2007年01月01日
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カテゴリ: 人 / こころ
中国文学者の第一人者であった 駒田信二先生は、
「中国書人伝」というエッセーを、4年間雑誌に書かれたことがあった。
(後年『中国書人伝』(芸術新聞社刊)に纏める)

それは書法についての論評ではなく、
書聖といわれた王羲之や鄭道昭など中国の代表的な書人を取り上げ、
古くから言われる「書は人なり」との観点から書人を見つめたものである。

「書は本来、彫るもの」であり、
中国の書人たちの「書」がそれを教えてくれた、と言われる。
「筆を動かして字の(あるいは字に似た)形を書いているだけのもの」は

手厳しいが慧眼と言わざるを得ない。

純文学の同人誌『まくた』の題字は、
200号の記念に駒田信二先生が揮毫されたものである。
さすがに墨は紙背を徹し、深みがあり、何よりも品がいい。
厳しさとふくよかな優しさとを併せ持ち、
頑固さとどこか可愛らしさをちらりと覗かせる。

不遜をお赦しねがって分析を続けさせて戴くならば、
唐様(からよう)つまり、中国の書法に則り、
始筆は蔵鋒で重く送筆部は静か。
慎重な筆遣いが随所に見られ、
終筆からは、何事もきちんと対処される几帳面さが窺える。


威厳と温かさと品格に満ちた
中国文学者<駒田信二>そのままの「書」だと思う。

以前、漢詩を編んだ著書を戴いたことがあるが、
ページを繰るごとに私は息を飲んだ。
誤植のすべてを、ルビの一つ一つまで、

地名の横には、東へ○○キロメートルなどと加筆されているものもあり,
費やされた時間とエネルギー、
その煩しさとを思うと胸が痛む。

数年前、同人誌『まくた』が月刊から季刊に変る時
表紙のデザインを担当させていただいた。
先生の題字を横書きに変え、
抽象的な図柄(心象)を下部に入れて一新した。
おこがましくも、先生との合作ということになり、
記念すべき仕事のひとつとなった。

暮れに『まくた・紅柳忌増刊号』が届いた。
「書きつづけて死ねばいいんです」との師 駒田信二の言葉そのままに、
「まくた」の同人達は頑張って書き続けているようである。

扉の、痩身の遺影は、あくまでも清々しく凛々しい。
次ページにはタクラマカンの熱砂に咲く紅柳、
その2葉の写真に、ウルムチからの帰朝報告会や、
千駄木での葬儀を思い出す。
あなたはフリーパスですから、と笑顔で出入りをお許しくださったものの、
伺ったのはほんの僅かばかりであった。
威厳があり、凛として近寄りがたい存在ながらも、
その笑顔は実に親しみ深いものであった。

結びに、もう落手する術なき先生からの賀状の
最期の詩句を引く。
「春来還發舊時花」
ゆるぎない文字が認(したた)められてあった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新年おめでとうございます。
お訪ね下さった多くの皆様、
いつもいつも申訳ございません。
更新ままならず、お詫び申し上げます。

2007年 元旦
               raku-sa





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最終更新日  2007年01月01日 00時39分31秒
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Re:最期の賀状(01/01)  
しっぽ2  さん
新年明けましておめでとう~~

昨年はたいへんお世話になりました。
今年もよろしくお願いします。

ただ今、初詣から帰ったばかりです。

今年は昨年以上益々のご活躍を祈ってます。

それでは、いいお正月をお過ごし下さい。 (2007年01月01日 00時46分36秒)

Re:最期の賀状(01/01)  
書家や画家の方は、絶筆に至るまで修練の重みを感じさせる作品が多いですね。アーチストとしての誇りと魂の込めて描かれた見事さに圧倒される事があります。


新年明けましておめでとうございます。 本年も益々のご活躍をお祈りしております。 (2007年01月01日 03時05分12秒)

Re:最期の賀状(01/01)  
百太郎 さん
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
初めに拝読させていただいたときは、
駒田先生、そして先生を語られる
raku-saさんの学識の深さのみならず、
生きる厳しさ、真剣さに触れさせていただいて、
ふがいない自分に赤面する思いでした。
ただかみ締めて何回か読ませていただくうちに、
「「書は本来、彫るもの」であり、」
「「筆を動かして字の(あるいは字に似た)形を書いているだけのもの」は
(日本の)書道かもしれないが「書」ではない、と。手厳しいが慧眼と言わざるを得ない。」
「さすがに墨は紙背を徹し、深みがあり、何よりも品がいい。」
「強靭な思想であるがゆえに多くのものを包容しうる、」
「威厳があり、凛として近寄りがたい存在ながらも、その笑顔は実に親しみ深いものであった。」

そうしたお言葉の1つ1つが、まったくのど素人であり、浅学の身ですが、じっくり読めば読むほど
心の琴線に触れ、魂の奥深い部分から鼓舞されるような思いになりました。

「書きつづけて死ねばいいんです」
このお言葉も、大変厳しいお言葉なのですが、
なにか、スカッとさせてくれるような、ほっと
させていただけるような、生きる勇気がわいてくるような温かさを感じました。

2007年の年頭に、この日記を読ませていただけたことそしてコメントを書かせていただけたこと
神様に心より感謝申し上げたいと思います。
もう元旦4時を過ぎてしまいました。
すぐに体調に影響出てしまうので早く寝た方がよかったのですが、今回ばかりは後悔する気になれません。raku-saさん、ありがとうございました。
(2007年01月01日 04時27分13秒)

Re:最期の賀状(01/01)  
カズ姫1  さん
明けましておめでとうございます。
新春に相応しい清々しい文章楽しませて頂きました。
今年も宜しくお願い致します。 (2007年01月01日 06時05分04秒)

Re:最期の賀状(01/01)  
カナダ村  さん
あけましておめでとうございます
今年も素敵なブログエッセイをお待ちしています。 (2007年01月01日 15時26分22秒)

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