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JEDIMANの瞑想室
第3章 潜入せよ
「OK。状況を確認しよう」
スコットは手をかざし、疲れきったようすの一行に言った。
「これからリオデジャネイロだ。今は朝。今日の夜にはつくだろう。その後はさっさと必要な部品を見つけてハイさよならだ」
「そんな簡単に行くのかよ」
グリッグが木にもたれかかり、腕をくみながら言った。
「全滅しちまう!」
グリッグの言葉に、周りがさざめく。
スコットはため息をつくと、やれやれというように手をあげ、首を振った。
「しかたない。あれをするか」
ネイオが思い切り嫌そうな顔をした。
「おい、スコット、まさか―――」
「諸君!確かに我々は窮地にある!仲間は倒れ、敵は強く、自らも血と泥にまみれている!だが、それでも助かるには敵地へと乗り込むしかない!なら、力を合わせてこの難局を乗りきろうではないか!己と仲間の力で、知恵で!敵が来るならかかってこいだ!我々は無敵!さあ、行こう!リオデジャネイロへ!」
歓声があがった。
ネイオは額に手をあて、つぶやいた。
「スコットのスキル、<熱弁>が発動したか……」
「………スコットさんよ、これを見てどう思います?」
ネイオは側に立つスコットに言った。
「あー、えーと、うん、ヤバげだね」
スコットはため息をついて言った。
彼らは、リオデジャネイロを見下ろす丘の頂上にいた。
リオデジャネイロはもはや人間都市の原型をとどめていなかった。
夜空をサーチライトが照らし、光沢のある施設が乱立し、ヴェノムが通りをパトロールしているその場所は、フィアの大要塞だった。
街外れにかろうじて人間の施設が残ってはいるが、フィアによって破壊され、見るも無残な状況だった。
一行は長い事、リオデジャネイロを眺めていた。
「…………眺めててもしかたがない」
ドイルがぽつりとつぶやいた。
「パウロさん、あなたの言う工場はありますか?」
「あ、ああ……」
パウロは目の前の光景に狼狽しながら指さした。
「あれだ」
パウロが示したのは、街外れにある屋根がズタズタの工場だった。
「よし。なら、ソリッド・スネークとしゃれこもうじゃないか」
シュナイダーが言った。
「潜入するってのか!?」
グレイが飛び上がらんばかりに叫ぶ。
さもあらん、これ程の警備を潜り抜けるのは、それこそ最強兵士のあの蛇男ぐらいにしかできないだろう。
「だって、するしかないだろう?」
シュナイダーの言葉にグレイは押し黙った。
確かに、潜入するしかない。
「だけど、どっから侵入するんです?」
ローグが首を捻って聞いた。
「あの街、常にフィアが見回ってますし、グールもそこらにいますよ?」
「それだ。どうやって侵入しようか……」
シュナイダーも腕を組み、考えた。
「陽動作戦はどうだ?」
と、アレックス。
ドイルが首を横に振った。
「ダメだ。間違いなく陽動部隊が全滅する」
「なら、下水道から」
クロウが言う。
「塞がれてないか?」
シュナイダーが腕を組んだまま言った。
沈黙がおりた。
誰もいい案が思いつかないのだ。
と、その時突然、カトリーナがおずおずと手をあげた。
「あ、あの、工場は街外れにあるから、別にフィアのいる場所を通る必要はないんじゃ……」
沈黙。
「…………あー、ごほん」
シュナイダーが赤面して咳払いした。
「確かにそうだな」
「おい、カトリーナ!気づいてたなら早く言えよ!」
「ええ!?あまりに当たり前だから皆さん気がついているかと……」
グレイの言葉に、カトリーナが真っ赤になって答える。
「と、とにかく!普通に行こう、普通に!」
シュナイダーは声を張り上げた。
リオデジャネイロの街外れ、破壊された街―――
スコットが周りを見回して言った。
「暗いな……」
「知るか。暗いけど……」
ネイオが答える。
一行は暗い路地をそろそろと移動していた。
サーチライトが夜空を照らしている。
風が通りを吹き抜ける音がした。
「肝だめしできるな」
「知るか。できるけど……」
「しっ!静かに!」
アレックスがしゃべっていたスコットとネイオを鋭く叱責した。
「グールがいる」
途端に空気が緊張した。
確かに、角の向こうから何かを貪るような音がする。
グールが肉を喰らっているのだろう。
「………1匹だ」
角の向こうを覗いたクロウが言った。
「銃は使うな。銃声で居場所がバレる。ナイフを使え」
だが、誰も行こうとしなかった。
クロウ自身も行こうとしていない。
皆、グールに噛まれるかもしれない危険は冒したくないのだ。
「…………しかたがない。オレが行こう」
長い沈黙の後、アレックスがため息と共に言った。
彼は腰から刃渡り20センチ程の太く鋭いナイフを抜くと、それを月明かりにギラリと光らせた。
「がんばれよ、アレックス」
グレイがつぶやいた。
アレックスはそっと角の向こうを覗き見た。
そこは小さなゴミ捨て場だった。
辺りに腐ったゴミや板、ガラス、コップ、他にもいろんな物が散乱し、空のドラム缶のピラミッドがゴミ捨て場の隅にそびえている。
そのゴミ捨て場の真ん中で、グールが屈み込み、何かを喰らっていた。
アレックスは小さくうめき、鼻を覆った。
ここまで腐臭が臭ってくる。
アレックスは汗ばんだ手でナイフを握り直すと、足を踏み出した。
一歩、また一歩。
グールは気づかない。
アレックスはごくりと唾を飲むと、さらに足を進めた。
いつしか、彼はグールのすぐ側に来ていた。
グールは未だに何かを喰らっている。
アレックスは額の汗を拭いたい衝動にかられながらナイフを振り上げた。
と、急にグールが立ち上がった。
食べ終えたのだ。
アレックスは慌てて数歩後退した。
グールが口から血をボタボタたらしながら、ゆっくりと振り返る。
アレックスは覚悟を決め、ナイフを振り下ろした。
グチャッ!という音と共に、ナイフが腐った皮膚にスッと入る。
ナイフはそのままグールの稼動していない心臓を貫いた。
グールが一瞬動きを止める。
しかし、グールはナイフを全く意に介せず、奇声をあげ、アレックスの首に噛みつこうとした。
アレックスが悲鳴をあげて飛び退く。
しかし、彼はかかとをゴミにつまずかせ、背中から転倒した。
グールがすかさずのしかかる。
「う、うわああっ!」
アレックスは半狂乱になってグールをどかそうとした。
しかし、あまりの事に体がついていけなかった。
グールが大きく口を開け、血まみれの歯を見せる。
アレックスは目をつぶった。
ドスッ!
