ジェウニーの部屋 2

ジェウニーの部屋 2

こころコンサート 



出演者・・小林研一郎
バイオリン川畠成道

ピアノ・・辻井伸行

コンサートマスター・・篠崎史紀(N響)

コンサートミストレス・・・瀬崎 明日香

司会 森田美由紀

指揮者からのメッセージ

ブタペストでの思いがやっと実現した冬

ブタペストの冬。その日もまた、ドナウからの風は氷のように頬を刺した。
そんな夜、コンサートを終え楽屋口を出た僕を、ご両親に伴われて、少女が待っていた。

体が不自由であり、また、知的障害も持っていた。しかし、演奏を聴いた喜びを必死に僕に伝えようともがいている様が、いとおしかった。この子達にもっと自由に演奏を聞いて欲しかった。だが、しかし、知的障害者が健常者と一緒にコンサートを聞く環境を作る事は厳しい。
音が空気に溶けていく様や静けさのみが支配する世界でしゃほんの少しの雑音も許されない・・・そういう矛盾を思いのそこに沈めて、長い間、解決がないまま、悶々とすごしてきた。そんな中でスペシャルオリンピックス世界大会・長野との出会いがあった。世界中から集まるアスリート達に、今までの努力を讃えて、そして、これからの励ましをこめて競技会場の白馬でボランテイァ・コンサートをしてもらえないか・・・妻からの申し出があった。そこでは、嬉しかったら立ち上がったり、感動したら声をだしてもいい。そんなコンサートにしたい。だが、それは途方もない企画だった。指揮者だけではコンサートはできない。果たしてボランティアだけでオーケストラのメンバーは集まってくれるのだろうか。
しかしたくさんの人々の小さな思いは、やがて、大きな力になっていた。3月3日深夜、114名のボランティアの演奏家たちを載せたバスはひたすら、白馬に向けて走っていた。
”コバケンとその仲間達オーケストラ”バスのフロントガラスにはそう書かれてあった。そしてコンサートではアスリート達に、僕達の思いを伝えることができた。彼らの眼はより輝きを放ち、立ち上がっての拍手は続いていた。しかし、それにもまして、われわれ演奏家たちは口々にこう言っていた。聴いてくれてありがとう。演奏させてくれてありがとう。この時を与えてくれてありがとう。出会いをありがとう・・と。励ましをもらったのは、むしろ、僕達だった。

日本の社会が障害者をごく普通に受け入れてくれる時がやがて来るまでは、このコンサートは続けなくてはならない。障害者も健常者も垣根なく共生できる社会に向かって歩き始めよう。そう思ったときでもあった。


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