キンクス「キンクス」(’64年) 『キンクスのアルバムを1枚聴こうとするとき、これが何を選ぶかは実にその時の気分によることが多い。例えば、クルマで1人、高速道路をぶっちぎっている時には、初期のパイ時代のR&Bナンバーから「ユー・リアリー・ガット・ミー」や「オール・オブ・ザ・ナイト」や「ぼくはウヌボレ屋」等の、ちょっととんがった攻撃的なナンバーをチョイスするかなぁ~。晴れた日の日曜の午後にゆっくりとローズヒップティーでも飲んでくつろいでいる時(ホンマにそんなん飲むんかいっ!)はパイ時代の「ゴッズ・チルドレン」や「ザ・ウェイ・ラヴ・ユースト・トゥ・ビー」等の隠れ名曲を集めた日本編集の好盤『アフタヌーン・ティー・ウィズ・ザ・キンクス』がぴったりやー!!夜ベッドに入る前にワインでも飲みながら物思いに浸っているときは、パイーアリスタ時代のバラードを中心に選曲された『THE BEST OF THE BALLADS』で「ウォータールー・サンセット」や「セルロイドの英雄」を聴くのがいい。つまりそれだけキンクスの歴史は40年という膨大な長さなのであり、色々な時代があったのである。ストーンズやフーと同じだけのキャリアがあるのに、どうもキンクスというのはマニアックなファンの中で生き残ってきたという印象が強い。彼らの伝記本を読んでもマネージメントとの対立や、レイとデイヴの長い間の兄弟の確執や、レイとレコード会社とのごたごたなど、その「へそ曲がり、気まぐれ屋」というグループ名に相応しく、キンクスは自らレコード・ビジネスの世界で成功することを拒否し、それを斜めから批判してきた様なところがあった。キンクスというとレイのノスタルジック風味なヴォーカルやメロディから、この日本ではどこかほのぼのとしたバンドというイメージで受け止められているような感じもあるが、レイ・ディヴィスの書く歌詞をよく読んでみれば、社会や資本家や権力やスターシステム等に対する歯に衣を着せぬ鋭い風刺や批判が込められていて、ある意味ではかなり辛辣で過激でさえある。実際の所、レイ・ディヴィスは辛辣な風刺の世界を歌うと言う点ではあのランディ・ニューマンに通じるものがあると僕は思う。
スティング「ナッシング・ライク・ザ・サン」(’87年) ぼくの大好きな、スティングのセカンド。まず彼について語るときは、「ポリス」を抜きにするわけにはいきません。「ポリス」は1977年「アウトランドス・ダムール」でデビューしました。ギター:アンディー・サマーズ、ベース、ヴォーカル:スティング、ドラムス:スチュワート・コープランドの3人組みです。彼らは、その後「孤独のメッセージ」「ゼニヤッタ・モンダッタ」「ゴースト・イン・ザ・マシーン」「シンクロニシティー」以上5枚のアルバムを残して解散しました。泣く子も黙るシングル曲「見つめていたい”Every Breath You Take”」は、みなさんご存知のはず・・・。そこで、このアルバムなのですが、これはポリス解散後、スティングのソロ・アルバムとしては2枚目になります。ソロの彼はジャズ畑のミュージシャンとの交友を深め、サックスのブランフォード・マルサリス(ウィンストン・マルサリスの兄)らと競演しているのですが、ここでは、ファースト・ソロの「ブルー・タートルの夢」よりも、その音の完成度というか、馴染み具合がいっそう深まっているように感じます。ファーストのほうがキャッチーな曲が多く、ヒットもしているのですが、わたしは、この「ナッシング~」の一体感や、叙情的なところが好きです。スティングはこのアルバムを自分の母親に捧げています。なんとなく理解できる気がします。
ライトニン・ホプキンス「モジョ・ハンド」(’60年) 稲妻ブギ・ビートに大胆に開放弦を交えた単弦奏法が切り込む!まさに名作。ライトニンの代表作どころかBLUESの代表作。1960年11月録音。IN NEW YORK と違い、ドラムとベースがバック。1曲目からもう最高。凄まじいです。最高!言うこと無しのアルバム。ブギのリズム感は黒人ならでは!ドロドロのスローブルースも凄い。独特のドスの効いた声は粘っこくダーティーでワイルドなライトニン。「情念の塊り」とでも言おうか・・・かなり泥臭く濃密なブルース。個性的なテキサス・ブルースマンの中でもNo.1の存在感でしょう。彼は飛行機が大嫌いで酒を飲んでフライトの恐怖を紛らわしていたそうな・・・。そんな人間臭さがあの生々しいブルースの根源かも知れません。