてたのにな、アイツ」
   まんだむ、微かな罪悪感。
こじゃっく「そう言えばさ、さっきゅんって」
   何か大変なことに気づいた風。
こじゃっく「フルーチェに似てね?」

●自宅・りーちゃんの部屋・昼
   ベッドの上に横たわるフルーチェ。
   発育した体をのびのび伸ばして。
   閉じた瞼、長い睫毛が風に揺れる。
   ベッドに向けた扇風機。
   りーちゃん、背を向けて学習椅子に。
   リュックを膝に抱えて額に汗。
   そこは扇風機の圏外だから。
りーちゃん「・・・寝た?」
フルーチェ「まだ」
   目を閉じたまま答える。
フルーチェ「早く行きなよ。留守番しといて
 あげる」
りーちゃん「そんなわけにいくかよ」
フルーチェ「あっそ」
   穏やかに上下するフルーチェの胸。
   椅子の上で丸くなるりーちゃん。
   無理に向けた背中に汗じみ。

●公園・昼
   植え込みの蔭、完全に寝転んだ二人。
   涼しげな木の梢を見上げて。
こじゃっく「さっきゅんの新CM見た?」
まんだむ「見た見た。なんかすごかった」
こじゃっく「実はさ、ビデオ録り成功したん
 だよね」
まんだむ「マジで? もうテレビの前で正座
 しなくてもいいじゃん!」
こじゃっく「そんなことしてんのか」
まんだむ「CMよりすげーのかな、あの雑誌」
こじゃっく「そりゃそうだろ。『脱いだ』っ
 て書いてあったし」
まんだむ「保健の教科書よりすげーのかな」
こじゃっく「ただの絵だぞ、あんなの」
まんだむ「芸能人水泳大会より?」
こじゃっく「アイドルの水着は絶対脱げない
 じゃん」
まんだむ「フルーチェよりすげーのかな」
こじゃっく「・・・なにが?」
まんだむ「・・・・・・」
こじゃっく「・・・・・・」
   梢がざわざわと音を立てる。
まんだむ「まだ行かねーの本屋」
こじゃっく「あと五分待ってやろう」

●自宅・りーちゃんの部屋・昼
   すっかり熟睡した様子のフルーチェ。
   恐る恐る顔を見下ろすりーちゃん。
りーちゃん「おーい、起きてるか―」
   囁きかけても無反応。
りーちゃん「どんだけ寝不足だったんだよ」
   果実のような頬に思わず手が伸びて。
   すんでのところで思い止まる。
   リュックを背負うりーちゃん。
   足音を忍ばせて部屋を出て行く。
   一人残されたフルーチェ。
   お腹の上に男子っぽいタオルケット。

●同・玄関先・昼
   ドアを閉めて行きかけるりーちゃん。
   思い直して外から鍵をかける。

●公園・午後
   りーちゃん、匍匐前進で植え込み裏へ。
りーちゃん「工作兵のサボタージュに足止め
 された。即時作戦行動に移・・・」
   戦友たちの姿、すでに無し。
   六年生も三人を残して撤退済み。
   残党がうんこ座りで馬鹿話。
りーちゃん「敵前逃亡するとは、あの腰抜け
 ども・・・」
   半泣きでリュックの中を探る。
りーちゃん「男の死に花を咲かせてやるぞ。
 お前らゼッタイ見せてやんないからな!」
   両手にピストルと点火した爆竹。
   雄叫びと共に植え込みからの奇襲。
   泡を食って立ち上がる六年生たち。
   全てが引き延ばされた時間の中で。
   汗まみれのりーちゃんの顔にズーム。

●住宅街・午後
   周囲を警戒しながら進むりーちゃん。
   リュックを宝物のように抱きしめて。
   公園に向かう親子連れとすれ違う。
りーちゃん「敵軍は掃討しておいてやったぜ。
 平和の価値も知らん幸せ者め」
   得意げに呟き、顎の擦り傷を撫でる。
   自宅が見えるところまで来て。
りーちゃん「あ、やべっ!」

●自宅・玄関先・午後
   今しも玄関鍵を開けようとする女性。
   リーちゃんの母親である。
   その傍には幼い妹が指をくわえて。
   そこに横入りするりーちゃん。
りーちゃん「俺が開ける!」
母「びっくりした。あんたどこ行ってたの?」
りーちゃん「貸してたマンガの回収!」
   鍵を挿してガチャガチャ。
   焦りからか、なかなか開かない。
母「そうなの。母さん、うみちゃんの美容院
 思ってたより時間かかっちゃって。ホカ弁
 買って来たんだけどお昼もう食べちゃった
 わよね?」
りーちゃん「だいじょうぶ!」
   やっと開いた鍵。
   ドアが完全に開ききる間も惜しい。
   隙間からもどかしげに滑り込む。
   派手に靴を脱ぎ散らかして。
母「ちょっと、靴ちゃんと揃えなさいよ!」
妹「にーちゃん、おくつ」
りーちゃん「ハイハーイ!」
   Uターンして足先で靴をちょちょい。
母「そう言えば知果ちゃん来なかった?」
りーちゃん「フルーチェ? 知らない!」
   飛ぶように階段を駆け上がる足音。

●同・りーちゃんの部屋・午後
   部屋に飛び込んでくるりーちゃん。
りーちゃん「起きろ! 男の部屋で寝てたの
 バレたら・・・」
   ベッドには丁寧に畳んだタオルケット。
   フルーチェの影も形もない。
りーちゃん「帰ったのか。でも玄関・・・」
   首をひねるもすぐに忘れ去って。
   リュックの中から厳かに雑誌登場。
   床の上に小学生新聞を敷いて。
   ティッシュで丁寧に土埃を払う。
   発掘品の泥を取り除くように。
母(声)「陸斗! わくわくサタデー始まる
 わよ!」
   階下から母親の能天気な声。
母(声)「今日は『美人小学生コンテスト』
 だって!」
りーちゃん「見ないよ、そんなの!」
   ベッドの前に正座。
   タオルケットの上に雑誌を置いて。
   震える手でページを捲ってゆく。
母(声)「陸斗! 冷蔵庫のチーズケーキ、
 どうしたの?」
りーちゃん「お隣のおばちゃんが持ってきて
 くれた!」
   上の空で適当な返事。
母(声)「うみちゃん良かったねー。ごはん
 食べてからいただこうね」
妹(声)「けーき! けーき!」
りーちゃん「どうなってんだ・・・」
   さっきゅんのグラビアが見当たらない。
   もう一度頭から念入りに。
母(声)「陸斗ちょっとテレビ見て! これ
 知果ちゃんじゃない?」
   もはや外界からの音は耳に入らない。
   雑誌の真ん中辺りに切り取られた跡。
   微かにカラーページらしき残存部。
   りーちゃん、魂が抜けたように茫然。
   *****
   帰って来てまだ見ていない学習机の上。
   爽やかな空色の封筒。
   林間学校で作った文鎮を重しにして。
   封筒の表に書かれた大人びた文字。
   『佐藤陸斗くんへ』。
   机に射していた陽光が雲に翳る。
   風が窓を揺らしている。





                   了


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