何かが突き立つ音と共にグールが体を震わせ、ずるりとアレックスの体から滑り落ちた。
そのグールの死骸を見て、アレックスは目を見張った。
小さなナイフがグールの首に刺さり、見事に背骨を斬り裂いている。
「気をつけろよ」
クロウがアレックスに歩み寄りながら言った。
彼がナイフを投擲したのだ。
「あ、ああ……」
アレックスが驚きから覚め、立ち上がる。
クロウは彼に手を貸した。
「よし。これでOK―――」
ガチャン
音がした。
倒れたグールがぶつかり、ぐらぐらしていたビンが倒れたのだ。
ビンは大きな板を支えていたつっかえ棒を倒し、板に乗っていた大きな箱が滑り落ちた。
箱からボーリングの球が大量に転がりだし、ドラム缶の山に突っ込んだ。
凄まじい音をたててボーリングの球とドラム缶の山がぶつかり、轟音―――全てのフィアの注目を集めるのには十分な轟音をたててドラム缶の山が崩れ落ちた。
土煙がもうもうと立ち上る。
「…………………おっと」
長い沈黙の後、スコットがつぶやいた。
「お嬢ちゃん、そんなにUウイルスの情報が欲しいのかい?」
長い間リアナがパソコンに向かうのを眺めていたジェイクが、突然口を開いた。
リアナは驚いて振り返った。
「なにか情報を持ってるんですか!?」
「ま、情報っていうかなんていうか」
ジェイクは顎をさすりながら言った。
「2008年の<SAF>隊員襲撃事件は知っているか?」
リアナは迷わず頷いた。
「それと計4回のリッカー事件」
「ええ、もちろん。首謀者は違う事件ですけど。リッカー事件はアローンという男です。だけど、使われたSSウイルスはUウイルスとほとんど似た効能を持ってます」
「そしてだ」
ジェイクは火傷を撫でながら言った。
「南アメリカでリッカーが確認されている」
「ええっ!?」
リアナは目を見張った。
「そんな情報は初耳です!」
「ま、南アメリカは封鎖状態だったからな。ネイオとスコットはその封鎖を特殊部隊権限かなんかで通ってきたらしいけど。どっちにしろ、Uウイルスと平行してSSウイルスを調べるべきだ。できればリッカーも」
「そうですね」
リアナは大きく頷いた。
「なら、早速ネットでバイオハザードの攻略サイトに」
「気でもふれたか」
「止まるな!走れ走れ!」
クロウが怒鳴った。
夜空にサイレンが鳴り響き、フィア達の怒声がここまで聞こえてくる。
彼らは裏路地を駆け抜けていた。
パウロが先頭に立ち、一行を先導している。
「こちらスネーク。任務に失敗」
「ふざけてる場合か!」
場をわきまえないスコットにネイオが怒鳴った。
「このままじゃしかたがない!ふたてに分かれるぞ!」
クロウが叫んだ。
「陽動部隊と工場に向かう部隊だ!」
「俺は工場に行きたいぜ!」
スコットがでしゃばった。
「よし。お前は陽動部隊だ」
「ええーーーっ!」
「スコット、お前な……」
ネイオは考えなしな相棒にため息をついた。
「なんにも言わなければいいのに……」
「他に陽動部隊を志願する者は!?」
クロウが声を張り上げる。
誰もいない。
当然だ。
死亡率が限りなく高い。
「よし。じゃあ俺が選ぶ」
「ていうか、なんでお前が指揮官なんだよ!俺だって陽動部隊になりたかない!」
「スコット、いい加減黙れ」
ネイオがスコットを抑える。
しかし、驚いた事にクロウはスコットに微笑みかけた。
「俺が君を選んだのは、君の凄まじい戦いぶりを見込んでの事だ。頼みにしているぞ。スコット副隊長」
途端に、スコットの顔は明るくなった。
「いぇーい!クロウ様最高ー!」
「…………………あの、クロウ」
喜びの舞いを披露しているスコットを尻目に、ネイオはクロウに話しかけた。
クロウがにやりと笑う。
「あいつはおだてれば簡単に操れる」
「………………スコット、お前、完全にもてあそばれてるぞ………」
ネイオはため息をついた。
「Uウイルス、か……」
リアナはレジスタンスのキャンプを歩きながらつぶやいた。
黒人の少年達がサッカーをしている。
リアナはその中を迷惑にもずかずかと歩きながら、思考に没頭していた。
「リッカー……SSウイルス……そしてグール……」
「おーい、リアナ」
突然、彼女を呼ぶ声がした。
リアナが顔をあげると、粗末なテントの側でジェイクが手を振っていた。
側には片腕の無い女性がいる。
女性は腕が無い方の肩に包帯を巻いていた。
「ジェイクさん!」
リアナは彼らに駆け寄った。
「研究の成果はどうだい?」
ジェイクが笑いながらリアナに言った。
リアナは苦笑いしながら肩をすくめた。
「微妙、です」
「あらら」
女性が微笑んだ。
「なかなか難しいのね」
「そうですね。サンプルが無いですから」
「サンプル、か」
ジェイクが難しい顔をして顎を撫でた。
女性がジェイクに目配せする。
「サンプルですよ」
リアナが頬に手を当て、ため息をつく。
ジェイクがゆっくりと言った。
「サンプルは、無い事は、ない」
「そうです。サンプルが―――」
リアナはバッと顔をあげた。
「サンプルがあるんですか!?」
リアナの言葉に、ジェイクは肩をすくめた。
「ま、な」
「どこに!?どこにですか!?」
「落ち着いて、リアナさん」
女性が微笑みながら言った。
「サンプルを提供するのには、本人の了承が必要よ」
