宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

初恋、ずっと愛してた・・・


それは単に彼女達が好きだったからではなさそうだ。
綺麗な想いがそこに流れていて、私は初恋のことなんか考える。

わずかでも他の子よりいいと思ったのが初恋か?そうではないだろう。
恋心を、恋心と知って好きだったのが多分初恋なのだ。
年をとっても昔のことは鮮明に思い出す。
記憶の箱はなぜかそのように出来ている。




私はいつも一人だった。家でも学校でも。
自分が一人であるということは、人に好かれていないということだと漠然と思っていた。
それでも無理に誰かに好かれようとしたことも、そうしたいと思ったこともなかった。
たまには淋しかったし、授業でグループになる時なんかは困ったけれども、周りの心配をよそに、一人だということは私には結構気楽なことだった。

中学一年の記念撮影の時、隣の女の子が私に「声をかけにくい」と耳元で囁いた。
私がへんな顔をしたのか、「声をかけたくてもかけられへん」と言った。
その時の話で、私は嫌われているのではなく、むしろ人に好かれているのだとはじめて気付かされた。周りを見渡せば確かにその女の子のいう通りに見えた。
けれどそれで何かがどう変るというものでもなく一学期が過ぎた。

夏休みが終わって一ヶ月が過ぎた頃、級長が私にノートを貸して欲しいと言ってきた。
級長は夏休み途中から何かの病気で、九月になっても病院に入院していて、その休んでいた間のノートを私に借りに来たのだ。
私達はクラスの仕事でよく一緒になったし、何か字を書く用事があるとそれは私の役目だったから?「字の上手な人のノートがいいと思って・・・」と、級長は怪訝そうに見上げる私にノートを借りに来た言い訳をした。
ともかくそういうことがあって、級長と私は自然放課後付き合っているような、二人だけの時間を持つようになっていった。
級長は真面目な好印象の絵に描いたような優等生で、けれどそこに恋心があったかというと、
好きは好きでも、全然恋心はなかった。


その級長と過ごした二学期三学期に、私はそこにあった初恋をなんなくやり過ごした。
放課後、遊びで興じたバスケットボールのゴールの下で。
体育祭の準備で出来なかった教室のドアの鍵の修理の時に。
また唯一楽しげに遊んだお手玉の時間に。
そして席が隣になった三学期の期間中のすべて。
私は何も思わず、何も考えず、それらの時間をやり過ごした。
女子に人気のある男の子が自分の目に入る範囲によくいるにすぎなかった。
二年になって仲良くなった女の子が、自分の小学校の時の友達が、ある男の子のことを命がけで好きで追っかけているのだと聞くまで私はその男の子のことなど何も知らなかった。いや同級生で目立つ子だったから知ってはいてが、まるで気にも留めなかった。

二年になってまもなく友達はその男の子の歩く姿を見つけ窓際に私を呼んだ。
「でもその子には嫌われて避けられてる」と半ば笑いながら、半ば気の毒そうに、自分の彼氏でもない男の子を友達はいつも探して目で追った。
その男の子は渡り廊下を歩く時には違う校舎の私達をいつも振り返って見た。
通るたびに見た。
友達は小学校の時はあんなに嫌がって目もあわせてくれなかったのにと嬉しがった。

そんなある日、姉の卒業アルバムのクラブ活動写真に、先輩達と一緒に写っているその男の子の写真を見つけた。それで姉に友達の友達のことを話していたら、「この子、あんたを好きやん」そう言った。
「あんた、知らんかったん?ほんま、ドンくさい子やわ、このこは」
幼い頃から利発だった姉は、私をいつもドンくさい子だと言った。しかし年の違う姉がこの男の子のことを知っているのはいかにも不思議だった。
「そやかてあんたの教室に行ったらいつもこの子があんたの傍におってあんたばっかり見てたやん。そんで取り次ぎに来てか思うと、あんたのこと名前で呼んだりしてたし」
「あ、そういえば・・・」
「そう言われたら思い当たること色々あるやろ?ほんま、あんたはドンくさい子や」

こういうのが、私の初恋のはじまりだった。
ドンくさい初恋。
けれどそこから十年の物語が始まった。
そして、十年が過ぎても・・・

ずっとずっと愛してた

  今も愛してる


一生ずっと好き。
そんなのが初恋だ。



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