オトキチ日記

国際親善展覧館 本館

北朝鮮旅行記4日目

国際親善展覧館 本館


ホテルのまはりを李さんと散策してから、国際親善展覧館へ向ふ。

金日成主席と金正日将軍への世界中からの贈り物が展示されてゐる館とやら。

そりや外交儀礼で贈り物くらゐはわんさか貰ふだらう。
しかしなぜそれを展示する? その神経が分らない。
謙譲とかいふ考へはないのか?
しかし、そんな素朴な疑問は現物を見てぶつ飛びました。
私の考へが甘かつたです。たしかに世界は広い。私のささやかな常識は砕け散りました。

途中にキャンプ村があるとかで、小中学生らしい集団が大勢ゐた。
観光客の姿も多し。昨夜はホテルに私らだけだつたはずなのに、こんな山奥にどこから湧いてきたんだ?

国際親善展覧館に着く。
警護の軍人さんわんさか。
気合入つてゐます。

国際親善博物館

<左が金日成主席宛ての贈り物の展覧館。右は金正日将軍宛ての別館。この写真はパンフレットをデジカメで
撮影したものです>


正面の扉は重さ2tだかある代物とか。それを開けてみろとのこと。
簡単に開く。
「2tもあるとは思へないでせう」と現地ガイドさん。
なぜこんなことが自慢になるのか、分らない。

ちなみに団体客が来てゐたが、かれらは建物横の入口から入つていつた。正面正門から入るのは特別待遇の
やう。
正門両脇には機関銃を携へた軍人さん2名がこの暑さの中微動だにせず。大したもんだわ。

中は撮影禁止。ま、日本でも博物館とかは撮影禁止が普通だものね。
靴カバーを履いて中へ。
聖なる建物には俗塵は入れぬといふことか。

地下といふことで涼しい。通路は広く、両脇には写真が壁画のやうに飾られてゐる。
「主席へ贈られた動物や植物を写したものです」
なるほど。
照明は暗めだが、不自然なほどではない。

まづ、最初に通された部屋でたまげた。

金日成主席が椅子に坐つた彫像がでんとある。
ポーズはリンカーン大統領の像を想像してください。
あんな感じ。
しかし、とにかくでかい。
白つぽい石で出来てゐたが、そのでかさに開いた口がふさがらず。
まるでこちらは足元にへばりつく蟻のやう。

そして贈り物の数々を見て回る。

あるわあるわ。

そりや各国からの公式な贈り物だからね、世界にひとつといふやうなものがぞろぞろ。
でもさ、それは贈つた側の技術やら経済力やらの凄さの証明といふことにはならないのか?

しかし、その辺の感覚が違ふのね。

「これは世界にひとつしかありません」
さういふものを「贈られた」金日成主席はなんと偉大であるのか、金日成主席が偉大であるからこのやうな
ものが贈られたのだ、さういふ論理で全てが語られるのである。

世界地図に電光板があつて、贈つてきた国の所在と数、贈り物の数が表示されてゐる。日々増えてゆくとい
ふわけだ。

自動車も、クラシックカーマニアなら涎を垂らしさうなのが並んでゐて、客車まで陳列してあつたのには
驚き呆れた。毛沢東から贈られたとか。

「これらの贈り物はすべて人民のものである。さう金日成主席は仰いました。それで主席はただの一つも
自分のものとはせずに、すべてをここに公開したのです」

はあ、さうですか。
そのためにこんな大層な展覧館を建てましたか。
その維持管理に人と金とエネルギーをしこたま費やしてゐますか。

その分の労力を道路やら発電所やらを作ることに向けるはうが人民のためにはならんのかい?

「シリアの大統領はここを訪れて、世界中にこのやうなところはない。ここは世界で唯一の場所
だと仰いました」

はい、私もさう思ひます。世界中にこんなところはありません。こんな無駄金を遣つてゐるところは。

「日本からもたくさん贈られてゐます」
「これは金丸信さん、これは海部さんですね」あたりまでは、ほうほうと聞けたが、だんだん怪しくなつ
てきて、
「これは野田さんです、野田さん知つてゐますか?」
チュチェ思想なんたら会の野田さんらしい。知るわけがない。

「こちらは山田さんですね。山田工業の社長さんです」
知らねえつて。
どこの町工場だ?

全てを公開してゐるといふだけあつて、中には怪しいものもごろりごろり。

「祈願文」とか書かれた書が額に掲げられてゐるが、これつて、ただ書いただけぢやないの?
名のある書家の作といふわけでもなく、贈り主がただ書いただけ。

TV、ステレオ、パソコン、プリンターまで飾つてある。
人民のために使へよ。

ゴルフクラブセットが展示されてゐて、ゴルフボールにティーまで美々しく並べられてゐた。
かういふものまで1点と数へてゐればそれは20数万点にはなるわなあ。

しかし、一番呆れたのは、ぢやぢやぢや~ん、セイコーの掛け時計であつた。

宝飾時計でもなんでもありません。
そこらの事務所の壁にかかつてゐる、普通の事務用の、なんの変哲もない、ただの時計がショーケースの
中にござんした。

こんなものを贈るはうも贈るはうだが、それを展示しますか、あなたは?

博物館2人

<最上階の休憩所で現地ガイドさんとキムさん。キムさんのはうを撮りたかつたのに、あまり
上手く撮れなかつた>


頭がぐらぐらしてきました。

最後に「おや?」と思つたものについて。

新聞記事を銅版かなにかのレリーフみたいにしたものがあつた。
日本語で書かれてゐる。

「これは金日成主席の抗日闘争を報じた当時の新聞から作つたものです」

なるほど。
しかしその見出しは

「郵便局襲撃さる」

小見出しには

「金一成一派の仕業か」

その余の記事は細かくてよく読めない。

ここで思つたこと。

1「郵便局襲撃」が「抗日闘争」かい? せこくね?

2 金日成は元は「金一成」だつたのか?

1については、所詮は元は馬賊か愚連隊の類ひだつたことをはからずも証明してゐるやうに思ふ。

2については、この記事だけからの印象だが、案外さうだつたのではないか?

金日成については肖像画などでもやたらに「太陽」が描かれてゐる。
つまりは、「日」の文字を自分の名に入れることは、自分が太陽の子であるといふやうな「伝説」を
支へるひとつのファクターとなる。
「金一成」よりは「金日成」のはうが英雄らしい名前である。
さう考へて改名したのではないだらうか?


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