「もちろんです!」
リアナは勢いよく頷いた直後に、不思議そうに首を捻った。
「本人?」
ジェイクが笑った。
「ま、そのうちわかるさ」
「陽動部隊は俺とスコット、それにネイオ、ローグ、アレックス、グリッグ、シュナイダーで行く。工場へ向かう連中はパウロ、グレイ、ドイル、カトリーナ、レイだ」
「大丈夫なのか?」
グレイが心配そうに言った。
グリッグがひきつった笑みを見せる。
「たぶん、な」
「よし、皆、全力を尽くせ。夜明けまでにジープの場所に戻れなかった奴は置いていく」
クロウはそういうとライフルをがしゃりと鳴らし、歩き出した。
陽動部隊が慌てて続く。
「………さて、行くか」
ドイルが言った。
パウロが頷き、再び歩き出した。
「なんだか心配です……」
まだ新米<SAS>のカトリーナが不安げに言う。
ドイルはカトリーナがサブマシンガンを固く握っているのを見て微笑み、彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫さ、きっと」
「そうでもないぞ」
突然、今までずっと黙っていたレイが口を開いた。
「俺の従兄弟のアランはあっさり殺された。奴らは強い。脅威的に」
「だけど、やるしかないだろ?」
グレイが肩をすくめて言った。
「部品が無いと帰れないんだから」
サイレンは鳴りやんでいなかった。
ヴェノムが凄まじい勢いで通りを歩き、サーチライトで隅々を照らしている。
「何か計画でも?」
「ああ、もちろんある」
ネイオの言葉に、クロウは物陰の向こうをのし歩くヴェノムを眺めながら言った。
「さっきの丘からフィアの司令施設らしきものを見つけた。そこらへんで混乱を起こす。ついてこい」
クロウはそう言うとサーチライトに気をつけながら歩き出した。
「そんなにうまくいくのかねぇ……」
ネイオはため息をつくと、クロウに続いた。
ヴェノムの歩行音が遠くから聞こえてくる。
「なー、クロウ」
突然、最後尾のスコットがクロウに声をかけた。
「どこかで会わなかったか?」
「そうか?」
クロウが先の通りをうかがいながら言う。
「覚えがないが」
「うーん、そうか?お前を見ると、妙にリッカーやアローンの事を思い浮かべるんだけど」
「覚えないな。それよりも、ここが司令施設だ」
「…………こんなに警備甘かったっけ?」
「ま、俺がソリッド・スネークという事で」
「をい」
「とにかく!」
ローグが会話に終止符をうった。
「逃げましょう!」
次の瞬間、凄まじい戦吼が背後から響いた。
クロウが振り返ると、リッカーがいた。
よだれをぼたぼたとたらし、筋肉を蠢かせている。
他のリッカーと違い、剥き出しだった脳が薄い皮膚で覆われていた。
「またこいつか!」
ネイオが叫ぶ。
「入れ!早く!」
アレックスが叫び、一行は正面から司令施設に向かった。
クロウが扉を蹴破る。
一行は銃を構え、エントランスホールに突入した。
だが、予想外にもエントランスホールはもぬけのからだった。
「罠という気しかしないんですけど」
「ローグ、黙れ!あの部屋だ!行くぞ!」
クロウは先の扉を指し示し、走り出した。
リッカーが獰猛な唸り声をあげ、彼らの後を追ってくる。
戦吼がエントランスホールに轟いた。
「これだ!あったぞ!」
グレイが勝ち誇って部品をかざした。
カトリーナがパチパチと控えめに拍手する。
「直るの?」
「ああ。すぐだ」
グレイはそう言うと腰からドライバーを取りだし、通信機を直し始めた。
その間、ドイルはグレイの真上のキャットウォークから、上空の満月を眺めていた。
月が屋根の穴を通して光を工場の中に投げかけている。
「帰れるのかな……、イギリスに」
ドイルはしみじみとつぶやいた。
このまま異国の地で死にたくない。
その時、ドイルはふと気づいた。
工場の窓の向こうを、何かがチラリと横切ったのだ。
「…………」
ドイルは無言でサブマシンガンを構えた。
「ここをこうすれば……ほら、できた!」
グレイの声が聞こえた。
どうやら通信機が直ったらしい。
「通じますか?」
カトリーナだ。
「!」
ドイルは息をのんだ。
間違いない。
また窓の向こうを何かが横切った。
「グレイ!カトリーナ!パウロ!レイ!」
ドイルは声を張り上げた。
「気をつけろ!何かが―――」
次の瞬間、工場の壁が轟音と共に突き破られた。
カトリーナの悲鳴が響く。
工場の壁ががらがらと崩れた。
キャットウォークが大きくきしみ、片方が落ちていく。
「くっ!」
ドイルは急激に坂と変わりつつあるキャットウォークを走り出した。
崩壊した壁の向こうからヴェノムが現れた。
サーチライトの光が土煙の巻き上がる工場内をめまぐるしく動く。
その光はキャットウォークを走っているドイルを捉えた。
ヴェノムが4本の頑丈な足を動かし、工場内をスムーズに動き出す。
ガトリングが火を噴き、次々にレーザーがキャットウォークに弾けた。
「うわわわわ!?」
ドイルは必死に走った。
キャットウォークが激しく揺れる。
格子状の床がドイルの足の下できしんだ。
ドイルは後ろを見た。
ガトリングから撃ち出されたレーザーが凄まじい勢いで迫ってくる。
ドイルは前を見た。
キャットウォークのゴールは遠い。
ドイルは目をつぶった。
南無三!
彼は心の中で唱えると、キャットウォークから飛び降りた。
彼の頭上でキャットウォークがレーザー弾を次々に浴び、ひしゃげる。
ドイルは工場の床に転がり落ちると、身体中の痛みをこらえて叫んだ。
「カトリーナ!グレイ!返事をしろ!パウロ!レイ!」
「ドイル!こっち!」
ドイルは顔をあげた。
カトリーナが工場の出口で叫んでいる。
ドイルは立ち上がると急いで走り出した。
ヴェノムが工場の機具を無残に踏み潰しながら歩き出した。
ガトリングからレーザーが嵐のように放たれ、床や機具に炸裂する。
ドイルは転び、あちこちに擦り傷や切り傷をつくりながらも足を止めなかった。
ようやく、出口についた。
カトリーナが彼を支え、走り出す。
2人は工場と工場の間の狭い道を走っていた。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ………」
次の瞬間、工場の壁を突き破り、ヴェノムが飛び出した。
カトリーナが悲鳴をあげる。
ヴェノムが彼らを認め、明らかに彼には狭い道を走り出した。
工場の壁がどんどん破壊され、最初の工場が轟音と共に崩壊し始めた。
カトリーナが再び悲鳴をあげる。
ドイルは崩壊している工場から飛んでくる瓦礫やガラスの破片からカトリーナを庇いながら叫んだ。
「カトリーナ!そっちの工場に飛び込むぞ!」
「え!?」
ドイルは有無を言わさずカトリーナの体を抱き締めると、窓からもう片方の工場に飛び込んだ。
窓を破り、中にダイブする。
カトリーナの悲鳴が響いた。
ドイルは身体中の傷の痛みに顔をしかめながらもなんとか立ち上がり、カトリーナを助け起こした。
だが、ヴェノムもまた工場に突っ込んできた。
壁が崩壊する。
ヴェノムは崩壊する壁の瓦礫を浴びながらも、かまわずミサイルを撃ち出した。
ミサイルが工場の二階にぶつかり、火花と瓦礫をぶちまける。
だが、ドイルは気づいていた。
ヴェノムは彼らを見失っている。
彼は自らの手榴弾を取ると投擲した。
ただし、窓の外だ。
爆発
ヴェノムがそちらを向き、ガシャガシャと足を動かして工場から出ていった。
「よし、今だ。急ごう」
ドイルの言葉に、カトリーナはガクガクと頷いた。
一行は不気味な光沢のある通路を走っていた。
リッカーが彼には少し狭い通路に無理やり体を突っ込み、追ってくる。
「うわあああああああああ!」
グリッグが恐怖に満ちた悲鳴をあげた。
リッカーが長い舌をちろちろと動かし、巨大な爪を繰り出してくる。
「あの部屋だ!あの部屋!」
先頭のネイオが叫んだ。
通路の突き当たりは少し開けた空間で、その先に扉がある。
ネイオは扉を開けると、すぐに飛び込んだ。
一行が続々と飛び込む。
だが、1人足りなかった。
「シュナイダー!何してる!?」
クロウが叫んだ。
シュナイダーが通路でうずくまり、何かしている。
「シュナイダー!」
シュナイダーが顔をあげた。
しかし、リッカーが彼のすぐ側に迫っていた。
リッカーが戦吼をあげ、前腕を振り上げる。
シュナイダーは慌てて走り出した。
だが、時、既に遅し。
爪がシュナイダーの背中をかすめ、3つの赤い筋を作った。
血の赤だ。
シュナイダーが悲鳴をあげ、うずくまる。
リッカーが歓喜の唸り声をあげ、口を大きく開いた。
だが、その大きな口に飛び込んだのは銃弾だった。
リッカーがひるみ、後退する。
クロウだ。
シュナイダーはつらそうな顔をしながらも立ち上がり、走り出した。
リッカーが体勢を立て直し、怒声をあげた。
が、次の瞬間、リッカーの足元で猛烈な爆発が起きた。
リッカーが悲鳴をあげ、血霧と焦げた肉片が散乱する。
シュナイダーが笑いながら部屋に駆け込んだ。
「手榴弾をいくつか床にしかけたんだ!リッカーめ、ざまあ見ろ!」
「それよりも傷だ!」
クロウは急いでシュナイダーの背中を診た。
見事に皮膚が斬り裂かれている。
クロウは黙ってシュナイダーの顔を見た。
シュナイダーの顔が青い。
自らの運命を知ったのだ。
その時、スコットが叫んだ。
「おい!この扉、電子ロック式だぞ!」
確かに、扉は凄く頑丈な金属製だったが、錠をかけるにはパスワードが必要だった。
扉の隣には電卓のようなものがある。
どうやら、5ケタの数字がパスワードらしい。
「―――ッ!まずいぞ!」
クロウが叫んだ次の瞬間、閉じた扉に猛烈な衝撃がぶつかった。
スコットが吹っ飛ぶ。
リッカーだ。
「扉を抑えろ!」
アレックスが怒鳴り、皆、慌てて扉を体で抑えた。
戦吼と共に再び衝撃がぶつかる。
扉が開きかけた。
皆、必死の形相で扉を抑えているが、リッカーの力には及ぶべくも無い。
「ローグッ!錠をかけろ!」
シュナイダーが扉を体で抑えながら叫んだ。
ローグが焦った表情をする。
「ええっ!?でも僕、パスワードなんて………」
「わかってる!見つけろ!」
「見つけろって……」
ローグは文句を言いながらも電子ロックに向かい合った。
「5ケタか。37564?」
「みなごろしだと!?不吉な事を!」
シュナイダーが叫んだ。
ローグはシカトして入力した。
違う。
「18782?」
「いやなやつ、か」
「黙っててください!」
ローグは怒鳴ると再び入力した。
違う。
ズン!
