沖縄自治研究会

沖縄自治研究会

第5回インタビュー 上


日時:2003年11月25日午後2時から午後4時(2時間)
ところ:第12森ビル 下河辺研究室
インタビュー対象者:下河辺淳
インタビュアー:江上能義、眞板恵夫
記録者:眞板恵夫
※、発言者の敬称


●亜熱帯総合研究所と大学院大学

江上:今日の「沖縄タイムス」に出てたんですけども、沖縄県の財団法人である亜熱帯総合研究所が、11月21日に沖縄科学技術大学院大学の先行的研究事業に有償貸与する研究棟の建設を決めたそうです。

下河辺:あ、そうですか。

江上:だから、先生が再三、言及されてきた亜熱帯総合研究所も、この大学院大学構想の実現に向けて関与し始めたようですね。

下河辺:入っちゃうんですね。

江上:お手伝いしようという形になってきたみたいですね。

下河辺:ああ、そうですか。

江上:それで、建設資金3億1300万円ぐらいを上限にして大学院大学の建物をつくるみたいですね。

下河辺:ああ、そうですか。

江上:それを大学院大学のほうに有償貸与する、要するに先行投資するんですね。

下河辺:あ、そうですね。はい。

江上:そういう話が地元紙に出ていました。
 それではまた、お話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

下河辺:はい。


●国際都市構想と三次振計の相関関係

江上:前回も先生の「下河辺メモ」と言われるものを中心にお聞きしたんですけども、沖縄問題を解決するために、国際都市構想の下にさまざまな施策を講じられています。それらは、進行中の三次振計とはぜんぜん別枠だったんですか。

下河辺:別枠ってどういう意味?

江上:一次振計、二次振計、三次振計っていうのは、それぞれ、やっぱり、10年計画で作られていきますですよね。

下河辺:ええ。

江上:それは、10年計画で進んでいきますが、先生の「下河辺メモ」で出てくる、その国際都市構想っていうのは、そういった三次振計といった沖縄振興開発計画と関連させながらの提言だったんでしょうか。
下河辺:いえいえ、関連はしませんよ。

江上:関連はしませんよね。

下河辺:県は県でやっているわけだし、私は知事と総理との調整役のために作ったメモですからね。

江上:そうですよね。

下河辺:ええ。

江上:だから、三次振計にあることをわざざわざ先生が持ち出されたら、そういう調整の意味がなくなるわけですよね。

下河辺:いえ、あんまり県に干渉するっていう目的はなかったわけですよね。敵と味方の知事と総理との間を仲良くさせるっていうだけですからね。

江上:そうですよね。それで、先生がその調整作業に入られる前に、すでに
沖縄県は「国際都市形成構想」というのを打ち出していましたね。

下河辺:ええ、そうですよ。

江上:そうですね。

下河辺:あの、基地返還と関連しているわけですから。

江上:そうですよね。基地を15年間で、基地を段階的に縮小、撤去しするという。

下河辺:いや、場所自体が。

江上:場所がですか。ただ、国際都市形成構想も打ち上げたものの、沖縄県としては財源を持っていなかったんですよね。

下河辺:財源っていうのは何かなあ。

江上:構想だけで、一応、それを具体化するための財源までは準備できていなかった。

下河辺:だって、市の事業ですからね。

江上:えっ、市の事業ですか?

下河辺:那覇市の仕事だから。

江上:はあ。

下河辺:県は面白くないすよ。

江上:でも、沖縄県の「国際都市形成構想」は、県が出したものですよね。

下河辺:いや、だから、構想は出したけども、実施は市ですよ。

江上:あ、実施は市ですか。

下河辺:県の計画っていうのは、自分でやるのと、市町村がやるのと、みん
なあるわけです。


●大田知事が「下河辺メモ」を受諾した目的・理由

江上:ああ、そうですね。そういうことですね。わかりました。
 それで次の質問ですがまず、大田知事が先生のメモを受諾したその目的もしくは理由は何だったんでしょうか。

