発達障害児が伸び伸びと育つために~保健師の目で見た子育て~

恐れから、いいものは生み出されない。



私も、当初は診断名を伝えることによるデメリットばかりを考え、また「少年犯罪」等と結び付けられるのを恐れ、・・・恐れ・・・恐れ・・・恐れて過ごしていました。
学校には診断名を伝えずに、エピソードから息子の特徴を理解をしていただき、必要な支援を求めることにしていましたが、どこか逃げ腰で、学校に飛び込んでいく勇気は持っていませんでした。

この気持ちで、先生との信頼関係を築くのはかなり難しいことだと思うに到りました。

診断から、学校に診断名を伝えるまでの3ヶ月間・・・この間の様々なトラブルや先生とのすれ違いが、苦い薬となりました。
この苦い薬が「障害名をどう受け取られるかという恐れる気持ち」を破ったのです。先生と信頼関係を作ろうと思ったら、こちらから信頼しないとだめだ。先生に期待しないとだめだと思うに到りました。
そうしないと次の扉が開かないことを悟ったのです。


そこに到るまでの3ヶ月間にあった、先生とのすれ違いの出来事をいくつか書こうと思います。

ある日、授業中にTAKUYAが立ち上がって、「命のポーズ」をしてあきれ返られ、叱られたというので、本人になぜしたのか理由を聞いてみました。TV番組の「伊東家の食卓」で紹介されていた裏ワザで、「“命のポーズ”をすると集中できる」ということを息子は知りました。その番組の中で、笑いを取る場面として、“テスト前に「命のポーズ」をやっている子がいて、みんなで笑っちゃう”という学校風景が映されていました。それで、TAKUYAは「僕もやろう。これで集中力が上がるはずだ」と思って、まじめにやったのです。(集中力が続かないことを実は気にしていたTAKUYAにとっては、切実だったのです)
・・・でも、叱られて、笑われた。
本人は何が問題で、なぜ叱られ笑われたのかが分からず、混乱していました。
それで、悔しかった気持ちを受け止めた上で「あれは単なるジョークで、実際には、授業中に席を立ってそんなことをしてはいけないこと。」等を丁寧に説明したら、状況が少し理解できたようで、比較的ラクに混乱から抜けることができました。

この件を担任の先生に伝えました。「授業中にふざけて命のポーズをやったのではないこと。TVの中の、ジョークの場面と現実の区別が分からずに、真似してしまうこと。一見ふざけているように見えたり、笑いを誘ったり、場を乱そうとするような行動が多々あると思うが、教えないと理解できない未熟さがあること。それを主治医からも指摘されていること。なぜ叱られたのかを理解できずに混乱していたこと。家庭でも丁寧に説明し、教えていこうと思うので、ふざけているとか、授業妨害をすると決め付けずに、頭ごなしに叱らないで様子を見守って欲しいこと」等々をできるだけ柔らかい言葉で伝えました。

ところが、担任は「2年生ならみんなそうです。注目されたいんじゃないですか?」と。

本人に対する「ふざけている」「やる気がない」「場を乱そうとする」という見方は変わりません。厳しく叱ったり、脅したり、罰を与えてみたり・・・先生が長年の経験から作り上げた方法でTAKUYAに対応する日々は続きます。私と先生とのやりとりも、こんな空振りを何度も繰り返しました。

何度も言われたのは、「クラスは34人もいるんです。TAKUYA君だけ特別扱いはできません。他にも大変なお子さんはたくさんいるんです」という言葉でした。


子どもを人質にとられているような気持ちがしていました。喧嘩にトラブル、面倒ばかりかける我が子に対して、ひどい対応をされないように、冷や冷やしながら先生の事を見ていました。
先生に「面倒」をかけていることを重荷に思い、肩身の狭い思いもありました。その気持ちの裏返しで、先生に対する怒りも持っていながら、それを表現することもできずにいました。弱者の理屈にはまっていました。

当時の日記に「とりあえず、先生の存在は薬にはなっていないけれども、毒にもなっていない。この状態を崩すのは怖い」と書いてあります。
こんな危なっかしい関係を続けながら、一歩前に踏み出すこともできず、そんな状態を保とうとしていたのです。

なかなか勇気が出ませんでした。




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