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山さんの刑事部屋
スメル・ライク・ユー
織田(おだ)(三二)男性。
有馬(ありま)(三二)女性。
千都(せんと)(五四)女性。
古倉(ふるくら)(四七)男性。
●小学校・教室・昼(回想)
花瓶に挿されたクチナシ。
手から手へ渡る香り玉の瓶。
水泳後の乾き切らない髪。
給食前の落ち着かないざわめき。
その中、ポツリと呟く声。
男子A「くさない?」
それを契機に波及する囁きと嘲笑。
男子B「くっさ。動物園のニオイやん」
女子A「もう、やめときって」
女子B「でもくさいよ、うえっ」
わざとらしく嗅ぐ児童たちの鼻。
班ごとに固まった机の島。
一つだけポツンと離れ小島。
俯く小学生時代の織田。
●カフェ・夕方(回想)
湯気と共に注がれるエスプレッソ。
皿に載せられたチョコミントケーキ。
席でメイク直しする若い女性客。
退勤時間の浮き足立ったざわめき。
カウンターで従業員同士のすれ違い。
何かを嗅ぎつける女性従業員の鼻。
従業員「ちょっといい?」
声を掛けられたのは同僚の織田。
*****
バックヤード。
女性従業員に詰められる織田。
従業員「自分、香水か何かつけてるん」
織田「いや、何も」
従業員「めっちゃ鼻に来るねん。ぶっちゃけ
臭い」
織田「・・・どんな匂いですか」
従業員「せやから香水の強烈なやつ」
織田「もしかして柔軟剤ですかね」
従業員「何でもええわ。それもうやめて」
織田「え」
従業員「気分悪なんねん。仕事になれへん。
やめへんかったら店長に言うから」
●地下街・トイレ・昼
洗面台で手を洗う織田。
神経質に何度も何度も。
続いて歯磨き、体臭サプリの摂取。
服に消臭スプレーを振りかける。
袖や衿の匂いを執拗に確認。
トイレに入ってくるリーマンたち。
リーマンA「あそこのペペロンチーノ、マジ
最の高やな。にんにくケチらんの、ほんま
分かりみ深いわー」
リーマンB「ええんすか、昼からも営業ある
のに」
リーマンA「ブレスケア噛んどいたら無問題
やろ」
派手な水音を背に出ていく織田。
●都市公園・午後
透き通った秋の陽射し。
ベンチに織田、膝上にノートPC。
鼻から下はマスクで隠れている。
ふと、ヒクヒク動くマスク。
織田、顔を上げる。
目の前を横切っていく親子連れ。
女児の手にキャラメルポップコーン。
織田、視線を下ろして作業再開。
ふと、ヒクヒク動くマスク。
織田、顔を上げる。
目の前を横切っていくホームレス。
過積載ぎみのリヤカーを引いて。
織田を見返すホームレスの眼差し。
まるで憐れんでいるかのよう。
●織田の部屋・朝
ベッドで目を覚ます織田。
上半身裸でまだ寝ぼけまなこ。
織田の鼻、ムズムズ。
ベッドから出て部屋の隅へ。
テレビ台の蔭に置き型消臭剤。
スプレーボタンをワンプッシュ。
ベッドの半分、まだ夢ごこちの有馬。
●同・承前
テーブルに向かい合う織田と有馬。
二人の前にはシンプルな朝食。
焼いた食パンにバターを塗る織田。
生の食パンをスープに浸す有馬。
有馬「あの、さ」
織田「ん」
有馬「聞いていい?」
織田「何?」
有馬「何でプシュッてやったん」
織田「何のこと?」
有馬「気づいてへんと思った?」
織田「・・・起きとったんや」
有馬「そんなクサかった?」
織田「そらまあ、色々やった後やし」
有馬「そういうこと言うてるんちゃう」
織田「じゃあ何やねん」
有馬「私、そんなクサかった?」
織田「・・・・・・」
バターナイフがパンの表面を削る音。
有馬「図星やな」
織田「ちゃうって」
有馬「目泳いでるやん。それとバター、もう
無いで」
パンにすっかりしみ込んだバター。
有馬「はっきり言うてよ。ゆうべもあんまり
キスしてくれへんかったやん」
織田「それは・・・」
有馬「泳ぎすぎや。バタフライか」
織田「・・・すっぱい」
有馬「は?」
織田「酸っぱい匂いがすんねん有馬。あと、
ちょっと生臭い・・・」
有馬の手の中で捏ねられる食パン。
有馬「何それ・・・」
織田「分かってる。仕事柄しゃあないって。
けど、どうしてもウッてなって・・・」
有馬「・・・ずっと思てたん?」
織田「・・・ごめん」
有馬「いや、謝られた方が傷つくねんけど」
織田「悪いの俺やし」
有馬「謝るなって言うてるやろ」
織田「・・・・・・」
有馬「色々努力してんねんで」
織田「・・・・・・」
有馬「仕事の後は皮むけるくらい手洗うし、
会うまで時間ある時は絶対シャワー浴びる
し、香水も・・・」
織田「・・・・・・」
有馬「けどどうやっても落ちひん。しみつい
てる。一生ものの付き合いや」
織田「・・・やっぱり無理なんかな」
立ち上がる有馬。
有馬「・・・別れたいってこと?」
織田「別れたないよ・・・けど・・・」
有馬「我慢できるほどは好きやないと」
織田「そんなん一言も・・・」
織田の椅子の後ろに回り込む有馬。
そのまま織田の首筋に顔を寄せる。
織田「ちょ、何・・・」
有馬「じっとしてて」
織田「汗かいてるから・・・」
有馬「ええねん。織田の匂い嗅ぎたいねん。
我慢できるくらい織田のこと好きか、確認
したいねん」
クンクンと蠢く有馬の鼻。
されるがままの織田。
織田の肩から離れる有馬の手。
有馬「・・・せえへん」
織田「え」
有馬「何もせえへん・・無臭や・・・」
織田「そんなわけ・・・」
振り向く織田、有馬の歪んだ顔。
有馬「嘘ちゃうよ、ほんまにせえへんねん。
ゼロや。シャツの繊維の匂いはすんねん。
洗剤の匂いも、さっき食べてたキウイも。
けど、織田自身の匂いを感じひん・・・」
有馬、一歩ずつ後ずさり。
織田「有馬・・・」
有馬「そんなんありえる? あんた何なん?
ほんまに生きてる? 嫌やわ、何で今まで
気つかへんかったんやろ・・・」
織田「有馬、待って・・・」
有馬「・・・気持ち悪」
足早に部屋を出ていく有馬。
玄関ドアが開いて閉じる音。
取り残された織田と食パン。
●喫茶店・午前
テーブルの上にICレコーダー。
千都と向かい合う織田。
千都「要するに、幽霊は一種の電磁的記録。
過去に起きた出来事の反復的な再現でしか
ないの」
織田「再現、ですか」
千都「そう。空間を映像メディアやと考えて
みて。そこに焼きつけられた映像や音声が
何らかのきっかけで再生され、誰かが目撃
する。そこから怪談が生まれるってわけ」
織田「焼きつけるって?」
千都「それを今研究してるんよ。未知の記録
媒体が人間の強烈な感情や共同幻想を空間
に固定できるとすれば、幽霊だけやない、
妖怪やUMAかて説明可能になる」
織田「はあ・・・」
千都「ピンときてへんみたいやね。ていうか
この手の話、興味ないんとちゃう?」
織田「そんなことは」
千都「ええって、どうせ穴埋めやろ。適当に
まとめといてくれたら・・・」
千都、なぜか落ち着かなげ。
千都「ここ、煙草いけるんかな」
織田「いけるんちゃいます、灰皿あるし」
千都「ラッキー。アイコス気にならん人?」
織田「ご遠慮なく」
千都「学内は全禁や。死ぬほど頭脳労働させ
といてそれは殺生やろ」
嬉々として電子煙草を取り出す千都。
織田、愛想笑い。
●地下街・トイレ・昼
洗面台で手を洗う織田。
袖を恐る恐る嗅いでみて溜息。
消臭スプレーを取り出すも躊躇。
トイレに入ってくる若者たち。
若者A「あのメシ屋、冷房バグってる絶対。
見てみ、豚みたいにビチャビチャや」
若者B「担々麵のせいやろ。制汗あるで」
若者A「貸して貸して。このままやと女にも
逃げられるわマジで」
たちまち立ち込める制汗スプレー。
霧をかき分けて出ていく織田。
洗面台に残された織田の消臭グッズ。
●都市公園・午後
透き通った秋の陽射し。
ベンチに織田、膝上にノートPC。
千都への取材を原稿にまとめている。
ふと、視界に蠢く影。
織田の足元に鼻を寄せる仔猫。
くたびれた革靴を入念に嗅いでいる。
PCを畳んで立とうとする織田。
鼻を離した仔猫、織田を見上げる。
何とも言えない不可解な表情で。
●商業施設・テラス・夕
上層階のウッドデッキ。
暮れゆく都会を臨むフリースペース。
買い物客や観光客に混じって織田。
周囲が夕景に目を奪われる中。
独りスマホに目を落としている。
スマホの検索画面。
『嗅覚過敏』『自臭症』等の文字列。
ブラウザを閉じてアドレス帳を開く。
織田「あ、織田です。お電話大丈夫ですか」
喫煙スペースから漂ってくる煙。
無意識に場所を移動する織田。
織田「お忙しい中ありがとうございました。
興味深いお話を・・・いえ、ほんとに」
派手なギャルJKとすれ違う。
JKが持ったホカホカのケンタの袋。
織田「はい、来週号のワイド記事って聞いて
ます。全力で書かせていただきますので」
静かな片隅に辿り着いて。
織田「それでですね、先生にちょっとお聞き
したい事が・・・いえ、記事とは別件なん
ですけど個人的な好奇心というか・・・」
日が落ち、向かいのビルに灯が点る。
織田「幽霊って、匂いするんですか」
●地下街・夜
人ごみの中をさまよい歩く織田。
すれ違う人々から可視化された匂い。
汗、アルコール、香水、551。
ラーメン屋からは豚骨臭。
パチンコ屋からは金属臭。
連絡通路からは地下鉄臭。
雑多な匂いを浴びながら無心の織田。
脳内に甦る千都との通話。
織田「先生、笑てはります?」
千都「ゴメンゴメン、あまりに唐突やから。
どうしたん、もしかしてアロマティックな
幽霊にでも出くわしたんか」
織田「違いますよ。一般論としてお聞きして
るんです」
千都「匂いなあ・・・霊臭って言葉は確かに
あるけど、私は眉唾やと思う。匂いで霊の
善し悪しが判るとか言い出したら尚更」
織田「じゃあ」
千都「けど、亡くなった人に縁のある匂いが
ふっと漂ってきた、って話はちょくちょく
耳にするわ。案外無視できん話やで。他の
五感みたいに匂いだけが空間記録されへん
理屈はないからな。あとはチャンネルさえ
合えば・・・」
織田「先生」
千都「聞きたい答えと違うた?」
織田「人の匂いって、何やと思います」
千都「それは・・・」
暫しの沈黙の後。
千都「足跡ちゃうか」
立ち止まった織田。
突き当たりにインネパ料理店。
●インネパ料理店・夜
店内に流れるマサラ映画の曲。
壁にはカーリーやガネーシャの織物。
織田のテーブルに運ばれる料理。
キーマ、ナン、タンドリーチキン。
スパイスの芳香が織田を包み込む。
ボリュームと香りに圧倒される織田。
民族衣装の店主の奥深い微笑。
●織田の部屋・夜
ベッドに倒れ込む織田。
シャツを脱ごうとしてやめる。
そのまま雑にシーツに潜り込んで。
シーツ内空間の匂いを嗅いでみる。
満足げに眠りにつく織田。
●同・朝
ベッドで目を覚ます織田。
よれよれシャツで寝ぼけまなこ。
ふと、シーツを頭からかぶる。
オバQ状態で暫くフリーズ。
シーツの下からスンスン鼻の鳴る音。
突如跳ねのけられるシーツ。
織田、ベッド上で愕然。
●無人ジム・午後
トレーニングに励むシニアたち。
片隅で黙々と走り続ける織田。
ランニングマシンの設定は最高速度。
撒き散らされる織田の汗。
硝子窓の眼下は匂いに満ちた街。
目に入った汗で風景と匂いが滲む。
*****
シャワールームを尻目に。
織田、汗だくのまま退出。
●男子トイレ・個室・午後
便座に座った織田。
腋の下に臭気チェッカーを当てて。
電子音、数値を恐る恐る確認。
ニオイゲージは0のまま。
体温計のようにきつく腋に挟み直す。
悲鳴のような電子音。
祈るように再確認する織田。
液晶部にERRORの表示。
●公衆喫煙所・昼
