沖縄自治研究会

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松島報告


1.マルタ共和国の独立と経済的自立: 大城肇(琉球大学教授)
2.太平洋島嶼国家・地域の独立と自立: 松島泰勝(東海大学助教授)
日時 平成16年7月24日(土)
場所:琉球大学


○松島泰勝 氏   初めまして、松島と申します。きょうは太平洋の島国の独立と自立について話をさせていただきたいと思います。

 太平洋の島の名前が幾つか出ると思いますので、場所をまず最初に確認しておきたいと思います。

 こちらに沖縄島がありまして、南のほうに太平洋の島々が点在しております。沖縄から一番近い島々がミクロネシアです。サイパン、グアム、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島というのがあります。そのほかとキリバス、ナウルもミクロネシアの文化圏に属しております。そして、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、フィジー、ニューカレドニアがメラネシアと呼ばれている地域です。太平洋の東のほうに行きますと、ハワイに代表されるリネシアの島々があります。トンガ、サモア、そしてフランス領ポリネシアがあります。このように大きく3つの文化圏に太平洋の島嶼国はわかれています。

 きょうは、この島についてお話をさせていただくわけですけれども、レジュメに沿って話をさせていただきますので、レジュメを見ていただきたいと思います。

 太平洋の島々は、独立をした島とそうではない島に分けることができます。最初に、独立した島について見てみたいと思います。

 太平洋の島国の中で最も早く独立したのは、サモアという国です。かつてはウエスタンサモア(西サモア)と呼ばれていましたけれども、現在はサモアに名前を変えております。それが1962年に独立して、現在約人口が17万人。その次にナウルという島が地図の真ん中のほうにあります。この島の人口は約2万人で、リン鉱石で有名です。かつてはリン鉱石を掘り、それを世界中に売って、大金持ちの国になったこともありましたが、最近は経済的にちょっと疲弊している。リン鉱石も枯渇しつつあり、また、リン鉱石を売ったお金の管理方法がちょっとずさんでありまして、厳しい経済状況にナウルの人々は直面しています。

 トンガは70年に独立し、人口は現在約10万人。フィジーは70年で80万人。パプアニューギニアは太平洋の島国の中で最も大きな国でありまして、人口は500万人を超えています。78年にソロモン諸島が独立。ソロモン諸島というのは、パプアニューギニアの東側にありますが、人口42万人くらい。

 次にツバルという国です。ツバルはキリバスの南のほうにある小さな島です。これが78年に独立して人口は1万人ぐらい。ちなみにツバルという国は、地球の温暖化によって海面したに沈むと言われている島です。現在、ツバルでは高潮になると地中から水があふれて、島の一部が水浸しになります。既に非常に危機的な状況にあります。ここの首相は、島民全員をオーストラリアとニュージーランドに移住させてくれと世界に呼びかけています。

 キリバスという島国は、ツバルの北側にある島であります。島の面積は小さいですが、キリバスが持っている排他的経済水域が広大な面積でありまして、中部太平洋の大きな部分をこのキリバスの排他的経済水域が占めております。ここは79年に独立しまして、人口は9万人くらい。

 次に、80年にバヌアツという国です。バヌアツはソロモン諸島の南のほうにあります。ここは80年に独立し人口は19万人です。

 ミクロネシア連邦はパラオの東側にある国でありまして、ここは86年に独立し、人口は11万人くらい。同じ年に、ミクロネシア連邦の東側にあるマーシャル諸島が独立しまして、人口6万人。

 一番最近、太平洋の島国の中で独立したのがパラオです。1994年です。人口は約2万人です。

 このように、見てわかりますように、70年以降、80年、90年に独立した国が多く、非常に若い国が多く、人口が非常に少ないという特徴があります。今ご紹介した国の中で、沖縄よりも人口が多いのはパプアニューギニアだけです。あとは、沖縄よりは人口は少ない。それでも、それぞれの島国は独立を選択したわけです。

 独立をした理由としましては、幾つかあります。これらの島々は、アメリカとかイギリスとかの植民地、または信託統治領でありました。アフリカ、アジアでの独立の動きとともに、宗主国がこういう小さな島を支配するには費用がかかりすぎると考え、宗主国が独立を促したという面もあります。

 幾つかの島を除いては、大体は独立を選択しました。独立の決意をして、独立のための憲法をつくり、独立に移行したわけです。独立の前の段階で、具体的に経済自立はどうするとか、そういった議論というのはあまりなく、現在、経済自立に関して非常に困っているという状況にあります。

 そのほか、独立した理由としまして次のような独立によるメリットがあります。

 最初に、外交権の行使によって援助金を多くの国から取得できます。独立する前は、例えば島を支配しているイギリスのみから補助金が提供されていたんだけども、独立すればイギリス以外の日本とかオーストラリアとかアメリカ、いろんな国から補助金をもらうことができます。国連に加盟しまして、国際的に活動をすることによって、外交権を行使して、援助金を多角的にもらえるということです。

