家族戦隊ゴニンジャー

家族戦隊ゴニンジャー

Holiday


きっと、あの人。
二日がかりでおしゃべりするのが、二人の小さな習慣だから。

とはいえ、ワーカホリック(仕事狂)のあの人が電話をかけてくることなんて、月に一度もないけれど。

2CALL、3CALL。

いつもは一人暮らしの用心のために留守電にし続けている私だけれど、
待ちきれずに受話器をあげる。

「はい」
「もしもし・・・ 僕ですけど」
「だと思った。お久し振り。元気?」

まるで女友達と交わすような、気軽な会話。
どうしてこんなにありきたりの話をしているのだろう。
3週間ぶりだというのに。

相変わらず抑揚のないあの人の声。
何か用事があるわけでもなく、私たちは井戸端会議にふける。
少し手持ち無沙汰な私は、電話の横にあった鏡を覗き込んだ。
あ、こんなところに吹き出物がある。
イヤだ、肌がカサカサしてるじゃないの。
あの人の話に時々相槌を打ちながら、鏡の中の私は、百面相している。

「明日、休み?」
「え」

急な話の展開に、慌ててカレンダーを目で探した。
今日は、5日。
あ、よかった、休みだ。
お店で物売りをしていると、いつ休日なのか、本人もよく覚えていない。
だから、眠る前に翌日のシフトを確認して目覚ましをかけるのが、クセになっている。

「休み。でも、金曜日よ」
「有給取れたから、大丈夫。何処に行こうか」
「どこ・・・ 行こう」

二人きりでどこかに行くなんて、一年ぶりくらいのことじゃないかしら。
しかも、あの人から誘ってくるなんて・・・
明日は雷だわ。

「海? プール? それとも・・・」
「水族館」
「葛西、しながわ、サンシャイン・・・ わかった。待ち合わせは、横浜駅。
 9時に京急の改札口で待ってるから。じゃ、おやすみ」

なんだか、一方的な話し方。
ペースが違うと思っているうちに、切られてしまった。
こんなの、ヘンだわ。
私たちのパターンじゃない。
私の行きたい水族館は、どこだと思ってるの?

ふいっと時計を見上げると、まだ11時59分。
短かったな、今日の電話。
仕方ない、お風呂に入って寝よう。
明日は7時半起きになるわけだし--------- また、電話が鳴った。
もう12時だというのに、誰? 
あ、きっとあの人がいい加減な約束に気付いて、かけ直してきたんだわ。
2CALLで受話器を取った。

「Happy Birthday!!」

の一言で、電話は切れた。
あの人の声に間違いない・・・ 覚えていてくれたの。

少しだけ、恋人らしくなったんだね、私たち。


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