下河辺:だって、私のメモっていうのは、私の意見はないんだもの。知事の意見と総理の意見をまとめたんだもの。両方がそれを了承しただけなんです。

江上:ということは、「下河辺メモ」には大田県政側の意見が十分、反映されていたと太田知事は判断したわけですか。

下河辺:そう思います。

江上:そういうことですね。それでは橋本首相にも同じことが言えるわけですね。

下河辺:そうです。

江上:先生のメモの中に橋本総理の意向が十分汲まれていたということです
ね。

下河辺:だから、選挙を超えて、両方で合意してやりましょうっていうのが、私のメモだから。

江上:それはやはり、両方とも、大田知事も橋本総理も、先生のメモを通してできることなら仲直りしたいという状況にあったんですね、その当時は。

下河辺:仲直りはできなくとも、両方で協力して、沖縄なんとかしなくちゃいけないっていう点では、知事と総理は一致してたんじゃないすか。

江上:そういう状況下で両者が歩み寄ったということですね。

下河辺:そうですね。

江上:その歩み寄らせるための作業を先生がなさったわけですね。

下河辺:なにしろ、歩み寄るのに半年かかったわけですから。

江上:時間がかかりましたね。

下河辺:6月から始まって、何月かな? 9月、やっと、3月から9月までかかった。

江上:そうですよね。9月まで約半年かかりましたからね。最初のうちはぜんぜん両方ともとりつくしまがなかった。

下河辺:ええ、敵同士。

江上:敵同士。それを先生が一所懸命つないで握手にこぎつけた。

下河辺:知事も総理も相手を誤解していたっていう形の和解だったですから。

江上:そうですか。なるほど、そういった誤解を解くために、先生は両方に懸命に働きかけたわけですね。

下河辺:ええ。両方にせっせとしゃべったわけです。

江上:そうですね。

下河辺:それで、半年たったら、わかったって話になって、両方が直接会って話をするようになったわけですよね。

江上:橋本首相は大田さんの『高等弁務官』を読んだそうですね。

下河辺:あ、そうですね。

江上:それは先生がお勧めになったんですか。

下河辺:そうですよ。

江上:そうですか、やはり(笑)橋本首相が沖縄の高等弁務官に関する専門的な本を読まれたというのは、ちょっと不思議な気がしたものですから。やはりそうですか(笑)それで分かりました。


●「下河辺メモ」と予算措置

眞板:ちょっと、前後して恐縮なんですけど、「下河辺メモ」とですね、予算措置という部分で、ちょっとお尋ねしたいんですけれども、「下河辺メモ」の入り口の部分としては、50億の調整金で、その下河辺メモに書かれたプロジェクトの調査費というかですね、をつけていくという、ようなお話を前回伺ったと思うんですが、で、これがもし、軌道に乗った場合ですね、下河辺メモのプロジェクトというのは、予算項目でいくと、これは沖縄開発費の方に入ってしまうのか、あくまで官邸の直接の別立てのメニューで考えられていたのか。

下河辺:そこはちょっと、誤解があるのが、、、、

眞板:はい。

下河辺:私のメモが50億には関係ないんです。

眞板:関係ない。

下河辺:で、50億は岡本さんのお金なの。

江上:岡本さんのラインですか。

下河辺:岡本さんが、その沖縄の市町村長との相手役を仰せつかってやって
いたわけです。それで、岡本さんに50億渡して、市町村に自由に配んなさいっていう形になったわけです。そのこと自体は私には関係ないし、県も関係ない。

江上:ああ、そうですか。じゃあ、50億は岡本さんのラインから入ったんですか。

下河辺:そうです。

江上:あ、そうですか。50億の調整費が報道されたときに、この金額だけ
が一人歩きして前面に出てしまって、50億で和解するのかという批判がでましたね。

下河辺:いや、50億で市町村長は納得したかどうか、っていうのが話題だったけど、50億はさし当たってのお金であって、必要があったらまた出すんだから、ちょっと50億で打ち切りなんて思うほうがおかしかったね。

江上:そうですね。あれは、調査費としてでしたからね。

下河辺:んっ?

江上:調査費というか

下河辺:調査費?

江上:調整費ですからね。

下河辺:そうです。

江上:そうですよね。

下河辺:市町村の事業を調整して、岡本さんがちゃんと整理したわけですよ。

江上:ああ、なるほど。

眞板:ちょっと、誤解していのかもしれませんが、確か50億という数字
は、御厨先生のオーラルによりますと、先生が20億か30億より、50億くらいがいいんじゃないかと。で、50億という根拠を聞かれると、いやあ、ちょっと、弱っちゃうんだよと、先生、お答えになっているですけど、その50億はそっくりそのまま岡本さんの方へ行っちゃったんですか。

下河辺:そうです。

眞板:あの、当初、大田さんが雇用対策をしてくれということで、その50億のうち、30億を使うという話がございましたよね。

下河辺:それはちょっと、別の話でだと思います。

江上:御厨先生たちのオーラルのときに、50億のことはちょっと困るとおっしゃっていますが、それは先生の出したアイディアではないからですか。

下河辺:いやいや、そういうことよりも、なんか岡本さんに市町村を任せて、沖縄県に対する補助金は、別の議論で政府でやろうっていうふうにしたわけですよね。

江上:はあ、そうですか。

下河辺:国としては県への補助金が中心テーマですから、

眞板:というと、下河辺先生の「下河辺メモ」をベースにした構想とか、い
ろんなものに対して、予算措置ということはなされなかったんですか。

下河辺:しませんよ。

眞板:あっ、そうなんですか。

下河辺:はい。実施したら、実施することが決まったら、金つけるっていう話です。

江上:そういうことですね。これにいちいちいくらとはつけてないですよね。

下河辺:事前のお金ってないですよ。

眞板:そうなんですか。いや、調査費くらいついてたのかなあって、勝手に理解してたもんで。

下河辺:いや、調査費はついているわけですよ。実施の50億っていうこと
は別の問題なんです。


●「下河辺メモ」A項ーー国際交流会館構想

江上:それでは次の質問に移ります。先生の「メモの6」で挙げられた検討すべき事業のA、B、C、D、E、F、G、H、I、Jの10項目についてです。国家的プロジェクトということで、AからJまで先生が提示されています。これはいろんなそれまでの沖縄との付き合いで、あるいは先生独自のそういった行政経験からこのアイディアが生まれてきたんだろうと推察いたしますが、ひとつずつお伺いしていきます。まず最初に、A項では、国際交流会館について先生は言及しています。先生のメモを読み上げますと、「APEC、サミット、G7、アジア・ヨーロッパ会議、拡大アセアン会議等の開催地としての沖縄の役割を具体化するため、国際交流会館を建設し、日本と世界の交流拠点を形成すること」と記されています。