 2番目のメリットが、国際的な貿易協定に参加することによって、島で生産されたものを販売するルートを確保することができました。例えば、コトノウ協定があります。これは以前、ロメ協定と呼ばれていました。EUが太平洋諸国、カリブ海諸国、そしてアフリカ諸国に対して与えている経済的な優遇措置です。例えば、フィジーで多くの砂糖が生産されておりますけれども、これをEUが税制上の優遇的な措置で輸入をしています。
(テープ1本目A面終了)
次にオーストラリアが太平洋の島国で生産されたものを優遇措置の下に輸入を認めている制度がスパーテカです。これを使って、実際に経済的な交流が行われている例としましては、サモアの例があります。サモアに日本の矢崎総業という自動車の部品メーカーが進出をしまして、ここでつくられた自動車の部品が、関税なしでオーストラリアに輸出されています。サモアでは、自動車部品の工場に数千人の人が働いており、経済的な効果も出ております。

 次に、自由連合協定。これは後でまた詳しく述べますけれども。パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島は、かつてアメリカの信託統治領でした。アメリカから独立する際に自由連合協定という協定を結んだわけですが、この協定を結びまして、アメリカから多額の補助金、援助金が提供されることになりました。

 それから、このようなミクロネシア三国で生産された製造品は、関税なしでアメリカに輸出できるという優遇措置も与えられています。その結果、パラオには台湾とか香港に拠点を置く洋服を製造する企業が投資をしまして、ここで生産をしたものが実際にアメリカに輸出されていました。パラオ人の賃金は高いので、中国の南部、特に福建省の女性たちがパラオにやってきて、衣料品を製造しています。ミクロネシア連邦のヤップ島にも同じような企業があります。

 また、APEC、WTOなどに加盟している太平洋の島国もあって、国際的な貿易協定に独立国家として参加し、いろんな経済的な優遇措置を受けることもできるわけです。

 3番目のメリットが地域協力機構の活用です。独立した島嶼国は、経済的に、そして政治的にお互いに助け合う機関を設けておりまして、これをPacific Island Forum;太平洋諸島フォーラムと言います。去年、沖縄で島サミットが開催されました。島サミットは日本が太平洋諸島フォーラムに属している太平洋の島国の首脳たちを沖縄に呼んで、日本のODAを太平洋にどのように提供するのかを話し合う場です。パシフィックアイランドフォーラムは、太平洋の島国同士、特に独立した島国同士の経済的な関係を促しています。

 4番目が、広大な排他的経済水域の確保です。独立したならば、その国は領海とともに、200海里の排他的経済水域を持つことができます。

 例えば、キリバスは中部太平洋において広大な排他的経済水域を持っております。この排他的経済水域の中で、日本、中国、台湾の漁船が漁業を行っています。外国漁船がマグロ、カツオを捕る場合は、キリバス政府に入漁料という形でお金を払わなければなりません。キリバス政府は自動的に入漁料を政府の財政収入にしています。

 次に、5番目ですが、近代的な憲法・法律、制度によって、島独自の制度、文化を保持することができる。

 例えば、パラオを例に見てみたいと思います。パラオは1994年に独立したわけですが、パラオの行政制度は、ほとんどアメリカの大統領制度を導入しています。しかし、細かくパラオの憲法を見ますと、すべてアメリカの憲法どおりじゃなく、パラオにある独自の伝統的な首長制度を憲法で保障している。首長が有する権限を憲法で保障しています。これはパラオだけじゃなくて、他のミクロネシアの国でも伝統的な首長制度が憲法で保障されています。
土地の共有制も法律で保障されています。島というのは、面積が狭い。そして、島の中にはそんなに大金持ちもいないので、例えば、海外の資本家が島の土地を買収しようと思えば、島の全体を買収することもできるでしょう。そのような事態を防ぐために、外国人が島の土地を所有できないということを憲法で定める。そして、太平洋の人々同士がお互いに土地を所有する。土地の共有制も憲法で定めることで、外国人が大きな面積を買収して島を支配しないような法制度が存在しています。
これはパラオ、ミクロネシア連邦、マーシャルは戦前の経験を生かしています。つまり戦前、この3つの島国は日本の委任統治領でありまして、日本時代、島々の土地は日本人の企業によって買収され、島の人々は経済的な従属下に置かれていました。今日、そのようにならないように、パラオ人の土地を守るということと、パラオ人の経済活動への参加を保障するということを、憲法、法律で定めているわけです。

 最後に、独自な経済政策をとるメリットがあります。先ほどのマルタ島の例でもありましたように、太平洋の島でも財政収入の1つの収入源としまして、島全体をタックスへイブンにして、税金がかからない制度を導入する。そのことによりまして、世界中からいろんな企業の投資を促しています。

 しかしながら、それがマネーロンダリングの温床につながるということで、OECDなどがタックスヘイブンの制度を止めなさいと警告しています。独立すれば太平洋の島々に企業を呼び込むために独自な金融特区、タックスへイブンを導入することもできます。以上が独立によるメリットであると考えられます。

 しかしながら、独立といいましても完全無欠の独立をすべての島嶼国が達成しているわけではありません。一部の独立国家は、いろんな面で制限された独立を達成しています。

 例えば、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島は、アメリカとの間に協定を結んで独立をいたしました。この3つの国の島、海、また空における軍事権のすべてを現在もアメリカが握っております。つまり、アメリカは独立を認めましたが、こういった地域における軍事権は自分の手のもとに置いています。そのかわりにコンパクトマネーと呼ばれる援助金を提供するといった関係が続いているわけです。

 また、クック諸島というのは、ニュージーランドの北のほうにある島々です。フランス領ポリネシア、タヒチの近くにあるのがクック諸島です。ここもニュージーランドと自由連合の関係にあります。つまり、クック諸島の人々は、クック諸島という国の市民権を持つとともに、ニュージーランドの市民権も同時に持つことができます。クック諸島の人々は、働き口がないときは、自由にニュージーランドに行って働くことができます。ニュージーランドは、軍事面、外交面において、クック諸島政府に大きな影響力を持っています。必ずしも太平洋の島国の中には、すべて自分たちで権限を行使するというわけにはいかない島国も存在しているわけです。

 以上、独立を達成した島国について話をいたしました。そのほか、独立を達成していない島の中で、現在、独立を求めている島について紹介したいと思います。

 まず、最初はグアムです。私はグアムに2年間ほど住んでいました。グアムは現在アメリカの属領です。グアムでは島民の権限が制限されておりまして、大統領を選ぶという選挙権もありません。アメリカの下院議会に派遣されているグアムの代表下院議員は、アメリカ連邦の下院議会において発言する権限はありますけれども、投票する権限は与えられていません。コモンウェルスという政治的な地位にまずなりたいという運動が1980年代の後半ぐらいから盛んになっています。

 このコモンウェルスは、サイパン、テニアン、ロタ島が属する北マリアナ諸島の政治的な地位です。そのほか、カリブ海のプエルトリコも、コモンウェルスという地位です。

 コモンウェルスになりますと、例えば、労働法とか移民法において、独自の法律をもつことができる。もちろん、北マリアナ諸島はアメリカの領土内ですので、人々はアメリカの市民権を持っています。それと同時に、独自な法律をもつこともできます。サイパンでは、独自な法律、労働法、移民法を活かしまして、特にサイパンにおいて、衣料製造工場を誘致しています。ここに香港とか東南アジアから企業が投資し、中国の南部のほうから女性たちがサイパン島に働きに来て、そこでつくられた洋服、衣料品が関税なしでアメリカ本土に輸出できます。

 ですから、サイパンの経済見てみますと、観光収入に次いで衣料製造工場による経済的な効果が大きいのが特徴です。ですから、グアムもサイパンのように独自な法律を持って、もう少し経済的な独自性を発揮したいと、アメリカ政府に対して80年代の後半から求めている。グアムでは、ハワイのような州にもなりたいという人もいますし、独立をしたいという運動もあります。

 このコモンウェルスに関しましては、1989年に住民投票をやりまして、グアム島の人々がコモンウェルスになりたいというふうに決意をしました。アメリカの政府や議会といろんな交渉をしたんですけれども、アメリカ政府はこれを、現在まで認めていません。なぜならば、アメリカとしてはグアムを軍事的に自由に使いたいと考えている。ですから、独自な法律があると、どうしても自由に使いにくいという面もありまして、現在それを認めていないんです。

 次、ハワイです。ハワイは1898年までハワイ王国という独立国家でありました。ハワイに住んでいる白人たちがクーデターを起こして、その後、アメリカに併合されました。ハワイに住んでいるカナカマオリという先住民族の中には、ハワイを独立させたほうがいいという人もいます。また、ここに書いてあります国家内国家という政治的な地位を求める人もいます。これはアメリカ合衆国の本土にいるネイティブアメリカンが、アメリカの中にインディアンたちの国家を作って、独自な政治的経済的な権限を持つことが許されています。ハワイでもカナカマオリという先住民族がもつ自決権を行使して、国家内国家という関係を築こうという人々もいます。

 次に、ブーゲンビル島は太平洋戦争で有名な島ですが、パプアニューギニアに属している島であります。ここはパプアニューギニアでも銅の主な産地です。しかし、このブーゲンビル島の人々は、自分たちの島でとれる銅の生産から上がる利益の恩恵にあまり浴することができません。パプアニューギニア政府、オーストラリアの企業がこの島を搾取するという関係がありましたので、1989年頃から独立運動が発生しました。武器を持って戦うわけですけれども、この独立運動が約10年間続きまして、現在は停戦協定が結ばれています。現在、ブーゲンビル島の人々はパプアニューギニア政府に対して高度な自治権を求めています。

 今度はフランス領ポリネシア。フランス領ポリネシアというのは、タヒチがある、フランスの領土です。フランスはここで核実験を1996年まで行っていました。ここにもやはりフランスから独立をしたいという人々がおりまして、2004年6月、独立党の党首であるオスカー・テマルという人が、このフランス領ポリネシアの大統領に選出されました。オスカー・テマル氏は、10年後、20年後にはフランスから独立したいと公言しております。フランス領ポリネシアは、独立をする前に内政自治権をさらに拡大したいと、フランスと交渉を行っております。

 次に紹介するのがニューカレドニアです。ここもフランスの領土です。ここは1970年代から独立運動が盛んになりまして、80年代に入りますと武力闘争に発展します。その武力闘争では独立賛成派、反対派、フランス政府側に多くの犠牲が出たので、フランス政府との間で話し合いがもたれました。1998年にヌーメア憲章というのが合意されまして、1998年から15年かけて内政権をどんどんフランス政府がニューカレドニア島に与えることになっています。内政権とは防衛権、警察権、金融管理権を除くそのほかの権限です。15年後に独立を問う住民投票を行うと、フランス政府は約束しております。

 このように、独立をしていない太平洋の島でも独立を求める人々が存在しているわけです。

 独立した太平洋の島国でも、現在、幾つかの問題を抱えています。自立に関わる問題です。経済的な自立、政治的な自立、社会的な問題です。

 まず、経済的な問題としては、ほとんどの国が大きな貿易赤字を抱えています。そして、財政赤字、つまり援助金に依存している。パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島の財政収入の半分くらいはアメリカからの援助金である。大国に対する経済依存が進んでいます。

