無用の人ここにあり

無用の人ここにあり

2022年10月15日
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今から20年以上前の話になる。

僕より2,3こ年上のH先輩は、かつては不良少年で、ワルな大人に利用されてマジで危険な事もやったりしてたみたいだが、僕と出会った頃には真面目にお父さんの会社を手伝いながら一生懸命働いてるイケメンだけど、どこか煮え切らないし時々ジトっとしていて、でも優しい人であった。

結婚する前の僕は独り暮らしで住んでたウチは、同世代の色んな人が毎夜のように集まって来る溜り場みたいな家になっていた。ある日、ひどい風邪をひいて熱を出して動けずに寝込んでいたら、その先輩が小さな土鍋に「卵とじのおじや」を作って持ってきてくれたことがある。あの時のおじやの美味さと先輩の真心には、今も感謝しかない😂
ちなみにウチは家主である僕がいなくても、庭で勝手にみんなでバーベキューするくらい、まぁ、やりたい放題だったな...

H先輩のお父さんの印刷会社は経営不振で、家族で住んでいた家も手放さなくてはいけないほどになり、お父さんは廃業も考えたけど、先輩は納得いかなくて会社を続けようと努力していたのである。
仕事が大変であるとは聞いていたが、裏側には色んな事情があるのだろうと、詳しくは聞けずにいた。

住むところもなくなった先輩は、知人の不動産屋に、印刷の主要な営業エリアである博多区内限定で、可能な限り家賃が安い物件を紹介して貰って美野島商店街の一画にある賃貸マンションに住んでいた。当時の美野島は駅がなくなってサビレはじめてはいたが、まだまだ賑やかな商店街があり、九州松下電器(当時)の本社も所在する、なかなか家賃が高そうなエリアであった。

H先輩は、僕には敬語で話すことが多い。「お金がないんですよ~」と言う先輩に、美野島に住んでいるのが間違いなのでは?と指摘すると「家賃は安いんですけどね」とウソぶいて言うので結局、ヤセ我慢してでも賑やかな場所からは離れられないんだなと、心の中で僕は呆れていた🙁

仕事が大変なのだろうか。いつの間にか、H先輩がウチに来ない日が続いていた。気になったある夜、僕は美野島のH先輩のお宅にお邪魔した。商店街の入り口に銀行があって、その裏のコインパーキングに車を停めて、そこから徒歩1分くらいだ。もう商店街もシャッターが降りて静まり返っている。冬で寒い日だったかな。




まぁ、上がらんですか?と言われて、お宅に上がる。コタツがある奥の部屋へ行く途中にフローリングの部屋があったのだが、床に直径1mくらいの赤黒いペンキか何かをこぼした痕みたいなのがあった😲

「えっ、コレなんです?!」と少し驚いて聞いたら「紹介されてココを見に来たら、コレがあったんで、不動産屋に消せって言ったんですけど、消えんって言われて...」とH先輩は困った顔をしたので、僕は「へー」と言うしかない。取り敢えずコタツに入らせて貰って、先輩の近況を聞いた。相変わらず仕事が大変だと言う。コタツの前のテレビがついていて、時代劇が映ってる。
「先輩、時代劇とか好きなんですか?」「イエ、これしか面白くないもん」「ですか」「ええ...」
そんな他愛のない会話も途切れて、しばらく二人ともテレビの時代劇を視ていた。

どれくらい時間がたったかな...とりあえず元気は元気みたいだから、今夜は帰ろうかな、時計はどこだと
部屋を見廻したその時、気づいてしまった。 ガチャ...ガチャ。ガチャ...ガチャ。ガチャガチャ。

さっき僕が入ってきた玄関のドアノブが小刻みに震えているのである。実は、H先輩は不良だったと言ったが、もちろん先輩にはワル友が今もいる。(ワル友と言うけど、いい人達である)
1,2度だけ、僕も誘われて一緒にメシを食ったり酒を飲んだことがあるから、そのワル友の人たちも僕のことを少なからず知っていることになるんだけど、先輩はお茶目なところがあるので、僕が来るって言ったから、ひょっとしてワル友の皆さんと僕を担ごうとイタズラを仕組んだのか?と思ってしまったのだ😏💭
床のペンキといい、ドアノブといい、手が込んでるな....俺のこと試してるんかいな? 😓

そう思って、しばらく黙ってテレビを視ていたが、たまらずニヤニヤしながら先輩に、僕は言った。
「Hさん、あれ何です?」とドアの方をアゴで指すと、先輩はブラウン管から目を離さずに「なるんです」と一言だけ。テレビの方を向いて笑いをかみ殺しているのかぁ?「ほう、とことん担ぐのかぁ....」と僕も心の中で呟いて「へー」とだけ言って、また時代劇を視続ける 😓


先輩が、僕の方を振り向いて「なるんですよー」と泣きそうな顔をしているのだ。えーっ、マジか!! 😱

「あー....そうなんですね」僕はもう、先輩の顔が真顔で困惑でジトっとしてるの見て、全てを察して、これ以上何も言えない、イヤ、言ってはダメだ!と思ってテレビを視続けた。しかし帰りたいのだけど、玄関のドアがあの調子なので困ったことになったと思って、ドラマが頭に入らない。もうラチが開かないなと思った僕は、やや大ゲサに「そろそろ、帰りましょうかね」と少し声を大きくして言ってから立ち上がった。

先輩も「あっ、帰る?」なんて言って玄関に二人で向かう。さっきまで、ガチャガチャ言ってたけど、今は止まってる。ホントにイタズラ?じゃないよね?? 靴を履きながら僕は、先輩の目を覗き込むように見た。見ただけである。やはり先輩は帰るなと言いたげな目をしてる😥🌀

アイサツもそこそこに部屋を出てドアを閉めた。あたりをサッと見渡すが、外には誰かいる雰囲気はない。どっちにしても、車を停めている駐車場までダッシュだ!

コインパーキングで駐車場代を清算して車止めの板が下がる時間も惜しいくらいで、一気に商店街をあとにした。百年橋通りを走りながら、バッと後部座席を振り返って誰もいないのを確認したら、いよいよスピードをあげて家路へ急いだ。 あれは、いったい何だったんだ?! 😱


先輩は、シマッタ!酔っぱらって部屋を間違えた!!と思って「すみませんっ!」と部屋を飛び出したら、やっぱり自分の部屋だ?! 気を取り直して、もう一度中に入ってトイレのドアを開けると、まだ女性がいる! だが、向こうが透けて見えていたんだそうだ。
「あー、ここ事故物件だわ....」と思ったと言うわけである。実は先輩、子供のころから見える人なんだそうだ....😱

「じゃぁ、あの床の??」 「そう、多分あれも関係あるよね?!」「えー、もう早く出た方がいいでしょう!!」 「だってぇ、他に安いとこないもーん....」と困った顔をするのであるが、仕方がないとは言え、そこに住み続ける根性の人なのである 😏💭

まったく、驚きのできごとであった。それまでも、他の場所でお経が聞こえると言われても聞こえないし、そもそも何も見ないし、せいぜい頭が痛くなることはあったけど、現象として"物が動く"のを見たのだから、もうそれ以来、怖くて先輩のお宅には行けなくなった。

その後、しばらくはお付き合いもあったが、僕が結婚して"溜り場"を引き払ったので、次第にH先輩との交流もなくなった。もう美野島の、あの部屋には住んでいないとは思うけど....





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最終更新日  2023年05月06日 08時36分35秒
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