「 わたしが星の名前を覚えた理由 」



    夜空見上げる癖がついたのは
    儚い想いひとつ 消えてしまったあの夜から
    あの人の残した星空の写真片手に
    にじむ星たち指でたどった

    ほんとうは
    いつまでも隣にいてほしかったのに
    星の神話をもっと教えてほしかったのに
    最後になったあの晩は
    あの星の淋しいあたりが「てんびん座」だよって
    あなたはわたしを天秤のお皿の上に載せたのですね

    ああ わたしは軽すぎました
    あなたの選んだお相手は
    天の川で水浴びをするお姫様
    とても輝いているのがわたしにだってわかります
    せめて あなたから教わった
    アンドロメダの物語を
    こころの中で重ね合わせていいですか

    星のきれいな夜になると
    わたしのこころは高鳴った
    神話好きのあなたから
    星の物語 たくさん聞くのが楽しみだった
    あなたは丁寧に
    星ひとつひとつ指差して
    星の名前を教えてくれたけれど
    わたし 本当は星空なんて見ていなかったんです
    あなたの横顔 あなたの瞳
    それに あしたのことを夢見てた

    でも いまはまた 独りぼっちになりました
    哀しくなんかないけれど
    ときどき胸が熱くなるのが恥ずかしい
    そんなときは上を向いて
    淡く瞬く星たちに かなわぬ希いのこと
    こっそり教えてあげるんです
    いつもより
    星がにじんで見えるのは
    空が湿っているからではありません

    今日もひとつ星の名覚えた
    星のあまり目立たない
    少し淋しげな南の空が
    今のわたしには相応しい気がして
    星座の写真を重ね合わせた
    淋しい空に輝くたったひとつの一等星
    それが「おとめ座」の女神の星と知った時
    今夜だけの贅沢と
    わたしの姿を静かな夜空にはめ込んだ

    今宵一晩 女神でいさせてくださいな

    わたしが星空好きになったのは
    ああ あの人への未練なんかじゃありません




© Rakuten Group, Inc.

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: