伊豆 天城湯ヶ島温泉


 伊豆半島の山中にある,天城湯ヶ島温泉。
 梶井の作品に「闇の絵巻」という短編があり,
 この温泉,夜になると闇がさぞ深かろうという印象を持っていました。
 実際,その期待は裏切られなかったわけで,
 昔の湯治場という温泉ではなく,
 「蛍の里」的なものを売りにしているようです。
 連れ合いと一緒に暗くなった清流のほとりに浴衣で散歩に出ると,
 ぽっ ぽっ ぽっ と蛍が飛び交っておりました。
 天城湯ヶ島温泉。訪れるなら蛍が見頃の6月をおすすめします。


        「 ほたる 」

    小さな旅の夜
    小さな蛍の光に出逢った
    温泉地だというのに
    その川のほとりは暗いまま残してあって
    足元さえおぼつかない
    ひとつ ふたつと
    数えてみるこころの穏やかさ
    こんな平穏はもうすっかり忘れかけていた

    ふたりして浴衣を着た
    浴衣がほたるのように夜を漂った

    渓流の音に遊ぶ小さな夏の
    この暗闇に漂う妖しい姿

    それが あなたなのだから

    木橋の緩やかなアーチの
    中程あたりの欄干から川をのぞきこんで
    浴衣の裾が内緒話を始めた

    聞き耳を立ててあなたに近づけば
        ほらっ
    交叉しあう光たちの戯れを指さして
        何をしているのだろうね
    暗闇に声だけが頼りでも
    あなたの表情はよくわかる

    やっとここまで来たのだから
    あした
    ふたりでもう少し遠くへ行ってみよう



© Rakuten Group, Inc.

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: