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ちょっと本を作っています
第十章 出版業界こぼれ話
第十章 出版業界こぼれ話
■書名に悩む出版社
本を作ったときにつける書名って、すごく大切ですよね。
「著者の知名度と書名だけで本は売れる」といった出版経営者がいました。
十数年ほど前から、つぎつぎとベストセラーを生みだしている出版社があります。
それまでの本の書名の常識をくつがえし、長い書名をつけている出版社です。
この出版社の営業マンに聞いたのですが、書名会議ってのがあるそうです。
編集と営業と社長とが、いつもケンケンガクガクとやっているそうです。
企画会議は簡単に終わるのに、書名会議のほうは真剣そのものだそうです。
何回も、同じ本が議題にのぼるのが普通だと聞きました。
そのために、本のほうはいつでも印刷・製本に回せるのに保留です。
書名が決まらないために、そのままになることもあるそうです。
「一年以上前の分だってあるんですよ」
その出版社の営業マンが、自嘲気味につぶやいていました。
アマゾンや楽天ブックスなどインターネット上の本屋さんで、本を買う人も増えてきました。
検索にかかりやすくて本の中身を象徴する書名はますます重要です。
■書名へのこだわり
はるか昔、青春出版社の創業社長の小沢さんにお会いしたことがあります。
この方はすでに故人で、別に悪い話ではないので実名でご紹介します。
この方も、書名には徹底的にこだわった人です。
ちょっぴり我が強くて、「この会社はオレの会社だーァ。人には指一本触れさせるものかーァ」ってところもありました。
同じようなこだわりを書名にももっていました。
本の命は書名をつけることによって吹き込まれると考えていたようです。
書名案はスタッフからもださせますが、最後に決めるのはいつも社長です。
それも、ようやく決まって、カバーデザインの発注を済ませたとします。
それなのに「これにする」と別の書名をいいだすことも日常茶飯事でした。
長い書名の原型は、青春出版社の「コスモポリタン」や「セイ」かも知れません。
たぶん、この雑誌の長~い見出しが原型なのでしょう。
だとすると書名にこだわる出版社は、長~い書名にする傾向があるようです。
■書名だけの本の話
これもいまから三十年くらい前のお話です。
企画会議の話です。
私の勤めていた会社の専務が、企画会議の席で雄たけびをあげました。
「もうこうなったら、中身なんて白紙でいい」
「書名とカバーデザインさえできていて、本の体裁さえ整っていりゃいい」
新刊がでなくて、営業本部長を兼ねる専務がプッツンしてしまったのです。
編集者はみんな小さくなっていました。
そうしたら、でたのです。本当にでたのです。中央公論社から。
数カ月もしない内に。
上製本の本の体裁を整えた、白紙の本です。
中身が真っ白な本です。
それが売れました。
自分一人だけの本として歓迎されたようです。
日記帳として使った人もいれば、自分史を書き込んだ人もいたようです。
専務は、ショックのあまりもぬけの殻となってしまいました。
書名一つで本の売れ行きが変わる。
誰もが分かっていることです。
でも、なかなかコレっていえる書名は見つかりません。
インパクトが強くて、さらにその本の中身を連想させる書名。
さらに読者がその本を持ち歩いているときのステータスシンボルにもなる書名です。
書名を決めてから執筆依頼をする出版社も増えてきました。
あなたもまず本の書名を考えてみませんか。
自ずと筆も進むと思います。
ただし中身も書名に相応しい内容にしてください。
羊頭狗肉では読者にそっぽを向かれますよ。
■月末は新刊ラッシュ
皆さんはお気づきでないかも知れませんが、月末近くになると、書籍の新刊ラッシュです。
これには二つの理由があります。
まず一つ目は、月末から月の頭にかけてが、一番本が売れる期間だからです。
理由は単純です。給料日のあとってお財布のひもが緩むからです。
雑誌はともかく書籍については二十五日すぎが一番売れるという統計もでています。
二番目の理由が請求書の締め日の問題です。
出版社と出版取次の伝票の多くが二十五日締めなのです。
二十六日に納品すると清算時期が一カ月づれてしまいます。
■月末への集中は、これからも避けられない
中小企業の多い出版社では、この一カ月の遅れは大変です。
無理をしても毎月二十五日までには納品しようと必死です。
古い出版社は月二回締め日があります。
十日と二十五日です。
月二回締め日のある出版社だって、本が一番売れる月末を狙います。
締め日近くなると、出版取次の窓口は見本を抱えた出版社の人で埋め尽くされます。
ところがここで、別の問題もでてくるのです。
■月末の新刊ラッシュの弊害
物流には限度というものがあります。
一番物流の多い日に合わせて、配送システムを組むわけにはいきません。
出版点数の多い日には、一点当たりの取扱い部数を、削減せざるを得ません。
月中の十日すぎだと千冊引き受けてもらえた本が、締め日前なら五百冊に削減です。
それでも資金繰りに追われる出版社は、締め日直前に殺到します。
出版取次からの新刊委託配本に依存している状況では、やむを得ない現象です。
ロングセラーが少なくなりました。
売上げのほとんどを新刊に頼る状況です。
新刊の売上げだけで採算を考えるなら、締め日をめぐる攻防はこれからもつづくでしょう。
私の考える個人出版、一人出版社は逆に、締め日を避けたほうがいいと思っています。
何も無理をして競争の中に飛び込む必要もありません。
瞬間の売上げや資金繰りよりも、じっくりと売りつくす方法を考えるべきです。
■年間を通してみると同じことが
発売日が毎月月末に集中するのと同じことが、一年のサイクルでも見られます。
「ニッパチ」といわれる二月と八月は、確かにすべての商品の売上げが落ちるようです。
さらに出版業界では、この時期に本屋さんの棚卸が集中します。
棚卸の前には商品の仕入れを少なくして、在庫調査をやりやすいように調整します。
だから二月と八月にあまり仕入れてもらえないのも、やむを得ません。
問題はそのあとです。
三月と九月です。
新刊が集中します。
最近は株式市場に上場する出版社も増えてきました。
さらに決算書を見る銀行の目も厳しくなってきました。
決算月の三月と九月には、売上げに下駄を履かせてでも、数字を上げようとします。
こんなときや年末の新年号の雑誌などが集中するときは、高みの見物です。
自分で作る本の出版時期もいろいろと考えたほうがいいですね。
行き当たりバッタリではダメなのは、いうまでもありません。
出版後記へとつづく
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