沖縄自治研究会

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沖縄自治基本条例 質疑



 先ほど、宗前先生から住民の行政参加について説明がありましたが、住民意思を行政がどう尊重するのか、制度的に保障する具体策の有無についての質問です。住民投票結果を尊重しない行政行為を我我は見聞して来ました。
たとえ選挙で当選した市長や議員であっても住民投票の実施を拒否したり、結果をないがしろに出来ないような制度的な仕組みが日本の自治の枠内でつくれるのかという質問です。

 例えば、上位法には拘束されずに市町村条例で住民投票尊重義務を課す、などの可能性です。


○司会(前津榮健氏)  宗前先生、お願いできますか。


○宗前清貞氏  先に答えやすいほうからご説明申し上げますと、オンブツマンはもともとスウェーデンでできあがった制度でして、行政によって人権が侵害されていないかどうかを専門に雇われている独立系の公務員がチェックする制度のようです。

 現在、日本で活動しているオンブツマンは、一部の(川崎市など)ケースを除くと、ほとんどがNPO/NGOというか、市民団体で弁護士を中心にした人たちです。オンブツマン制度が目指しているものは、基本的には行政が、例えば食糧費という名前で変なことに使っていたり、自分の飲み食いに使っていたりしているかもしれないことを監査することで、違法、あるいは「非法」という言葉があるかどうかは別として、制度の趣旨から見て望ましくない状態を摘発することに置かれているわけです。

 それはしかし一種の捜査というか、いけないことをやめさせるという制度ですね。例えばマジメに(適法に)作ったけれどもムダなものを作ってしまったということがあり得るわけです。別にポケットにお金も入れていないし、土建屋さんからワイロももらっていないけれども、事前の調査をきちんとしなかった、あるいは住民のニーズをきちんと把握せず思い込みだけでつくってしまったがゆえに誰も利用していないハコモノ、というのはしばしばあるわけです。オンブツマン的に違法な行動を摘発するだけで政策の中身が自動的によくなるわけではないということが、私はあると思っています。それがオンブツマン制度の限界というか、限界というと悪く言っているようですけれども、オンブツマン制度というのはもともとそういうものだということですね。

 そこで今度は第一の疑問に答えていきますが、住民参加の具体的な制度としてはいろいろあると思います。結論から申し上げますと、住民参加というものを、例えば住民投票云々というような大きい話ではなくて、日ごろの活動の中で徹底して議論をしていくことで、積み上げた議論というのはやっぱりひっくり返したときには、相当大きな政治的ツケを払わないといけないわけですね。

 さんざん話し合ったのに、突然市長が心を変えて全然違う結論を出したというときには、普通は大問題になりますので、徹底的に説明せざるを得ない。それも無視したら、これはもう条例では止められませんけれども、普通は「何なんだ、あの人は」ということになりますので、いわば、積み上げていくこと自体に対して、結論をある程度尊重するという義務が生じてくるわけです。

 具体的にはどういう制度があるかというと、行政の内部につくってもいいし、議会の附属機関としてつくってもいいけれども、予算を検討する委員会であったり、個別の政策の効果がうまくいっているかどうかという評価委員会をつくってみたり、あるいは予算査定を住民にさせてしまっているケース、ここでは志木市の例を挙げておきましたけれども、志木は市民委員会というのをつくって市役所の部及び課に対応する形で委員会が置かれています。その人たちが予算査定をするのです。これは面白い試みですよね。

 4月に志木市の穂坂市長が沖電ホールにおいでになりましたけれども、彼は自分がやりたいといってホタルの里づくりというのを提案したところ、市民委員会に否定されてすごすごと引っ込んだ。市長の提案ですらひっくり返してしまうという、これはほぼ最先端のケースだと思いますけれども、あるいはそこまでいかなくても、審議会というのを偉い人たちの集まりにするのではなくて、ごく普通の市民が出てきて、「いや、何言っているかわからないよ」ということを行政の側に言い続けることによって、わかりやすい行政にしていく。単に言葉をやわらかくするだけではなくて、「こういうステップによってその政策目標を達成していきます」ということが分かるようにしてくれと言い続けることに、おそらく住民参加というのは意味があります。そういう制度を設けなさいというふうに条例に書くというところが目標になっているわけですね。

 それでも守らなければ、それをする意思がなければ、残念ながらそこの自治体の「自治力」というのは、それ以上向上しないというふうになってしまう。私は一応そんなことを考えています。


○司会(前津榮健氏)  ほかに……。


○徳田博人氏  私が考えている住民参加として、わかりやすい例を挙げますと、パブリックコメント制度があります。皆さんもご存じのように、法律が制定に至るまでには、衆議院、参議院、で過半数の合意の下に通過しなければならない。しかも、国会が開かれているときです。非常に時間がかかるわけです。これは、すでに法律が制定されていて、その法律のある一部分が、世の中の事情に合わなくなって、ほんの一部だけ改正しようとしても同じような手続を経なければなりません。

 それを回避するために、法律は、各省庁大臣などに細かな点はゆだねるという仕組み、つまり委任立法を認めるのです。そうすると大臣の意思だけで迅速に国会に法律改正を申請しなくても、ころころ変えることができるわけです。つまり、実質的に大臣が法律の中身をつくってしまっているということを意味しているわけです。

 さらに、こういう事件もありました。通達というものを変えるだけで、今まで課税されていなかったのに、突如として翌年から課税処分されると。こんなこと、知らせも何もない段階で、生活のパターンがぱっと変わることがあったわけです。そういう場合に、事後的には訴訟になるわけですけども、国民にとって不利益な事態が、予測のつかない事態が起こらないように、事前に大臣が規則を変えたりする場合に、国民に行政によって規則を変えますけれども、どう思いますかという形で意見を聞いたりするわけです。このような一連の手続をパブリックコメントと呼んでいます。

 パブリックコメント制度は、規制を改正する根拠となる資料はこれこれですよと、この資料について疑問があったら意見を言ってくださいというような形で、進められています。従って、行政の持っている政策を変更する際の根拠となる資料の開示、それに対して正当性があるかどうか意見を言ってもらう。そのことによって、行政の政策の変更を住民がコントロールするものです。情報公開条例が過去の情報の共有であれば、パブリックコメントというのは、現在、行政が持っている情報を住民と共有するということ、そのことを通して政治や行政のあり方を変革していこうという、そういう制度だと理解しております。


○司会(前津榮健氏)  ほかにご質問等ないでしょうか。


○フロア(赤嶺氏)  豊見城市で職員をしております赤嶺といいます。はじめまして。
 宗前先生のお話の中で、2.1で、豊見城市を事例にお話しされていただけましたが、その中で割当制、クォータというのが出てくるんですけれども、それを国内で実践しているようなところがあるのかということと、もう1つ、そういった自治体がやっていく中で、議会との関係だとか、政策の正当性だとかは、そういった関係でちょっと詳しく補足などいただければなと思っています。よろしくお願いします。


○宗前清貞氏  ご質問ありがとうございます。
 ちなみに別に豊見城が云々と言ったわけではなくて、全国によくあるベッドタウンの中で起きる話を、固有名詞を借りて説明したということです。私自身は埼玉県の所沢というところで生まれていまして、所沢というのは古い商業町ですが、団地ができて急速に大きくなった町ですので、私のような新住民の子供と、それから学区が違いますので直接会ったことはありませんが古くからお煎餅を作っていたり呉服を扱っていたりするお店の人たちというのは、全然合わないんですよね。

 団地がいっぱいあって住民のほとんどがそうであるにもかかわらず、例えば市議会議員の顔ぶれを見てみると、全員旧市街から選出されているとか、そんなような感じのことが起こっていました。

 クォータは直接実行しているところは多分ないと思いますけれども、県レベルですと、沖縄も含めて大体今どこの県、政令市も必ず女性を入れようという配慮はしていますよね。これがクォータの考え方だと思います。今のところ性別のクォータらしきものだけがあるのですが、ほかには例えば住民公募制を導入しているところが幾つかあります。広報で審議会の公募制をすると手を挙げてくださいという形でやると。志木市の市民委員会は、全員公募でした。当初、120名ぐらいというのを市長が怒って、来たいというのはどんどん来ていただけばいいと言って、全員取ってしまった。やはり一年経つと来ない人がいるので落ちつくべきところに落ちついていたようだという話があります。

 例えば、先ほどのケースはわかりやすいと思って申し上げたんですけれども、旧住民の場合だと自営業者が多いですよね。そうすると、平日の日中に審議会をやっても別に困らない。ところが、サラリーマンも入れる、あるいは専業主婦も入れるということになると、土・日にやるとか、平日の夜にやるというような仕組みが必要になってくるわけですね。だから、何もわざわざサラリーマンの人を必ず一人は入れようと割り当てればいいのではなくて、そういう人たちが興味さえあれば参加できる環境を整えることが大事だと思うんですね。

 私は議会についても言えると思いますよ。定例会制度というのは、もともとは勝手気ままに議会を開かなかったりしないようにという趣旨で設けられているわけであって、必ず年に4回、1カ月間やりなさいということではなくて、別に毎週水曜日の夜やるということでもいいと思う。現にアメリカの議会はそうですから、いわば何時からやるなんて、細かいこと一つ取っても、実はそれは配慮のあらわれだったりすると私は思っています。クォータというか、必ずこの地区から一人という感じのギチギチのものを考えているわけではないんですけれども、せめて一人は新住民を選んでおこうかなというぐらいの緩いクォータでしょうかね。それが私のイメージしているクォータ制の運用です。あともう一つ何かありましたか。


○フロア(赤嶺氏)  議会との関係です。


○宗前清貞氏  ああ、はい。

 議会との関係ですが、政策評価委員会が一番議会と揉めるタネになるはずだと私は理論的に考えていたのですが、現実には文句を言うところがほとんどなくて、あまり問題にはならないみたいですね。

 ただ、議会の側が評価制度によって行政は自分たちを素通しするつもりなのかという恐怖心は持っているようです。それだったら自分たちで頑張ればいいのにという気持ちはありますがそんなことを言っても仕方がない。また議会はいつも悪口を言われますので、ここはひとつ議会の擁護者になって発言してみようかと思うんですけれども、場合によっては議会の附属機関にするというほうがいい委員会というものもあると思うのです。私は実は、行政評価委員会、政策評価委員会、情報公開関係の委員会というのは議会のほうにつけたらどうかと思っています。

 それによって議会全体が行政に対抗するパワー、対抗というのは別に対立するという意味ではなくて、きちんと向き合うという力をつけていくと思うし、4年に1回の選挙で全部全権委任しましたというのは、やはり無理がありますよね、今の世の中。だからそうではなくて、もちろん議員は行政マンとは別のルートで住民の意見を日ごろから聞いているけれども、それをさらに補うようなものとして、委員会制度を議会が活用すればいいのにと思ったりはします。そうすることによって、不毛な対立を避けることができるのかなと思っています。

 それから、個別の行政についてご意見を伺いたいというようなパブリックインボルブメントのような制度であれば、それは行政のほうにつければいいし、いずれにしてもそれはやり方なんじゃないでしょうかね。よろしいでしょうか。


○司会(前津榮健氏)  議会に附属機関が置けないということが以前あって、例えば情報公開審査会を議会に置けないということで考えていたのですが、最近、独自で置いているようなところも出てきているようです。
 ただ、先ほどの評価委員会ですか、それも含めてやっているところがあるのか、私はちょっと知りませんが、宗前さん、ありますか。


○宗前清貞氏   評価委員会はまだないみたいですね。ただクリアする道は幾つかあると思います。議会事務局のほうに一種のご意見を伺うというような形で置いてしまうとか、あくまで評価委員会の責任主体は議会だけれども、という形でクリアしてもいいと思います。


○司会(前津榮健氏)  ただ、今の問題で、例えば情報公開条例をつくる際に、議会が実施機関に入っていないところも県内であるわけです。それが審査会からチェックを受けるのが嫌だということが理由になっているわけです。ですから、それ以前の問題が実はまだ県内にはあるということだけは指摘しておきたいと思います。

 先ほど、徳田さんの報告の最後のあたりで、沖縄の歴史的経験というところで、比屋根先生の名前が出ましたけれども、この問題は多分、全部のグループにかかわる問題だと思うんですね。会場に比屋根先生がお見えですので、せっかくの機会ですから、先生、一言お願いしたいんですが。


○フロア(比屋根氏)  もうちょっと後で発言させていただきたいなと思って聞いておりました。というのは、きょうは実務の関係者がたくさん来ておられますから、私などの話はあまりしないほうがいいかなと思って隅っこで聞いていようと思ったら、いきなり名前が出て指名されたりしたわけです。お二人の話はとても興味深く伺いました。宗前さんは自治体の政策決定をいかに透明にしいかに参加を求めていくかというような議論で、それを裏づけるような議論が徳田さんの議論であったと思うんですけれども、歴史の話は後ほどまた発言する機会もあると思うので申し上げませんが、一点だけ、この基本条例の目玉とも言うべき徳田先生が出されている、この自治体条例の中における新たな機関の設置というのがありますね。

 これは先ほどのご説明にはなかったと思うので、多分、現行の自治法の観念をぎりぎりのところまで拡大していって、こうした機構なり、機関なりというものをお考えになったと思われるんですが、この点についてお二人のご意見をちょっとお伺いすれば、皆さんもちょっとこのへん興味のあるところではないかと思うので、ちょっと伺いたいと思います。


○司会(前津榮健氏)  徳田さんのほうからお願いします。


○徳田博人氏  どうもありがとうございます。というのは、ずっとこの素案を考えていたときに、よく一生懸命考えた点であったにもかかわらず、報告をし忘れたということで少し後悔していたところをフォローしていただいて、ほっとしているんですけれども、こういうことです。

 先ほどお話ししたように、自治基本条例というものは、基本的に自治体のさまざまな条例とか、あるいは実務家が法令を解釈する際に、指針となる条例をつくりたいと思っているわけです。そうすると、指針となる条例をつくる場合に、ある意味でいうと、ワンランクほかの条例より上だよということを確保しておかなければ、そこのほうに収れんしないわけです。法律の解釈が日本国憲法に収れんするのは、普通の法律とは違って、最高法規性というのがあって、改正が法律と比べて難しいとか、制定するときの経緯とか、いろいろあったわけです。

 そういうことを考えたときに、自治基本条例を実効的にするための機関というのはどうしたほうがいいのかと考えたわけです。2点ありました。

 1つは、議会の条例制定、あるいは改廃を過半数ではなくて、少しそれよりも上積みしたいと、そのことによって正当性を確保できるような工夫ができたらと考えました。もう1つは、フランスの憲法裁判所のように、何か問題が起きた条項とか、何かルールができそうなときに、これは憲法に反しているということを事前にアドバイスしたりできるんですね。

 それと同じように、自治基本条例を非常に充実するような形で、ある法令について詳しい専門家がいて、そこに何か問題が起きたときに投げ掛けて、自治に関する制度や条例を法的な観点からオーソライズするような、そういう機関を設置する必要はないのかを考えました。実はその点について玉野井草案の中にもありまして、他の都道府県にはない工夫がされています。それでG1でもこの点について、ひとつ工夫をしたいなと思ったということであります。


○司会(前津榮健氏)  今の玉野井先生の草案はお手元にあります、資料の第17条です。それが基本で、参考になったということですね。それをより強化できないかということで、私たちのグループは議論いたしました。

 ちょっと読み上げますと、この憲章を保障するために、審査委員会を置く。審査委員会は一切の条例、規則または自治体の行為がこの憲章に適合するか否かを点検、審査し、全住民にその結果を公表する権限を有すると。審査委員会の組織及び運営に関する事項は別に定めると、こういう規定がありますが、それをより強くできないかということで、議論したところです。
 はい、徳田さん、どうぞ。


○徳田博人氏 地方自治法が改正されて、国と自治体は法令をめぐって裁判を起こすことができるようになっています。そうすると、国との関係でいろいろ沖縄県の意向を反映させるためには、法律を通して意見を言える機会ができたということで、法律の専門家を実は養成することで、我々自治体の声を中央にちゃんと反映できる、そういうことを念頭に置いて玉野井草案のいう審査委員会類似の機関を置いたらどうかという意図でありました。


○司会(前津榮健氏) 時間がきたようですけれども、私たちいろいろ議論していると、情報公開の話、参加の話が何度も出てきました。確かに情報公開条例もいろいろ整備が進んでおりますけれども、実際のところその利用のされ方という点からいくと、若干問題も出てきております。せっかく条例があっても、また請求が全くないというところもあります。それから、住民参加と言っても、合併協議会などの住民説明会に行くと、その説明要員のほうが多くて参加者が少ないという、またそのような現状などもあるわけです。

 ですから私たちは、先ほど公的問題を解決する能力を持った市民という話が出てきましたが、そういった人間をどのようにして教育、学習していくかというところも、これから大きな課題になってくることを痛感しております。それから、地方自治法の範囲内でということで議論したのですが、実は地方自治法もいろいろ分権時代だと言っても、なお先日の新聞報道でもご承知の方はいらっしゃるかと思いますが、議会の招集権についても未だに法律で縛っているという現状があるわけです。

 したがって、条例づくりをする中で、やはり疑問がある場合には、その地方自治法自体の改正を求めていかないと、なかなか思い切った改革ができないんじゃないかなというふうに思っております。そういったのは、市町村、あるいは県議会あたりが一番よく知っているはずですから、そういったところからも、やはり問題を投げ掛けていく、そのような努力が必要じゃないかなと思います。

 私たちのグループは条文化まではいきませんでしたが、ある面では一番具体的な現実性のあるテーマだったんじゃないかなと思っております。不十分な点もありましたが、これでG1グループの報告を終えたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。


○総合司会(照屋勉)  ありがとうございました。
 ただいまのは、現行の地方自治法の枠内によります、沖縄県自治基本条例の前津、徳田、宗前、3名のご報告でございました。
 ここで10分間休憩を挟んで、2時半からの開始というふうにしたいと思います。本日は5時までには、この会場はどうしても終わらなければいけませんので、大変恐縮ではございますが、時間内にはまたお席についていただきますようよろしくお願いいたします。
(休 憩)


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