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沖縄自治研究会
憲法95条に基づく沖縄自治州基本法
○総合司会(照屋勉) そろそろ始めたいと思いますが、ロビーのほうにいらっしゃる方、お席にお着きいただきますようお願いいたします。
それでは、これより2グループの「憲法第95条に基づく沖縄自治州基本法」の報告をお願いいたします。仲地、高良、照屋、3名のご報告でございます。よろしくお願いいたします。
○司会(仲地博氏) 皆さん、こんにちは。G2、グループ2は私、仲地と、それから向こう側から高良、照屋の3名が担当いたしました。高良さんは憲法を主として研究しています。照屋さんが政治学の研究者、私が行政法を勉強しております。
グループ2に課された課題は、現在の憲法を前提とするけれども、地方自治法や地方財政法など、法律は度外視してよいので、憲法の下であり得る、考え得る新しい制度をどう提案するかということです。
憲法の枠組みーこれは動かせないことですが、まず、それを簡潔に整理しておきます。第一に、地方自治の本旨を大切にするということ。第2に連邦制は憲法は予定していないということ。第3に、自治体には議会が必ず置かれるということ。長と議員は住民が選挙をするということ。第4に、司法権については、裁判所ですね、裁判所については最高裁判所の下になければならないということ。こういうのが、憲法の枠組みであるわけです。
憲法が課した枠組みの中で、考え得る新しい自治の制度を提案してみようと、これまで先行する研究もいろいろあります。例えば、自治労が提案しました沖縄特別県制構想などでありますけれども、そういうものも参考にしながら、3名で話し合った内容をきょう提案するわけです。大変生煮えであります。しかし、生煮えの段階で多くの方に資料を提供し、議論をするというのは、これはこれで意味があるだろうということで、本日の中間発表ということになりました。
G2の案はお手元のレジュメ集の5ページから始まります。グループ1は憲法はもとより、法律も前提としての考え方、理念の提示がありましたけれども、G2は具体的法律の素案という形で提案をいたします。5ページから8ページまででありますけれども、まず5ページ、6ページの沖縄における自治の基本原則のところまでを照屋さんが報告し、後半部分を高良さんがご説明いたします。それでは、まず照屋さん、よろしくお願いいたします。
○照屋寛之氏 皆さん、こんにちは。ただいま司会の仲地先生のほうからご紹介に預かりました沖縄国際大学の照屋寛之でございます。
「自治」ということを考える場合に、この自治というのは、すばらしいものだと思いつつも、なかなか自治は根づかなかったのが、わが国の自治の現状であるのではないかというのが、いつも思うことなんですね。元秋田県知事の小畑勇二郎さんは知事を7期28年、その前に市の助役を2年間、通算30年間、地方自治行政の第一線の責任者としてやってこられたそうですが、知事を辞めた後、「日本には“地方行政”はあったが、“自治”はなかったのではないか」と、すなわち、県や市町村は熱心に行政を行ってきたが、地方自治の主人公である住民が「自治」すなわち「自ら治める」「自分たちの地域のことは自分たちで決める」という「自立」するという意識がまだまだ育っていないことを知事を辞めて初めて分かった、ということを述懐されたとのことである。私はこのことをある本で読んだとき、やっぱりそうなんだと思いました。私自身わが国は県、市町村を“自治体”と呼んでいるが、実態は「自ら治める」というよりも「中央官僚に言われるままに自ら治まっている」のではないか、自治体というよりも「官治体」のような気がする、というのが実感ですね。憲法の中で第8章に「地方自治」が規定されてからやがて60年近くになり、「還暦祝い」を迎えようとしているのであるが、その実態はまだ二十歳にもなっていない。「成人式を祝う」にはまだまだ時間がかかりそうである。自治の現実を考えると、我々は自治をこれから新たに、この21世紀の中でどう構築していくかと、非常に大きな課題があるわけなんですね。これを克服できない限りわが国の政治行政は一人前にはなれないのではないでしょうか。
そういう中で、この現実を踏まえながら、我々が憲法95条に基づく沖縄自治基本法というのを考えてみようということで、いろいろと勉強会を重ねてきたわけでありますが、先ほど司会の仲地先生のほうから、まだ生煮えの段階であるというお話がありましたけれども、私は前文と基本原則を担当したわけですけども、私の心境といたしましては、生煮えどころか、まだ鍋に材料を入れたところで、まだ火がついていないのかなというふうな心境でございますので、そこのところをお酌み取り願いたいと思いますが、そして中間報告ですから、これからどんどんたたいていって、少し形は整っていくということを期待しているわけであります。
私は前文を書いたわけなんですけれども、この中で私は、沖縄のそういう自治州基本法というのを考える場合、どうしても歴史的な背景を書かざるを得ないと思うわけです。それは若干暗い話しになるわけですが、避けて通るわけにはいかないでしょう。我々がこの置かれた歴史的な条件というのを、どうしても出発点の中で書いておきたいという思いで、これを書いたわけなんですね。
考えてみれば、我々は琉球王国として500年の歴史を持っていたわけですけれども、これが1879年に日本に、つまり、我々はウチナーンチュからヤマトゥンチュになったわけなんですね。ところが、この日本人になったのもつかの間、第二次世界大戦で悲惨な沖縄戦に駆り立てられたわけです。たった66年間、日本国の中にいた中で、多大な犠牲を強いられたわけです。戦争ということを考えたら、日本人にはならないでそのまま琉球王朝であれば、あの悲惨な戦争体験、犠牲もなしすんだのかなと思うわけです。
そして戦後は、米軍の統治下にどうして沖縄だけが置かれなければいけなかったのかなと。どうして鹿児島でなかったのかと、大分でなくて沖縄だったのかと。いろんなそういう思いがあるわけですよ、どうも沖縄というのは歴史的に我々はそういう面で、沖縄のことを沖縄で決めるということはできなかった。もっと簡単に言えば、絶えず差別されてきたわけですよ。ワジワジー(怒り心頭)するわけですよ。そして45年には米軍統治下に置かれ、72年までの27年間もアメリカの統治下に置かれた。72年には復帰したわけですが、その際、果たして沖縄の声は、本当に十分に届いたのかなと、復帰においても非常に複雑な思いの中で我々は復帰というのを迎えなければいけなかった。
そういういろんな歴史的なことを考えてみると、我々が沖縄自治州の基本法を書く際に、前文の中にどうしてもこれまでの歴史的な背景は入れておきたいと考えるわけですね。戦後の27年間の米軍統治下でいろんな人権の抑圧はあったし、日本本土との経済格差、或いは教育格差なども生じてきた。このようなことを考えるとき、「なぜ沖縄だけが・・・・」という思いを払拭することはできない。
そして復帰して、これがすべて解決できたかというと、基地は相変わらずほんど沖縄に配備されているし、そういう面でそれも解決されないままにあるし、この前の沖縄国際大学にヘリが落ちたときの状況、あるいはその処理の仕方を見ても、本当にこれでいいのかなと、沖縄はこれでいいのかなという思いを新たにせざるを得ないのが、今の状況なんですね。
復帰したというけども、47都道府県あるけども、本当に47都道府県の一都道府県として我々は扱われているのかなと。いろんなことを我々はこれから自治州の基本法を考えるときに、どうしても頭の中にいろんなことが浮かんでくるわけなんですね。そういうことも我々は頭の中に入れながら、この自治基本法というのを書いていかなければいけないだろうというふうな思いがいたすわけであります。
そういうふうにして考えてみた場合、私は1つだけ後で皆さんのご意見もお聞きしたいんですけれども、我々が今、置かれているこの状況の中で、果たして47都道府県のいろんな道州制とかの中で論ずることができるのかなというと、この27年間の米軍統治下に置かれていた間の、いわば格差是正というのはなかなかできない。じゃ、復帰後32年間で格差は是正できたかというと、これもできなかった。そういうときに、私はまずはそういうのを、格差を是正する1つの手段として、沖縄が1つの自治州となっていくためにも、基金というのをつくって、その基金を沖縄が自立していくための「沖縄自治・自立基金」を創設などの方策で解決しなければ、自立を目指すことは困難であろう。これは決して沖縄の甘えではない。前に言いましたように、沖縄だけが地上戦を強いられ、戦後はアメリカの統治下に置かれ、復帰後も巨大な米軍基地が県民の意思に反して配備されてきた。このような差別的戦後史の中で、自立への道は絶えず阻害されてきた。その責任は何はさておき国にある。ならばその償いとして国の責務ではないか。自立に向かうに当たってこのぐらいの要求はしたいものだ。
そして我々は、この沖縄が置かれた今までの歴史的な状況、米軍統治下に置かれた、悲惨な戦争体験をしたというのを、過去の単なる負の遺産としてとどめるのではなくて、今後の21世紀において、この沖縄から我々は平和を発信できるような何か政策を打ち出すことはできないのかなと、そういうふうな思いを込めながら書いたのが、この前文であります。ところが先ほど言いましたように、まだまだこれは未完成品でありまして、皆さんのいろんなご意見も聞きながら、また書き直していきたいなということであります。ひょっとしたら跡形もないぐらいに書き直されてしまうかもしれませんが、まあ、今日は中間報告でありますから、それでもいいと思います。
それから、1番目の沖縄における自治の基本原則ということを書いたわけなんですけれども、先ほど申しましたように、なかなか自治というのは育たないわけですね。わが国はこれまで憲法で地方自治については規定されているけれども、現実は中央集権システムの中で政治行政が行われているのが現実ではないかなと思うんですね。自治省という省庁が今まであったわけですね。今は総務省ですけれども、本当に自治省というのは自治を育てたのかなと思いますね。私はいつも政治学、行政学をやりながら、自治省は自治を育てたのかなと疑問を抱きます。「いや、ひょっとしたらこれは自治破壊省だったんじゃないかな」と、思わざるを得ない部分もよく出てくるわけなんですね。
だから、よく考えてみますと、47都道府県の中でおよそ25の都道府県の知事は、大体は中央官僚の出身なんですね。中央官僚が地方の自治体に知事として、あるいは副知事として天下っていきますね。そういうことを考えてみた場合、なかなか自治というのは、憲法上は規定しているけれども、我々はこれを使いこなしてこれなかったんじゃないかなという思いがどうしても強く残るわけなんですね。
ですから、じゃ、どうしてなのかと、我々はこれからそういう自治基本条例だとか、そういういろんな自治のことを考える場合に、もっともっと住民というのが主権者であるんだと意識をもつべきでしょうね。その意識がやはり弱いというのも我々が自治を考える場合のことに言えるじゃないかなと思うんですね。
ですから、そういう面で自治は与えられるものではない。自分たちでつくっていかなければいけないということを考える場合に、主権者として、国民主権における主権者であるし、地域においては地域主権の我々は主権者なんですけれども、その自覚を我々はどのようにして構築していくのかという中で、やはりこれは基本条例の中に、要するに我々はこれを書き込んでいったらどうなのかなと思うわけです。
つまり、今まであれもこれも行政任せにしてきたけれども、この行政の行われるプロセス、政策をつくって実行し、あるいは評価していくという中において、これに住民が参加するということも考えていくべきであろう。今はどっちかというと、住民は傍観的ですね。お任せ民主主義の中に安住してしまっているわけですから、どう主人公になっていくかということを考えていかなければいけないとわけですね。
そして、先ほど情報公開の話も出ましたけれども、「情報はなければ参加なし」であるんだということを考えますと、行政と住民がいかにしたら情報が共有できるか、我々はそのような政治行政をいかにしたらつくりあげていく事ができるのか。そのようなことも基本条例の中で考えていくべきでしょう。そのような行政を行っていくシステムの中でのすべてのシステムを、これをすべて情報公開していく事が、これからの自治の中では大切ではないでしょうか。
そして、行政側は住民に対してのいわゆるアカウンタビリティー、行政というのはわかりやすく説明する責任があると思います。行政は広報などを通していろんな説明をしますけれども、まだまだ不十分だということを自覚し、情報公開制度をもっともっと我々は構築していって、自治というのを確立していかなければいけないのではないかなというふうな思いを込めまして、この1番目の沖縄における自治の基本原則を書きました。本来ならば(1)から(6)まで一つ一つ説明すべきですが、時間がありませんので詳細な説明が割愛させていただきます。ご了承ください。最初の方でお断りしましたように、まだまだ鍋に入れたところで、火はまだついていないかもしれませんので、この辺もまた皆さんと一緒にご意見を拝聴しながら、まとめていきたいと思っています。以上、私のほうからの報告を終わらせていただきます。
○司会(仲地博氏) ありがとうございました。
それでは引き続き、残りの人権から8ページの沖縄州の統治機構まで、高良さんが説明いたします。では、お願いいたします。
