いつか見た青い空

いつか見た青い空

敵の気配



渥美半島にある美帆のおばあちゃんの家に向かった。梅雨だというのに、とても

天気がよく、ドライブには少し暑いくらいである。

助手席の美帆が後ろの席に置いてある桐の箱に気づいた。

「ねえ、あの箱、何が入ってるの?」

直樹が少し後ろを振り向いて答えた。

「ああ~、あの箱には・・・石が入っているんだ。」

美帆が不思議そうな顔をしている。

「石?何に使うの。」

「使い方かぁ。説明が難しい。使わなければいけない時に話すよ」

「やっぱり、何か・・・お化けがいるんだ。おばあちゃんの家に・・・。ひゅ~、どろどろどろ~お~ば~け~だ~ぞ~」

時々、美帆の時代遅れのギャグが直樹を驚かせる。

「そんなに可愛いお化けだったらいいのにな。石に封じ込めなくても済むから」

「え~っ、直樹、そんな事もできるの。知らなかった。」

「できるかどうかは、判らないけどね。」

「・・・・・・・・・・不安になってきたかも!大丈夫よね。必ず美帆姫を守ってね。」

「当たり前だ。安心しろよ。」

美帆が少し微笑んだ。

「では、助さん、格さん、参りましょうか。」

美帆のこの明るさに直樹は心を癒される。最愛の人である。

渥美半島の赤羽根町は先週、出かけた恋路ヶ浜と豊橋の中間点にある。

小さな港があるのだが、あまり活気がない様だ。数え切れる程度の釣り人がいるくらいである。

赤羽根港を越えて最初の信号を左折したところにおばあちゃんの家はあった。

ごく普通の農家である。

直樹と美帆がお昼過ぎに着いた時には美帆のいとこの洋子と姪っ子の光が先に着いていた。

「洋子、久しぶり。元気だった。光ちゃんも大きくなったね。いくつになった?」

すると光は洋子の後ろに隠れてしまった。

「ママ~、あの男の人・・・誰?」

洋子が顔を真っ赤にして直樹に謝った。

「美帆、この人が彼氏の沖津直樹さん?ごめんなさい。この子、あまり人見知りしない子なんですけど、光、どうしたの。優しそうな人じゃない。」

洋子の後ろから見ていた光が直樹を見つめながら言った。

「ママ、この人、紫色に光ってるの。なぜなの。」

「そんな事を言っちゃだめでしょう。変な子だと思われるよ。光はちょっと変わった事を言う子なんです。気にしないでください。中に入って冷たい麦茶でも飲んでゆっくりしてください。」

直樹は庭から敷地を見渡してみた。見た感じはどこの田舎にもありそうな農家だが

明らかに攻撃的で強い霊気を感じる。相手も直樹の存在に気づき、緊張しているようだ。

大きな開きの玄関を開けて4人は入っていった。

「こんにちは、美帆姫と用心棒がやって来ました~」

おばの紀子が玄関まで出迎えた。

「いらっしゃい。美帆ちゃん、あいかわらず可愛いね。さすが、お姫様ね。後ろの用心棒さんが沖津直樹さんね。美帆のおばの岡村紀子です。直樹さん、わざわざ豊橋から来てくれてありがとうございます。いきなりなんですが、この家に着いて何か感じましたか?」

直樹は気づいている事を心の中で整理した後に答えた。

「はっきり言いますと、霊気の雲にすっぽり、覆われているような感じです。重たい空気みたいな感覚です。」

「やはり、そうですか。光も、重たい、と言った事がありました。」

「おばさん、それは霊気ではなく、おばあちゃんが後ろから光ちゃんを押さえつけたんですよ。おそらく、蔵に入ろうとした時にそのように感じる事が多いはずです。」

直樹が答えた後に、じっーと直樹を見つめたいた光が直樹に話しかけた。

「お兄ちゃんもお化け見えたり話できたりするの。光と同じだね。あのね、死んじゃったおばあちゃんがね、お化けが出てくると、いつのまにか光の後ろにいて、歌を歌ってくれるの。」

「そのおばあちゃんは、どんな歌を歌ってくれるの。お兄ちゃんに教えてくれないかなぁ」

母親の後ろにいた光が前に出て歌い始めた。

「いいよ。何回も聞いたから憶えちゃった。歌うね。一番始めは 一ノ宮、二は 日光の東照宮、三は 佐倉の惣五郎、 四(し)は 信濃の善光寺、五(いつつ)は 出雲の大社(おおやしろ)、六(むっつ) 村村 鎮守様、七(ななつ)は 成田の不動様、八(やっつ)八幡の 八幡宮、九(ここのつ)高野の 弘法様、十(とお)で 東京招魂社!」

すると、驚いた表情をした紀子が光を振り向かせて尋ねた。

「光、どうしてその歌知ってるの。誰から聞いたの。」

「死んだおばあちゃんだよ。神様の数え歌を歌うと、神様が守ってくれるんだって言ってたよ。光ね、よく、今でもおばあちゃんとお話ししてるよ」

「だって、その歌は岡村家に伝わる霊感の強い女子にだけ伝えられる呪文のはずよ。私はまだ,光に教えてないのに。おばあちゃんが生きていた時は,光には教えてないって言っていたのに・・・本当に死んだおばあちゃんに教えてもらったの」

美帆がこの会話に割って入った。

「とりあえず、直樹、まず、お仏壇に御参りしようよ。少し休んでから話をしてもいいじゃない。そうしようよ。」

美帆に促されて奥の仏間に入っていった。12畳の仏間はさすがに広いと感じる。

襖を取り除くと隣の部屋とつながり20畳の大広間になる。

仏間におばあさんの写真があった。間違いなく、美帆の部屋の前にいたおばあさんである。

直樹と美帆は御参りをすませて、仏間の部屋にあるテーブルに座った。

直樹は美帆に小さな声で話しかけた。

「岡村家の先祖から、私達の力ではどうにもなりません。お願いします。と言われた。俺のそばから離れるなよ。」

美帆が直樹に話しかけようとした時に、おばの紀子が冷たい麦茶を持って来て、テーブルに置いた。

すると、洋子と光ちゃんもテーブルに来て麦茶を飲み始めた。


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