ヤミ、闇、病み

ヤミ、闇、病み

1000アクセス記念 苦しいほどに焦がれてる



空(ソラ)の声が、響く。

俺と空は買い物から帰る途中だった。

朝の早くから行ったのにも拘らず、もう夕方だ。

いや、まだ春になり始めたばかりだからそこまで遅い時間ではないのだが・・・・。

「なぁ?これは買いすぎじゃないのか?」

俺は両手を買ったもので塞がれている。

空も軽いものを持っているが状況は似たようなものだ。

これから新しい生活を始めるにしても、多すぎるのではないだろうか。

そう、俺たちは今日から同棲することになったのだ。

思えば中学卒業から付き合いだした。

そして高校、大学と一緒に過ごし、卒業と同時に俺からプロポーズした。

プロポーズの言葉なんて恥ずかしすぎて言えない。

いや、本当の事を言うとちょっと忘れている。

こんなことを言うと空に怒られるかな?

「だって安かったんだもん・・・」

そう言っていじける空。

なんというか子供みたいだ。

それが空のいい所でもある。

良くも悪くも自分に正直だ。

俺が惹かれた理由は、なんだかんだでそれなのかもしれない。

「だからってな・・」
俺の部屋に空が引っ越してくるだけだから、最低限のものはそろっている。

だからちょっと買って終わると思っていたが・・・。

空が新生活応援キャンペーンの言葉につられ、あれよ、これよと買ってしまったのだ。

おかげで俺の財布はすっからかんだ。

給料日まだまだ先なんだけどな・・・

「いいじゃん。どうせ買うんだし」

確かにトイレットペーパーとか新しいスーツだとか使うものではある。

だが俺の部屋は物置のように何でもおけるほど広くはない。

もともと一人暮らしでちょっと広いくらいの大きさだ。

たぶん二人で暮らすとなると何かと窮屈だろう。

「ああ、そうだな」

とか思っても言葉に出せずに俺が折れる事になる。

意外と損な性格してるかもな、俺。

「あ、可愛い~」

今までの言い合いが無かったかのように空は道の向こう側を飼い主と散歩している犬に興味を示しだす。

空も犬みたいに従順だったら苦労しないんだがな。

「ねぇ可愛くない?」

空が俺に話を振ってくる。

なんか言っていた気がするんだが、全く聞いていなかった。

「いや、俺猫派だから・・・」

「猫ちゃんも可愛いよねぇ~」

まったく・・・。

空は見境がないというか、欲張りというか・・・。

でも猫の可愛さを語っている空の顔は犬や猫よりもっと可愛かった。

「ちょっと聞いてるの?」

「え?」

俺が空に見惚れていると額をばちんと叩かれる。少し痛い。

「もしかして、私に見惚れてた?」

いつもはちょっと抜けてるくせに、こういう時だけ嫌に鋭い。

浮気とかしたらすぐバレそうだな。

まぁもともとする気なんてないが・・・。

「ああ、そうだよ・・・」

俺は照れ隠しにそっぽ向く。

自分でも赤くなっているのが分かるほど顔が熱い。

俺も正直者かもしれんな。

「素直でよろしい。じゃあ今夜はサービスしちゃおうかなぁ」

「ちょ、おい」

まだ昼間だぞ。いや、もう夕方だが・・・。

いやそういうことじゃなくて・・・。

「何顔真っ赤にしてるの?夕食の事だよ?」

へ?

空は俺の持っている袋を指さす。

色々あってどれか分かりにくいがおそらく最後に買った食品類が入ってる袋だ。

確か今日は記念だから空が作るって・・・。

「もしかして変な想像してた?陸のエッチ」

ズバリ言い当てられて俺はしばらく何も言えなくなる。

完全に空のペースだ。

「ねぇどうなの?」

空が上目使いで俺の目を覗いてくる。

空ってこんなに色っぽかったっけ?