○高良鉄美氏 高良でございます。いつも帽子をかぶっていて失礼というようなことがよくありますけれども、議会の傍聴規則では帽子をかぶっていると入れない。つえをついていても入れない。コートを着けていても入れない。マフラーをしていても入れない。傘を持っていても入れない。これは日本全国ほとんど同じです。議会が、こんな金太郎飴でいいんだろうか。ぜひ今日は議員の先生方がおられましたら、このへんの傍聴規則を改正して、住民参加ですから、どなたでも、どういう服装の方でも入るというような形で、満杯の傍聴席をつくられるといいんじゃないかなと思います。
そういう意味で、どなたにも開かれた議会にすべきです。議会というのは我々主権者が選挙をすることによってはじめて意味のあるところ、選挙をしたら代表者が行くところですから、いつでもオープンにしておく。主権者が、いろいろな政治的情報を得て、選挙をはじめとする参政権を行使するのであり、その政治的情報を「知る権利」は重要な主権者の権利であるから、簡単に制限してはいけない、つまりそのための帽子や服装、持ち物で制限をしないようにということが、私の帽子の出発点で、かぶりはじめたのは1994年の12月議会でした。今、2004年10月ですから、ほぼ10年ということですので、そろそろ傍聴規則改正のいろんな陳情や、請願をしてみようと思っております。
今お話をしました、知る権利、それから情報公開というのは、先ほどのG1のほうでもその話がありましたが、そういった住民の権利というものを、まず次に持ってくる必要があるじゃないかということで、先ほど照屋先生のほうから前文、それから基本原則のお話がありましたけれども、やっぱり人権がまず第一にこないといけないんじゃないかということで、その次の章は人権という形になりました。
まず考えなければいけないのは、憲法というのはどこまで自治を考えているんだろうということなんです。我々は、戦後になって日本国憲法の92条から95条という4つの条文で地方自治の基本原則というのをつくっております。それの中身は意外に広いんです。非常に大きな自治というのを憲法は想定しているだろうと思うんです。ところが、現実というのは、そういった自治の経験がなかった、あるいは抑えられていたという歴史の中で、憲法はかなり大きくいろんな融通のきく範囲があっても、どうも自分たちでやっている実際の自治体が、他はどうやっているかな、県はこうやっているからこうしようかな、わからないから県に聞いてみようかな、県は隣の県に聞いてみようかな、となっているのがほとんどだと思います。そうではなくて、憲法はそんなこと一言も書いていないわけです。みんな同じにしなさいとも当然書いていないわけですね。そういったことから出発すると、意外や意外、いろんなものが出てくる。これからそれを説明しようということです。
まず人権ですが、この人権というのは当然、憲法で保障しているわけです。我々の議論の中にも「いや、もう憲法で人権は保障しているんだから、人権は書かなくていいんじゃないか」という意見があったんです。ところがなぜ、あらためて人権を書くかと言いますと、今の人権というのは、事件が起こって裁判になって、裁判所で認めていくということによって保障されていく。そういう形態なんですね。ですから、プライバシーというのは、最初は認められていなかったわけです。しかし、もちろん憲法にはそのままの字の「プライバシー」という文言はありません。しかし、プライバシーが今、人権として当然の権利だという形になっているわけですね。これは裁判の発展の中で出てきた。そういう中で、「知る権利」という言葉も裁判所の中では出てきましたが、まだ十分な権利として認められているわけではない。
さらに「環境権」という言葉になりますと、沖縄でもいろんな爆音訴訟を含め、数々の環境の裁判が起きていますけれども、これも実はまだ認められていないんですね。そういった面で言いますと、憲法が書いていないから認めないというのは、それはおかしいんじゃないかということで、そんなに明記されていないのであれば、この新しい沖縄の法律の中に書いてしまおうと、これが大きな視点なんです。それを使うことによって、裁判上、さらに強い権利として確認ができるんじゃないかということですね。裁判の判決の発展に待つまでもなく、いろんな形で人権を強化していったら、そのきっかけになるんじゃないかというのが今回の人権の提案です。
そして、これは実は先ほど来、ちょっと話題になっています沖縄自治州論の、あるいは特別県政論の中でも、やっぱり人権についていろいろ出てきますが、当然、沖縄の歴史、文化、その他地理的な状況、いろんなバックグラウンドがありまして、やはり環境という問題と、それから平和という問題については、人権の部分でどうしても外せないものではないかということなんです。それは、従来からやっぱり言われてきたことでありますし、今回もそれをきちんと取り上げていこうというのが、人権の部分です。
