バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

少年が打楽器を売り込んできた



  午後からは、カフェテラスに腰を落ち着けて、石畳を往来する人達を見ながら、外のテーブルで日本に送る年賀状を何枚か書き上げる。
 夕方になって、パラパラと一雨来たが、カフェの中に非難するほどの雨ではない。
 そうしている内に、打楽器を持った少年がやって来た。
 打楽器は、手作りのようだ。
 焼き物らしい、大小二つの壺を逆さまにして、底をくり抜き、何かのなめし皮を張った幼稚な打楽器。

  少年は俺のそばにやってきて、片言の英語で話し掛けてくる。
       少年「25ドラハム(1500円)で買ってくれないか?」
       俺 「ノー!グッド!」
 なかなか、魅力的な打楽器ではあるが、要らないと言ってもしつこく喰らいついてくる。
 やがて、何処から集まって来たのか、数人の子供達が少年の周りにやってきて、騒ぎ出す始末。

       少年「3ドラハム(180円)で良いから、買ってくれ!」
 えらい下げてきたもんだ。
       俺 「3ドラハムで良いの?」
       少年「うん、3ドラハム。」
       俺 「じゃあ・・・良いよ!買うよ。」
       少年「有難う!」
 少年は満面の笑みを讃えて、お金を受け取って走っていった。

  又、荷物が増えてしまった。
  ”この時の打楽器は、この旅行でも壊れたり、無くしたりすること無く、無事日本に持ち帰り、今では我家の宝物として部屋に飾り、時には子供達に悠久の音を聞かせてやっている。もうあれから・・・・・年も経ってしまった。”
 ギリシャで買ってきたキーホルダーとちっちゃな指輪も、3ドラハムと一緒に少年に渡した。
 一度買ってやるともう大変、他の少年達が同じ物を売りつけてくる。

       俺  「二つも要らないよ!」
       少年「お前には兄弟がいるだろう。」
       俺  「要るよ。」
       少年「だったら、二つ要るだろう!」
       俺  「要らないってば!」
       別な少年「タバコをくれ!!」
       俺  「お前はまだ小さいから、タバコはダメだ!」
       別な少年「俺じゃあない!親父にやるんだ!」
       俺  「じゃあ、親父に・・・自分で来いと言っておけ!」

  少年達とすっかり仲良しになってしまった。
 石畳を歩いていく、若い男女のモロッコ・ファッションにも目を奪われる。
 足首まであるつなぎの服に、フードが付いていて、フードを頭からスッポリ被ると、身体全体を覆ってしまう。
 男性用はゆったりと着れる様にしているためか、多少かっこ悪いところがあるが、女性用は身体にピッタリくっ付くように出来ていて、身体の線がくっきりと表現されてなんとも言えず美しいではないか。

  スタイルが良く、足が長く、目鼻立ちがくっきりとしていて、・・・・・美しい。
 何とか一着手に入れたいのだが、これを手に入れるとなると、カサブランカ行きを・・・・・諦めなくてはいけないだろう。

  カフェを出て夕食の買い物をする。
       オレンジ二個、ジュース1㍑、パン1ヶ(1ドラハム≒60円)、チーズ1ヶ(3ドラハム≒180円)
 これが今日の夕食。
 一日の内、昼食は安いレストランで取るが、朝・夕食は固いパンとチーズで済ませてしまう。
 今日の昼食代は9.4ドラハム(560円)でした。
 ちなみに、コーラは1ドラハム(60円)。
 貧しい国、富める国、何処へ行っても、コーラの値段はあまり変わらないようだ。

  食事と宿泊代は、こんなにつめているのに、土産物や通信費はその何倍にもなるのだから困ってしまうのです。
 あんなに嫌いだったチーズも美味しく感じるようになりました。
 最初食えなかった地元の食事が、数日で美味く感じるようになる。
 食べるものがそれしかないから、必ず美味しく食べれるようになるのです。
 食生活が変わってくると、自分の顔立ちまでもが変わってくるのが分かるから怖い。

                 *

  部屋の中には、以外にも数匹の蚊が飛び回っている。
 日本から持ってきた、蚊取り線香に火をつける。
 タイでは効果的だった蚊取り線香。
 部屋の白壁には、蚊をつぶした跡だろうか、数十箇所にもおよぶ赤い斑点が、あちらにもこちらにも付着していて、少々気味が悪い。

  南京虫ではなく、蚊に悩まされるとは、思っても見なかったが、日本から持参してきた蚊取り線香をここまでよく持ってきたもんだと自分でも感心してしまっている。
 まだまだ必需品だ。
 五ヶ月もいろんな国を旅していると、こんな所でこんなものが役に立つんだと思うことがたくさんある。

  土産物で詰まってきた荷物の中身を、少し整理する必要に迫られてきた。
 この部屋は、ホテルの中庭に面したところで、どちらを見ても他の部屋のドアが見える。
 ドアの上には37号室と書かれてあった。
 大きなテーブルとイス、小さなベッドに細長い枕、それに洗面所と等身大の鏡が置かれている。
 部屋の中は、昨日のところよりいくらか明るい。

  トイレとシャワーが部屋の外にあるせいか、廊下にも明りが灯った。
 外からは、打楽器の叩く音が聞こえてきてうるさくて仕方が無い。
 線香の煙で部屋がモウモウとしてきた。
 線香の香りと煙のお陰で、あのうるさい蚊も部屋特有の匂いも気にならなくなってきたようだ。
 部屋の鍵もしっかりしているようだ。
 だんだん冷え込んできた。

  今ベッドで、井上靖著の”蒼き狼”を読んでいる。


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