下河辺:そうです。

江上:これについては進展状況はどのようになっているのでしょうか。

下河辺:あの、沖縄でこういう建物は立ってんですよね。国際会議をやるための。

江上:万国津梁館ですか。

下河辺:万国津梁館。

江上:はい。

下河辺:だけど、それは建物であって、このA項で言ったのは、なんか会議をきちんと作ろうとしたんですね。たくさんある国際交流の事業をこの会館に収容すると同時に、会館主催の交流事業を作ろうとしたわけです。

江上:というと、その会館自身がもっと主体的かつ積極的に国際会議のかなめとなり、また、会議をいろいろ実施できるようなシステムを作ろうとということですか。

下河辺:そう

江上:そういうもっと広い意味だったんですね。

下河辺:だから、会議場の建物の話だけが進んでいたけれでも、実際の交流
事業をやろうじゃないかって言ったわけです。

江上:国際交流会館を建設して、建物だけじゃなくて、そうした国際交流事業の機能も持たせて、日本と世界の交流拠点を形成しようということですね。

下河辺:それがあんまりうまくいかなかったですね。

江上:そうですね。万国津梁館っていう建物は実際、完成しましたが。

下河辺:沖縄の大学の学者が反対なんですよ。

江上:そうですか。

下河辺:世界の優秀な人が来て、俺たちは認められないっていう。

江上:そうですか(笑)。いやあ、世界の学者が来たら、沖縄の先生方もその人たちと一緒に研究交流ができるから喜ぶんじゃないかと思いますが。

下河辺:喜ぶ先生は優秀な先生。

江上:(笑)。そうですか。これを最初の項目に上げられていますので、先生としては非常に強い期待があったんじゃないかと思います。一応、サミッ
トは沖縄で、小渕総理の志もあって実現しましたけども、国際会議を頻繁に行うような意味での世界の交流拠点にはまだなっていませんね。最近、沖縄で開催される国際会議は増えてきてはいますけど。

眞板:万国津梁館、大人気みたいですけどね。

江上:そうなんですか?

眞板:サミット以降、予約が入りっぱなしだそうですよ。

江上:そう?

眞板:はい。

江上:そんなに頻繁に沖縄で国際会議やっているの?

下河辺:ええ、やっていますよ。

江上:あ、そうですか。

眞板:多いみたいですよ。

下河辺:非常に多いです。

眞板:学会もやっていましたし。

江上:国内も使うでしょ。

眞板:あ、国内もそうです。

江上:要するに国内と国際とで、万国津梁館は国際会議だけではなくて国内会議に使っている、それで予約がいっぱいになっているんでしょう。

眞板:そうです。

江上:そういうことですね。万国津梁館はそういう意味では建ててよかったんでしょうね。でも下河辺先生の仕掛けがはもっと大きかったんですね。

眞板:そうですね。

下河辺:いいんですよ。そんなに贅沢言わなくても。

江上:(笑)。いいんですか?


●宜野湾・コンベンションホールとの相違点

眞板:先生、宜野湾に県が作りましたコンベンションホールというのがございますが、それを核にということには、また先生のイメージとは違うんですか。

下河辺:また別なんです。

眞板:別なんですか。

下河辺:それは宜野湾市にとってのテーマだったわけです。それで、普天間基地というものを持った市長さんが、基地問題だけで終始するのはまずいと、市民のために何かってっ言って、始まったわけです。そして、具体的にこないだやったのが、なんか民話とか伝説みたいな全国大会をあそこで開いたわけですね。


●沖縄国際センターとの相違点

江上:沖縄国際センターもありますけども、あそこは、JICAが管轄してて、あんまり沖縄の国際交流事業とは関係ないんでしょうかね。

下河辺:いや、関係ないことはないでしょうけどね。だけど、財界は財界でやりたいし、新聞社は新聞社でやりたいわけですよね。だから、われわれみたいな、あいまいな人たちでやろうっていうのも、認めてはいるけれども、沖縄は自分で主催してっていうのをとても期待してんじゃないすかね。

江上:ああ、沖縄県のほうがですね。そういう意味ではネットワークがもっとうまくできるといいですね。JICAもこの10月から独立行政法人になりましたので、そういう意味ではだんだん、国と県との権限の違いとかなんとは少しずつなくなっていくと思われます。

下河辺:そうです。

江上:もっと自由にいろんな行き来はできるようになってくるかもしれませんね。

下河辺:そうです。


●「下河辺メモ」B項ーー国際情報センター構想

江上:それでは、次の質問に移らせていただきます。B項はこれまでの先生の話でしばしば登場した国際情報センターの話ですね。「沖縄の3000キロ構想によって、圏内各都市間の経済交流・文化学術の情報サービス、コンサルタント・サービスのための国際情報センターを創設すること」とあります。この場所は先生どこを想定されていたのですか? 以前に西銘さんが言っていたように、浦添市にある沖縄国際センターの前の敷地ですか。

下河辺:いやあ、そうじゃなくて、これはまだ固まってなくて、米軍の施設を利用した方がいいっていう意見が出ているわけです。

江上:米軍の施設ですか。

下河辺:米軍もすでに、5000キロぐらいの

江上:そうですね。

下河辺:情報技術的なネットワークを持っていますから、それは戦争のために作って、いまはもう、利用がなくなったから、沖縄で使ったらどうかっていうのが米軍の意見で、私はそれに賛成したんですけれども、まあ、沖縄県民には米軍の占領を認めることになるのが嫌だと言って、あまりはっきりした返事していないんですよ。

江上:そうですか。この当時の大田県政側から、このB項については、あんまり前向きな返事は返ってこなかったんですか。

下河辺:そうです。たまたま、基地返還論の一環だったものですからね。


●「下河辺メモ」C項――蓬莱経済圏構想

江上:なるほど。大田県政の政策としては、ちょっと矛盾することになったんでしょうかね。
 それで、C項は「蓬莱経済圏構想」ですね。これについても再三、下河辺先生からいろいろとこれまでも話していただきました。「福建、台湾、沖縄に広がる広域経済圏(蓬莱経済圏)を形成するため、貿易、直接投資、雇用機会、文化学術交流、観光事業等の交流が活発化するような各地域が協力して特別な処遇措置を講ずること。特別な処遇措置として、免減税、入国ビザ、交通通信システム、資源共同開発、自由貿易地域」と記されています。これについてはどうですか。

下河辺:いや、吉元がひとりでまとめ上げたわけですよ。

江上:そうですか。

下河辺:それで、私がそれをバックアップしたんですけれども、政府が了解しなかったんです。

江上:政府がね。外務省とか大蔵省とかがですか。

下河辺:やっぱり、法務省ですね。

江上:法務省ですか。

下河辺:入国管理上、ちょっと面倒臭い問題なんですよ。

江上:入国ビザとか。

下河辺:それで、将来の問題にされちゃったから、ほとんど実現しなかったんですけどね。

江上:先送りになってしまったんですね。

下河辺:だから、闇の貿易になってんじゃないすかね。

江上:(笑) 昔、戦争直後の混乱期に沖縄には闇貿易の時代がありました
が。

下河辺:そうです。

江上:梶山官房長官が沖縄に来られたときに、よくこの構想を提唱していま
したが、これは本当は吉元さんのアイディアだったんですか。

下河辺:吉本さんたちとわれわれがやったわけです。

江上:先生たちと。

下河辺:それで、吉元が福建省へ行って、福建省が了解して、事務所まで作ったわけです。

江上:立派な建物を作りましたよね。

下河辺:ええ

江上:完成しましたね。

下河辺:それっきりで終わっているわけですね。

江上:そうなんですよね。

下河辺:だけど、また台湾問題の情勢がちょっと違ってきたから、もう一度やる人がいたら、まとまるかもしれない。

江上:そうですね。あここまでいって建物まで造って、活用しないともったいないですよね。うまくいっていないのは、入国ビザとか免減税とか、そういった規制緩和の部分でやはり、日本政府の抵抗がかなり強かったんでしょうか。

下河辺:そうですよ。抵抗っていうか、なかなか法律的には、難しいんですよ。

江上:そうですね。沖縄だけ例外扱いする形になりますから、それが難しかったんでしょうね。

眞板:外務省は特に文句言わなかったんですか。

下河辺:文句って言うよりも、不可能って言ってたですからね。文句以前ですよ。

江上:外務省ははなから相手にしなかったんですね。

下河辺:そういうローカルな国際交流を認めてないんですからね。ロシアと
北海道のさえ、認めなかったわけで、日本はそういう意味じゃ、外務省も法務省も非常に鎖国的ですよね。

江上:そうですよね。地方からの国際交流を、という時代がありました。沖縄も西銘県政のときにかなり盛り上げようとしましたが、国際交流事業は外務省を通さないと、なかなか実施するのが難しかったんですね。

眞板:ちょうど西銘さんのころに、台湾に事務所を作ろうとしてですね、それが、上りの情報になってしまって、外務省の目に留まることになって、県がものすごく叱られてですね、結局、事務所は地元の民間企業が作った法人が、事実上、県の出先事務所みたいな形で。

下河辺:そうですね。

眞板:何とかこぎつけた、なんて話がありましたけど。

江上:C項の特別な処遇措置のひとつに「資源共同開発」とありますけど、これについては先生はどういうことをイメージされているんですか。

下河辺:自然?

江上:資源の共同開発

下河辺:それはどれです?

江上:C項の中で「免減税、入国ビザ、交通通信システム、資源共同開発、自由貿易地域」と列挙されていますが、その中の「資源の共同開発」ですね。

下河辺:資源の共同開発っていうのは、そのひとつのテーマは砂糖でした
ね。

江上:ああ、砂糖ですか。

下河辺:それから、深海の海水の利用ですね。

江上:海洋深層水といま言われているものですか。これを福建とか台湾とか沖縄で共同でやったら、どうかということですか。

下河辺:そうです。それで尖閣列島を一緒にやろうと。

江上:尖閣の近辺には油田があるのではないかといわれていますが、油田発掘も共同作業でやればいいじゃないか、というお考えだったんですか。

下河辺:イメージだった。

江上:なるほど、そういうイメージだったんですね。この蓬莱経済圏構想は、今からでも可能性があるでしょうか。

下河辺:いやあ、それは具体的な中身の討論のし直しでしょうね。

江上:なるほど。

下河辺:時間が経っちゃったから。

江上:先生が考えられたときとは、状況が変わってきた。

下河辺:ちょっと違うんじゃない。


●「下河辺メモ」D項――国際学術交流研究所構想

江上:違ってきましたね。
 そして次のD項は、要するに熱帯・亜熱帯の国際学術交流研究所を、ということなんですが、D項は先生のメモを全部読ませていただきますと、「南アジア、太平洋諸島における食料生産と環境保全のための技術を発展させ交流するために熱帯亜熱帯農林水産畜産に関連する国際学術交流研究所を設置すること。一つの事例として、環境問題(ゼロ・エミッションズ)とサトウキビ関連産業の振興を連動し、研究開発と起業化を図ること」というふうになっています。これは結局、その後、沖縄県の亜熱帯総合研究所になるんですか。

下河辺:いや、亜熱帯総合研究所っていう前提じゃなくて、何か日本の大学が、なんか国産型の大学しかないから、国際的な大学を沖縄に例外的に認められないかって議論したんですね。そしたら、沖縄から反対があってつぶれたんです。

江上:先生のこの文章を読むと、これは要するに大学院大学の構想そのものですね。

下河辺:いやあ、大学院大学の構想も、国産型の大学院大学を言っているから、国際的な大学を作りたいって私は思ったわけです。

江上:そうですね。国際学術交流研究所と、たしかに「国際」がついていますね。

下河辺:国立じゃないっていう。

江上:国立ではない。国立だったら文部科学省の管轄になりますからね。

下河辺:入っちゃって、またカリキュラムから、なんか教授から、みんな決
まっちゃうわけでしょ。

江上:そうなりますね。

下河辺:だから、そうじゃなくて、沖縄には例外的に国際的な大学を作ろうって言ったんですね。そしたら、政府のほうは、本当にできるのならっていうぐらいの関心は持ったわけです。そしたら、案の定、沖縄の大学が反対でできなかったんです。沖縄にそんなに立派な大学はいらないって

江上:そうですか。

眞板:いま進んでいるのは、文部省の所管外に。

下河辺:そうそう。

眞板:ということですよね。あの、尾身さんの構想では、文部省の所管外で国際的なノーベル賞級の人を学長だか何かに迎えて、世界中から学者を集めて沖縄で研究してもらうという、構想でしたよね。

下河辺:で、その構想、誰がやるんですかね。国がやらなくて、できんですかね。

江上:内閣府が大学院大学構想を推進しているけれども、最終的にその大学もできたら文部科学省が管轄するんですよね、いまのままだったら。

眞板:そうですか。

江上:だから、先生はそうじゃなくて、日本政府の所管に入らない、まったく別個の大学を構想しておられたんですね。

下河辺:まあ、最初はアメリカがノース・イーストのイースト・ウエストセンター持っているから、沖縄はノース・サウス・センターを作ろうっていう話し合いから始まったんですよね。

江上:そうですね。

下河辺:そしたら、アメリカのほうで、そのイースト・ウエスト・センターはちょっと、おかしくなっちゃったから、なんか、サウス・ノースっていう言葉の意味がなくなって、野村総研の人がまとめてくれてたのが、ちょっと挫折しちゃったんですよね。

江上:でも、ここで先生が言われている国際学術交流研究所は、いまの科学技術系の大学院大学構想につながっているんですね。

下河辺:考えていいでしょうね。

江上:そうですね。ま、だからそういう意味では、この大学院大学構想がこのまま順調に進展していけば、このなかに先生の構想のひとつが結実するということになります。ただ、それが本当に国際的な大学院になるかどうかという問題は残るでしょうね。これは、環境問題とか、ゼロ・エミッションとかサトウキビ関連の振興ですから、やはり農林畜産系の大学院大学でしょうか?

眞板:基本的には自然科学系

江上:自然科学系。あれバイオか。それは特にいま科学技術系の沖縄の大学
院大学は、バイオテクノロジーっていうのを全面に出していますね。

下河辺:バイオの仕事をやろうっていうのもありますけどね。だけど、むしろ、インフォメーション・テクノロジーっていうか、ITの方がむしろ興味が彼らに深いんじゃないすか。

江上:ITの方がですか。「彼ら」というのは、尾身さんたちのことですか。

下河辺:そう。

江上:この国際学術交流研究所は、関連産業の振興と連動させ、研究開発と起業化をともに図ることを織り込んであります。だからこれはビジネスにつながるわけですね。

下河辺:そうです。


●「下河辺メモ」E項――国際医療センター構想

江上:次のE項は、国際医療センターについてですね。

下河辺:そうです。

江上:これは、とくに米軍関係の医療施設を利用するということですか。

下河辺:そうです。海軍病院っていうものの役割をどう評価するかだと思うんですね。

江上:そうですか。

下河辺:だけど、日本は医師会が頑張ってて、海外からのサービスを受けようとしてませんからね。ちょっと難しさがあるわけです。


●「下河辺メモ」F項――アメリカントレードセンター構想

江上:なるほど。
 それで、次のF項は「”AmEx95 in Okinawa” を発展させて、アメリカのアジア市場への玄関口として、日米共同してアメリカントレードセンターを建設すること」とあります。”AmEx 95 in Okinawa” に先生が携わって協力されたんですよね。

下河辺:そうですね。

江上:95年に行われたんですね。

下河辺:そうです。それも、返還土地の利用ってことと絡んだり、あるいは、那覇の港の機能と絡んだりして、総合的な問題にしようと、したんですけどね。そしたら、大阪のアメリカントレードセンターのほうが、先にいったんで、沖縄のほうが、ちょっと、動いていない状態ですね。

江上:大阪の方へ行っちゃったんですね。

眞板:大阪のトレードセンターって、第三セクターでやっているものですか。

下河辺:そうです。

眞板:かなり、財政的に悪化しているところですよね。

下河辺:いまは、悪化してますけど、悪化は当然、予想されてたんじゃないすか。これから時間かけて、何とかしてくんでしょう。大阪の復活については、一番重要なテーマですからね。

江上:これは要するに、アメリカの企業がもっと沖縄に来てくれないか、ということですよね。そういう願望は沖縄の人々からもずいぶん、聞いたことがあります。たとえば、フェディクスですね。フィリピンのスービックの基地を私はかつて視察に行ったことがありますが、あそこにはフェディクスの輸送機が群がっていましたね。

下河辺:ええ、そうです。

江上:沖縄にも来てくれないかという要請を受けて、フェディクスも調査にきたことがあったようですが、その後、やはり何の反応のないままです。

下河辺:いや、反応がないんじゃなくて、アメリカの企業は、小泉さんの姿
勢がちょっと解せないんですよ。小泉さんは沖縄とアメリカの関係は、有事のためだっていうことしか言わないんですね。有事のためなら、行ってもしょうがないっていうことになっちゃうんですね。

江上:平時にならないわけですね。

下河辺:ビジネスの市場には何ないですね。

江上:なるほど。

下河辺:一番最初はアメリカの企業は、沖縄を基地にして中国市場を狙うっていうことを考えたんですね。それを小泉さんが、断った形になるんすね。

江上:そうですか。

下河辺:有事のときしか、沖縄考えないっていう、話になっちゃうんで、

江上:それは、最近の話ですか。

下河辺:最近っていうか、小泉さんが最初、総理になってからずっと、一貫してんじゃないすか。

江上:2年前から

下河辺:とにかく有事論が、あの人、好きだから。

江上:アメリカのビジネスが沖縄に入ってきて、沖縄の経済にも大きく寄与
するというのはいいんじゃないかと沖縄の指導者から聞いたことがあります。

下河辺:いや、ですから、、、、

江上:それはやはり中央政府のほうが反対なんですか。

下河辺:中央政府がだめなんですよ。

江上:そうですか。

下河辺:台湾っていうのが問題地域だっていう認識が、かつて強かったわけですからね。北朝鮮と台湾問題っていう形の議論を一所懸命してたときだから、

江上:そのようにはならなかったわけですね。


●「下河辺メモ」G項――国際大学構想

 次のG項に移りますけど、G項は国際大学の設置ですね。「MITなどアメリカの大学と共同して、国際的な学術交流を行い、アジアの留学生を受入れ、アジアの発展の人材を育成するため国際大学を沖縄に設置すること」ということですけども、これは、さきほどのの亜熱帯の国際学術交流研究所とは別の話ですよね。

下河辺:別です。

江上:こちらは人材育成の話ですね。

下河辺:ええ。ですから、さっき言ったように、現地の大学、みんな反対だ
ったんです。

江上:(笑)。そうですか。「沖縄国際大学」があるからでしょうか。

下河辺:そう。

江上:そうか。現地の大学からぜんぜん、協力が得られなかったんですね。むしろ協力を得られるどころか、反対意見が相次いだんですか。

下河辺:そうです。

江上:先生は既存の大学にはないような、もっと国際的な学術交流や留学生の受け入れがアジアを中心に展開されるような大学を構想されていたんですか?

下河辺:沖縄と北海道にちょっといままでの大学とは違った国際的な意義をもった大学を作ろうっていうのを沖縄や北海道の人たちとだいぶやったんですよ

江上:そうですか。

下河辺:両方ともうまくいかなかったですね。

江上:北海道のほうもやはり既存の大学から反対があったんですか。

下河辺:いや、既存の大学が賛成と反対に分かれちゃって、

江上:あ、賛否が分かれたんですか。

下河辺:賛否が分かれたです。

江上:沖縄の方はぜんぶ反対だったんですか。

下河辺:ぜんぶ反対


●「下河辺メモ」H項――国際ニュービジネスコンサルタント協議会構想

江上:そうですか。そういう事情があったんですか。沖縄の大学は、立派な大学ができると自分の大学が圧迫されると考えたんでしょうかと(笑)。
 それで、次のH項に行きますけども、これは国際ニュービジネスコンサルタントの提唱です。「沖縄に新産業構造を創造するためにベンチャー型のニュービジネスに便宜を提供し、全世界の起業家に機会を与えるため、助成、免減税など特別支援を講じ、国際ニュービジネスコンサルタント協議会を設置する」とあります。

下河辺:斡旋をするための協議会を作りたかったんですね。で、アメリカやヨーロッパへ行って、宣伝してくるような仕事をやろうって言ったんですね。ただ、日本の企業さえ行かないのに、欧米の企業が行くわけないじゃないか、なんて冷やかされたことは多かったですけどね。

江上:このビジネスコンサルタントって、これから重要になりますね。

下河辺:これはとても大事です。

江上:大事ですよね。

下河辺:ただ、なかなか沖縄の立地条件から言うと、受けて立つっていう企
業は、あんまりないでしょうね。

江上:ずいぶん努力しましたが、国内での企業も来ませんでしたからね。そうとう思い切った仕掛けとか特別措置を講じなければ無理でしょうね。でもビジネスコンサルタントはこれから沖縄が経済発展しようと思ったら、特にベンチャー型のニュービジネスを育てようとしたら、とても大事ですね。

下河辺:いやあ、そうですよ。ニュービジネスっていうことは、製造環境じゃなくなってきてんですね。情報産業とか観光産業っていうことで、具体化することが必要なんでしょうね。


●「下河辺メモ」I項――観光企画機構構想

江上:そうですね。
 それでは次にI項ですが、これは観光企画機構の設置についてです。「沖縄観光500万人を目標に、官民協力して、観光のテーマとイベントを発掘するため、観光企画機構を設置すること」と記されています。

下河辺:そうですね。

江上:沖縄県にコンベンションビューローがありますけれど、これとはぜんぜん別ですか。

下河辺:いやあ、それはまだ、ひとつも固まってないんじゃないすか。

江上:固まってないですね。要するに沖縄観光業の抜本的な計画あるいは企画を作る機構が必要だということですか。

下河辺:いや、機構って言うよりも、沖縄観光って何だっていう、そもそも論をもっと議論する必要がありますね。

江上:要するに、再三、先生が指摘されているように、沖縄観光の質を考えるべきだということですね。

下河辺:だから、県庁でもそれを認めてて、県計画の中の観光計画をどうするっていうのは、宿題になってんだけども、現在の審議会の委員で、そういうことを議論する人がいないんですね。お客の立場に立つ人がいっぱいいても、なんか、観光を動かしていく専門家がいないんですね。

江上:沖縄県には観光課がありますけども、観光政策をもう少し、きちっと打ち出すべきじゃないかということですか。

下河辺:観光業者を監督する役所であって、観光を創造するような仕事をしていないんですよね。

江上:そうですか。

下河辺:結果的に人数が増えたの減ったのっていうことで、一喜一憂しているわけです。

江上:ということは、この観光企画機構は沖縄県などの役所とは別枠で構想されたんですか?

下河辺:そうですね。ま、県庁辞めて来てくれる人がいてもいいとは思いましたけどね。全県に詳しい人がいた方がいいですからね。それは、行政の仕事としては限界があるっていう。

江上:沖縄コンベンションビューローは民間の人と県からの出向の人とが一緒にやっていますけどね。

下河辺:そうですね。

江上:まだ十分な成果が上っていないようです。

下河辺:中身がないと、成果は上んないですよね。


●「下河辺メモ」J項――国際通信、国際空港、国際港湾整備

江上:それで、最後の項であるJ項に移りますけども、これは「国際都市沖縄構想を実現するための諸事業の共通する基本的インフラストラクチャーとして国際通信、国際空港、国際港湾を整備すること。これらの整備のため、米軍基地との調整を図ること」と先生は記されておられます。沖縄の国際空港の機能は弱いですね。国内空港としては新しく立派なものができましたけども、国際空港としては貧弱ですね。

下河辺:お客がいないもの。

江上:確かに客がいない(笑)。 沖縄の国際空港は国内空港はおろか離島空港よりもずっと小さくてお粗末ですよね。

下河辺:そう。

江上:国際空港というイメージではないですね。

下河辺:所詮は嘉手納の空港を官民両用にするときが、やがてきますよ。

江上:そうですか。

下河辺:それ待つ方が懸命だね。新たに自分で造るなんて、大変なことだからね。

江上:かつて嘉手納の軍民共用については少し沖縄で議論されたことがありますが。

下河辺:いや、いまだって、

江上:そうですか。

下河辺:地元は言っているわけでしょ。だけども、地元の名護市の市長が言っているのは、なんか米軍の飛行場論とちょっと違ってんですよね。せっかく移転するなら、小規模空港でいいって、言ってんのに、併用すると、大きな飛行場を造んないとだめなんですね。だから、最低1000メーターの滑走路がいるっていうことになって、それを軍用として造ってくれって言ってるわけですね。それを軍の方は、50メーターの滑走路で十分って言っているから、なんか併用っていう言葉の意味が、技術的には混乱するんですね。

江上:ずいぶん大きくなってしまいましたよね。軍民共用ということになって民の部分を付け加えたからですね。

下河辺:だけど、まだ決まんないんでしょうあれ。っていうのは、普天間を移転する前に、もう、撤去するっていう議論がまともに出てきたからじゃないすか。

江上:あ、そうですか。

下河辺:はい。

江上:普天間から撤去するというのは、海兵隊がですか。

下河辺:海兵隊が。

江上:はあ。

下河辺:それで、ちょっと様子が、事情が変わりすぎて、複雑ですね。だか
ら、アメリカにすりゃあ、グアムに移す方が、よっぽど、合理的かもしれない。

江上:そうですね。海兵隊のグアム移転は前から話が出ていますね。でもやはり米軍としては、対中国との関係で沖縄に置いといたほうがいいんじゃないでしょうか。

下河辺:対中国との関係で、いらなくなったって見ているわけです。

江上:いらなくなったんですか。それは中国との緊張関係がなくなってきたから、ということですか。

下河辺:軍事協定するんじゃないすか。もう間もなく。

江上:そうですか。そうすると、確かに沖縄の基地の重要性は減少しますね。

下河辺:沖縄は朝鮮と台湾のために、置いてあったようなもんだから、朝鮮の問題も台湾の問題も、ほぼ終わっちゃうんじゃないすかね。

江上:そうなると、もう沖縄に米軍基地がある必然性はなくなりますね。

下河辺:だから、小泉さんは慌てて、有事のために米軍が必要なんてことを積極的にしゃべっているわけ。

江上:あ、そうですか。小泉さんの方は一所懸命、米軍の引止め策にかかっているんですか(笑)

下河辺:海兵隊に会うと、もう有事なんて言っている時代じゃないって言って、いますよね。

江上:そうですか。

下河辺:北朝鮮が攻めてくるわけはないし。

江上:そうですね。

下河辺:中国とは軍事協定したし、ぜんぜん状況が違うって、思ってんじゃないすか。

江上:台湾と中国の関係が荒れることなく治まれば、沖縄の周囲の危険性は
大幅に緩和されます。

下河辺:いやあ、もう、治まったんですよ。

江上:そうですか。

下河辺:それは台湾っていうのが、反中国の蒋介石の軍隊が占拠したっていう意味で緊張してたわけでしょ。それで、蒋介石親子が死んで、兵隊は年取っちゃって、いまや台湾に軍事的なテーマないですよ。むしろ、残った年取った兵隊を老兄と称して、老兄をどう処理するかのテーマでしかないすもんね。

江上:ということは、その世代が消えていけば、

下河辺:おしまいになっちゃう。

江上:そうなったら、ふたつの中国とか、ひとつの中国とかの問題も、おのずから解決の方に向かうということですか。

下河辺:そんなのいまや、誰も考えないじゃない。台湾は台湾人の島っていうことで、はっきりしたんじゃないすか。だから、中国だって、台湾人の島っていうのを否定なんかしていませんよね。

江上:なるほど。そうすると近いうちに、沖縄の基地が大幅に縮小撤去される可能性が十分出てくるんですか。

下河辺:出てきますね。

江上:そうですか。でも、小泉さんが有事だ、有事だ、と言っている限りだめなんだ(笑)

下河辺:えっ?

江上:小泉さんが有事だ有事だって言っている限りはだめなんでしょう?

下河辺:有事だめって言うのは、撤去できないってこと?

江上:ええ、アメリカに対して有事のために米軍が必要だということを、小
泉さんが言い続ける限りにおいては。

下河辺:それをアメリカに?

江上:ええ、アメリカに(笑)

下河辺:アメリカに言ったって、どうしようもないでしょ。そんな有事なんかありませんって言うだけでしょ。

江上:そうですね。

下河辺:それは小泉さんも知っているから、アメリカには言わないんじゃないすか。

江上:アメリカには言わない。

下河辺:日本の憲法と自衛隊との関係でだけ、言うんじゃないすか。

江上:ああ、そういうことですか。先日、ラムズフェルド国防長官が沖縄に
も韓国にも自ら出向いて視察したように、アメリカは自国の軍事戦略を自らの眼で確かめ、国益に則して決定していきますからね。

下河辺:だから、彼はもう決めてきたんですよね。

江上:そうでしょうね。

下河辺:沖縄っていうのは、平和の島がいいんじゃないかっていう感覚で来たら、なんか米軍がいることのトラブルだけが話題になったから、なんか話し合いになんないと思ったんじゃないすか。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: