いつか見た青い空

いつか見た青い空

鈴の音



それではお楽しみください。




直樹が運転する車は、美帆の兄である涼と待ち合わせ場所になっている

アピタに向かっていた。

美帆の家で会うはずだったが、親戚が来ているので外で会いたい、と

涼から美帆に連絡があった。

豊橋の向山町にアピタがあり、二階に小さな喫茶店がある。

車の中で直樹が時々、耳を押さえていた。

「美帆、さっきから俺の部屋にあった鈴が鳴っているような気がするんだけど、美帆には聞こえてないのか?」

「鈴の音?聞こえないよ。聞こえているのはラジオだけだけど、体調がすぐれないなら今から会うのはやめてもいいよ。」

「体調が優れない訳じゃないんだけど、何か・・・おかしいんだ。だるいというか、動きが悪いというか・・・何か、おかしいんだ」

「きっと、昨日の夜のあんな事や、そんな事が直樹の体力を奪ってしまったのね。きゃー、何があったのかしら!いや~ん。すけべ!」

直樹は目がテンになっていた。しばらくしてアピタに着いた。二階にある待ち合わせの

喫茶店に向かった。すでに美帆の兄、涼がテーブルに座っていた。直樹は涼の左の

肩に貼りついている蛇の霊に目を疑った。蛇の霊を見るのは初めてではないが、

生きているかのように生き生きしている。生きている蛇が肩にのっているみたいだ

と直樹は感じた。そして、涼の背後にいる男性の影、霊ではないが、明らかに

その男は直樹を見ていた。間違いなく、その男も直樹のような能力者である。

年齢は三十代で、身長は170センチくらいである。体格はがっちりしている。

左手に何かを握っているようだが、よく見えない。この男からガードする為に

心の中で早九字の呪法をイメージした。

直樹と美帆を見つけた涼が手を振っている。二人は涼の座っているテーブルに座った。

「沖津さん、久しぶりです。赤羽根の実家では大変な目にあった様ですね。美帆が沖津さんがいなかったら、みんな死んでたかも・・・って興奮しながら話してくれました。」

美帆が両手で顔を隠している。

「美帆、あれほど誰にも話すなっていったのに・・・光ちゃんが可愛そうだろう」

「ごめんなさい。ついつい、話しちゃったの。」

直樹が再び、耳を押さえた。その仕草に涼が気づいた。

「沖津さん、どうしたのですか。頭が痛いのなら、日を改めてもいいのですが・・・」

「直樹、また鈴の音が聞こえるの?お兄ちゃん、直樹、疲れているみたいなの。今度にしようよ」

「美帆の言う通りにしてもいいですよ。対した事ではないし・・・」

直樹は耳から手を離してコップの水を一口飲んだ。

「大丈夫です。すぐに聞こえなくなると思います。ところで、涼さんの先輩に貰ったお守りというのは・・・」

「これです。売っている半紙に蛇と書いてあるだけなんですが、これを貰ってから体調がすぐれないんです。」

涼がセカンドバッグから白い封筒を取り出し、その中から折り曲げてある半紙

を取り出して、直樹に見せた。すると、涼の背後に立っていた男の影が離れていった。

「涼さん、この紙を貰ってから左の肩が重たくないですか。」

「さすが、沖津さんですね。その通りです。今までにないほど、肩こりが激しくて毎日、シップを貼っています。やはり、この半紙が影響しているのですか」

直樹は以前読んだ「闇の密霊師」という本に書いてあった方法を試してみる事にした。

「間違いないですね。涼さんの息をこの半紙に吹きかけてください。その後に、霊は霊界に、精霊は精霊界に、時は、時の流れをたどり、おのおの、己の居るべき所に戻るべし、と言いながら、半紙を左肩に押し付けてください。」

涼は直樹に言われた通りにした。すると、あれほどこっていた肩が楽になった。

「こんなやり方があるのですね。おかげで肩こりが楽になりました。ところで、先輩の事ですが、これからも付き合っていっても大丈夫でしょうか?」

「そうですね。できれば、あまり関係を持たないほうがいいと思います。」

「そうですか・・・そうかもしれませんね。この次の集会は断ります。この半紙はどうすればいいですか。」

直樹がまた、耳を押さえている。美帆が心配そうに尋ねた。

「もう、帰ろうよ。今日は無理だよ。この半紙は私が捨ててこようか。」

「大丈夫だ、と言いたいけれど、今日は涼さんにアパートまで送ってもらってくれよ。半紙は俺が処分しておくから。涼さん、お願いがあるのですが、美帆をこのままアパートまで送ってもらえませんか。私は自分のアパートへ一人で帰りますので・・・」

「私はかまいませんが・・・一人で帰れますか。」

「直樹一人じゃ心配だよ。私もついていくよ。お兄ちゃんもついて来てよ」

「大丈夫だよ、美帆、ちゃんと、一人で帰れるから。明日、会いに行くから、待っていてくれ。必ず行くからさ」

「本当に大丈夫、私、心配だよ。看病してあげるよ。」

直樹は笑顔で美帆に優しく話し掛けた。

「大丈夫だ。部屋についたら、メールするから。今日はここで別れよう」

3人は会計を済ませて駐車場に向かった。美帆が直樹に抱きついた。

「直樹、私を見て。私を悲しませるような事をしないでね。いつでも一緒だよ」

直樹も優しく美帆を抱きしめた。そして、お互いのアパートに帰っていった。

美帆は何となく今夜、直樹の部屋で何かが起きる様な気がすると涼の車の中で

話していた。明日、直樹が会いに来れないような気がした。

赤羽根町にある美帆の祖母の家で光が庭を見ているその様子に母親の洋子が気づいた。

「光、さっきから外ばかり見ているけど、どうしたの?」

光が外を見たまま答えた。

「ママ、泣き虫のお姉ちゃんの声が聞こえたの。美帆様って言ったと思うよ」

おばの紀子と洋子が顔を見合わせた。

「どういうことなの。成仏したはずなのに、すぐに美帆に連絡してみる」

同じ時期に、違う場所で心霊現象が発生してしまった。

なぜか、美帆の携帯は圏外になっていて連絡がとれなかった。



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