~10~






  一度だけ、深呼吸して切り出した。

   「・・・・・あらし・・・って、知ってる・・・?」

   「・・・あらし・・・・・?」

  すぐには返事は来なかった。 彼女の目が宙をさまよう。

   「・・・えっと・・・、歌って・・・、踊る、あらし・・・。」

  一呼吸おいて、あっと小さく気付いてゆっくりうなずく。

   「・・・うん・・・、知ってるっていうか・・・、
    見たことあるけど・・・。」

  まだピンときてないようだった。

   「その、嵐が・・・オレの仕事なんだ。 ホントの。」

  まいちゃんは、少し首をかしげて上目遣いに考えていた。

   「・・・その・・・、あらしの・・・中の・・・ひと?」

   「うん・・・。 こんなの、いなかった?」

   「ごめんなさい・・・。 顔はあんまり知らないの・・・。」

   「あ・・・、そーだよね・・・。」

  知ってたら、気付かれてるはずだしね・・・。

   「えっ? でも、この前、撮影の仕事って・・・。」

   「うん、あの時はホントに撮影だった・・・。」

   「・・・あ~・・・、そういうこと・・・。
    私が勝手に思い込んでたんだ・・・。」

   「ごめん・・・。 騙すつもりはなかったんだけど、
    なかなか言い出せなくって・・・。」

   「・・・うん・・・。」

  ぜんぜん驚いてないみたい・・・。 ちょっと拍子抜け・・・。

   「テレビに・・・出たり?」

   「・・・うん。 たま~に・・・。」

   「すごい・・・ね・・・。」

   「ホントにわかってくれてる・・・?」

   「うん・・・だんだん・・・。」

   「・・・・・。」

   「・・・びっくり・・・。」

  子供みたいにきょとんとしてる。

   「こないだ見たよ、あらし、テレビで・・・。」
   「えっ? いつ?」
   「お客さんいっぱいいて・・・、歌って踊ってた・・・。」
   「昼間会ったじゃん、その日・・・。」
   「・・・見たんだけど・・・。」
   「見てねーじゃん・・・。」
   「・・・う~ん・・・。」
   「翔くんとかばっか、見てたんじゃないの?」
   「あ、さくらいしょうくん、知ってる。」
   「あ~・・・、だろーね・・・。」

  それもフルネームかよ・・・。
  ちょっとヘコんだけど、それが現実か・・・。
  翔くんにはゼッタイ会わせねーからなっ!!

  でも、困ったような顔をした彼女を見てるのも面白かった。

   「ホントにいるの・・・?」
   「いるよ~・・・。」
   「相葉くんが・・・?」
   「はい~・・・。」

   「でも、なんでここにいるの?」
   「まいちゃんに会いたくて・・・、ってさっき言ったじゃん・・・!」
   「なんで・・・? ここ走ってたよね・・・。
    プラネタリウムにも・・・、来てくれたよね・・・?」
   「走ってたのは、偶然・・・。」

   「忙しいんでしょ? あらしって・・・。」
   「う~ん・・・まあ、いろいろだけど・・・。」

   「・・・なんで・・・?」

  ひとりごとみたいにつぶやくまいちゃん。

   「だから・・・、オレは嵐だけど・・・、
    仕事してない時は、そうじゃないんだ・・・。
    仕事はちょっと・・・、だいぶ変わってるけど・・・、
    こうしてる時はふつう・・・だよね?」

  マジメな顔でゆっくりうなずく。

   「だから今、まいちゃんの前にいるオレを見てほしいんだ・・・。」
   「・・・うん・・・。」

   「これからのこと・・・、全部ひっくるめて考えてほしいんだ・・・。」
   「ぜんぶ・・・?」

   「そう、オレはまいちゃんと付き合いたい・・・。
    でも、ふつうのカップルみたいに自由に遊びまわったり、
    できないこともあると思うんだ・・・。
    いろいろ面倒なこともあるし、すごい迷惑かけたりさ・・・。
    今までハッキリ言えなかったのも、そーいうのが引っかかって・・・。
    だから・・・、ムリには、言えないんだ・・・。」

   「・・・前途多難・・・ってこと?」
   「そう・・・、はらんばんじょう・・・。」
   「・・・じゃあ・・・、やめとこっかな・・・?」
   「エ~~~~~~ッ!?」

  思わず叫んでしまった。 まいちゃんは少し笑いながら、

   「・・・よくわかんないんだけど・・・、いきなりで・・・。
    でも・・・なんかコワイよ~・・・、どうなるのか・・・。」
   「コワクない、コワクないって!!
    オレが守るから!! ゼッタイ!!」
   「・・・ほんと・・・?」
   「うん!!」

   「・・・ムリには・・・、言えないって・・・。」
   「・・・あ、それは~・・・。」

  まいちゃんはゆっくり立ち上がって、池の柵のところまで歩いた。
  後を追った。

   「・・・それこそ、“今さら”じゃない・・・?」

  そう言って、ゆっくり振り返って笑ってみせた。
  この笑顔に会いたかったんだ・・・!

   「まいちゃん・・・! ずっと守ってくから・・・・・、
    付き合ってくださいっ!!」

   「・・・・・はい・・・。」

  頭の中がまっ白だ・・・。 暗闇から抜け出した・・・。

   「私も・・・。」

   「えっ・・・?」

   「私も守るから・・・。 相葉くんのこと・・・。」
   「まいちゃん・・・。」

   「守られるだけじゃなくって、守るから・・・、
    いろんなコトから・・・。」
   「まいちゃんっ!!」

  もう抑えられなかった。 思いっきり抱きしめた。

  夢じゃなくって、現実・・・。 まいちゃんが腕の中にいる・・・。
  背中を小さくつかまれて、舞い上がってしまった。

  このまま・・・? もうちょっと先に進んでもいい?

  その時、彼女のくぐもった声が聞こえた。

  ハッと気付いて慌てて飛びのく。
  スーッとシャツの中を、冷たい風が抜けていった。

   「・・・死ぬかと思ったよ~・・・。」

  まいちゃんは、よろよろと後ずさりして、柵に寄りかかって深呼吸した。

   「・・・ごめん・・・。」

  ホッとしたような顔で少しだけ笑った彼女に、やっと安心して、

   「即答だったねっ!」

  照れ隠しに、少しふざけて言った。

   「ホントだ・・・、迷わなかったね・・・。」

  そう言って、まいちゃんは笑った。

   「あ~・・・、なんかやっとホッとしたよ~・・・。
    毎日うだうだしてたから・・・。」
   「おんなじだよ、私も。」

   「キツかったよ~・・・。」  
   「ほんの何日かだったのにね・・・。」

  ふたりで顔を見合わせて笑った。

  ここしばらく、感じたことのなかった、安らかな気持ち。

  自分の想いを彼女に伝えることができて、
  彼女もそれに応えてくれて・・・。

  なんともいえない、あったかい気持ちを抱いていた・・・。

   「でもさ、またしばらくはなかなか会えないんだ・・・。
    仕事増えるから・・・。 休みもないし・・・。」
   「しばらく会えなくっても、もう平気だよ。」
   「え~~~っ!? オレは平気じゃないよーーっ!!」
   「それは・・・そうだけど・・・。
    今までとは違うから・・・。 寂しくないから・・・。」
   「・・・うん、・・・そっか~・・・、そーだよなっ!」

  彼女のあったかい言葉が、じ~んと胸に響く。

   「あ、相葉くんにもらったストラップ、評判いいんだよ!
    みんな見たことないんだって、かわいいおサルさん。」
   「あっ!!」
   「えっ・・・?」
   「それ・・・! それ、はずしてっ!!」
   「え・・・、どうして・・・?」
   「オレのじゃないんだ! 別のあげるから!」
   「・・・・・?」
   「あっ、そうだ! 坂井さんにあげて! 娘さんにって!」
   「・・・坂井さんに?」
   「そう、二宮からだって言えばわかるから!」
   「・・・にのみや・・・さん?」
   「うん、双眼鏡にリボンとストラップつけたの、そいつなんだ。
    でも二宮からってコトは、娘さんには内緒にしといてほしいんだけど。」

   「坂井さん・・・、知ってるの?」
   「・・・うん。 こないだ、バレちゃって・・・。」
   「あ・・・娘さん・・・?」
   「そう、部屋にポスター貼ってあるって。」
   「うわ、そうなんだ・・・。」

   「でも坂井さん、オレにはどうしろって何も言わなかったよ。
    自分で言えってことだと思って・・・。」
   「うん・・・、私も、何も聞かなかった・・・。」

   「・・・いいひとだよね・・・。」
   「うん・・・。 全部知ってて、見ててくれたんだね・・・。」
   「うん・・・。」

   「私もポスター貼ろっかな・・・?」
   「え~っ! ちょっとそれは・・・。
    たぶん引くと思うよ。 ふだんと違うし・・・。」
   「・・・そう?」
   「うん、いきなりはちょっと・・・。
    坂井さんからもぜんぜん違うって言われたし~・・・。」

   「え~~っ? どう違うの? なんかコワイよ~・・・。」
   「そのうちそのうち! だんだん慣れるからっ!!」

  ふたりで並んで笑ってると、人影が近づいてきた。
  まいちゃんが先に、その人に気付いた。

   「あ・・・、噂をすれば・・・。」

  坂井さんだった。 恐る恐る近づいてくる感じだった。

   「・・・あ~・・・、な~にやってんの~?
    なかなか帰ってこないから心配して来たのに~!」
   「ごめんなさい~・・・。」
   「こういうコトなら先に言っといてよね~!
    気ぃきかしてあげたのに~・・・。」

   「こんばんは~・・・。」
   「もー、びっくりしたよ~、相葉く~ん!
    一応まだ勤務時間内なんだけどねぇ~・・・。」

  笑いながら坂井さんが顔を覗き込んだ。

   「あ、すみません・・・。」
   「ま、相葉くんならいいけどね! 忙しいんだし~。
    で、まいちゃん元気にしてくれた?」
   「えっ?」

   「こないだからず~~っと元気なくって~・・・。
    もうこっちが見ててイライラしてたのよね~。
    ケンカなんかしちゃったら、もう相葉くんに会えなくなるし!」
   「あははっ!」

   「じゃあ、仲直りしたんだね!
    よかったよかった! メル友復活!!」

   「メル友、やめました・・・!」

  キッパリ言った。 すがすがしい気分で続けた。

   「まいちゃんは、ボクの一番大切なひとですっ!」
   「ひゅ~~~っ♪」

  坂井さんが小さく拍手した。

  たったひとりの拍手。 何万人の歓声よりも、今は嬉しい・・・。

   「坂井さん、いろいろご心配おかけしました・・・。
    相葉くんのお仕事のことも聞きました・・・。」
   「そう・・・、そっか~・・・。 よかった、ホントにね・・・。」

  坂井さんは、優しい笑顔で何度もうなずいた。

   「これから私たちには想像もつかないことがあるかもしれないけど、
    私はいつでもふたりを応援してるからね・・・!」
   「ありがとうございます・・・!」

   「娘にもゼ~~ッタイ言わないから!
    家族に秘密があるって、このトシになると嬉しいもんよ!
    まぁ、にのみやくんひと筋だけどね~!」
   「あはは~! ・・・・・あっ! さっきのストラップ!」
   「・・・にのみやさんストラップ・・・?」