人権に関する問題点は、やっぱり憲法で基本的人権を保障しているけれども、この人権に対する基本的な姿勢として、どうも人権というのは公共の利益があったら制限されて当たり前じゃないかという受け取り方、感覚にあるんですね。しかし、そうじゃないんです。公共の利益が人権を制約するのではなくて、ほかの人の人権が人権を制約するんですね。つまり、人権と人権が衝突しているから、たくさんの人の人権とある人の人権と比較をしながら、量的にではなくて、質的にどちらの人権を大切にしたらいいんだろうかというのが、人権の比較であって、これは公共の利益ですからねと、あなたの人権は制約されますという理論でいくと、何でも公共の利益になってしまう。特に最近は国益という言葉が出ていますけれども、それになると人権はひとたまりもないような感覚でありますが、いや、そうではない。人権というのは、それ以上の価値を十分持っているんだということを確認しているわけです。それが第1番目ですね。
それから、第2番目、抵抗権のことを書いていますが、何か抵抗権というのは、やはり私たちのG2でも議論がありまして、抵抗権と出ると何か革命のような、ちょっと流血のような、穏やかでない権利じゃないかという意見も挙がりました。けれども、実はこれは世界の憲法の中では当然の権利なんですね。抵抗権というのは、必ずしもそういうふうな武力闘争、あるいは革命のような形でやる抵抗権だけを指すのではなくて、やはり先ほどありましたように、自分たちの生活の中での重要な権利が侵害されたときには、当然、それに対して異議を唱えて、何らかの措置を要求する、我々は抵抗する権利があるんじゃないかと、そういうことなんです。
そういうことが大元であるということを考えて、そこにはこういった抵抗権の規定を置いてあるわけです。憲法の教科書なんかを見ますと、抵抗権は日本国憲法には書いてはいないけれども、少なくとも現代国家の憲法という部類に入っているのであれば、世界共通の形として抵抗権は入っているということなんですね。そして、それが1つの自治というものとものすごく密接に結びついていると言えると思います。先ほど照屋先生から沖縄の歴史の話がありましたが、そのような基本的姿勢はまさにそういう組み込みの中で、抵抗権が封じ込められてきたといったところにも起因するのではないかと思います。
また、平和的生存権についてですが、憲法の前文の平和的生存権をこちらの案ではちゃんと書こうということですね。今、沖縄自治基本法案という形で自治州の案を出そうと提示しているわけですが、これはまだ条文という形ではなくて、大きな原則を決めているところなんです。そういう意味で仲地先生は「生煮え」という状況を話されたと思うんですけれども、ただ、この自治基本法案の位置づけというのは法律ということになります。法律ですから、ほかの法律、基本法と同じになります。基本法というのには、たとえば、今言いました地方自治法があります。地方自治法は全国適用されます。この地方自治法の中で全国と同じような枠組みの状況下で、どれだけ独自性を出すかというのがG1グループでした。
G2の場合には、憲法の枠内ですから、憲法の枠内で沖縄だけに適用される法律をつくろうと、そういうことになりまして、地方自治法から飛び出たわけです。全国的には地方自治法が適用されるけれども、沖縄には他の地域に適用される地方自治法は適用されないで、この特別な法律が適用される。そういうようなことを基本に置くわけです。もちろん、全国的な同じ法律を排除するわけではないんですけれども、特別な分はこちらでキープをすると、そういう形です。人権については、こういう形で憲法の基本原則である抵抗権、平和的生存権、それから、制度的な保障を加えて戦争を目的とする人的組織、物的組織を認めないと、こういうことです。
それから環境と、知る権利、そして最後に沖縄の独自の文化を享有する権利という形で、これはまた憲法には書かれておりませんが、憲法のいろんな原則から言うと、その地域の自治、あるいはそういった独自性というものを生かす趣旨だろうということから、沖縄の住民は文化的独自性を保つための文化享有権を持っていると、こういうことを明確に打ち出すということです。
それから、人権は以上ですが、沖縄自治州というのを特別につくるということになりますと、ほかの地域とは違って、国との関係ということでいろんな問題というのが起きてきます。その起きてくる前の基本的な構造ということで、国とどういう関係に立つのかということがあるわけです。そして、これは国のものですよと憲法が明確に示している権限は国しかできませんから、しようがないとして、これは国しかできませんとは言っていないものは、沖縄でもできるという発想でいかなければいけないだろうということです。
実際に、裁判でもこういう表現があります。例えば、1995年の2月28日に最高裁が判決を出したもので、在日外国人の地方選挙権に関する事件でしたけれども、在日韓国籍を持っている方で、我々は国の選挙権はどうかはわからないけれども、自治体に住んでいて、その地方の住民なんだから、その地方の議会議員や首長を選ぶという選挙権ぐらいはあるんじゃないかということで、投票の選挙人名簿に記載されておらず、選挙をすることができないのはおかしいんじゃないかということで、裁判を起こしたわけです。
これは要するに、最高裁判所は、国政選挙にはいろんな検討すべき問題があるけれども、地方選挙では住民の生活がより身近に政治と結びついており、そういう視点から、法律で地方の外国人、外国籍を有する者に対して、地方の選挙権を付与することは、憲法上禁止されているものではないという判決を出したわけです。ところが、結論では外国人の地方選挙権が認められたかというと、認められないんです。それはまだ法律がないからです。だから、法律をつくれば、できると言っているわけです。
こういう考え方を基本として、やっぱり憲法が、地方が絶対にやったらだめと言っていないもの以外はできるんだという根本的・原則的なものは、国との関係で確認されなければならないということです。
ですから、沖縄は沖縄独自の、もちろん沖縄にしか適用されませんが、法律をつくる権利がある。それから行政を行う権利がある。それから裁判、先ほどちょっと司法権の話が出ましたが、自治司法権を持つということです。この自治司法権という言葉は全く新しい言葉なんですが、これを憲法が禁止しているかどうかということについては、まず禁止だろう、あるいは憲法では言っていないんじゃないか、与えられていないんじゃないかという感覚なんですね。
G2のほうでもやっぱりちょっと難しいんじゃないかという議論もありました。しかし、確かに最高裁判所と対抗するような裁判所をつくったら、憲法上これはおかしいことになりますけれども、最高裁判所の下に沖縄の裁判所を置くんだと少し変わってくるだろうと思います。どこにそんな憲法の規定、根拠を置きますかと言いますと、憲法の94条に地方公共団体が何ができるかについて書いています。
このできるのかという中に、行政を執行つまり、地方の行政を行うというのがあります。それから財産を管理するというのがあります。これもできるんですね、憲法上です。
そして、法律の範囲内で条例を制定することができると。ですから法律の範囲内で条例を制定するわけです。G1グループで政令も含んだ法令の範囲内という話が出ましたが、そうものではなくて、条例は法律という一番高いレベルの範囲との関係を問題にすべきだということなんです。憲法94条の残ったもう1つの地方公共団体の権限に事務を処理するというのがあるんです。この「事務を処理」というのが何かと言ったときに、いや、地方公共団体の処理するものとして、司法的なものだってあるんじゃないかと、そういう解釈のもとで憲法が禁止していなければ、もちろんこれは限定的なものですが、限定された自治司法権を持つんじゃないかと、こういうことですね。
それから、沖縄の独自の問題として、自治外交権というのがあります。これは全国の自治体にも一般的に認めてもいいとは思うんですけれども、ただ、沖縄の場合に非常に関連するのが、自分たちが思っているのと全然違うことが日本の外交で行われているということなんです。なぜ沖縄の人たち、そこの地域に住んでいる人の意思が全く届かないような外交ができるのかということですね。そこはやっぱり違うんじゃないかということで、現在では姉妹都市とか、いろんな形で自治体の外交というのがあります。その部分も、もう少し姉妹都市の範囲を越えて、それだけではなくて、もうちょっと外交という範囲の中に組み込まれるような、自治体としての自治州外交を行う。これは、実はアメリカの州が外国と特別に条約を結ぶことが可能なわけですから、そこらへんのノウハウを取り込む必要があるかもしれません。
それから今、国際法の中でも自治体の存在というのがクローズアップされていて、自治体でも外交は可能であるというような形で、自治体を国際法の主体の1つとして認めていくということがあるわけですね。そういう意味合いで、もっと外交の権限も特別自治州は持っていいんじゃないかということです。
