妄想空間

【第一章】(非日常)


「なあ、またアイツのとこにいくのかよー」
「やめとけよー」
「アイツん所ってヤバイやつが集まってるってうわさもきくしー」
「じゃあ健二 あんたんとこ泊めてくれるん?」
「い・・・いや それは・・・」

公園のベンチでコンビニ弁当を頬張りながら 拓哉は公園の隅でたむろしている若者たちを
ぼーっと眺めていた。

「そこのおっちゃーん!」

今風の格好をした女子高生がこちらに駆けてくるのが見える。
少々違和感を覚えるのは 彼女の髪が黒々しているからなのか?

「なあなあ、おっちゃん!この間教えてもらった場所行きたいんやけど道忘れてしもうた」
「また道案内してくれんかあ?」

思わず口にくわえた割り箸を落としそうになりながらその顔を眺める。

「弁当食べ終わってからでええから、たのむわあ」
「おっちゃんの家の前でまってるからなあ~」
女子高生は自転車に飛び乗ると、あっという間に走り出していく。

数ヶ月前、この公園で道を尋ねられたことがあったのを拓哉は思い出した。
たしか、桜台工業高校の裏にあるアパートだったかと記憶を思い出しているうちにあることに気が付く。
「チッ 家の前であんな女子高生に立っていられたら近所のおばちゃん連中にどんな噂を立てられるか
わかったもんじゃない!」

そう思った瞬間には行動に移っていた。
まだ食べかけの弁当を急いで自転車の籠に投げ込み、女子高生の向かった方向に自転車を走らせる。
川沿いの一直線の道なので女子高生の姿がかすかに見えているのだ。

進行方向には、女子高生数人がこちらに向けて歩いてきながら大声ではしゃいでいるのが視界にはいってきた。

「やだ~あの自転車に乗ったおじさん!さっきの女子高生をおいかけてるんじゃ~なあい?」
「きもっ! きっとストーカーよ」
「警察に連絡しようかしら」

「冗談じゃない」内心そう思いながら、一方ではそのように見えるかもなっと妙に納得している自分がいる。
そうこうしているうちに自宅が近づき、女子高生が入り口に立っているのが見えてきた。

ふと、なぜ自分の自宅を知っているのかという疑問が湧いたが、その疑問はすぐに解けた。
以前に道案内をしている時に忘れ物に気が付き、自宅に寄ったのを彼女は覚えていたらしい。

「おっちゃん!はやかったなあ」
笑いながらこちらに話し掛けてくる。

なんでこんなことをしているんだろうという考えが頭に浮かんでくる。
どちらかといえば警戒心が強く、人と接するのが苦手な自分が何故?
下心?いや違う。
彼女があまりにも警戒心が無く無邪気に話し掛けてくるからなのかと自分に問い掛けてみる。

「お・・・」
「だからあ~おっちゃん!!!!」
「何ボケーっとしてるん?」
「道案内頼むわぁ~」
何度も呼びかけていたのか彼女の顔が少し怒っているように見えた。

「あっ ああ 悪い悪い!」
工業高校までは、ここから約10分の道のりだ。

「なあ おっちゃん 名前なんていうん?」
「なんで名前なんか聞く?」
自転車に乗りかけていたのをやめて、拓哉が聞き返す。
「だって、なんて呼んでいいかわからんやん」
自転車を押しながら彼女は答えた。
「ふ~ん」
「木村拓哉」
言い難そうに拓哉が答える。
「えっ」
「だから~キ・ム・ラ・タ・ク・ヤ!」
「おっちゃん冗談うまいなあ」

拓哉は黙って自転車を押している。
「ほんとなん??」
「うそ~全然違うやん!」
笑いながら彼女がこちらの様子をうかがっている。
ほっとけよ。と思いながら彼女の顔を見返す。

「あたしはなあ 瑠璃っていうねん」
「そうかあ」
「そうそう、この間も道を教えてくれっていったけど、彼氏の家かなにか?」
拓哉はふと思いついた質問をぶつけてみた。
「はっはっあ~そんな訳ないやん」
「彼氏の家を見ず知らずのおっちゃんに聞く女子高生がどこの世界におるん!」
納得の顔をしながら彼女の顔を見ると、彼女が話を続ける。
「知り合いの家」
「わたしなあ~親と喧嘩して家を飛び出してきたんよ」
「だからなあ~今晩泊めてもらおうと思って」
そこまで言うと彼女は黙ってしまった。
「この前もそうだったのか?」
「・・・うん」
やれやれと思いながら拓哉は話を続ける。
「学校の友達なのか?」
「ううん 違う」
「普通こんな場合って学校の女友達のところとか行くんじゃないの?」
拓哉は思いつくままに質問を口にしていく。
「そんなとこ泊ったらすぐに親に連絡が行ってつれ返されるのが見え見えやん」

そんな会話をしているうちに目的の場所が見えてきた。
「ほい!着いたぞ。道覚えたかあ?もう忘れるなよ!」

笑いながら振り返ると、彼女は少し困った顔をしたような気がした。
「おっちゃん」
「・・?」
「携帯かしてくれへん?」
彼女が携帯を持っているのはさっきの公園で見ているので思わず変な顔をすると
「充電してくるん忘れたからもうあんまり電池ないんよ」
「知り合いに連絡するだけやから心配せんといて?」
渋々携帯を取り出すと、拓哉は彼女に携帯を手渡した。
彼女は携帯を持つと小走りで走っていき、運動場のフェンスの傍らに寄りかかる。
「おいおい!」
拓哉は一瞬携帯を持ち逃げされるのではとあせったが、会話を聞かれたくなかったのかと気が付き
ほっとする。
「・・・・うん・・」
「・・・そう・・・」
「じゃあ・・・・・」

しばらくすると彼女がニコニコしながら拓哉の手に携帯を差出し
「連絡ついたからあ サンキュ!」
そういい残すと彼女の姿はアパートに吸い込まれていった。

第一章END


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