  まいちゃんは、まだよくわかってないような感じで、
  ケータイからストラップをはずした。

   「これ、娘さんに・・・。」
   「にのみやさんストラップって・・・?」

  受け取りながら、坂井さんが訊いた。

   「ニノのストラップだから・・・、娘さんにどうぞ。」
   「え~~っ!? すごいじゃない!
    もちろんナイショだよね!?」
   「あ~、はい・・・。 すみません・・・。」
   「オッケーオッケー! 私がつけよっかな?」
   「あ~、ご自由にどうぞ・・・!」
   「家宝にしよう! ありがとっ!」
   「いいえ~・・・。」

   「さてと! もうお邪魔だから行くね!
    あ、まいちゃん、今日はもういいから、このまま帰っていいよ!」
   「あ、でも荷物置いてますから・・・。
    すぐ戻りますから閉めないでくださいね!」
   「わかったわかった! じゃあ相葉くん、またね~!」
   「失礼しますっ!」

  坂井さんが行ってしまって、ふたりで顔を見合わせて笑った。

  まいちゃんはホントにかわいい笑顔だった。
  ずっと思い描いてた、ずっと会いたかったホンモノの彼女の笑顔。
  また抱きしめたくなる。

  どーしよっか・・・。 手ぐらい握ってもいいよな・・・。

  急にまたドキドキしながら、彼女の様子をうかがう。

   「・・・あいばくん・・・?」 

  優しく声をかけられて、イッキに胸の鼓動が速くなった。

  これはもう行くっきゃないよな~・・・!

  でも冷静に冷静に・・・。 

  さっきみたいなコトになんないように~・・・!

   「・・・まい、ちゃん・・・!」

   「・・・今日はもう、お仕事終わったの・・・?」



   「え・・・・・・?

    あーーーーーーーっ!!!

    いっ、行かなきゃ!! ヤバイっ!!!」

  すっかり忘れてたよ~・・・!
  さっきまでの静かな雰囲気が一転、慌ただしくなった。

   「タクシーの方がいいよね!? あ、連絡は?」

  そうだった・・・。 ケータイも財布も持ってなかった・・・。

   「ケータイも、全部置いてきた・・・。」

  情けねぇ~・・・。 まるでガキじゃんか~・・・。

   「じゃあ一緒に行くね! 送ってく!」

  急に彼女はキビキビして、俺の腕をひっぱって走った。

  このまえも、タクシーの前まで引っ張ってかれたけど、
  あの時はココロも凍り付いてたっけ・・・。

  今は彼女の優しさを感じる・・・。
  アセってて、ゆっくり浸ることなんかできないけど。

   「あ、よかったら携帯使って!」
   「番号、覚えてないから・・・。」
   「そっか・・・。」

  まいちゃんが荷物を取りに行っているあいだに、
  なんとかタクシーもつかまった。

  ふたりで乗り込んで、やっとひと息ついたところで彼女が訊いてきた。

   「何も持ってないって・・・、どうやって来たの?」
   「駅前で、車飛び降りた・・・。」  
   「え~・・・? すごいね・・・。」

   「でもカッコ悪いよな~・・・。 あとさき考えないで・・・。」
   「・・・でも、いつものコトでしょ? 相葉くんらしいよ・・・。」

   「なんだよ~! まいちゃんだってかなり天然入ってんじゃん!」
   「え~~っ!? 相葉くんに言われたくないよ~・・・!」

  ふたりで少し笑って、それから急に静かになった。

  道はすいていた。 思ったより早く着きそうだ。

  さっきはまいちゃんが“死ぬかと思った”くらいキツク抱きしめたけど、
  タクシーのシートの上、彼女との微妙な距離が気になってた。

  近いんだけど、手を伸ばすにはちょっと遠すぎるような・・・。

  その時、タクシーが急に右折して、
  まいちゃんが小さな声をあげてふわっと倒れてきた。
  思わず彼女の腕をつかんでささえる。

  それからすぐに座りなおそうとした彼女の腕を引き寄せた。

  肩が触れてるだけでも、緊張してるのがわかる。
  何も言えないまま、彼女の手を取った。

  冷たい手・・・。

  さっき、ときどき公園に来てるって言ってたけど、
  今日はいつからあのベンチに座ってたんだろう・・・。
  もう夜はかなり冷えるのに、こんなに冷たくなるまで・・・。

   「公園、寒かったろ・・・?」
   「うん・・・、今日は寒かった・・・。
    星はキレイだったけどね・・・。」

   「それにさぁ・・・、やっぱひとりじゃ危ないって・・・。」
   「今日はね、流星群の観測会があって、
    9時ごろまでたくさん人がいたんだよ・・・。」
   「りゅうせいぐん・・・?」
   「うん、流れ星・・・。 さっき見たでしょ?」
   「あ~! 見た見た! 初めて見たよ!」
   「そうなんだ・・・。 
    でも願い事なんてできないよね。 すぐ消えるから・・・。」   
   「うん・・・。 でも願い事、無かったし・・・。」
   「そう・・・?」
   「まいちゃんが見つかったあとだったから・・・!」
   「・・・私の願い事が、かなったんだね・・・。 」
   「まいちゃんのおかげってことか~・・・。」

   「でもほんとにびっくりしたよ。 偶然すぎるんだもん・・・。」
   「だから偶然じゃあないって~・・・。」

   「だって毎日いるわけじゃないんだよ・・・。
    最初に会ったときだって、火星の観測会のあとだったんだから・・・。」
   「そっか~・・・。」
   「9時に解散で、そのあとちょっとだけ残ってただけだから・・・。」

   「・・・じゃあ、やっぱすごいことなんだ・・・。」
   「・・・ね・・・。」

  偶然が重なると、運命じゃないかって思ってしまう。

  そんなのぜんぜん信じてなかったんだけど。
  すべてがひとつの流れとしてつながって、
  今につながって、こうしてるのが不思議で、じんわりと感動してしまう。

  彼女に伝えたい気持ちがたくさんあるのに、
  いつもうまく伝えられない・・・。

  でもどうしても言いたいことはちゃんと言わなきゃ。
  彼女の手をしっかり握りなおした。

   「いつも・・・、一緒にいられないけど・・・。」

  さっきより緊張がほどけたのか、
  少し柔らかい感じの肩先が触れたままで、まいちゃんがうなずく。

   「ひとりじゃないから・・・。 
    ぜったい・・・、ずっと、いつも思ってるから・・・。」

  ゆっくりもういちどうなずいて、まいちゃんがつぶやいた。

   「・・・ふしぎだね・・・。」

   「・・・ん?」

   「こんなになるなんて・・・。」

  胸の奥が熱くなった。

  彼女も同じコトを考えてたってわかって・・・。
  嬉しくって、ついふざけて言った。

   「早すぎ?」
   「う~ん・・・、どうなんだろ?」   
   「オレは長かった~! やっとこさってカンジ!」

  まいちゃんの肩が揺れてる。 笑ってた。

   「なんだよ~! 笑うトコかなぁ~・・・!」

  こんな時でも、いつのまにかこーいう雰囲気にしてしまうんだよね・・・。
  何やってんだろ・・・。




  彼女の手の冷たさが、だんだん溶けてくように
  自分の手と同じあったかさになった。

  今まで、話しても話し足りないことがあったり、
  メールだけじゃ物足りなくて、
  電話する理由を必死で捜したりしたこともあったけど、
  しゃべらなくてもココロが満たされることもあるんだ・・・。

