JOKER†TRICK

JOKER†TRICK

観光地ポッケ村



湯気の向こうに、朝の陽射しに照らされた神々しい山並みが映える。
春の兆しを見せる山々には、ちらほらと緑も見受けられ、ここからの景色は絶景の一言だった。

露天風呂にたった1人入っていた青年は、このあとの予定を頭の中で繰り返した。
まず、風呂から上がったら部屋に戻って朝ご飯。その後は村の中を見学しよう。


ーーーこのディビナという青年は、実はハンターである。
今日は久々の骨休めに、最近密かにブームを呼んでいる温泉地、『ポッケ村』に来ていた。

部屋に戻ったディビナは、女将が持ってきたできたての朝ご飯をさらっと平らげ、この村の観光に乗り出した。




最近出来たという色々な店を回っていると、妙な気配がしてきた。
なんだろう、鼻がムズムズするし、精神が独りでに研ぎ澄まされる。
これは間違いない、とディビナは悟った。
(この村にモンスターが忍び込んだ……?)

平静を装いながら、辺りに気を配る。
その時、雑貨屋の方で悲鳴が上がった!
「キャー!誰か!」

慌てて逃げる村人達の流れに逆らって、騒ぎの中心に駆けつけたディビナは、
雑貨屋の女主人がギアノス3頭に襲われているのを見付けた。

(どうする……。武器は旅館の倉庫にしまってもらってるし、今は私服だ……、が!)

ディビナは決意して女主人とギアノスの間に割って入った。
(勝算はある!)

「あなた、僕が引き受けるから逃げて。後、村の人には隠れているようにと!」
「は、はい……!」

そう言うと彼女は一目散に走り出した。
しかし、それを一頭のギアノスが見逃さなかった。
女主人の前に走り込み、進路を塞ごうとする。

そのギアノスの胴体に、ディビナの投げつけた石ころがヒットした。
よろめいた隙に雑貨屋の主人は何とか逃げおおせた。
(問題はこれからだよなぁ)

久しく食べ物を口にしていなかったのか、獲物を取り逃がしたギアノス達は
先ほど以上に凶暴な顔でこちらを睨み付けている……。

一瞬の間をおいて、一頭のギアノスが飛びかかって来た。
横に避けて体勢を立て直すディビナの前後には、すでに回り込んだ残りの2頭が待ちかまえていた。
焦りながらも攻撃を避け続けるディビナを追うギアノス達の追撃は、次第に激しさを増していく。




そしてついに追い込まれた。
雑貨屋の奥に逃げようとしたディビナを先回りし、店の表と裏から挟み撃ちにあったのだ。
(奥には2頭、表に1頭……か……)

表にいたギアノスが鳴いた瞬間、ギアノス達が一斉にが飛びかかろうと姿勢を低める。
その時、ディビナはポーチからマッチを取り出した。


「ハイ、さようなら!」


マッチがギアノスの近くにあった箱に投げ込まれた。
火薬の匂いに戸惑うギアノス達。しかし、もう遅かった。

ドカァァァァ!


凄まじい爆音と共に店の倉庫部分が吹っ飛んだのだ。
それは店の商品だった「大タル爆弾」と「小タル爆弾」による爆発だった。
肉の焦げた臭いがあたりに立ち込める……。
火が燻り始め、辺りはさっきとは正反対の静寂に包まれる。

爆音を聞きつけた村の住人と雑貨屋の女主人が駆けつけた時、
焼け焦げた大タルの中からはい出すディビナがいた。

《序章 観光地ポッケ村 -完- 》


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: