バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

不気味な祈りの声



  朝が明けた。
 夢の中で、何やらお祈りの声と、人の話し声で起こされる。
 こんな朝から、・・・・何を話しているんだろう。
 朝からうるさい事だ。
 もう廊下の灯りは消えている。

  各部屋に鏡も洗面所もそして、噴水(水は出ないが)のあるロビーには、近代的な壁掛けの時計がある。
 今日の宿泊費を支払う為と、正確な時刻を知るために部屋を出る。
 廊下の灯りに、虻のような虫達が集まっている。
 灯の消えた今でも、そこにへばり付き、その場を動こうとしないで居る。
 昨日掃除をして、綺麗になったはずの廊下もまた、気味の悪い虫の屍骸があっちこっちに散らばっているのが見える。

  朝早い、うるさい声の主達がわかった。
 ロビーに出ると、現地の人たちが四人ほど、テーブルを囲み喚きながら食事をしていたのだ。
 ドアを開けた時、テーブルを囲んでいた人たちが、一瞬顔をあげた。
 しかし、それも一瞬の事で、すぐに今までどおり、喋りながら食事を続けている。

                  *

  宿の息子なのか、少年が座っている。
 時計を見ると、午前十時半。

       俺 「グッド・モーニング!」
       少年「・・・・・。」

 何か言ったのだろうけど、俺にはわからない。
 彼の周りには、いつも本とノートが積まれている。
 暇があれば、いつも勉強しているのだ。
 少年に言った。

       俺 「今日の宿代だ!」

 金を見せると少年はすぐその金を受け取り、何やら用紙に書き込み始めた。
 書き込みが終ると、外へ飛び出して行き、両替をして返って来る。
 宿泊費は、6DH(360円)。
 お釣りを渡すと、少年はまた元のところへ座り込み、何事も無かったように勉強の続きを始めた。

       俺 「名前は?」
       少年「アブドラ-!」
       俺 「いい名前だ。」
       少年「・・・・。」

 ほかにモハメッドなど、四種類の名前が多いらしく、少年は”何処にでもある名前だ!”と言って、また本に目を向けた。
 日本語を教えてあげると、フランス語とアラビア語を教えてくれる。

       少年「私には、日本文字は難しくて書けない。あなたはアラビア文字が書けるか?」

 フランス語で聞いてくる。

       俺 「いや!俺にはアラビア文字は難しすぎる。」

 そう答えると、少年はニヤニヤしている。
 暫く話にならない話をしていると、何処からか青年がやって来て、少年との話は終わり腰をあげる。

                 *

  宿を出ると、郵便局に出向き、ハガキ(年賀状)18枚を日本に宛てて郵送する。
 ハガキ一枚、1.15DH(70円)。
 宿代と比べると、やけに高いではないか。
 郵便局には切手を濡らす水を置いていなくて、唾で切手を貼っていると、二人の姉弟がやって来て俺に話し掛けてきた。
 小さな子供達で、何を話し掛けてくれているのだかわからない。
 それでも知ってる限りの単語を並べると、”ゲラゲラ”と笑い出す始末。

       姉弟「ジャポネ!」
       俺 「そう日本人だ。」

  カラテのマネをしたり、ブルースリーの名前が飛び交ってくる。
 なんとも屈託の無い子供達である。
 暫く子供達と遊んで郵便局を出る。

 いつものカフェで座っていると、雲行きが怪しくなり、とうとう雨が降り出してきた。
 夕方のような暗さと冷たい雨が街を覆い始めた。
 二人の日本人がアラビック名濡れながら歩いているのが見える。
 昨日逢った日本人の言葉が気になる。

       ”日本人じゃないかと思った。”
       ”日本人には見えなかった。”

 いま通り過ぎようとしている日本人達も、ここにいる俺を日本人と見ていないのかも知れない。
 いったい俺は、どんな風に姿を変えてしまったのだろうか。
 髭のせいか、日焼けのせいか、アフガン・コートのせいか、なんとも気になる言葉である。

  雨は相変わらず降り続いている。
 目の前を、バスが走り、タクシーが走り抜けて行く。
 結婚をしている女の人は、顔を布で覆い隠すという習慣が今も残っているのだろうか、頭から布をスッポリ被った女性達が何人か通り過ぎて行く。
 雨が一段と激しくなり、カフェを離れる事が出来なくなってきた。
 午後二時半、雨に濡れるのを覚悟で、走って宿に戻った。

  毛皮もグッショリ。
 夜になって一度、雨は上がったようだが、また激しく雨が地面を叩いている音が 部屋まで聞こえてくる。
 午前3時頃、また、あの何か祈るような声に夢を破られてしまった。
 なんとも奇妙な音とも声とも言える祈りが、耳に容赦なく入ってきて眠れない。

  それが終ったかと思うと、今度は打楽器の音が・・・・・、音楽には程遠い太 鼓の響きが聞こえてき始めた。
 イスラム寺院が近くにあるのかも知れない。
 モスクで祈りを捧げているのだろうが、俺にとっては迷惑な話である。
 しかし、眠気には勝てなかったようだ。
 いつの間にか、祈りの声が聞こえなくなっていた。


         ≪今夜の夕食≫

      ビスケット  2.0DH(120円)
      カフェ    1.2DH(72円)
      コーラ    2.0DH(120円)
      パン 二個  1.0DH(60円)


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