SARSの思い出 <兆し>
去年2003年の冬のある日、とんでもなく恐ろしい見出しがローカル誌の1面をかざっていた。その見出しがどんなものだったかは良く覚えていないけれど、広東省で肺炎が流行っており、かなりの人が罹患して、それを防ぐためには白酢をたいて蒸発させることが一番ということで、広東省一帯の食料品から白酢が消え去ったというようなニュースだった。そうそうその肺炎のことを「病毒肺炎」と書いていた。テレビではあちこちで酢をたく様子が映し出され、あとは病院に並ぶたくさんの患者の姿もあった。
日記を遡ってみたら何かわかるかなと思って見てみたら、
2002年2月13日
広州で広がっている病毒肺炎だけどその後どないなってるんやろ。今日の新聞ではあまり大きな話題はなかったけど、午後からは香港のインターネットに「本当は200人ぐらい死んだ」って書いてあったらしい。200人って言ったらすごい人数やと思うのですが、デマであってほしい。中国は何でも隠蔽しそうな雰囲気なので、ほんまはタンソ菌か何かで、もっと恐ろしいことになっているのをひた隠しにしている可能性もある。
今仕事でマテリアルのすり替えがあったんと違うかという問題が発生していて、工場に見に行かないといけないのだけど、この病気の謎がとけないうちに中国入りするのは怖いので、お客さんには「怖いことになってますねん。」といって待ってもらっている状態。
早く真実が知りたい。
ところが、その後の日記に、この病気はただのデマだったというようなことが書いてあった。
それに政府の役人がテレビに出てきて、心配する香港市民を安心させるために、「広州という広いエリアでこの肺炎による犠牲者が出ているけれど、犠牲となった人数は広州の人口を考えると微々たるものだ。だからそれほど心配する必要はない。」ときっぱり言っていたのをニュースでも見た。政府自身も真相がわからなかったのか、中国政府に操作されていたのか今となっては定かではないけれど、かなり軽視されていたことは事実だった。
2003年2月19日
*広東省の病毒肺炎のその後
あれは実は薬屋の陰謀だったらしい。肺炎の流行が先なのか、薬を売るためのデマだったのかよくわからないけれど、抗生物質を独占で売るために「この薬しか効かない」という嘘をインターネットや電話のメッセージ機能でばらまいた結果、あんなに大騒ぎになったそうだ。まだ調査中なのではっきりとはわからないけれど、本当だとしたらすごい話だと思う。ITが発達すればするほどこういう事件は増えるかもしれない。特に学のない人間が多いエリアでは嘘の話が真実として扱われ暴走してしまう。怖いことだけど、個人が嘘と真実を見分ける慎重さを持たないといけないと思う。白酢も便乗して同じくメッセージがあちこちにばらまかれたらしい。これで酢の会社の株が上がったりしたらしいけど、政府は既に酢の値上げした人たちに罰金を課することを決めたらしいし、払い戻しするようにも言っているらしい。これまた難しいと思うけれど今度は買っていない人が買ったと言って文句をいいにくるかもしれない。
ある時期をはさんでこのニュースがまったくきかれなくなったのは、各メディアにこれ以上肺炎のニュースを扱わないように政府が操作したからだ。このあたりも中国らしいね。
一つ前の日記では、どんな状態なのかがよくわからない状態で、非常に恐怖心を感じていたことが文面からわかる。でもそれはデマだったということを政府が国民に納得させようとしているこのあたりが怖い。
当時、出入りしていたメーカーのセールスの知り合いが広州周辺の病院で看護婦をしており、病状がかなりシビアで死人も多く、埒があかないので、騒ぎを大きくする前に注射で殺しているという嘘だろうけど、怖い情報も入っていたことを思い出した。
そして このわけのわからない病毒肺炎とはまったく違う恐ろしい事件がもう一つあったのだ。これとSARSは無関係だと思うけれど、時期が時期だけに本当はどうだったのかなという疑問が残るけど…
2003年2月21日
返還すぐの香港で鶏から人間にうつると怖がられたH5N1こうして病毒肺炎、H5N1(バードフル)など怖い話がいろいろあったのにも関わらず、私達はまだまだ呑気で、これからもっと恐ろしいことが先に待っていることをほとんど考えていなかったのだ。