Happy Valley Blog

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読書2016.2~6

2016年の読書メーター
読んだ本の数:112冊
読んだページ数:31794ページ
ナイス数:1365ナイス

日本神話のふるさと 写真紀行 日本神話のふるさと 写真紀行 感想
古事記(ふることふみ)にそって列島の誕生から国の平定まで、神々の物語と清々しい神社、山、河、海、里の写真の数々。鳥居をくぐると古代につながるような風景のかずかず。古代を今にみせられるようでとても面白い。なんと瑞々しい国土なのだろう。神話が国土の美しさを深くしているんだ。ひとつひとつ詣でたいものだ。
読了日:6月22日 著者: 清永安雄
大村智 - 2億人を病魔から守った化学者 大村智 - 2億人を病魔から守った化学者 感想
なんと真摯で情熱的な科学者で、人々への実益、人材の育成、美術の癒しの場、地域医療などの貢献を、探求、実現、経営したとは、驚くばかり。2012年の本でノーベル賞受賞前だが、同賞の意味がわかる科学者だ。「研究を経営」する、「経営とはもうひとつ人間形成の意味も」と。邪心なく産学共同を国を超えて調整し、経営する科学者が日本に居る。そして、人を育てている。一世紀を隔てて、北里柴三郎の偉業も受け継ぎ、事績を重ねている。あまりの人間の可能性に明日が晴れる思いだ。
読了日:6月18日 著者: 馬場錬成
ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正 ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正 感想
電話器、レーダー、電子レンジ、MOS、アポロ功労賞、電卓、MPU、江崎玲於奈、孫正義、西和彦、ジョブスと、実用化の業績、人材育成、その「共創」の生涯には目を見張る。李登輝とは同窓で親交が続いたと。海外との技術者人脈、人望は桁違いだ。これほどの国際人がシャープを牽引していたのか。身売りは、進取の技術者が退き、牙城に固執し、新たな事業に挑まなくなった帰結だそうだ。それにしても、戦時中、レーダー技術をドイツから二人乗りのUボートで持ち帰ったと。吉村昭の深海の使者にもなかったような話だ。
読了日:6月16日 著者: 大西康之
やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人 やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人 感想
司馬遼太郎のひき殺していくとの上官の発言に志が離反する話は、実は怪しいとの説明がある。丸谷元人の談話や、司馬と同じ立場の元戦車中隊長と秦郁彦との対談で怪しさが明かされた。司馬と同じ隊にいた後に学者となった人が、あんな発言は聞いていないと司馬に問うとニヤリと笑い、学者ですなあと応えたと。あの菅を江田三郎が登用したのにも噛んでいたと。志位委員長の父は、元少尉で抑留中にソ連と工作員となり、明るみになり自首し、後年、機中で突然死と。渡辺恒雄は総理の靖国参拝を認めず、皇居も駐車場にと言ったらしい。図星の指摘ばかり。
読了日:6月11日 著者: ケント・ギルバート
オキナワ論 在沖縄海兵隊元幹部の告白 (新潮新書) オキナワ論 在沖縄海兵隊元幹部の告白 (新潮新書) 感想
左翼系に食い物にされている沖縄の現実、メディアの短絡報道姿勢と堕落した記者達、中国の思うつぼにはまりつつある状況、中立などとの沖縄の歴史的地政への不見識、左翼系教員、新聞による虚説の流布は深刻と。17世紀の薩摩による侵略、朝貢外交、琉球処分、沖縄戦、軍政、返還と基地存続と、もまれつづけた歴史を煽り、食い物にする運動家が国内外から流入して巣くってると。「沖縄問題」は、経済依存、左翼の非現実論での反対商売、メディアの虚説報道、読者の誤解の蔓延が本質と。この構図を産業化して生業にしている輩の存在が問題と。
読了日:6月10日 著者: ロバート・D・エルドリッヂ
日系人を救った政治家ラルフ・カー―信念のコロラド州知事 日系人を救った政治家ラルフ・カー―信念のコロラド州知事 感想
アメリカの憲法に謳われた個人の尊重を守る良心がアメリカ人に本当にあるのかどうかわかるかもと、期待した本。建国の信条に忠実な偉人が戦時中の四面楚歌の状況でもめげずに力を発揮したようで感服できた。それにしても、著作としては読むのが苦痛な出来で、新聞記事、手紙、公式記録など多くが未整理で文脈も途切れがちに羅列され、編集努力に疑問も。邦訳も機械的な単語の置き換えで冗長な英語の特徴をそのままのところが多数。時々、訳のトーン、巧拙が変化。はて。
読了日:6月9日 著者: アダムシュレイガー
天下城〈下〉 (新潮文庫) 天下城〈下〉 (新潮文庫) 感想
土木、建築、都市計画の能力は軍事力と一体で発揮されるととても大きな経済圏を作り出す。その中心が城で、城塞都市となる。実に面白い。技術力の躍動が進歩を実現していく。技術者の業績にも正負があるが、正の姿だ。吉村昭の記録文学の魅力とも似ている。事実がどこまでなのか判らぬが、地震で崩れた熊本城の石垣は後世に積んだ部位と聞くと、この話が迫真に思えてくる。日本人の核心のようで実に良い本だ。
読了日:6月9日 著者: 佐々木譲
マッカーサーと日本占領 マッカーサーと日本占領 感想
20年以上前に発表された内容らしいが、マッカーサーの人となりが興味深い。傲岸で極めて明晰で理想家で、執念深く、自己顕示の強いエリート軍人。昭和天皇との11回の会見の解説は、戦後の日本の構築に果たした昭和天皇の力を知る内容で面白い。米側資料の発掘を著者は期待しているが、外務省にはあるのではと。バターン死の行進の責を負わされた本間雅晴中将の死刑は、マッカーサーによる偽装された復讐であると。さもありなん。戦後70年が奇跡とわかる。
読了日:6月3日 著者: 半藤一利
新訳 武士道 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫) 新訳 武士道 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫) 感想
広い学識と愛国心と札幌農学校仕込のキリスト教信仰をもとに、武士道がなんたるか、日本人の道徳がなんたるかを見事に説いていた。1899年にアメリカで書いて出版され、日本語版は10年近く後だ。見事な日本人論で、将来の武士道を危ぶむ下りは現代の日本人の変化にも通ずるよう。欧米キリスト教社会の自己中心主義的な偏狭、一方的な独善性をジョエットなる人の引用で看破していた。キリスト教徒が世界の紛争の火種を撒いたことを感ずる。一世紀前にルーズベルトに激賞され、欧米に日本を正しく理解させたとても大きな功績。盛岡生れだそうだ。
読了日:6月2日 著者: 新渡戸稲造
天下城〈上〉 (新潮文庫) 天下城〈上〉 (新潮文庫) 感想
獅子の城塞の戸波次郎左の父の物語。堺の切支丹豪商日比屋了珪も登場。環濠都市堺の造営、多聞山城石積みと脈々と繋がっていく事績が戦国の奔流の中で展開していく。築城能力に優れ、信長が命をとらずに抱えたものの、裏切って、信貴山城で自爆したと言う松永久秀も登場し、革新的多聞山城の建設が始まる。石積みの戦国が戦国の技術革新として重大な役回りを発揮。面白い。
読了日:5月29日 著者: 佐々木譲
ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか 感想
ティモシー・スナイダーのブラッドランドでドイツ人とロシア人の狂気の沙汰に言葉を失ったが、その後のスターリンとの争いにダレスやフーバーやパットンがナチスを反共スパイや兵器開発に登用し、渡米を受け入れ、優遇していたとは、全く怖ろしく功利的で国益至上の陰湿陰険な国家だ。半世紀たってもどんなに高齢であっても裁く意味がわかった。それにしても米の20世紀は全く我が物とするような世紀だ。それにひきかえ、極東はつくづくカエルの楽園なわけだ。
読了日:5月25日 著者: エリックリヒトブラウ
星への旅 (新潮文庫) 星への旅 (新潮文庫) 感想
人間の根底にある生物として存在と、人間の経済的存在が、破綻した時、人間の実像を思い知らされると言う物語。家庭、親子の情愛はとりあげられず、生命の共同体としての住処を持つに過ぎないと描いている気がする。戦争も経済成長も貧困も人を生死に向き合わせることなのだと言う事を忘れさせない本。半世紀前の本だが、今のような読みごたえ。また、向き合えと叱咤された気になった。
読了日:5月24日 著者: 吉村昭
明治十年 丁丑公論・瘠我慢の説 (講談社学術文庫) 明治十年 丁丑公論・瘠我慢の説 (講談社学術文庫) 感想
勝海舟と榎本武揚に対して、旧幕臣として処世を問うのが「痩せ我慢の説」明治34年らしい。佐々木讓の武揚伝では勝と榎本は対象的な人物像だ。諭吉は日露戦争の前夜に三河武士の末裔としての沽券を糺す。先進国の文物と格闘した侍が、新しい論理と科学をもとに夷狄と戦うまでになった時、忘れてはならぬもの、身を処せねばならぬ処を、偉人を借りて世に問うたのか。勝の明治はわからないが、榎本の事績は日本の礎で余人にはなしえないと思うが、諭吉は、共に新政府で富貴を求め得たことは本分にもとる、痩せ我慢せよと言う。
読了日:5月21日 著者: 福沢諭吉
失敗史の比較分析に学ぶ 21世紀の経済学 失敗史の比較分析に学ぶ 21世紀の経済学 感想
目から鱗の話ばかりだった。数学的洞察の論理を理解しずらい知識不足の読み手に随分配慮してもらっている内容で良くよめた。論理の真偽のほどがわからない部分もあるが、納得感は満載だった。リフレの経済学者が理系からみると未熟な数理統計にあり、実態経済の複雑な要素を科学しきれていないとは驚きだ。クルーグマンも最後はアメリカ経済防衛の立ち位置にいるのを忘れるなと。軍国主義が資産収奪であった事もよくわかった。著者の国債危機観を伊藤隆敏の日本財政最後の選択と比べてみたい。
読了日:5月19日 著者: 逢沢明
完全図解 海から見た世界経済 完全図解 海から見た世界経済 感想
著者の「国境の人びと: 再考・島国日本の肖像」では日本が宝を失いつつあることを知り滅入った。本書で海をめぐる問題の、広さ、深さ、潜む大きさを基礎学習。資源の豊かさ、競争場裏を見ると、高度技術分野でもあることを痛感。海洋分野は総合科学分野らしい。すぐれた科学者に歴史と今とそして、未来を研究・開発してもらい、日本の海の指針を見たいものだ。「島国根性」とは、今の逆の意味で、挑戦者、海の王者の精神であったとは。
読了日:5月14日 著者: 山田吉彦
トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業 (講談社現代新書) トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業 (講談社現代新書) 感想
メーカーは、実はコンテンツ産業で情報産業、知識産業であることがよくわかった。設計情報、工程ノウハウ、従業員の頭脳が、会社の本当の資産であって、原材料、仕掛品、製品在庫は資産ではなく、管理コストのかかる負債だと。売れるものだけ売れる時に造る時代だとそうなるのは実に納得。世紀の発明の財務諸表では企業の実力が読めないはずだ。「売れないものを高品質でつくってどうすんだ。犯罪だ。」と。実に頭がスッキリ。で、官民ともそうで日本はどうするんだ。実によい本。
読了日:5月11日 著者: 酒井崇男
獅子の城塞 (新潮文庫) 獅子の城塞 (新潮文庫) 感想
17世紀の基礎土木エンジニアの修練、研鑽、留学、修行、実績、育成がヨーロッパを舞台に成し遂げられて行く歴史活劇でとても面白い。万国共通の技術者堅気が痛快でもある。史実であるのかはよくわからないが、成し遂げられると思える話。
読了日:5月7日 著者: 佐々木譲
竹中先生、これからの「世界経済」について本音を話していいですか? 竹中先生、これからの「世界経済」について本音を話していいですか? 感想
金融会社のセミナーでの対談録。混迷、複雑系に突入し、そこそこ生きていくことに追い詰められている社会がよくわかる。勉強するようになるから、首くくらない程度に身銭切って投資やってみたらと。竹中平蔵「メディアを信じてはいけない」「経済評論家も鵜呑みせず使い分けろ」「バカは寄り集まってもバカ」。中国半分に減速してもパイが昔の倍になってるので、まだデカく、投資価値ありと。ただ、格差大の民族分裂国家なので経済難民生じたら、日本に来るので、移民法、難民法さっさと整備しろと。日本はもはや金だけでは済ませぬ立場と。
読了日:5月4日 著者: 竹中平蔵,佐藤優
天才 天才 感想
著者があとがきで言うとおり、あの当時、皆が洗脳されていた。占領政策、東京裁判、変節新聞社の正体を見抜けなかった事と同じ事が起きていた。まさか司法までとは。冤罪看過の事大裁判を知れば不思議はないが。愛国者を失ってしまったこと、遺した業績に大器を失ったこと、成し遂げたことに気づく。ニクソンは、1971年8月15日に平和のための挑戦としてドル防衛を発表し、日本人につけをまわし、佐藤にわざと恥をかかせたと後年明かす。執念深く周到な国だ。構図は悪徳の勝者、公徳の敗者だ。
読了日:5月3日 著者: 石原慎太郎
碇星 (中公文庫) 碇星 (中公文庫) 感想
生死を目のあたりにした人の人生観は、生命を育まれ続けて過ごしてきた餓えたことのない人と隔絶がある。覚めて熱狂の次にあるものを本能的に予期してしまう習性のような違いだ。個人の自分の時間と、自由の共有の打算、その間にある本性の厳然たる違いの実存。このリアリティーが静かに目前の足下に横たわる。静寂な原理が人に課せられているようだ。吉村昭には向き合えといつも叱咤される。
読了日:4月30日 著者: 吉村昭
VWの失敗とエコカー戦争 日本車は生き残れるか (文春新書) VWの失敗とエコカー戦争 日本車は生き残れるか (文春新書) 感想
公表資料、報道、伝聞の陳列本。表題のVWは失敗ではなく、犯罪のはず。エコカー開発は競争であって、企業戦争でもなく、収奪的な進め方では実現できない技術競争分野。テスラがZEVのクレジット取引による金融利益狙いとの指摘はさもありなんと。本書で並記の三菱自のリコールとトヨタのリコールは別次元の質の差があり、前者は刑法領域。三菱自に人材・技術・戦略ありと好意的評価には驚いた。新書で珍しい表題のつけ方にひっかかり空振り。
読了日:4月29日 著者: 香住駿
日本語を作った男 上田万年とその時代 日本語を作った男 上田万年とその時代 感想
現代の日本語が明治に生まれ損なって終戦後に開花したとは。それまで、言文乖離の不便に国民は晒され続けていたとは。民意の言文一致の仮名遣いを10年教育続けたにも拘わらず、国語国字の制定に向かおうとした時、森鴎外が陸軍軍服姿で三時間の反対演説をして旧仮名の時代に反転していたとは。文部省教育が留まるなかで、漱石作品や唱歌で言文一致が広まっていたとは。その前線の上田万年なる言語学者の愛国心は威圧人格の鴎外とは異次元だ。実に面白い。
読了日:4月29日 著者: 山口謠司
望遠ニッポン見聞録 望遠ニッポン見聞録 感想
しなやかで健全でまじめな人生観。とても楽しい。異文化、異民族もこのように面白くとらえられれば世界平和が広がるだろう。違いを当たり前として受け止め、深刻にならず、何事も面白がる。苦労も異様な経験もあとになれば滑稽気味に受け流し、多様性を寛大に楽しむべきらしい。肝がすわっている。核は、安直な理解をしないで実態に向き合って格闘してきたことらしい。自然児で動物昆虫の類と仲良しでもあったらしい。デルス・ウザーラを尊敬していて、息子の名にしてしまうまでとは。日本は「味わい深い」そうだ。ナパージュ人にはわかるまい。
読了日:4月24日 著者: ヤマザキマリ
歴史問題をぶった切る《最終解明版》 占領支配者が謀った《国魂(くにみたま)占領》の罠 (Knock‐the‐knowing) 歴史問題をぶった切る《最終解明版》 占領支配者が謀った《国魂(くにみたま)占領》の罠 (Knock‐the‐knowing) 感想
朝日、山川、大学教授を一刀両断する小気味良いものだったが、落ち着いた整理本も読んでみないととも思う筆致。教科書が自虐的な歴史の派閥の権益に独占され、商売として支配されているとなると、学生が日本史には近寄りたくなくなるのは当然だ。日本史が必修でなくなり、世界史が必修の国はおかしいとの指摘はもっともだが、今の教科書では必修にするのは反対との論も迫真。歴史教育は日本にはまだないかのようだ。歴史学者は何をしているつもりだったのだろう。学問は孤高のはずなのだが。
読了日:4月19日 著者: 倉山満,藤岡信勝,竹内睦泰
新版 流れる星は生きている (偕成社文庫) 新版 流れる星は生きている (偕成社文庫) 感想
新京から博多まで13か月の苦難の日本への帰還を、乳飲み子、6歳、3歳の子をつれた母親がひとりで成し遂げた壮絶な生還録だった。著者は新田次郎の妻で、新田次郎が小説家になるきっかけとなったそうだ。日本人の「根性の底までさらした」著述で、人間性がえぐりだされていた。こうした事態を造りだした軍閥と新聞社の戦争責任は測り知れない。
読了日:4月17日 著者: 藤原てい
新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下) (講談社文庫) 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下) (講談社文庫) 感想
国力差、技能差が大きくて、簡単には追いつけない相手に囲まれ、軍事力で威嚇され、付き合いを強要される状況とは、心細く、不安で、方針も定まらず、付和雷同するのがおちだ。ひるまず、媚びず、奢らず、機知にとみ、良識にもとづいて、巧妙に、そして正直で誠実に思考、交渉できた人物伝だ。そんな人材を非エリート層から輩出・登用した武家社会とは人間形成が隔てなく実践される文明だったのか。盲目的狂信的滅私の封建精神ではなしえない事だ。150年後、理財と経済に精神支配され、人間が狭窄、偏向した国になっていないかどうも気にかかる。
読了日:4月16日 著者: 吉村昭
新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上) (講談社文庫) 新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上) (講談社文庫) 感想
侍たちが、自然科学と人文科学を手探りで学び、試し、体得し、国を近代化し、交渉の末に国際化していく様が描かれている。物理、道理、法理が実行できたのは、幕藩体制下での人間修養による基礎鍛錬によるものとよくわかる。「出島の千の秋」の西洋植民地主義との戦い、「武揚伝」の技術意欲と蝦夷開拓と海洋冒険、「日本、遥かなり」のエルトゥールルの奇跡などの感動が全部入った人物伝で、聡明で賢明で、謹厳で勇敢で実直で仁愛な日本人史。こうした歴史理解があれば、道は誤らないですむのでは。
読了日:4月10日 著者: 吉村昭
豊田章男が愛したテストドライバー 豊田章男が愛したテストドライバー 感想
トヨタの芯がまたひとつわかる本だった。考え方、やり方、育て方、関わり方をいろいろな紹介本で見聞するとメーカー道のように思えていたが、それを体現した社員の人生と、応えた経営者の物語で、仕事に清廉で賢明で真剣な姿勢がとても崇高だった。完成させるために徹底した思考と行動に格闘する社員がいる会社の凄みに圧倒されるが、繰り広げられる人間模様は感動的だ。企業の管理的弊害を吹き飛ばす人物伝だ。
読了日:4月3日 著者: 稲泉連
新・地政学 - 「第三次世界大戦」を読み解く (中公新書ラクレ) 新・地政学 - 「第三次世界大戦」を読み解く (中公新書ラクレ) 感想
世界史の転換期にあるそうで、戦争、核拡散、石油エネルギー争奪、ロシアの軍事成果拡大、イスラムの宗派主義での殲滅抗争化などが進展して、中東、中央アジア、ヨーロッパが内戦、大戦の危機に瀕しつつあるそうだ。日本では人物が活躍せず、世界史から脱落すると。反知性的な政治と外務省の無能ぶりはかってない惨状だそうだ。科学と人文の教養を身に着けた政治家を選び、押し立てないと日本は瓦解の末路を遂げてしまうらしい。なんとも迫真な話だ。目先に安住せず中期戦略に力と頭を奮えと。軍事や国際法を教養として学ばんのは日本だけらしい。
読了日:3月29日 著者: 山内昌之,佐藤優
闇を裂く道 (文春文庫) 闇を裂く道 (文春文庫) 感想
大正7年1918年から昭和39年1964年までの新旧丹那トンネル工事を通じた、昭和の世相史だ。技術と自然と経済に人々が格闘する物語だが、誠実で控えめで、堂々とした官・民の対峙が端的に描かれ、日本人の熱烈と堅忍と蛮勇と正義観とが併存してなんとか解決を導き出す苦難の人間的特性がよくわかる。事故、事件、騒擾、自然破壊の数々の出現に驚く。自然と格闘する日本人は征服的で冒険的であるのだが、惨劇を乗り切る決着はいづれも日本的で救われる思いがした。この本も圧倒的だ。苦難を新幹線に結実させる歴史の重層の見せ方も見事だ。
読了日:3月23日 著者: 吉村昭
サッチャーと日産英国工場――誘致交渉の歴史 1973-1986年 サッチャーと日産英国工場――誘致交渉の歴史 1973-1986年 感想
題は良いが、学籍者としてのなんらかの実績づくりの代物かも。索引や引用注記、前書き謝辞、あとがきの自分史披露の本としての体裁は立派な学術書の体裁。それだけで51ページ。本文は183ページ。短いので、完結明瞭論旨かと思うと、二次資料の引用も多く、読書メモのような印象も。感想文のような部分もあり、学術なのか文芸なのかよくわからなかった。他書の引用で構成された節も目立ち、取材にもとづくノンフィクションでもなかった。事実を通じた真理も事象を通じた本質も分からなかった。
読了日:3月18日 著者: 鈴木均
カエルの楽園 カエルの楽園 感想
ストレートな寓話仕立ての風刺で、迫真、予感に溢れた物語だった。国の運命を人にゆだねる倒錯した屈折が見事に描写されていた。無言の生きる意志が扇動の思想暴力に負けていく様が痛々しい。こうした抗議本で国の平衡感覚がとりもどせることになるのかわからないが、あたっているとの読後感。高見順が言った厚顔無恥の変節メディア、それはまだなくならないとの諦めがまた思い出さされた。
読了日:3月15日 著者: 百田尚樹
兵士は戦場で何を見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-7) 兵士は戦場で何を見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-7) 感想
ウィキリークスの暴露動画で攻撃ヘリからのジャーナリストと民間人の虐殺シーンをテレビで見て震撼したが、そのシーンは、その暴露の前年2009年にこの本で暴露されていたそうだ。許可にもとづく軍事行為で免責の手立てを準備してある。おぞましい。ベトナムの民間人大量虐殺軍事行動の正当化論理と同質の原罪を彼らは21世紀もいまだ保持しているのか。米兵の痛みが子細に書かれているが、戦場にされた民の悲劇や痛みの取材内容はなく表情描写にとどまる本。アメリカの為のアメリカメディアの本と言う事か。
読了日:3月14日 著者: デイヴィッド・フィンケル
B面昭和史 1926-1945 B面昭和史 1926-1945 感想
庶民の世相、風俗日記は、不景気、神道、軍国教育の素顔をみるよう。新聞の風潮、世論の扇動記事に今のメディアに似たような気質を感じてしまう。当時の新聞報道の実態がよくわかり、日本の行く末に正論ぶった評論で自己顕示する評判ねらいの今の商売紙をみるようだ。昭和8年までの読後感。
読了日:3月11日 著者: 半藤一利
決定版 - 武揚伝(下) 決定版 - 武揚伝(下) 感想
戊辰戦争の義士達の心情が切ない。近代戦であったことが、英知に富む向学の徒でもあった武士の運命が、尚更痛ましい。政治に生きて軍の人心から見放された勝海舟と、信義と技術の実用に生きて人心をえた榎本武揚の対比は、鮮烈だ。薩長史観で毒された歴史観、司馬史観での爽快な人物史観と全く違う気持ちの良い人物伝だ。実力と人格が激動の時代の要求に応えられる偉人だ。戦争後の要職歴任は立身出世とは別次元の活躍の結果であるとの解釈には得心。史実を基礎にした小説と明言する著書は実によい。
読了日:3月8日 著者: 佐々木譲
決定版 - 武揚伝(中) 決定版 - 武揚伝(中) 感想
口先政治家の勝が徳川家、慶喜存続に腐心する傑物としての視点がでてきて面白い。咸臨丸組から総スカンで人望を失い、薩摩と親密な関係を持ち無血開城の努力も、上野の彰義隊の戦争を招き、徳川家の存続を絶ったと。薩長軍は狼藉・乱行・私怨・独裁政権欲・君側の奸と。面白い。共和国、議会制展望、独裁政権打倒の戊辰戦争としての史観、失業幕臣対策としての新天地国家建設野望も胸がすく。現実は、「赤い人」で佐幕藩が下って開拓した村が出てきた。県令、屯田兵の薩摩支配もあった。
読了日:3月6日 著者: 佐々木譲
日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた 日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた 感想
「生きて帰ってきた男」に、良く運営され何か成し遂げたかのような収容所があるなどとは信じられぬと言うような述懐があったと思う。飢餓、寒さ、同胞からの思想弾圧、同胞内の階級差別などの過酷さからの生還だったようだ。「収容所から来た遺書」には、飢餓、弾圧、過酷労働下での不屈の同胞愛があった。本書では、仕事への誇りと生命への尊厳を守り通した勤労者の姿があった。何れも高い精神性がうたわれていた。本書でも、同胞の大量の名簿を暗記して日本に帰還している。日本再起の起点に違いなく、胸に迫る。
読了日:2月28日 著者: 嶌信彦
決定版 - 武揚伝(上) 決定版 - 武揚伝(上) 感想
蘭学への学習意欲、実用技術への渇望が自身に運命を呼び込み、見識を磨く境遇を与え、オランダ人との250年の友誼を知り、蘭仏英独の世情、最新技術・産業、近代戦を実見し、日本の近代化と存亡危機克服に仕えようと決意するまでの爽快な物語だった。技官の実学視点がよい。勝海舟が口先政治家で海軍能力欠如、咸臨丸艦長は虚勢、島津薩摩と交誼、自己顕示と散々。半藤一利は、福沢諭吉が「痩我慢の説」で勝を悪く言うのは対立していたからで、事実は違うと言うが、著者は咸臨丸で勝は役たたずで、操船ままならぬ駄々こねる輩と。面白い。
読了日:2月28日 著者: 佐々木譲
新装版 赤い人 (講談社文庫) 新装版 赤い人 (講談社文庫) 感想
明治時代の懸命で前途に果敢に挑み、学び、努力し、薄氷の勝利を手中にする爽快さは、楽しい読書だ。その対極だ。「破獄」で昭和の庶民の素顔を読んだが、この本では明治の生活者の素顔をみたようだ。文明開化の底辺では、暴力と功利と権勢欲が支配しながら、国を近代化し、北海道の殖産基盤が作り上げられていたのがよくわかる。生死に支えられた開拓らしい。「雪の墓標」を思い出す。昭和の戦時もまた、この状況と似た人々が北海道に遺されていた。
読了日:2月27日 著者: 吉村昭
ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱 (光文社新書) ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱 (光文社新書) 感想
ドイツは、過去を反省し謝罪したのに日本はそれのできない劣等国で、歴史を隠蔽し、自己を正当化する罪の意識に欠ける民族とドイツメディアは報道しているそうだ。中国の反日運動に同調し、日本は歴史問題を克服しない問題国と報道されているそうだ。メルケルが来日時に朝日新聞主催の講演会を引き受けたのは政治目的と。英、米、仏とは全く違う国で自己に固執陶酔し、他国をあげつらう国と。自ら贖罪成果と振りかざす、優越主義者と。中国経済偏重国。やはりそうなのか。原発事故への態度は正体で、ユーロ不安、移民、南欧格差と混乱招く素地大。
読了日:2月26日 著者: 三好範英
戦国はるかなれど(上) 堀尾吉晴の生涯 戦国はるかなれど(上) 堀尾吉晴の生涯 感想
信長の躍進と秀吉の大返しまでの数々の戦話と武士の逸話がめまぐるしく綴られていて、人物、城、戦史に翻弄されるような読後感。戦国逸話が洩れなく盛られているようで戦国史棚卸のような読後感。星野遊呆さんの「年表でみる戦国時代」の城郭地図が重宝した。人物伝はそれほど多くない戦史で、脇役から見た英雄伝のような印象。
読了日:2月23日 著者: 中村彰彦
米中激突で中国は敗退する―南シナ海での習近平の誤算 米中激突で中国は敗退する―南シナ海での習近平の誤算 感想
新聞メディアの報道はなんなのかと思うばかり。珊瑚の残骸で埋め立てた滑走路など米軍には脅威でなく、米軍の自由航行の確保が米国への核攻撃原潜侵入阻止のための至上命題と。示威行動により共産党の面子が国内向けに保てればよいのが本音で、戦争したら石油も断たれ負けるとわかっていて、対抗できそうなサイバー攻撃と衛星破壊に賭けてるそうだ。国務省はその時に備えて米人を送るな、留学生上がりを採用しろと企業に人事介入してて、GMの現地の米人は一桁と。トヨタは数千人の邦人と。毎朝、北京は大丈夫かと確認するそうだ。