換気装置に吸い込まれる煙。
ストレスを吐き出すリーマンたち。
まるで生きている証のように。
奥まった目立たない一角。
織田がゴロワーズを喫っている。
一口喫っては咳、一口喫っては涙。
織田の醜態に誰も気を払わない。
煙すら他人より早く消え失せる。
●猫カフェ・午前
比較的空いている平日の店内。
客も少ないが猫の数も少ない。
いや、猫が一箇所に集中している。
ソファに座った織田の周囲だ。
膝、肩、頭、足元、至る所で寛ぐ猫。
まるで人間キャットタワー。
人間と認識されていないかのように。
●寺院の香炉・午後
香炉に次々と刺されてゆく線香。
他の参拝客に混じって織田も刺す。
濛々たる煙に包まれる一帯。
入れ替わり立ち替わる人々の中で。
織田だけが煙を浴び続ける。
●廃墟・夕
破れた窓から射す夕陽。
茜色と闇とが交錯する廃講堂。
舞台上に据えられた七輪。
その前にしゃがみ込む織田。
煙を上げて焼けるくさや。
浴びるように団扇で煽ぐ織田。
*****
舞台上で缶詰と相対する織田。
膨らみ切ったシュールストレミング。
缶切りを缶の縁に当てて躊躇。
勇を鼓して力を込めた瞬間、暗転。
●街の広場・夜
刹那に生きる若者たちの群れ。
若さと無精の匂いが一帯を支配する。
迷子のように通りかかる織田。
地雷系ファッションの少女が近づく。
少女「おにいさん、どこ行くん?」
織田「・・・・・・」
少女「良かったらウチと遊ばへん?」
織田「・・・・・・」
無視して進む織田に縋りつく少女。
織田の鼻がヒクヒク動く。
自分の上半身を神経質に嗅ぎ始める。
少女「嫌やわ。ウチ、ちゃんとお風呂入って
るで。他のコとちゃうし」
天真爛漫に笑う少女。
織田、初めて少女の存在に気づく。
織田「・・・嗅いでくれ」
少女「え」
織田「俺を嗅いでくれ。どこでもええから。
ほんまに匂わへんのかどうか・・・」
少女に詰め寄る織田。
引きつった笑顔で後ずさる少女。
●織田の部屋・夜
織田、ベッドに突っ伏して不貞寝。
床に転がった臭気チェッカー。
織田の指先のスマホが震える。
表示される有馬からのメッセージ。
有馬(字)「ごめん」
有馬(字)「こないだのこと」
有馬(字)「スペックオーバーやってん」
有馬(字)「もうすこし時間ちょうだい」
●路地・夜
ビールケースの上に座る影。
調理白衣姿の有馬。
スマホを持ったままうなだれて。
既読にならないメッセージ。
●商店街・夜
インバウンドでごった返す通り。
その中を藻掻くように織田。
スマホで地図を確認しながら。
脳内に甦る千都との通話。
織田「すいません、まさかあんな扱いやとは
思わなくて・・・」
千都「『奇人の秋・変人の秋』な。かまへん、
『凡人』とか書かれるより何ぼかマシや」
織田「・・・・・・」
千都「それよりどうなったん、匂い」
織田「それが・・・」
たこ焼きやホルモンの匂い。
外国人の体臭や香水の香り。
ドラッグストアから様々な芳香。
時折漂う下水の臭気。
千都「そらまた強情な体質やな」
織田「俺、幽霊にすらなられへんみたいで」
千都「うーん・・・」
スマホの地図が目的地を示す。
千都「ええ人、紹介したろか」
目の前に小さな間口の店。
刃物店と食品サンプル店に挟まれて。
煤けた看板『古栖堂(ふるすどう)』。
●古栖堂の店内・夜
怖々と入口を潜る織田。
たちまち薫香の渦に包囲される。
店内はまるで錬金術師の隠れ家。
壁を塞いだ棚に無数の硝子瓶。
香木・動物の一部・鉱石等を収めて。
棚の上には猫と鹿の剥製。
その隣に無造作に置かれた沈香。
商品棚にはお香や蝋燭、香水が並ぶ。
千都(声)「どんな香りでも自由自在に作り
出せる調香師や。まあ、ちょっとクセツヨ
な人やから覚悟はいるけど・・・」
古倉「今日はもう終いです」
店内の混沌に目を奪われていた織田。
突然の声かけにビクッ。
