其の一の三


其の一の三


そして一方では。

「息吹さ―んっ」
川岸にポツリと立つ一つの影に向かって、漸は呼びかけた。
「・・・漸」
影はくるっと振り返り、その幼げな顔をあらわにした。
「何よ、漸。もう明日行くんでしょ?早く休まなくてていいの?」
少女は少し嫌そうな表情で、それでもどこか切なそうに、色を含んだような声で話した。

少女の名は森越息吹。ここ如月の里”蓮華村”の特殊情報部隊の上忍くの一で、風属性が優れているため、四神探索に抜擢された。
この里には、任務に沿って行動をし、場合によって戦闘及び暗殺を行う”暗殺部隊”と、地味ではあるが、頭の命じた情報を敵地などにて悟られぬよう潜入し、得てくる情報部隊に分かれている。
息吹の属する特殊部隊は、情報部隊が隊長一名を中心に5~6人で班が作られているのに対し、単独で情報を得るエリートの集まりで、息吹もその一員であった。

「まァ・・・そりゃそうなんですけど、もうちょっと一緒に居たいなぁ、なんて・・・」
漸は照れたように目をそらし、ぽりぽりと頭をかいたりしている。
息吹は心底呆れたようにふっとため息をついた。
「何よ・・・そんなこと。」
「だって、俺ら暫く逢えませんよ?俺は明日北へ向かうのに対し、あなたは西へ行きますから。」
「それがなんだっていうのよ。私は一人で西へ向かうから!」
「それはいけません。一人では流石のあなたでも骨が折れるはずです。なんたって相手は四神。それも、息吹さんが交渉するのは白虎だ。四神の中でも最も若くやんちゃだと聞きます。戦闘はまず逃れられない。その時に一人でも連れが居るといいでしょう?」
まァね・・・と息吹が相槌を打ったのを見て、漸は笑みをこぼした。
息吹は少し闇を纏ってきた空を見、そしてその中で白く光る月を右手で仰いだ。

月光に照らされ、そのあどけない顔、少し幼い息吹の体が白くなっていくのを、漸はすごく綺麗だと思った。
当の本人は、いまだ自分の思いを避けているけれど・・・――でも。

「で、その連れっていうのは誰なの?」
あまりの美しさに見惚れていた漸は、ハッと目をぱちくりさせ、そうでした、と話を続けた。
「ええ、もう頼んであります。例の異世界から来たアイル殿一行、リー殿に進言しました。」
「リー?」
「このたびの戦いで記憶を失い、望月側にいた方です。なんでも、アイル殿の相棒的存在だそうで、友情か絆か、戦いの最中に記憶を取り戻し、やっとこさ再会できたそうです。問題のリー殿ですが、翡翠の外套に、数個の鳴子をつけた風貌です。頭も良く切れるそうですし、まず信じていいかと。」
「ふ―ん・・・ま、わかったわ。その人と一緒に行く。」
そう言って、息吹がその場から立ち去ろうとするのを、何故か漸は制してしまった。
息吹の前にたって、何かをいいたげにしている。

「な、何よ・・・」
息吹が不思議そうに視線をあげ、漸をじっと見据えた。

(う・・・わ・・・)

漸はというと、後悔の嵐で、何故自分が息吹の前に立っているのか、自分でもわからなくなって、つい目を逸らしてしまった。
「・・いや、なんでもないです・・・」
「もう・・・じゃあね!」
息吹は不機嫌そうに去っていった。
そして漸もまた、晴れない気分で彼女の背中を、その姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。

それからその場に座り込んで、不意に、もうすっかり真上まで上ってしまって白く光る満月に、ふっと声を漏らした。

「あーあ・・・ぜってぇ変に思われたよなぁ。情けねぇ。なんで俺はこういう事に不器用なんだ。」
さらにじっと、月を見た。
相変わらず、白く光るだけの月に、ガラにもなく心願した。

「おい神。いんなら、俺の願いつーのを叶えてくんねぇかなぁ?」

ぶつぶつと、夜空の月に向かって独り言(だろう)を言う彼の姿は、なんとも哀しげで、切なさが漂っていた。

~その4へ続く。





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