再びリッカーが体当たりした。
扉がまた開きかける。
「ローグッ!」
「やってます!」
ローグは焦って叫び返しながら、めったうちにパスワードを打ち込んだ。
否定ブザーが鳴りまくる。
皆、疲れきっていた。
このままだと、リッカーが扉を突破してしまう。
ローグの手は震えていた。
皆、死ぬかもしれない……
「ああ、もう!」
ローグは適当に12345と打ち込んだ。
ガチャッ
重い音が鳴り、錠がかかった。
皆、呆然と金属製の扉を見た。
助かったのだ。
鈍い衝撃音が向こうから聞こえてくる。
リッカーは諦めていないらしい。
「ローグ!よくやった!」
シュナイダーが叫んだ。
「ていうか、適当に12345って打ち込んだんですけどね」
ローグは苦笑いした。
「管理人はよっぽどパスワードを難しくするのが嫌だったんでしょう」
「ていうか、なんでフィアの施設に人間のアラビア数字が使われているんだ?」
「そこらへんはご愛嬌ということで☆」
「をい」
「そんなことより……」
クロウが辺りを見回した。
「どうやって出る?」
『あ』
ハモった。
扉は1つしかない。
向こうにはリッカーがいる。
「………しかたがない。部屋を調べよう」
クロウはそう言うと近くのデスクのフィアのコンピューターらしき物体をいじりだした。
「………おい、見ろ」
クロウの言葉に、皆、一斉にディスプレイを覗き込んだ。
それは、この施設の図面だった。
「フィアの言語で読めないな」
グリッグがぼやく。
クロウがちっちと指を揺らした。
「甘いな。コンピューターには言語変換機能があるはずだ………。あった。英語、と。ほら、これで読める」
「をい」
「気にするな」
「えーと、なになに?ここは管理室か?研究室、実験場、処刑室………ろくな部屋が無いな」
スコットが読み上げた。
「これを見ろ」
アレックスが施設の最上階を示した。
「司令室だ。ここを襲撃しよう」
「いやいや待て待て。もっとおもしろい部屋がある」
クロウは地下の部屋を示した。
「トップシークレット………最高機密だ。実におもしろそうな部屋じゃないか」
「ヤバそうな感じしかしないけどな」
グリッグがそうつぶやいた次の瞬間、扉が轟音をあげて開いた。
リッカーが勝ち誇った声をあげる。
錠があまりの衝撃に耐えきれなかったのだ。
「うわわわわわ!?」
ローグが慌てて銃を構える。
リッカーは吼えると、血と肉を求めて勢いよく部屋に飛び込んだ。
人間達の悲鳴があがる。
しかし、扉はリッカーには少し狭すぎた。
リッカーは何とか頭と肩と腕を部屋の中に入れたものの、巨大な胴がドア枠につっかえてしまった。
リッカーは前進も後退もできなくなってしまったのだ。
自らの失態に気がついたリッカーが、狼狽した鳴き声をあげる。
静寂が下りた。
「……………………ぷっ……あーっはっはっは!」
ネイオが最初に吹き出した。
続けて全員が笑い出す。
ドア枠に体が挟まれ、にっちもさっちもいかないリッカーは、あまりに滑稽だった。
リッカーは必死に爪を繰り出したが、もちろん届かない。
スコットが携帯電話を取り出し、パシャパシャと写真を取った。
「めちゃくちゃおもしれえ!」
「全くおもしろくない状況だな!」
グレイは走りながらつぶやいた。
背後から工場の崩壊する轟音が聞こえてくる。
グレイは長距離通信機を起動すると、<SAS>の緊急通信に繋いだ。
「おっ!繋がった!<SAS>か!?」
『こちら<SAS>。名前とIDを』
「ああめんどくせえ!グレイズドノット!IDはダース・モールのツノとアクバーのひげ!」
『………照合しました。用件を』
「俺は今、南アメリカのリオデジャネイロにいる!新生物の開発した正体不明の兵器に追いかけられてる状態だ!早く救出にきてくれ!」
『……………イタズラですか?それなら―――』
「バカオペレーター!マニュアル見ろ!緊急通信には文句なく従え!」
次の瞬間、グレイの走っていた工場にヴェノムが突入してきた。
グレイは悲鳴をあげて転がった。
長距離通信機が彼の手を離れ、床を滑っていく。
ヴェノムがガトリングやミサイルをめったうちし、次々に瓦礫が崩れ落ちてきた。
爆発音がこだまし、柱や機具が吹き飛ぶ。
グレイは必死に這いつくばり、難を逃れた。
ヴェノムが爆発と破壊を撒き散らしながら工場をのし歩く。
工場が崩壊を開始した。
「まずいまずいまずいまずいまずい………」
グレイは呪文のようにつぶやきながらほふく前進を開始した。
瓦礫が雨のように降り注ぐ。
彼は長距離通信機を血眼で探した。
あった。
落ちてきた瓦礫と瓦礫の隙間にある。
グレイは手をのばして通信機を取ると、急いで走り出した。
ヴェノムがグレイの姿を捉え、追撃を開始した。
グレイの背後の機具がガトリングやミサイルを浴びて砕け散る。
出口まであと少し―――
グレイの肌をレーザーがかすめた。
爆音がグレイの耳を隴し、熱がグレイの肌を焼く。
だが、グレイは出口にたどり着いた。
しかし次の瞬間、グレイとヴェノムの上に工場が崩落した。
「キツいな………」
肩幅の大きいアレックスが、本気で辛そうにつぶやいた。
「大丈夫ですか?」
ローグが訊く。
「大丈夫じゃない」
アレックスの疲れきった声が答えた。
一行はリッカーに封鎖された部屋から、換気口を通って脱出していた。
狭い換気通路は、体格のいいアレックスにはあまりに狭すぎる。
「我慢しろって。あと少しだ」
先頭のネイオが言った。
「ほら、見えたぞ」
ネイオは換気通路の突き当たりの格子を見て言った。
格子からは明かりが見える。
恐らく、どこかの通路だろう。
(おっと)
格子に近づいたネイオは、思わず後ずさった。
後ろのスコットの顔にネイオのブーツがめり込む。
格子の向こうの通路では、フィア達が不気味な唸り声のような言語で会話していた。
ネイオはブーツの事で文句を言うスコットに蹴りを食らわせて黙らせると、フィア達が去るのを待って格子を外し、通路へ出た。
「さてと………。どうする?」
グリッグの問いに、クロウが肩をすくめた。
「もちろん最下層の最高機密部屋へ行くのさ」
クロウ以外の全員がため息をついた。
誰かが反論する。
「どっちにしろ、下へ行く階段が無い事には……」
「エレベーターがあるぞ、目の前に」
「……地図は!?」
「さっきの図面をプリントアウトしてある」
「………敵がたくさんいるぞ!?」
「だから最高機密なんだろう?」
クロウ以外の全員が、再びため息をついた。
爆風が再び場を貫いた。
ヴェノムは工場を次々に破壊して、人間達を捜していた。
「グレイ達は大丈夫かな………」
ドイルは瓦礫の陰に身を隠しながらつぶやいた。
彼の前方で、ヴェノムが再び別の工場に突っ込み、レーザーを撒き散らしている。
しばらくした後、工場が崩落した。
ヴェノムも一緒だ。
瓦礫の山が残り、静かになった。
しかし、すぐにがらがらと瓦礫を押し退け、ヴェノムが地上に現れた。
光沢のある装甲には、ほとんど損傷が無い。
ヴェノムはすぐに次の工場に突っ込んでいった。
「おい、カトリーナ、行くぞ」
ドイルは隣のカトリーナに囁いた。
カトリーナが疲れきった様子で頷く。
ドイルとカトリーナはそろそろと移動を開始した。
ヴェノムが工場を破壊しているのが見える。
ここら一帯を完全に破壊するつもりなのだろう。
ドイルはゆっくりと瓦礫の山を移動した。
カトリーナが震えながら続く。
ヴェノムの攻撃を受けていた工場が崩落した。
その時、ドイルは瓦礫の山の中で倒れている人影を見つけた。
「グレイ!」
ドイルは息をのみ、駆け寄った。
グレイが生気の失せた目でドイルを見た。
「ドイ……ル…?」
「グレイ!しっかり!」
ドイルは叫びながら必死になってグレイの体を覆っている瓦礫を取り除き始めた。
「やめろ……ドイル……。俺はもうダメだ……」
「自分で死亡フラグを立てるな!」
ドイルは半狂乱になって意味不明な事を叫びながら、瓦礫の撤去作業を続けた。
グレイは微笑むと、手にした通信機を涙目のカトリーナに渡した。
「長距離通信機だ。これで味方を呼ぶんだ。早く逃げろ」
「グレイ!何言ってるんだ!?」
ドイルがグレイの顔を覗き込んで叫んだ。
「一緒にイギリスへ帰るんだ!そうだろ!?」
グレイは寂しげに笑うと、首を横に振った。
「グレイ!」
ドイルが悲痛な声をあげる。
「………あの世で待ってるぜ」
グレイはドイルとカトリーナにウインクすると、目を閉じた。
ガシャンと音をたて、エレベーターが止まった。
エレベーターの扉が静かに開く。
先には、真っ暗な通路が続いていた。
黒い闇が際限なく続いている。
「………お前、先行け」
グリッグがクロウをこづいた。
クロウがしかたなく銃口のライトを点け、足を踏み出す。
クロウは足に闇が絡みつく錯覚を覚えた。
「大丈夫か?」
「さあな」
クロウはアレックスの問いに答え、ライトをあちこちに向けた。
いたって普通の通路のようだ。
「大丈夫、たぶん」
「絶対だとありがたいんだが」
「無理ww」
「をい」
なんだかんだ言って、アレックスもエレベーターから出てきた。
他の者達も続く。
「嫌な予感しかしないんだけど」
ネイオがため息をつきながら言った。
闇は彼らを呑み尽くすかのように迫っている。
「よし、行くぞ」
クロウがそう言って歩き出した。
アレックス、グリッグ、シュナイダー、ローグ、ネイオの順に続く。
スコットは最後尾だった。
先頭から襲われたなら、最も安全な位置だ。
しかし、モンスター映画では最後尾の者が誰にも気づかれずに死ぬ事がある。
寂しい運命だ。
「そう、こーやって振り向くとモンスターが」
スコットが独り言を言いながら振り向くと、そこには―――
何もいなかった。
「ま、そんなもんだ」
「なにぶつくさ言ってんだ?スコット」
「なんでもない」
「しっ!静かに!」
クロウが一行を制した。
「扉だ」
通路の先には扉があった。
扉にはフィアの言語でなにか書かれている。
「よし、開けよう」
「待て」
アレックスが進み出たが、シュナイダーが制した。
「セキュリティが甘過ぎないか?」
「そうだな。おれもそう考えていた」
クロウが頷いた。
「いくらなんでも、簡単過ぎる」
「あーもう、ごちゃごちゃ行ってないでさっさといこうぜえ~?」
スコットがやれやれというように言いながら進み出た
「セキュリティが甘いだのなんだの―――」
次の瞬間、スコットはつまずき、派手に転んだ。
ベチッ!という音と共に床に倒れ込んだスコットの腰のホルスターからハンドガンが飛び出した。
ハンドガンがそのまま金属製の床の上を滑っていく。
そしてハンドガンが扉の前に来た瞬間、ハンドガンは扉の周りに張り巡らされた銃口から吐き出されたレーザーに一瞬で焼き尽くされた。
「…………一命をとりとめたな」
クロウが呆然とするスコットに言った。
「どうすんだ?この扉……」
グリッグが腕組みしていった。
「とーれねーぞ」
「まあ、そうだな」
ネイオは扉を眺めた。
頑丈そうな金属製で(なんの金属かはわからなかった。フィアの独自の物だろう)、先程のレーザー罠以外にもなにかあるかもしれない。
しかも、後ろから敵がくれば、間違いなく全滅する。
「どうしようも無いんじゃないか?」
ネイオはさじを投げた。
こんなの、通れっこない。
突然、シュナイダーがパチンと指を鳴らした。
「手榴弾で吹き飛ばそう!」
「無理じゃないか?こんな頑丈そうな扉……」
アレックスが言う。
「試してみるのみ、だ。みんな、下がれ」
シュナイダーは一行を下がらせると、手榴弾を取り、投げた。
爆発。
サイレンが鳴り出した。
「あーあ」
ローグがため息をついた。
「まずいですね」
ドイルとカトリーナは、やっとの事でジープのところまで戻ってきた。
そこには、既にレイがいた。
「………パウロは?」
ドイルは疲れきって聞いた。
レイが静かに首を横に振る。
「………そうか」
ドイルはそう言うと<ホームズ>の運転席に崩れ込んだ。
そういえば、南アメリカに来てから一回も寝ていない。
レイ達はもっとだろう。
恐らく、3日は寝ていないのではないのだろうか。
もう体力も限界のはずだ。
ドイルはカトリーナが補助席に座るのをなんとなく感じながら、眠りについた。
完全武装したフィアが数体、最下層の通路に駆け込んだ。
素早く手にした銃をあらゆる方向に向ける。
自然に灯りがついた。
『セキュリティシステムが侵入者を感知した』
フィアの隊長が気味の悪い言語で言った。
部下達が頷く。
『旧人間区の連中は陽動だ。敵はこの中枢部を狙っていたに違いない。侵入者を見つけ出し、抹殺せよ』
隊長はそう言うと、ひたひたと歩き出した。
そして、突き当たりの扉についた。
誰もいない。
『おかしいな』
隊長は首を捻った。
サイレンが鳴ってすぐに来たから、連中にここから逃げる暇はない。
第一、逃げ道のエレベーターは自分達が使った。
『た、隊長!もしかしたら』
部下の1人が悲鳴のように叫んだ。
『連中は既に部屋の中に!』
『バカな!』
隊長は叫んだが、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
もし人間が部屋の中にいるなら、全てのUウイルス生物の危機だ。
隊長は何もない壁を素早く何回かタッチした。
すると、電卓のような機械が出てきた。
隊長は何重ものロックを素早く解除した。
扉がゆっくりと開いていく。
隊長はその様子をじっくりと眺めた。
ガシャンと音をたて、扉が完全に開いた。
その時、隊長の目の前に何かが落ち、カシャンと音をたてた。
『ん?』
隊長は床に落ちた物体を見つめた。
それは、換気口を塞ぐ格子だった。
隊長は不審に思って上を見上げた。
次の瞬間、隊長の視界には靴底しか見えなかった。
クロウは換気口の下にいたフィアの顔を思い切り蹴飛ばすと、素早く床に着地した。
顔を踏みにじられたフィアが悲鳴をあげ、よろよろと後退する。
クロウは腰から2つのハンドガンを抜くと、射撃した。
2つの弾丸が正確な軌道をたどり、それぞれがフィアの脊髄を貫いた。
グリッグが続いて換気口から飛び降り、サブマシンガンを目の前のフィアに向けて撃ちまくった。
フィアがレーザー・ガンを構える間もなく何発もの銃弾に貫かれ、倒れる。
シュナイダー、ローグと続き、フィアがさらに倒れた。
アレックスが飛び降り、手にしたサブマシンガンで戦闘に参加する。
ネイオとスコットが飛び降りる頃には、戦闘は終わっていた。
「なーんだ、つまんねえの」
スコットが口を尖らせた。
「俺の勇姿を見せれたのによー」
「黙れ、スコット」
クロウはそう言うと2つのハンドガンをホルスターに収め、倒れたフィアに唾を吐いた。
「トカゲもどきめ」
グリッグが倒れたフィアの手からレーザー・ガンを奪いとった。
「HEY!見ろよ、こいつあいい!」
「気をつけてくださいね」
ローグが心配そうに言った。
「どんな武器かわかりませんし」
「心配すんなって」
グリッグが銃の調子を確かめながら言う。
「なかなかいいぜ、これ」
「おい、入るぞ」
クロウがライフルを構え、扉の脇に立ちながら言った。
「誰が先に行く?」
『もちろん言い出しっぺ』
皆、一斉にクロウを指さした。
クロウはため息をつくと、周りを確認し、中に入った。
途端に、彼は絶句した。
「おい、クロウ、どうだ?」
後ろからシュナイダーが訊いた。
クロウは返事ができなかった。
「クロウ?」
アレックスが部屋に入ってきた。
「いったいどうし―――」
アレックスも目を見張った。
「クロウ?アレックス?」
ネイオが訊き、入ってきた。
仲間がぞろぞろと続く。
そして、皆、一様に目を疑った。
部屋は巨大なドームだった。
扉の先はちょっとしたバルコニーになっており、ドームの少し高い位置にあって、ドーム全体を見渡せるようになっていた。
ドームは淡く優しい白光に満たされている。
ローグはドームの中心に浮かぶ物体を見て喘いだ。
「ドラゴン!」
部屋の中心には巨大なドラゴンがいた。
大きさは太古のティラノサウルスを少し大きくしたぐらい。
鱗ではなく、フィア達と同じ灰色のゴム状皮膚で身体を覆い、強力な翼はたたまれている。
ドラゴンは巨大な発光体をかき抱くようにして、中空に浮かんでいた。
まぶたは閉じられている。
恐らく寝ているのだろう。
発光体はドームを満たす柔らかな白光を脈打つように放っている。
光が強すぎて中心は見えなかったが、どうやら球体のようだ。
ドラゴンがその巨大な発光体を抱きしめるように寝ているのを見ると、そうとう大事な物なのだろう。
しかも、ドラゴンは翼をたたんでいるのに球形のドームの中心に浮かんでいる。
つまり、発光体が浮かんでいるのだ。
クロウ達は長らく発光体を見つめていた。
しばらくすると、誰かが携帯電話で写真を取り始めた。
「なんなんだよ………これ」
「ふわあ………」
リアナは大あくびをかますと、自らの粗末なふとんに寝転がった。
パソコンのディスプレイの光を長らく見つめていたせいで目の前がちらつく。
ノートパソコンのバッテリーをたくさん持ってきて良かった。
リアナはぼんやりとそう思った。
バッテリー1個ではとてもたりそうにない。
リアナは目を閉じ、眠りにつこうとした。
その時、テントの外から彼女に声をかける者がいた。
「リアナ、いるかい?」
ジェイクだ。
リアナは慌てて起き上がると、テントの入り口の布を開けた。
そこには、ジェイクと女性、そして9才くらいの男の子がいた。
「やあ、リアナ。この子は僕とティアの息子のリチャードだ。リードって呼んであげてくれ」
左腕の無い女性はティアと言うらしい。
リアナは微笑み、目を大きく開いてるリチャードの顔を覗き込んだ。
「はじめまして、リード。わたしはリアナ・ブルックベル。よろしくね」
リアナは右手をさしだした。
しかし、リードはなにもしようとしない。
リアナは苦笑すると、右手を引っ込めた。
「一部の人にしか心を開かないんだ、リードは」
ジェイクはため息をつくと、そう言った。
「この子が君の探していたサンプルさ」
リアナは驚いてジェイクを見た。
「サンプル?この子が?わたしが探していたのはUウイルスの―――」
ジェイクはリアナを手で制した。
「わかってる。この子はUウイルスに関する貴重な資料だ」
リアナは半信半疑でリードの顔を覗き見た。
リードが見返す。
幼い眼に、賢そうな光が見えた。
「…………わかりました」
リアナは頷くと、3人をテントの中に招いた。
ドイルは爆音で目を覚ました。
「な、なんだ!?」
彼は慌てて起き上がると叫んだ。
「見てください!」
カトリーナがリオデジャネイロを指さした。
ドイルは息をのんだ。
大量のフィアが雄叫びをあげて走っている。
その先には数人の人影があった。
「あいつら!」
ドイルは喘いだ。
クロウ達がフィアから必死に逃げている。
ドイルは急いで<ホームズ>のエンジンをかけた。
カトリーナが補助席で銃を握り、レイが後部銃座に飛び乗った。
「おい、クロウ!なんてもの連れてくるんだ!」
ドイルは<ワトソン>の運転席に飛び乗ったクロウに怒鳴った。
クロウが無言でエンジンをかける。
<ワトソン>の補助席にローグが飛び込み、シュナイダーが銃座についた。
<ワトソン>が泥を撒き散らしながら動き始める。
ネイオがブラジルの戦闘ジープの運転席に乗り、グリッグがその銃座に飛び乗った。
スコットがブラジルの戦闘ジープの補助席に体を押し込む。
しかし、アレックスの姿は無かった。
殺られたのか。
ドイルは心の中でため息をついた。
「よし、逃げるぞ!」
彼は叫ぶとアクセルを踏み込み、悪路を走り出した。
ジープは森に隠してあったから、自然と森を疾走する形になる。
ドイルは木にぶつからないように極力注意しながら<ホームズ>を運転した。
時々、仲間の車が木々の間にちらりと見える。
と、その時、背後で轟音がした。
振り返ると、木々が凄まじい力で薙ぎ倒されていた。
ヴェノムだ。
3機はいる。
「くそっ!」
ドイルはさらにアクセルを踏み込んだ。
<ホームズ>が悪路で跳ねる。
「どうするんですか!?」
カトリーナが悲鳴に近い声で叫ぶ。
「わからない!」
ドイルが答えた瞬間、前方から木々を薙ぎ倒して別のヴェノムが現れた。
「うわわわわわわわわわっ!?」
ドイルは慌ててハンドルを右にきった。
<ホームズ>が物凄い急カーブをかました。
誰も投げ出されなかったのが奇跡と言えるだろう。
<ホームズ>の後ろから、ヴェノム達が凄まじい轟音と共に迫ってくる。
「ちくしょう!4体のヴェノムなんて相手にできるかよ!」
「ドイルさん、左!」
カトリーナが叫んだ。
次の瞬間、ヴェノムが<ホームズ>の左から飛び出した。
木々が粉砕され、飛び散る。
「わああああああっ!」
ドイルはめちゃくちゃにハンドルをきった。
<ホームズ>がギュルギュルと回転しながら地面を滑る。
そして、木に横腹をぶつけてようやく止まった。
ドイルは自分達を見下ろすヴェノムを見上げた。
恐怖で体が痺れる。
ヴェノムががしゃりと機体を揺らす。
ドイルは目を閉じた。
しばらくの静寂。
次の瞬間、ミサイルとレーザーの発射音が轟いた。
…………火炎の洗礼は無かった。
ドイルはゆっくりと目を開いた。
驚くべき光景がそこにあった。
自分達を追い詰めたヴェノムが別のヴェノムに向き直り、レーザー・ガトリングやミサイルをめったうちにしたのだ。
次々にレーザーやミサイルがヴェノムの青い光沢のある装甲に炸裂する。
あまりの事に、ヴェノム達は混乱した。
なにもできない内に1体が爆発し、残骸が地面に落ちた。
別の1体が急いで体勢を立て直し、反撃しようとした。
しかし、次の瞬間、そのヴェノムはミサイルの直撃を受けて大破した。
残る2体が分が悪いと見て逃げていく。
ドイルとカトリーナ、そしてレイは、信じられない思いで自分達を守ったヴェノムを見上げた。
ヴェノムのコクピットが開いた。
そこからひょこりと顔を出したのは、アレックスだった。
「アレックスさん!」
カトリーナが嬉しそうに叫んだ。
「生きてたんですね!」
「ああ。クロウ達が敵を引き付けている間にこいつを奪ったんだ」
アレックスが笑いながら言った。
「それより、早く森から脱出しよう。<ホームズ>はまだ動くか?」
「よーし、任務達成」
スコットが満足そうに言った。
「長距離通信機も手に入った事だし、後はアジトでぬくぬくとアメリカ軍を待つだけだな」
「そうだな」
ネイオも満足そうに言った。
ようやくアメリカに帰れる。
「長かったな……。南アメリカでの戦いは……」
ネイオは道路の先の街、クリティロを眺めて言った。
アジトはすぐ近くだ。
しかし、彼らは自分達を遠くから見つめる白く瞳の無い濁眼があることに気がつかなかった………
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