いつの間にかカウンターに古倉の姿。
織田「あの、千都先生から紹介されて」
古倉「またあのオバハン気安うに・・・」
不機嫌な古倉にたじろぐ織田。
織田「えっと・・・出直した方が?」
古倉「(舌打ち)ええわ、そこ座って」
カウンター前の椅子に掛けさせる。
古倉「で、どんな香りをご所望や」
織田「どんなんでも・・・」
織田の言葉に古倉ギロリ。
織田「ちがっ、適当な意味やなくて・・・」
古倉「我も持たんくせに一丁前に。千五百年
早いわ。己を嗅いでから出直して来い」
織田「千五百年って中途半端な・・・」
古倉「そこの伽羅の年期や」
棚の上の沈香を指さす。
織田「あの・・・」
古倉「何や」
織田「無いんです」
古倉「何が」
織田「その・・・己の匂い、ってやつ」
マジマジと織田を見やる古倉。
古倉「おい」
織田「はい?」
古倉「もっと近う寄れ」
織田「こうですか」
椅子から少し身を乗り出す織田。
古倉「みみっちいやっちゃな。もっとや」
カウンター内から腕を伸ばした古倉。
織田を無理やり引き寄せる。
そのまま組み伏せて顔を近づけて。
織田「何しはるんですか(ジタバタ)」
古倉「じっとしろ。しつけの悪い犬が」
髪、首筋、耳の裏に鼻を突っ込む。
まるでムツゴロウさん。
古倉「・・・ほーお、なるほどなあ」
ようやく解放された織田。
急にウキウキしだす古倉。
織田「・・・で?」
古倉「お前、これアカンやつやぞ」
織田「へ」
古倉「何つけても無駄や。体が拒んどる」
織田「・・・・・・」
古倉「どうせ色々試したけど効き目なかった
んやろ」
織田「・・・・・・」
古倉「そんな顔すな。解決策はある」
織田「ほんとですか」
古倉「多少の痛みは伴うけどな。おとなしく
待っとけ。店のもん触るなよ」
カウンターの奥に引っ込む古倉。
●同・承前
カウンターに置かれる香水の小壜。
ドヤ顔の古倉を見返す織田。
織田「これが?」
古倉「お前に必要なもんや。嗅いでみ」
織田、壜をダイレクトで鼻に。
古倉「ちゃうちゃう。嗅ぎ方も知らんのか」
右手で壜、左手で織田の手を掴む。
そのまま織田の内手首にプッシュ。
古倉「どうや」
織田「・・・なんも匂いません」
手首に鼻をつけたまま不審顔。
古倉「正解や。それ自体には香りはない」
織田「じゃあ何の意味が」
古倉「それは安定剤や。心のちゃうで。香り
の安定剤。香り自体は自分で捕まえろ」
織田「捕まえるって・・・」
古倉「マドレーヌと紅茶や」
織田「は?」
古倉「直観を信じろ。道は必ず示される」
無言で古倉を見つめる織田。
壜を手に取り、首回りにプッシュ。
古倉「住所書いていけ。振込用紙送るから」
●商店街・夜
目的地も分からず歩む織田。
進行方向にティッシュ配りの女の子。
無意識に避けて通る織田。
十数歩通り過ぎて立ち止まる。
引き返して受け取ったティッシュ。
近くにあるサウナの広告。
●サウナ室・夜
ベンチに座って汗を垂れ流す織田。
他にはニ、三人の相客。
室内は熱気と木の匂いに満ちている。
入室するスタッフ。
スタッフ「ロウリュ、よろしいですか」
重厚に頷く古参客。
スタッフ「今週は金木犀ロウリュです」
垂らされるアロマウォーター。
スタッフ、タオルでアウフグース。
織田の視界がホワイトアウトする。
●通学路・夕(回想)
(ここからの回想は現在の織田同行)
豆腐屋のラッパの音。
よその庭から漂う金木犀の香り。
体操服袋を引きずり歩く織田少年。
半べそかきながら。
●織田の実家・台所・夕(回想)
泣く織田少年を抱きしめる母親。
鍋から甘いカレーの匂い。
母親の首筋から洗濯物の匂い。
織田「みんなクサイ、クサイ言うねん。ボク
のこと言うてるくせに、わざと知らんぷり
して。せ、先生かって何も言わんと笑うて
はるねん・・・」
織田の髪と首筋を嗅ぐ母親。
少しだけ表情が揺らぐ。
母親「・・・大丈夫やで。あんたはちっとも
くさいことあれへん。みんなと同じや」
涙目で母親を見上げる織田少年。
織田「・・・ほんま?」
母親「ほんまほんま。けどな、もしあんたが
気になるんやったら、お風呂入る時石鹸で
ようさんゴシゴシし。それでバッチリや」
●同・浴室・夜(回想)
空中に漂うシャボンの泡。
体に石鹸を塗りたくる織田少年。
華奢な手足が赤くなるくらい必死。
半分開いた窓から夜風の匂い。
●同・洗濯機置場・夜(回想)
洗濯機の前に立つ母親。
その表情は真剣そのもの。
粉末洗剤を洗濯物の上から投入。
続いて新品の柔軟剤の封を切る。
アロマの香りが漂い出す。
●織田の十代モンタージュ(回想)
小学生、中学生、高校生の織田。
それぞれの教室風景。
いつしか受け入れられてはいるが。
いつも独りで埋没している。
●織田の実家・洗濯機置場・夜(回想)
アロマ柔軟剤を掴む手。
大学生時代の織田。
年を取った母親がその背後に。
母親「どうするん、それ」
織田「捨てる」
母親「何で」
織田「嫌がる人がおるから」
母親「ええ匂いやん」
織田「アレルギーとかちゃう。知らんけど」
母親「・・・・・・」
織田「もう大丈夫やから」
二人の表情、大丈夫とは程遠い。
●カフェレストラン・夜(回想)
ビュッフェ形式の同窓会。
会場のあちこちで昔話に花が咲く。
アラサー織田、蚊帳の外で壁の花。
それでも数人の同窓生が話しかける。
当たり障りない笑顔で対応する織田。
じゃ、と離れる同窓生たち。
同窓生A「あいつ覚えてる?」
同窓生B「何それ、ひど」
同窓生C「いや俺も。六年の時おったっけ」
織田に聞こえないところで。
しかし現在の織田には聞こえている。
その顔は道化のように歪んでいる。
その時。
有馬「よ、久しぶり!」
過去の織田の隣に有馬。
爽やかな春の風をまとって。
織田「えっと・・・有馬、さん?」
有馬「ピンポーン。織田くん記憶ええなあ」
織田「そうでもないよ。思い出されへん人の
方が多いし」
有馬「私のこと覚えてたやん。小学生の時は
男みたいで今と全然ちゃうかったのに」
織田「そうやっけ?」
有馬「あ、今でもあんまり変わってへんとか
ナシやで。めっちゃ磨いてんから」
織田「言うてへん言うてへん。見違えたわ、
ほんまに」
有馬「うわ、しらこー。白子海苔か」
織田「懐かし。それめっちゃ流行ったな」
自然とほどけてゆく雰囲気。
織田の手元を見る有馬。
ほとんど空になったグラス。
有馬「何飲む? 持ってきたげるわ」
織田「俺が行くよ。有馬さんは何がいい?」
有馬「じゃあお言葉に甘えて赤ワイン」
織田「了解。銘柄とかよう分からんけど」
有馬「織田くん、ちゃんと食べてる?」
織田「正直言うとソーセージだけ」
有馬「私、料理見繕ってくる。お任せでええ
やんね?」
織田「有馬さんの舌を信じる」
それを聞いた有馬の表情が輝く。
有馬「そう言われちゃあ下手は打てねえな」
●同・承前
会場に満ちた料理とお酒の匂い。
そこに思い出の匂いが重なってゆく。
チョーク、ワックス、校庭の土。
プールの塩素、給食、花壇のつつじ。
郷愁を誘う香りに浸る織田と有馬。
遠くで二次会の案内をする声。
有馬「織田くんはどうする?」
織田「どうせカラオケやろ。遠慮しとく」
有馬「気合うなあ。私も喉、封印してるし」
織田「何じゃそれ」
有馬「有馬が歌う時、世界は沈没する」
織田「中二病やん」
有馬「中二の時、友達に言われてん」
笑い合う二人。
織田「・・・飲み直す?」
有馬「ほんま、気合うわ」
織田「いい店あんま知らんねんけど」
助けを求めるような視線。
有馬、腕まくりポーズ。
有馬「しゃあないな、ここは私の・・・」
織田「食べログで」
有馬「いや、そこは信じとけよ」
有馬の手が高速ツッコミ。
●繁華街・夜(回想)
団子になって歩道を行く同窓会集団。
ほろ酔い気分で周囲お構いなし。
密かに離脱する織田と有馬。
隠れ鬼のように忍び足で。
●隠れ家風居酒屋・夜(回想)
個室で談笑する織田と有馬。
揚げ出し豆腐の鰹節が踊る。
たこわさのツンとした緑色が鮮やか。
畏まって名刺を差し出す織田。
恭しく名刺を受け取る有馬。
有馬「マジかー。織田くん、作文得意やった
もんなー。賞とか取ってなかった?」
織田「一回だけな。そういう有馬さんは?」
照れ臭そうにフフンと笑う有馬。
空中で寿司を握るジェスチャー。
エア寿司をピシッと織田の眼前へ。
有馬「へい一丁!」
●高架下・夜(回想)
鉄道高架下の空き店舗。
少し離れて眺めている有馬と織田。
有馬「ええ立地やろ」
織田「やな。家賃も高そうや」
有馬「まあそれなりに。もうちょい頑張らな
届かへん」
織田「充分頑張ってると思うけどな」
有馬「まだ足りひん」
織田「そっか。難しいもんやな」
有馬「せやから燃えるねん」
織田「ジャンプの主人公か」
有馬「ねえ、織田・・・」
高架を通過する電車。
有馬の瞳に車窓の灯が流れる。
有馬「店持てたら絶対・・・」
一陣の冬風、有馬を抱き寄せる織田。
背後で二人を見守る現在の織田。
その鼻がヒクヒクと動く。
微かな酢の匂いが糸のように細く。
声「お客さん!」
●サウナの脱衣所・夜
暗闇に響く声。
スタッフ「お客さん、大丈夫ですか!」
ゆっくりと明るくなる視界。
織田を見下ろすスタッフと古参客。
織田「あ・・・俺・・・」
マットの上に寝かされた織田。
スタッフが団扇で煽いでくれている。
古参客「アウフでやられたんや。あかんで、
素人が見栄張ったら」
ゆっくり上体を起こす織田。
スタッフ「軽い熱あたりかな。頭痛とかしま
せんか」
織田「平気、全っ然平気。ありがとう」
スタッフの差し出した水をゴクゴク。
スタッフ「救急車は・・・」
織田「必要ないです。すぐ治るから」
スタッフ「落ち着くまで休んでって下さい。
休憩スペース使えますんで」
世話を焼くスタッフの肩口。
クンクンと鼻を鳴らす古参客。
織田をじっと見つめて。
古参客「帰りしなシャワーかかって行きや。
自分、割かし臭うで」
●繁華街・夜
夜を駆ける織田。
まだ湿った髪を乱しながら。
一筋の糸を手繰り寄せるように。
繁華街の猥雑な匂いを切り裂いて。
●高架下・夜
寿司屋の扉から出て来るカップル。
続いて調理白衣姿の有馬。
頭を下げて客を見送る。
顔を上げた有馬の視線の先に織田。
息を切らし、汗にまみれて。
道を挟んで見つめ合う二人。
織田「・・・ええかな、まだ時間」
何も言わずに頷く有馬。
織田「ええかな、汗かいてるけど」
何も言わずに頷く有馬。
織田「ええかな、一見さんで」
有馬「・・・いらっしゃいませ」
有馬のくしゃくしゃの笑顔。
●有馬の部屋・早朝
窓辺にラベンダーの一輪挿し。
湿ったシーツの中。
抱き合う織田と有馬。
織田「・・・シャワー浴びてくる」
有馬「ええやん、このままで」
織田の胸に顔を埋める有馬。
有馬「・・・くさい」
織田「お互い様や」
有馬「・・・すき」
織田「それもお互い様」
本棚に隠すように置かれた本。
『嗅覚障害は必ず治る』。
『これって無臭症ですか?』。
●小学校・教室・午後(回想)
掃除の時間。
机の上に乗せられてゆく椅子。
前方に寄せられてゆく机。
一つだけ手つかずの机が残る。
男子A「誰か運べよ」
男子B「お前が運べ」
男子A「クサクサ菌うつるやん」
男子B「掃除終わらんやん」
机の脚をわざと蹴る男子B。
男子B「やば、足についてもた!」
鶴の構えで周囲の友達に近づく。
男子C「バイオハザードや! 逃げろ!」
男子だけでなく女子もキャッキャッ。
その時、春風と共に。
黙って机を持ち上げる少女。
小学生の有馬である。
了
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