読了日:2月14日 著者: 長谷川慶太郎,小原凡司
2020年 世界経済の勝者と敗者 2020年 世界経済の勝者と敗者 感想
消費増税は止めよ、同じ徹を踏むなと。また景気を折るのかと。消費増税しないと財政破綻すると言うのは財務省の嘘と。財務省はIMFなど海外にも嘘を言い、自省説を日本に還流させようとしたと。真に受ける投資家もいて危険と。日本の国債は格付け下げられても低利で安定評価。投資家はわかっている。対外純資産世界一で官民資産が厚く、南欧とは全く違う。格付け会社は商売の手段で格付けし、客観的ではなく、政治的思惑も。ユーロは独善的欧州体質で生まれ、失敗と。政治統合なしの通貨統合は疑わしいと。とてもわかり易い。
読了日:2月13日 著者: ポール・クルーグマン,浜田宏一
シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 ((文春新書)) シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 ((文春新書)) 感想
冒涜する権利を訴える社会が自由と平等と博愛を標榜するのがどうしてもわからなかったが、実は平等も博愛も色あせて、神への信仰を失った空白感をユーロで埋めようとしたものの、信仰による慈愛、同情の義務から解放されてしまい、不平等のヨーロッパができてしまったそうだ。倒錯していてユーロの失敗の生贄にイスラム教徒をしたてたらしい。若者の痛手が手当されず、高齢者層が有する許されるべきでない特権も顧みられない社会だそうだ。シャルリは団結などしていない中産階級のフィクションらしい。仏は政治的崩壊過程と。不気味な世相だ。
読了日:2月11日 著者: エマニュエル・トッド
小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの 小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの 感想
中山素平を高杉良が描いた「勁草の人」を思いだした。興銀が志に溢れていた時代の産業振興にかけた人物伝で、晩年は若者の国際教育に捧げられた人生に感銘したが、冷めた夫婦関係の記述、別宅の生活も明かされ、作者の記述意図は何かとも思った。本書は、途中で興味本位に媚びる内容かと用心し、果たして小学館は何を賞したのかとも感じてしまったが、最後まで読むと表題、副題の意味もよくわかり、改めて人物の大きさ、崇高さに胸を打たれた。没後10年を経て、関係者の現在を見極めての立派な著作だった。
読了日:2月7日 著者: 森健
定本 黒部の山賊 アルプスの怪 定本 黒部の山賊 アルプスの怪 感想
黒部の猟師が滅びる最後の姿と北アルプスとしての黎明期が著されていた。怪談、奇談、冒険談あり、人間性を問うような遭難にみる人間模様もある。昭和39年初出らしいが、秘境生活者への世相の影響も分かり、戦後の世の中の雰囲気も感じられる記録だった。黒四ダムがオーバーフローしたこともあるとは。吉村昭ばりに猟師が描かれていると感じた。「あからさまな人間性」「欠点だらけ」でも「心惹かれる」「山賊」達。とても面白い。
読了日:2月6日 著者: 伊藤正一
沖縄の殿様 - 最後の米沢藩主・上杉茂憲の県令奮闘記 (中公新書 2320) 沖縄の殿様 - 最後の米沢藩主・上杉茂憲の県令奮闘記 (中公新書 2320) 感想
米沢藩最後の藩主上杉茂憲の沖縄県令の事績を通して、明治の中央政府の支配と沖縄の被支配の歴史がよくわかる。17世紀から薩摩藩に支配されるも日清両属の思想が根付き、明治政府は皇民化教育で改造しようとしたそうだ。怨念が底にあると著者は言う。皇民化教育は沖縄戦の惨劇に繋がり、アメリカ支配、日本復帰も心の底にあるものを更に硬くしたのだろう。美しい穏やかな人々の歴史が昔からこれほど厳しいとは・・・
読了日:2月4日 著者: 高橋義夫


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