 政治的、社会的な問題としましては、先ほど言いましたように、タックスヘイブンに関連する問題があります。マネーロンダリングとは、世界の犯罪組織、テロリストが島々のタックスヘイブンを使ってお金をきれいに、洗浄することであり、世界の不安定化を推し進めることにつながります。

 そして、紛争、民族対立が発生している島もある。例えば、フィジーはパプアニューギニアに次いで人口規模、面積ともに大きな島国です。ここは太平洋の島国の中で政治的にも中心的な位置を占めています。フィジーでは1987年、そして2000年、今まで3回クーデターが発生しています。

 このクーデターの原因は民族対立です。ここは以前、イギリスの植民地でありまして、イギリスは19世紀において、フィジーのサトウキビ栽培を盛んにするために、同じくイギリスの植民地であったインドから多くのインド人を移民としてフィジーに移住させました。

 その後、フィジーに住んでいる先住民族とインド系住民との人口がほぼ拮抗するようになりました。インド系住民がフィジーの経済面を支配するという関係が形成され、1987年にインド系住民たちが政権を握るようになりました。政治にも力を及ぼしてくる状態になって、フィジー人たちはクーデターを起こして政権を奪い返しました。民族対立が起こっているわけです。

 それから、ソロモン諸島においても、部族対立が2000年に発生しました。ソロモン諸島の首都のホニアラがおかれているガダルカナル島で戦いが起こりました。同国のマナイタ島という、ガダルカナル島の近くにある島に住んでいる人々が、ガダルカナル島に移住しまして、ガダルカナル島の先住民と経済的、政治的に対立し、その後、武器を持って戦うようになりました。

 現在は、停戦合意が成立し、オーストラリア軍をはじめとする太平洋諸国の軍隊が駐留し、治安は安定するようになりました。

 そして、パプアニューギニアのブーゲンビル島でも独立戦争がありました。パプアニューギニアの内部においても、部族間の戦争が頻発しております。このように独立後に治安が悪化した島国が存在しています。

 そして、3番目の問題は、独立後、島嶼国が大国からの援助金に依存してきたことです。大国、世界の援助機関は、90年代後半から、これまでの援助政策を見直そうとしています。例えば、世界銀行、アジア開発銀行によって、幾つかの太平洋の島国は構造調整政策が行われています。つまり、援助金によって民間部門が発達せずに、政府部門のみが非常に大きくなってしまった。これでは島の経済自立は難しいだろうということで、構造調整、つまり政府部門を縮小する、公務員を減らし、輸出指向型の産業を育成しています。構造調整政策が行われている島国が90年代の後半ぐらいから増えてきております。

 ミクロネシア連邦とかマーシャル諸島もそうです。それから、オーストラリアの太平洋諸島に対する援助政策も、現在、見直しに入ってきております。

 オーストラリアは、太平洋の地域機構である太平洋諸島フォーラムの中のメンバーです。 太平洋の島に対しては、多くの援助金を提供している。特に、パプアニューギニア、ソロモン諸島などの、メラネシアと呼ばれる島国に多くの援助金を提供しております。しかしながら、援助金を提供したにもかかわらず、なかなか経済自立が進まず、島の治安が非常に悪化しています。オーストラリアは昨年、新たな援助政策の案を発表いたしました。昨年、オーストラリアの上院議会において、太平洋の島国に対する援助を審議する委員会が、太平洋同盟案というのを出しました。

 これまでは独立国家としてそれぞれの島国の経済主権、政治主権を認めながら援助を行ってきました。この太平洋同盟案は次のような内容です。まず、太平洋の島国の通貨をオーストラリアドルに統一する。そして、島国において経済政策、財政政策をオーストラリアのイニシアチブの下で行うというというものです。それはやはり、島国に任せていたのでは、いくらたっても自立できないじゃないか、オーストラリアが出て行かざるを得ないんじゃないかという考えのあらわれです。

 この案に対して太平洋の島国は反発をしています。現実にはオーストラリアの経済的な依存というのが進んでおりまして、この案は今も賛成・反対の議論が行われています。

 そして、太平洋の島国の機構である、太平洋諸島フォーラムの事務局長がオーストラリア人に任命されたんです、ことしから。オーストラリアの政策、オーストラリアの影響がますます今後、太平洋の島国に及ぶだろうとみられています。

 アメリカのミクロネシア連邦、マーシャル諸島に対する援助政策も変更されようとしています。この2つの国は1986年に独立をしまして、その後アメリカからの援助金を受けてきました。しかし、なかなか経済自立せず、援助金が不正に島の政治家に利用されるという汚職の問題も発生したわけです。

 こういったことを受けて、アメリカは援助金がどのように使われているのかと監視し、その使われ方に関しても、一々口を出していくと明言しております。

 ですから、太平洋の島国においては、これまでのように援助金をあげて、あとは任すというのでなくて、援助提供国がいろいろと口をはさんでくるというふうな形に変わりつつあります。

 太平洋地域自由貿易地域構想は、太平洋の島国全体をカバーする形で、自由貿易地域をつくろうという構想です。つまり、太平洋の島国の関税を低くして、島々同士の貿易を促す。そのことによって、島の民間部門の発達を促すという案であり、2011年頃までにこの自由貿易地域を実現すると目標を定めています。世界的な経済のグローバル化に伴いまして、規制緩和、自由貿易化の動きが進んでおり、太平洋においてもグローバリゼーションが進みつつあります。

 なぜ島の経済自立が困難かということです。これは島嶼性が制約になっています。つまり島の面積が狭く人口も少なく、市場が狭い。そして、島がたくさん分散していまして、経済活動を行う上において大きな困難が生じるという問題があります。

 そして、援助提供国の援助政策の失敗というものもあるんです。これはアメリカの例で見ますと、アメリカは3つの、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島に援助金を提供してきましたけれども、これはあくまでアメリカとしては、この島国の経済自立を促すということが目的ではなくて、こういった3つの島において、軍事的な権限を行使したいというのがやはり目的にありまして、ある意味では、経済開発、経済発展に関しては無関心であった。ですから、自分たちが提供したお金がどう使われようと知らないというふうなことでありまして、この援助政策というのが見直されています。

 島国はいろんな国と関係をもって、経済的な発展を遂げようとしております。特に、中国と台湾の対立というのを利用して、援助金を得ようとしている。台湾は中国大陸と緊張関係にありまして、国際的な舞台で孤立しないように、太平洋の島国と外交関係を結んで、自分たちの支援、協力を広げようとしております。

 中国大陸は、台湾がこのように外交的な動きをするのを非常によくないと考えている。これは、あくまでも台湾は自分たちの一部であるというふうな考えです。中国も台湾も、太平洋の島国に対してODAを提供し、または民間投資を行っています。自分たちに多くの経済的なメリットをくれる台湾または中国と外交関係を結んでいます。実際、パラオは1999年に台湾と外交関係を結びました。これはなぜかというと、台湾のほうが多くのODAをくれたし、台湾から多くの観光客がパラオに来て、経済的な交流が盛んであるからです。

 そして、アメリカとの関係についてです。アメリカも太平洋の島を重視している。特に、マーシャル諸島においては、現在、迎撃ミサイルの実験が行われ、アメリカの軍事基地の島としても重視している。オーストラリアも、太平洋の島々、特にメラネシアを重視している。ニュージーランドもそうである。日本も、島サミットに示されているように、太平洋を重視しようという傾向が見られる。東南アジアの国々、特にマレーシアは、パプニューギニアの木材を輸入しています。東南アジアの国々も太平洋に投資をしています。

 ですから、経済で見ると、アジア経済との関係が近年非常に強くなっている。いろいろな経済ネットワーク、これは援助、投資ですが、これらを活用している。いろんな国との関係を、どのように島にとって有利に展開し、経済的な利益を得るかということが関心事になっているわけです。

 島単独で自立するというよりも、いろんな国から経済的な利益を得て、また、ネットワークを張って自立を達成したいという傾向が見られます。

 次に島嶼の独立についてです。島嶼性には政治経済的な問題、政治的な周辺性と、経済的な周辺性があると思います。現在、いろんな国際機関やら大国を巧みに利用して、独立を維持してきていることは評価されていいのではないかと思います。人口も少ないながら、例えば、パラオなんか2万人ですが、現在でも独立国家として存在してきている。特に大きな問題もなく存在してきているということ自体は、評価されてよいのではないかと思います。

 以上、太平洋の島について話をさせていただきました。最後に、沖縄と太平洋の島国、またはアジアの国々との関係において、どのような面が学べるか、活用できるかについてお話させていただきます。

 太平洋の島国、独立していない島、または世界の島を含めて、高度な自治権を持っている島が多い。経済的な特権をも持っている。または、島によっては独立を達成したところもある。島というのは島であること自体がこのような権利を持つことができるといえると思います。

 沖縄も琉球王国ということで、独立国家でありましたし、文化的にも独立性があります。沖縄にほかの地域と同じような法制度が適用されるというのは、非常に問題がある、経済的にも問題がある。沖縄は風土的な独自性を持っている。沖縄が、ほかの世界の島と同じように、高度な自治権をもつことは、世界の島の常識から見て当然じゃないかと思います。

 ですから、沖縄が特別自治制、特別県政などのように、ほかの日本の県とは異なる制度を要求するときに、世界の島嶼の経験を根拠にして説明するのも1つの手じゃないかと思います。

 しかしながら、太平洋の島国を見てみますと、独立すればすべて問題が解決するわけではないというのも事実であります。ですから、すぐ独立という選択ではなくて、いろんな高度な自治権とかを試した上で、そして、経済的な自立というものが見込めるのであれば、独立という選択肢があってもいいと思います。独立すればすべて解決するわけではない。かえってグローバリズムの中で、従属性に置かれている島国も存在していますので、そのへんをよく考える必要がある。

 次に、日本カードついてです。今現在、沖縄は日本に属しておりますが、この日本の中で道州制というのが議論されている。高度な自治権が議論されています。ですから、日本の中にあってメリットとなるようなものを、沖縄がいろんな交渉力をもって、それを本当の意味で使えるものにする必要がある。例えば、国際金融特区というのは、日本の財務省の介入によって、本来の意味での金融センターにはなり得てない状況にあります。これを本当の意味で金融センターにし、アジアの金融のセンターにするためにも、沖縄には高度な自治権、経済的な自決権が必要であると思います。今までの自由貿易地域にしても同じような課題があります。

 そして、去年の島サミットですけれども、太平洋の島国が沖縄に非常に期待しているという面があります。沖縄において、経済自立の方法、沖縄ブランドとか、そういった販売流通の面で太平洋諸国の首脳が非常に注目しています。ですから、沖縄も太平洋の島国といろいろ協力関係を構築してもいいんじゃないかと思います。

 そして、今度中国カードの活用、台湾カードの活用について。これは実際に太平洋の島国で行われていることです。また、中国も台湾も沖縄に非常に関心を持っている。その中で沖縄がどのように、このカードを利用するかということです。

 アジア太平洋の中で存在感を強めているのが中国です。中国は経済成長が著しく、東南アジアとの間にも自由貿易地域を形成する動きにあります。あと10年後、20年後に日本の経済を上回るというふうに言われています。歴史的にも、日本と中国との間にあったのが沖縄です。中国が高度な経済成長を経験し、存在感が増していくなかで、沖縄がどのような役割を果たすことができるかということも、特別県政という動きの中で、議論する必要があろうかと思います。

 台湾は先ほど言いましたように、南方政策をとっている。沖縄、太平洋の島国を非常に重視している。台湾との関係も沖縄の特別な自治制という中で位置づける必要があると思います。外交権が得られるかどうかは別にして、いろんなアジア太平洋の国々との関係を視野に含んだ上で、提言をしていく必要があると思います。

 最後ですけれども、太平洋の島国は手持ちの様々なカードを使うことで島嶼国として独立し、自立を模索してきた。アジア太平洋の中の沖縄という大きなスケールの中で、手持ちのカードを戦略的に切ることで、沖縄は21世紀のアジア太平洋において存在感のある島になることができようというふうに思います。

 今、発表したことに関して、後で皆様との間で議論ができればいいなと思います。
 どうもありがとうございました。

(録音中断)
○島袋純 氏  ……あとのほうは、基本的に経済的自立も、それから政治的自立も、両方とも達成しているというような状況が見えてきますし、それから太平洋諸島では、逆に両方とも危ういような状況。その中でどうにか自立を保っていこうという姿勢が見えるということです。
 それで、規模はそんなに変わらないですよね。マルタが太平洋のところにあってもおかしくないぐらいの面積とか人口とかなんですが、ここまで違いが出たのはどうしてなのか、まずお2人に、その理由について、もしかしたら同じ島嶼研究ということでありながら、こういった島の状況に関してご報告一緒にやって、それでこういう情報交流の機会を得たということは滅多にないですので、お互いの報告を聞いた限りにおいての、どうしてマルタと太平洋諸国、こういった違いの状況が出たのか、これについてお話をいただきたいんですが、よろしくお願いします。
 では、大城先生から。


○大城肇 氏  考えてみなかったことですので、ちょっと難しいなと思っています。

 マルタも、かなり悩みながらやってきたと思っています。おそらく、独立をした経緯が参考になると思います。マルタの場合は、1つはイギリスが経済的に持ちこたえきれなかったという事情があっただろうと思いますし、それともう1つはNATOがあって、マルタは形の上では非同盟中立国ということを言っていますけれども、何かあったときはNATO軍が来てくれるといった政治的な安定性というのがあります。そういうことで、軍事に金をかけなくて済んだというのがあって、経済を中心に運営をしていくということができたのが大きいと思います。

 南太平洋の場合は、そういった形での軍事的な安定性が必ずしも確保されていたかどうかというのは、詳しくはわかりませんが、マルタの置かれている環境は太平洋諸国よりはよかったと思います。

 当時のイギリスは、イギリス病に罹る前ですので、まだ経済力はあったと思います。ただ、経済的にはイギリスはマルタとかなり強い結びつきがあって、距離的にはイタリアが近いですが、文化面とかではイタリアの影響を受けてはいますけれど、経済的には距離的に遠いイギリスが頼りだったというのがあって、政治的な要素も含め、安定的な要素があったのではないかと推測しています。それで、マルタは経済的なところで発展が可能になったという気がします。

 これは逆に、今度、EUに入るときに、なぜEUに入ろうとするのかということで、これには2つ、経済要因と政治的な要因があります。EUに入っていたほうが安全保障面でいいという判断をしていますし、それから経済的には、もしEUに入らなかったときに、EUの枠からはみ出されてしまうと、小さい経済ではEUと対等にはできないという切実な問題があったわけです。ヒト、モノ、カネがEUの中に入ったほうがいいという判断で入った、それを主張していたという背景があります。

 おもしろいことに、マルタの北にゴゾというのがあって、2万4,000名くらいですかね。僕が行っているときに、ゴゾはEUに対して、自分たちも特別地域に指定してくれ、ゴゾだけでもEUに加えてくれということで、自分たちはマルタ本島と違うんだと主張していました。マルタ本島とは違う要素を持っているので、別途扱いしてくれという申い入れをしていましたが、両方とも規模が小さいから一緒にということになりました。

 ですから、1つはそういった政治的・経済的な要因がPIFとの違いであると思っております。あと、松島さんに詳しくお願いします。


○松島泰勝 氏  そうですね、マルタ島と太平洋の島々との違いですけれども、1990年の初めに、世界銀行が太平洋の島の経済を調査しました。調査した後に、太平洋のパラドックスというようなことを言ったんです。これは何であるかというと、1人当たりの経済援助額は多いんだけども、経済成長はほとんど見られない。これは太平洋のパラドックスというふうに世界銀行は呼んだわけです。

 これはなぜかということで、よく引き合いに出されるのは、カリブ海の島々です。カリブ海の島々では、島国が関税同盟を結び、お互いに協力し合って、ある程度の経済発展が見られる。これはアメリカ、メキシコなどのように、島嶼国の周辺に大きな市場が存在するとか、トリニダードトバゴという石油が出る産油国がありまして、それが地域のリーダーとしてまとめるとか、いろんな要素があります。太平洋においては、多くの島々が広大な太平洋に分散しているということ、大きな市場からも遠すぎるというような問題があると思います。

 それから、政治的に言えば、太平洋の周辺には巨大な国が存在する。世界の軍事的・経済的に君臨しているアメリカと中国、そして日本等々が存在する。オーストラリアも存在する。それぞれの大国が太平洋の島国、または海に対してそれぞれの思惑を持ってきたわけです。

 太平洋の島々はかつて植民地でありまして、戦後になりますと今度は原爆の実験場、水爆の実験場にされるとか、大国の思惑に使われてきました。そして、軍事的な利益と経済的な援助金が交換される形で、経済開発、経済発展がなおざりにされてきました。

 戦前、日本が委任統治をしていたミクロネシアの島々は、日本の企業、または日本人または沖縄人が経済利益を得るという形でありましたが、1932年に財政的な自立を達成しました。戦後の信託投資領においては、アメリカは動物園政策(ズーセオリー)ということで、ミクロネシアの島々を外部世界から遮断してきました。自分たちが軍事的に、独占的に利用する時代が非常に長かった。その後に独立を達成したわけでして、経済的な自立を実現する間もなく、独立に追いやられたという面もあります。

 ですから、地中海のマルタ島におきましても、イタリアとかフランスにしても、そんなに遠くないとか、伝統的に地中海が持っている場の力といいますか、ヨーロッパの文明を生んだ場の力があると思います。太平洋においては、非常に広大すぎます。また大国の思惑も複雑です。島の規模も小さく、分散しており、なかなか経済的自立が難しかったんじゃないかと思います。

 そして、今、そういった状況を打開するために、世界銀行、アジア開発銀行による構造調整政策、そして全体的な自由貿易地域によって、経済自立を達成しようという動きにあります。しかしながら、その中で、経済自立が達成されそうなのは、フィジー、パプアニューギニア、バヌアツなどのように、国内に資源があり、国内の中で製造業がある島々だと言われています。ほかの小さな島国は、こういった経済の自由化によって沈没するんじゃないかというふうにも言われています。


○島袋純 氏  どうもありがとうございます。
 ちょっと司会の特権で、あと1つだけ質問させて、その後で会場のほうに振りたいと思うんですが。
 今、2つの島嶼地域の話、対比的に話していただいたんですが、では、沖縄にとってはどちらのほうが、モデルになるといってもどのようなモデルになるかということがあるんですが。マルタの例が、沖縄の独立なり自立なりを考える際に、例えば大きな市場という場面におきましては、ヨーロッパに非常に近いという問題がありますし、沖縄の場合は太平洋の一部ではありますが、もしかしたら大きな市場という面では、日本とか中国とか非常に近いという面があるかもしれません。あるいは、安全保障とそれから経済的な問題と、もう1つは社会文化的な側面。業績主義的な社会なのか、あるいは土地の共同所有という概念が、もしかしたらマルタにはないと。なかった、競争的な社会だったということがあるかもしれません。これはちょっと聞いてないんでわかりませんが。そういった社会文化的な側面というのも、本当は切り離せない議論だとは思います。
 しかしながら、今回、経済学者のお2人なんで、特に、経済的な側面から沖縄の将来を語るときに、例えば市場の問題、それと製造業の発達の問題、沖縄が持つ可能性としては、どちらの面がどのようなモデルになり得るかということについて、お話をお願いします。


○大城肇 氏  これも難しい質問です。僕は、はっきり言ってあんまり南太平洋は知らないものですから。
 マルタとかマン島、そこらあたりは参考になるかなと思っています。経済の構造がよく似ているというのは1つあります。どういう構造かといいますと、モノでの貿易収支ですね。製造業のウエイトははるかにマルタが大きいですが、輸出輸入のバランスを見ると、赤字であるということが共通です。その赤字をどう埋めていくかという点ですが、観光は似ておりますけれども、それ以外は特に国際金融を活用した収益があります。先ほど援助の話がありましたが、マルタの場合は財政的には厳しいですが、外からの援助はもちろんないし、それから借金・ローンも外からのものは4~5%ぐらいしかないんです。ほとんどが国民から借りているという状況ですので、そういう意味では財政もそんなに心配することはないです。貿易赤字を埋めるカネを生み出すところが、マルタの場合は参考になると思っています。

 よく沖縄の場合、金融特区などの調査は必ずダブリンとかへ行きますが、ダブリンもマルタと同じような形態ではありますが、むしろもっと規模の小さいマルタとか、あるいはマン島も同じようなことをやっていますので、そういう小さいところのやり方が参考になるんじゃないかと思っています。

 マルタの場合、僕が調べたときは、約550社の金融関係や保険関係など、オフショア・バンキングに関わっているところがありました。この仕組みはインターナショナル・ファイナンシャルセンターをつくって、そこに切り盛りをさせてうまくやっています。先ほど、マネーロンダリングの話もありましたが、このファイナンシャルセンターと中央銀行のほうでは、極力、マネーロンダリングをしないように監視しながら世界の金を集めています。あるいは国民の資産運用をやるといったところがあって、そういう意味では、南太平洋の場合の産業構造と比較したときは、マルタのほうが参考になると思っております。

 もちろん、南太平洋の場合、水産業とか観光については、沖縄も参考というよりは連携してやる必要があるかもしれませんが、1つの発展モデルとしては、失敗も多いわけですが、それを学びながらいくという意味では、マルタのほうがいいと個人的には思っております。


○松島泰勝 氏  沖縄と、太平洋の島国、特にミクロネシアの島国は非常に似ていると思いますね。歴史的にも、戦前、ミクロネシアは日本の移民統治領であり、日本の移民の6割は沖縄出身者でありました。歴史的な共通性があります。戦争が終わりますと両方ともアメリカが支配する。軍政が敷かれる、支配するという意味でも似ています。沖縄が復帰した後、3次にわたる振興政策が行われて、補助金が投下されてきた。ミクロネシアも独立した後、アメリカから援助金が投下されました。経済計画もあり、経済自立を目指していましたが、両方とも経済自立に至らなかったという面で似ている。沖縄は、2002年から本土との格差是正という看板を取り外して、民間主導による発展というように目標を変えています。

 ミクロネシアにおいても、これまでのような援助金による発展じゃなくて、民間を育てるような形で援助金を使うというふうに、方向性も変わってきています。沖縄とミクロネシアの国々の経済開発の政策の面でも似ている。また、アメリカとの関係においても、軍事基地と経済との交換関係という意味でも類似している。

 ですから、両方ともモデルというよりも、両方の姿をお互い見て、共に学びあうことが重要であると思います。共に協力することも必要です。実際これは進んでいます。去年の島サミットにおいて、パラオのレメンゲサウ大統領が石垣島に行きまして、黒真珠の養殖に非常に関心を持って、石垣島で黒真珠または白真珠の養殖を今始めようとしているわけです。

 沖縄の自立的な経済政策の方法を学ぼうとしている。かえって沖縄のほうがモデルにされているといえます。沖縄も島の政治的・行政的自立性を深める過程でいろんな問題に直面するということが予想されます。その際、沖縄も太平洋の島国が独立に至った過程、自立の道程を学べるのではないかと思います。

 そして、先ほど島袋先生のほうから、太平洋の島国の土地の共有制が市場経済的な競争社会の形成を阻んだという面は確かにあります。IMF、世界銀行等も早く、太平洋の島国は土地の共有制をやめて、土地の私的所有制に変えなさいと勧告しています。そうしなければ、外国の投資も進まないよと言っています。太平洋の島ではそれを変えないというのはやはり、自分の土地を奪われてしまうと自分の存在場所がなくなる、文化がなくなる、歴史がなくなると考えているかもれません。だから、経済的な発展、開発という意味では抑制効果、抑制の原因になっているんですけれども、文化、歴史という面では、太平洋の独自な文化が守られているという面では評価されると思います。

 それから、製造業の発展は、サイパン、パラオ、ヤップ、またフィジーにおいてみられます。フィジーは、沖縄よりも小さな島、人口の少ない島国です。そこでは衣料の製造業が行われており、それがアメリカ市場に輸出されています。ですから、沖縄でも製造業の発展は不可能ではないという意味ではモデルになり得る。

 例えばサイパンには独自の労働法、移民法がある。これらの法律により、労働者を非常に厳しく働かせて、賃金も安くし、安い価格で衣料品を売ることが可能になっています。ですから、経済的には衣料製造業の発展がみられましたが、反面では、アジア人、女性労働者の人権蹂躙という問題もあったわけです。現在は、労働者の訴訟が続き、労働条件の改善もみられるようになりました。

 一方では、サモアに進出している矢崎総業という日本の自動車部品メーカーは、それほど人権無視という問題はなさそうです。1つのモデルになるかなと思います。このケースも抜本的な免税制度が保証されておりますので、オーストラリア以上にむけて輸出できるわけです。ですから、沖縄も自由貿易地域、金融特区にしても、本当に抜本的な免税制度を実施しなければ成功しないと思います。そういう意味では、太平洋の実例というのは参考になるかなと思います。

 そして、太平洋には、先ほどちょっと説明しましたように、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド等々の各市場に生産物を輸出するというネットワークを形成されています。島でいくら生産されても、それを輸出する地域が確定しなければ、発展はないわけであります。ですから沖縄の場合も、島の中で自由貿易をつくっただけではだめでして、それが恒常的に輸出できるための販路を保障するような経済的なネットワークが必要です。このような太平洋諸島の方法から学ぶことが多いと思います。ですから、ある島をモデルにして、それを学べばいいといいうんじゃなくて、いろんな島独自のやり方を取捨選択して、沖縄も学べるかなというふうに思います。


○司会(島袋純)  はい、どうもありがとうございました。
(テープ1本目終了)
……これは本当に沖縄経済学会と沖縄法政学会が非常に協力し合って、今後、本当は勉強し合って、お互いに意見を言い合わなくてはいけないと思うんですが、現在のところ自立と自律が両方うまく結びついていないというふうになりますので、本当にこの関係は非常に勉強していきたいところがあるんですが、これはまた最後にお2人に聞きたいと思います。
 質問は、どなたに対しても、お2人に対しても結構ですので、お願いします。


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