「ああそうですよ。どうせ俺は変態ですよ」

「ねぇ声、おっきいよ?」

自分で思っていたより大きい声が出てしまい、周りがこっちを振り向く。

そしてクスクスと笑っているのが分かる。

ああ、今日は厄日だ・・・。

「まぁそっちの方も期待していいかもね~」

思わせぶりな事を言う空。

そういう日に限って何かと理由をつけて断るのを俺は知っている。

「まぁほどほどに期待してる。さ、早く帰ろうぜ腹減った」

そう言って俺は空を追い抜き家へと歩き出す。

「あ、ちょっと待ってよ」

空は早歩きで追いかけてきて、隣にならんだ。

「いつぶりかな、並んで歩いたの」

空は呟くようにそう言う。

最近は就活やらなんやらで一緒に過ごすこと自体少なかった。

確かに並んで歩くなんて久しぶりかもしれない。

「桜、綺麗だな」

ここら辺は街路樹に桜が使われていて春は綺麗に咲き誇っている。

それだけのためにこの道をわざわざ使う人がいるくらいだ。

地元の隠れた名所というやつだ。

「そうだね」

空は俺の肩に頭を載せてくる。

物凄く歩きにくいのだがなぜだかやめろと言えない。べたぼれだな俺。

「覚えてる?」

しばらく無言のまま歩いていたが、空が口を開く。

「高校の時もここ一緒に歩いたよね」

空の言葉でなんとなくだが思いだしてくる。




確かあれは3年の春だった。

俺はバスケ部で空はバスケ部のマネージャーをやっていた。

大会が近く、真っ暗になるまで練習した後の事だ。

俺はへとへとになりながら、空と一緒に帰っていた。

その時も桜はまだ咲いていて、散りかけではあったが綺麗だった事を覚えている。

そう言えば約束したのだ。ちょうど今歩いているらへんで。

「今年こそ地区大会で優勝する」と。

うちの区には全国でも上位に入るような高校があっていつも2位で通過していた。

最後の年だから、絶対に勝つと空に約束したのだ。

結果からいえば負けてしまった。一点差で。

最後の最後に絶好のチャンスを他ならぬ俺が逃してしまったのだ。

シュートを打とうとして構えたのだが、汗でボールが滑ってボールを落としてしまった。

そのままブザーが鳴り試合が終わってしまったのだ。

みんなの前では気丈なふりをしたが、空と二人きりになって俺は思いっきり泣いた。

「ごめん、ごめん」と何度も謝りながら・・・。




「あの時の陸は可愛かったなぁ」

「何か今は可愛くないみたいな言い方だな」

まぁ可愛いと言われて嬉しくないのだがつい言ってしまった。

むしろ可愛いと言われて喜ぶ男なんているのだろうか?

「今は可愛いっているより、かっこいいかな」

恥ずかしいセリフをサラッと言ってのける空。

思わず俺の顔が赤くなる。

「赤くなっちゃって、可愛いなぁ~陸は」

さっきと言ってる事が違うんだがな。

そんな事を言う余裕などなく俺は黙ってるしかなかった。

「冗談だって。ね?」

そんなことくらい分かっている。

ただ自分の不甲斐なさというか情けなさみたいなのに愛想を尽かしているだけだ。

同い年なのに精神的には空の方が大人だな。
なんとなく、そう思った。


「さ、着いたぞ」

マンションの前で俺は空の方を向く。

無論言わずとも空は俺の家を知っている。

ただ確認がしたかったのだ。

「これから一緒に暮らすことになる。たぶん俺の悪い所も分かってるだろうから聞いておく。後悔、しないか?」

出来る事なら空と一緒にいたいし、空と一緒に暮らせてうれしいと思う。

だが、空に無理をさせてまでそうしたいとは思わない。

だから嫌じゃないか、確認をしておきたかった。

「うん、私には陸しかいないから」

その言葉を聞いて俺は安堵する。

もう陽は落ちて暗くなっていたが俺には空が何よりも輝いて見えた。

「ここが私たちの愛の城になるんだね」

城というほど大きくないし、優雅でもないがそうなる。

ここで愛を育んでいくのかと思うとなんだか不思議な感じがした。

「ああ、そうだな」

俺にはそれしか言えなかった。俺は涙をこらえるのに必死だった。

「うっ・・」

となりで空の嗚咽が聞こえ、俺は慌てて空の方を向く。

「うっ・・・泣かないって決めたのに・・」

「なんだよ・・・」

良かった。

いきなり嗚咽が聞こえたからなんかあったのかと思った。

俺は一つ深呼吸をする。

そして俺は言葉を発する。

「あのさ、好きだ」

「え?」

泣きながら空はこっちを向く。

真っ直ぐと俺は向きあい空の目を見る。

そして涙を拭ってやって一言。

これだけは、言っておきたかったから」

「ふふっ、私もだよ。陸」

空は持っていた荷物を全部投げ出し、俺に抱きついてきた。

突然の事に俺は荷物をすべて落とし、受け止めることしか出来なかった。

いや、それで良かったかもしれない。

それが良かったと思う。

「これからもよろしくね。浮気なんてしたら許さないんだから」

泣きながら笑う空の顔は、出会ってから一番可愛かった。

俺らをスポットライトのように街灯が照らす。

まるで舞台の上にいるかのように俺には空しか見えていなかった。

「俺と、賭けをしないか?」

空気を読めていなかったかもしれない。

でも言わずにはいられなかった。

「え?何でこんな時に?」

確かに、そうかもな。

俺は心の中で苦笑する。

「俺はお前を幸せにする。もちろん俺が賭けるのは勝つ方だ。
賭けるのは俺の命。これ以上上乗せは出来ない。どうす「その賭け、乗った」

俺が言い終わる前に空はもう返事をしていた。

その目に涙はもうなく、俺だけが映っていた。

「賭けるのは、わたしのこれから」

そう言って空は投げ出した荷物を取り、顔だけこっちを向いて

「絶対勝ってよね」とだけ言い残し、先に行ってしまった。

「ああ、負けられないな」

俺はそう呟き、空を追いかけた。















後書き
どうも、孝介です
苦しいほどに焦がれてる、どうだったでしょうか?
織丹茨さんのアイディア(要望?)からこの話が生まれました
今のところ連載予定はありませんが
受けがよかったら考えます
ちなみに最後の「あのさ、好きだ」はとらドラの最終回からとってます
知ってる人がいたら嬉しいな
それと賭けの部分はあるゲームから
かっこよすぎたのでとりました。
ぱくりっぱなしでごめんなさい
だっていいんだもんww
ちょい病みにしようと思ったのですが完全に失敗しました
たまにはこういうのもいいってことでね
感想よろしくお願いします
最後になりましたが1000アクセスありがとうございました


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