そのほか、州条例ですね。これは憲法にそう書いてあるので、一応「条例」という表現をしようということですが、実際の呼び名は「自治法」といってもいいと思います。そして少なくとも各種国家行政機関の命令よりは優位する位置づけにする。そして、沖縄自治州の自治を尊重する。それから、もし紛争があった場合には、国が言うことが正しいのではなくて、やっぱり調整する機関として裁判所、つまり司法権において解決を図らないといけないんじゃないかということが基本になるわけです。
それから財政というのが実は、沖縄の自立の問題と非常に大きな関係がありますけれども、この財政にも特別な制度を設けようという形で、少なくとも沖縄自治州に提供される公共的なサービスの財源というのは、平等になされなければならないのではないかと、こういうのが1つあります。
それから、もう1点は、沖縄の中で財源というものを自由な形で処理することができるように、先ほどもありましたが、自分たちがベストと思うもの、自分たちが必要なものと思うものに、必要な金をかけるということですね。
それから、いろんな形で国との関係にもかかわりますが、今沖縄の財政というのは、非常に国の財政政策に左右されています。その政策的影響力をなるべく外そうということで、沖縄のほうでその点にいろんな調整をするために、中央省庁との連絡をするということです。ただし、これは沖縄が助言を国に求めて、こういう場合はということではじめて国が助言を行うことができるということになります。
それから、課税ということで、これは沖縄の今の米軍基地との兼ね合いではいつも新聞紙上でも出てきますけれども、車庫証明、自動車税、あるいは自動車道の料金がどうのこうのと、こういうことも含めまして、米軍基地内についても沖縄の住民と同等に課税をする。米こういう形で補助金としてもらうのではなくて、普通の住民と同じような、沖縄に住んでいる者として税金をいただくという形で財源にするということですね。
それから、自治州と市町村の関係ですけれども、これはもう沖縄の自治州の中に市町村は置きますので、これもまた同じような意味合いで、きっちりと市町村の自治を保障していくという形を中心にしております。したがって自治州と市町村の間の紛争については、その解決のために知事から独立した機関として紛争調停委員会を置くということです。
また、市町村ではやはり自治がそれぞれ市町村ごとに独自性を発揮するように、政策機能を行うために、共同して独立の自治研究機関を設置するとしています。これはわからないことがあれば県に聞こうではなくて、自分たち、市町村の集まりでつくった機関にいろんな助言を仰ごうということですね。
議会についてですが、これはまた憲法の範囲内とはかなり大きいと最初に申しましたけれども、「議会」というのは憲法では議会としか書いていないんですね。何をするかは書いていないんです。そこで、議会は確かに置くわけです。しかし、議会と長との関係は、地方自治法でいろいろ書かれていますけれども、そういう既成のものという考え方は抜きにして、議会にすごい責任を持たせるということです。長を中心ではなくて、議会につまり予算の編成、それから法案の提出も議会だけにするということですね。議会の議員が立法者ということをきちんと明確にすると。したがって、行政は知事が行政を行うということになります。アメリカ型三権分立ですね。
次にその「議会」というのは地方議会ということで、どこでも沖縄県議会、鹿児島県議会、熊本県議会、大分県議会と、こう言っているわけです。議会と言っているから、もう議会と言わなければいけないということはないだろう。沖縄では、しかも2つつくってはいけないとは言っていないだろうということですね。ですから、上院と下院に分ける。市町村各離島も、やはりいろんな離島の声もありますから、それが人口だけでは反映しないということで、市町村の代表、つまりこれが長ですが、乗員は市町村長がそのまま議員になるわけです。これは各市町村の声を反映するということです。そのかわり、議員としての給料は要らず、市町村長としての給料でいいという形になるわけです。そして、下院はまさに住民から平等に直接の選挙ということですので、人口比例を明確にするということです。
そして、議会は通年制で休みがないかわり、みんなが来れるように土曜日に開くのを原則とする。いろんな形で住民が参加できるように配慮をすることが原則です。
最後ですが、多くの方から疑問を含めていろんな議論がありました自治州裁判所について説明します。この自治州裁判所にどういう機能を持たせるかということで、沖縄自治州の中の条例というものを、先ほど基本条例という話がありましたが、ああいうふうにほかの地域と違った、沖縄の中だけで適用される条例に関する法的問題が争われる事件については、少なくとも沖縄の裁判所で、それは沖縄がつくった条例ですから、沖縄の裁判所でやるのが一番いいだろうということです。
例えば、沖縄独自のハブ条例というのがありますが、ハブって何ですかという質問を裁判所で裁判官が聞いたらちょっと困りますけれども、やっぱりそこの地域で実際に適用される環境で住みながら一番わかっている沖縄自治州の機関が問題解決を行うということなんです。さらに現在、裁判員制度ということがあって、2009年から一般市民も裁判官になるわけです。そういう点を考えると、本当に条例解釈の専門の方が、沖縄の中で裁判に携わるという合理性と必要性はむしろ十分あるんじゃないかと思います。
先ほどから生煮えというお話がありましたけれども、ようやく皆さんがこの発表を聞いて、このG2は今から点火しようというところですので、ぜひこれから大きな議論を含めて質疑応答できたらと思います。ありがとうございました。
○司会(仲地博氏) ご苦労さまでした。どうもありがとうございました。
グループ2の考えましたこの法案の名称は4ページに出ておりますけれども、「憲法第95条に基づく沖縄自治州基本法」です。国会で制定する法律を前提にしております。当初、私どもも沖縄県議会がつくる条例というのも考えておりました。しかし、沖縄県議会がつくる条例では、限界があるということにすぐ思い至りました。つまり、県議会がつくる条例で内容を決めようといたしますと、あちこちで国の法律の壁とぶつかるわけです。G2に課された課題というのは、法律のことは考えてないでいい、憲法だけを前提にしてということでしたのに、地方議会がつくる条例は法律を越えることはできない、法律に反することはできない、条例は法律の範囲内いう前提があるので、条例では課題に応えられないことに気がつきまして、それでは国と沖縄県の間を規律する法律をつくろうということになりました。国会がつくる法律で、県と国の関係を新しくつくり出す、そういう法案をつくろうということになったわけです。
そのときに、法律をつくるとなると、法律というのは基本的には全国一律に適用されます。北海道から沖縄まで、一律に適用されます。沖縄だけに適用される法律をどうつくるかということで、憲法第95条を利用することにしました。、「一の地方公共団体に適用される法律」があるということが憲法に明記されております。この憲法95条の予定する地方公共団体特別法という法律を使って、新しい沖縄県の構想を定義してみたいということになったわけです。
すると、国が法律をつくって新しい国と沖縄県の関係をつくるとなると、もうこれは県と言う必要はないんじゃないか。他の都道府県とは違う沖縄州という名称で国、州関係を規定したらイメージがわかりやすくなるだろうというので、この表題になりました「憲法第95条に基づく沖縄自治州基本法」という表題になった理由であります。
しかし、今、照屋、高良の報告を聞きながら内容を見てみますと、最初の段階の沖縄県の基本条例という発想のときの残滓、残りものがまだ残っていまして、ちょっと法律としてはおかしいなというところもございます。今後、そういうところは修正がなされていくということです。
さて、照屋、高良、両先生の報告がありましたけれども、目新しい内容も幾つかあります。例えば、文化享有権という権利、6ページの一番下の(6)でありますけれども、沖縄住民は文化享有権があるという規定、あるいは同じく6ページの人権の(2)の基本的人権の侵害に対する抵抗権、あるいは自治体が司法権を有するという、一番最後の8ページの、一番最後の(4)、あるいは7ページの国との関係の(2)の、州条例は各種命令より優位するという条項、各種命令というのは、政令や省令を意味いたします。通常は、県議会がつくる条例は政令や省令の下位にあるとされますけれども、沖縄州の条例は政令や省令よりも効力が強いというふうな規定。あるいは、市町村のところで言いますと、市町村の統治機構は自由に選択することができるという点も目新しい考え方です。憲法の範囲内という条件がついておりますけれども、市町村は統治の仕組みを自分で選択することができるとなっています。8ページの6の(2)です。あるいは、県議会を二院制にするというようなところ等、先例がないわけではありませんけれども、新しい提案と受けとめていいだろうと思います。
さて、フロアの皆さんのからのご質問、ご意見を受けたいと思います。
どうぞ。今、マイクがいきます。
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