  目的地が近づくにつれて、無口になっていったけど、
  気まずいカンジじゃなくって
  たぶんふたりとも同じ気持ちなんだと思った。

  もういっぱいいっぱいだったけど、アセる必要はないんだ。
  今はこうしてるだけで充分すぎるくらいだった。

  仕事に戻るのが惜しいけど、途中で抜けてきたし・・・。
  しっかり気持ちを立て直して戻らないとね・・・。

  スタジオから少し離れた路地で降りることにした。
  まいちゃんは、いつもの余裕の微笑みだった。

   「ごめん、タクシー代、今度返すから!」
   「いいよ、そんなの・・・。 それより間に合いそう?」
   「うん、じゅうぶん! 早く着いたよ!」
   「よかった~・・・。 お仕事がんばってね!」
   「うん、行って来ます!」
   「行ってらっしゃい・・・!」

  小さく手を振るまいちゃんを乗せたタクシーを見送った。


  夜空を見上げて、ゆっくり深呼吸する。
  そしてゆるんだ顔を両手で叩いて、思いっきりダッシュで走った。

  スタジオに駆け込むと、4人がソファーに座っていた。

  ニノがにやにやと目配せした。 みんなもおんなじ表情。
  すかさずマネージャーが早足でやってきた。

   「どーいうつもりだよ~! 事故にでもあったらどーすんだよ!」
   「ごめんなさい! 迷惑かけました・・・。」
   「時間あったんだからさぁ~、ちゃんと言ってよ~・・・!」
   「ホント・・・、どーかしてた・・・。 ごめん・・・。」

   「どーかしてなきゃ、あんなムチャやんないもんなぁ~~!!」

  ニノの甲高い声が響いた。 みんな笑ってた。

  ため息をついてソファーに座る。

  早速ニノがすり寄ってきた。 
  ほかの3人もそれについてすり寄ってくる。
  長いソファーの片隅に、5人が固まる。

  ニノが切り出した。

   「荷物、持って来てやったから。 ケータイも入ってたし~・・・。」
   「財布もな・・・。」

   「バッカだなぁ~! で、どーやって来たの!」
   「走ってきた。」

   「ウソつけ~! ま、とにかく彼女に会えてよかったよな~!
    なんとか間に合ったんだから・・・!」
   「かっこわる~!!」

  マツジュンが笑いながら叫ぶ。


  ニノが顔を覗き込んで訊いてきた。

   「で、今度こそ、キメたんだよね~・・・?」
   「・・・キメた・・・。」
   「おぉ~~っ! マジ!? 今度こそ?
    約束決めたとか言うなよっ!」
   「・・・コクった・・・。」
   「おぉ~~~っ!!」

  4人がどよめく。

   「それでそれで!?」  
   「え?・・・そんだけ・・・。」
   「んで? どーなった? 手遅れだった?」
   「うっせーよっ! もーいいだろっ!!」

   「・・・あ~・・・、ダメだったかぁ~・・・。」
   「遅すぎんだよっ! らしくねーコトすっから~!」
   「今度合コンセッティングするからさぁ~!」

   「あーもうっ! だからうるせーって言ってんだよっ!!」

   「なんて言われたの!? 話してみー! スッキリするから!」
   「・・・・・守るって・・・。」

   「はぁ~? なにが!」  
   「オレがさぁ~・・・、仕事のこととかあるし、
    ちゃんと守るって言ったら・・・。」
   「・・・言ったら・・・?」
   「オレのことも守りたいって言ってくれた・・・。」

  思わず顔がゆるむ・・・。

   「え~~~~っ!?」
   「それって・・・! フラレたんじゃなかったのかよ~~っ!」
   「ハッキリ言えよっ!」
   「あー、アホらしっ!!」

   「すっげー、カワイイじゃん!」

  リーダーが笑顔で言った。

   「だろだろっ!? 泣かせるだろっ!?
    あ~、もうしゃべるつもりなかったのに~!!」
   「しゃべりたかったくせに~!!」

  みんなから小突かれハタかれ、もみくちゃにされた。

   「いいねいいねぇ~! 青春だなぁ~~っ!!」

  ニノが笑顔で叫んだ。

  それって・・・ぜんっぜん望月センセーに似てねーから・・・。


つづく     04,Jul.2005







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