JEWEL

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誰かの心臓になれたなら 第1話

本作品は「地獄先生ぬ~べ~」のパラレル小説です。若干設定を変えていますので、パラレル小説が嫌いな方はお読みにならないでください。

1326年仲夏、鎌倉。

「はぁ、はぁ・・」

家族と喧嘩し、家出した雪女の火月は、由比ヶ浜に来ていた。
外の世界は危険だと、家族から煩く言われていたのに、火月はどうしても海を見に行きたかった。
その理由は―
「うわぁ、綺麗・・」
その日、空に紅い月が浮かんだ。
火月は、その月を見る為にわざわざ山から下りて来たのだった。
月に感動していた火月は、いつの間にか眠ってしまった。
そして、彼女は太陽が己の身体をじわじわと焼いている事に気づいた。
(苦しい、動けないよ・・)
荒い息を吐きながら、火月は日陰へと移動しようとしたが、躰に力が入らず、浜辺で動けなくなってしまった。
「おい、大丈夫か?」
意識が朦朧とする中、火月は自分の命の恩人の姿を見た。
(綺麗な、瞳・・)
それが、陰陽師・土御門有匡との出会いだった。
「お世話になりました。」
「今度は、危ない目に遭うなよ。」
「はい。」
(いつかきっと、あなたに恩を返します‥先生。)
そして時を越え、火月は有匡と―彼の子孫と出逢った。
「おい、大丈夫か?」
「やっと会えた‥先生・・」
再会した火月と有匡は、いつしか同じ屋根の下で暮らし始めたのだった。
「重い!」
土御門家の怒声は、有匡の怒声で始まる。
「火月、胸の上で寝るな・・」
「すいません・・」
有匡は、低血圧なので、朝はかなり不機嫌だ。
「全く、お前はどうしてわたしの胸の上で寝るんだ?」
「何だか、落ち着くんです。」
「そうか。」
有匡はそう言って溜息を吐いた後、コーヒーを一口飲んだ。
「美味いな。」
「そのコーヒー、僕が淹れたんですよ!」
「そうか。火月、スケートリンクの仕事はどうだ?」
「皆さん優しいですし、仕事は順調ですよ。それよりも先生、那須に行ってから最近変ですよ?」
「最近、夢を見る。鎌倉で、お前と浜辺で会う夢だ。」
「もしかしたら、それは・・」
「さてと、もうこんな時間だから、行って来る。」
「行ってらっしゃいませ!」
有匡が出勤した後、火月は有匡の寝室に入って、彼の枕に顔を埋めた。
「先生、早く帰って来ないかな~」
中学校に出勤した有匡が職員室でテストの採点をしていると、そこへ教頭の田中が彼の元にやって来た。
「土御門先生、来週のお祭り楽しみですね。」
「え、えぇ・・」
有匡は、田中が少し苦手だった。
「そういえば、明後日先生のクラスに転校生が来るので、よろしくお願いしますね。」
「はい。」
田中が去った後、有匡はテストの採点を再開したが、突然背後から強い視線を感じて振り向くと、そこには那須で会った九尾の狐の姿があった。
「久しいな、有匡よ。」
人の姿をした九尾の狐は、そう言って蠱惑的な笑みを有匡に浮かべた。
「貴方が何故、人間界に?」
「人間界と魔界が近々呼応する日が来よう。」
「それを伝えに、わざわざ?」
「いや、人間の暮らしを送ってみたいと思うてな。何せ長い間、石に閉じ込められていたからのう。」
九尾の狐は、そう言うとコロコロと笑った。
「では、また会おうぞ。」
(不思議な方だ・・)
有匡が中学校で九尾の狐と再会した頃、火月は職場のスケートリンクで優雅に滑っていた。
「あ~、やっぱり誰も居ないリンクで滑るのって楽しいなぁ~」
そう呟きながら火月がリンクから上がり、スケート靴にエッジカバーをつけていると、一人の青年が彼女の方に近づいて来た。
「君、プロかい?さっきの滑り、良かったよ。」
「あ、ありがとうございます・・」
青年は、じっと切れ長の翠の瞳で火月を見た。
「あ、あの・・」
『僕なら君を幸せに出来るよ・・あの男よりも、ずっとね。』
「え?」
「あなたに会えて、嬉しかったよ。」
男はそう言って火月の頬にキスすると、スケートリンクから去っていった。
『坊ちゃま、“彼女”には会えましたか?』
『あぁ。彼女は運命の人だ、相手が誰であれ、必ず手に入れる。』
そう言った男―フランシスは、口元を歪めて笑った。
(今日も疲れたな・・)
有匡がそう思いながら中学校から出て帰路に着く途中で、彼は一人の少年が道端に倒れている事に気づいた。
「おい、大丈夫か?」
「主・・様・・」
少年はじっと有匡を紅の瞳で見つめると、彼の腕の中で気絶した。
「おいっ、しっかりしろ!」

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