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Midnight waltz Cafe
1st Dance -第5幕-
第5幕 月下の魔術師
6月13日午後11時59分、ニューセントラルデパート
「あと1分か。」
真理がつぶやく。
・・・そして、6月14日午前零時。
一瞬、暗闇が訪れた。気づいた時には『晴天の霹靂』は無くなっていた。そして窓には満月に照らされて、『2つ』の宝石を持っている怪盗の姿があった。左手には『晴天の霹靂』、右手には・・・『誘惑』!!
「どうして2つも盗んでいるの?」
真理は、警備の中で盗まれたショックよりも怪盗が予告状以外の物を盗んでいたことに、よりショックを受けていた。
「怪盗が、予告どおりにしか動くことは不思議ではないのですか?」
怪盗は問う。
「確かにそうだけど、あなたは自分のためには盗まないはずよ。その宝石も贋物と知っていて、誰かに頼まれて盗みにきたのでしょ。」
「ほう、真実を求めると豪語しているだけのことはある。これが贋物とよく分かりましたね。」
「今度こそ教えて。何故他の宝石を盗むの?」
真理が、怪盗チェリーに近付こうとした時。
「怪盗チェリー、久しぶりだな。」
突然の声の主は、青木であった。
真理がふと周りを見ると、この3人以外はみんな眠っているようである。
「あれからもう2年ぐらいか?お前が私の宝石を盗みかけてから・・・。しかし生きていたとは驚いた。あの女刑事と一緒に崖から海へ沈めたつもりだったが。」
「女刑事?どうして刑事まで・・・?」 真理は混乱気味に聞く。
「私のことを調べていたからさ。」
「調べられたらやばいことをか!」 涼の声には怒りがこもっていた。
「お前は、本当に怪盗チェリーか?」
青木は尋ねる。
「お前は・・・お前の名前は本当に青木か?」
涼は、青木の質問に質問をぶつけた。
「面白い答えだ。・・・確かに私は青木ではない。」
「・・・・・・蒼波(あなみ)だ。」 彼はそう告げた。
彼の告白を聞き、真理は叫ぶ。
「あなみ・・・まさかあの蒼波銀行の。 まさか、私の母を殺したのは、あなたなの?」
真理の声には怒りと悲しみが混じっている。
「!? 確か君は探偵のかみお・・・」
「母の残したメモには、蒼波銀行の不正という文字があったわ。ただ蒼波って言う人が、今まで見つからなかったけど。」
真理の声には、悲しみしか聞こえない。
「かみお・・・、どこかで聞いた名前だと思っていたが。あの時怪盗チェリーの女と、一緒に高崎湾へ沈めた女刑事の名前か。」
「・・・高崎湾。そうか、思い出した。約1年前、高崎湾で2人の女性が死体で見つかった。1人はすぐ身元が分かったが。もう1人は顔がつぶれていて誰かまでは分からないという事件があったっけ。」
涼は、つぶやく。
「身元が分かっているのが、私の母?」
少し落ち着いてきた真理である。
「そしてもう1人が怪盗チェリーか。答えろ!何故姉さんを殺した!!どうして姉さんを殺したんだ!!!」
涼の声は、飾りがない。
「そうか、お前はあの時の怪盗チェリーとは別人か。 しかしまさか後継者がいたとはな。いいだろう、教えてやろう。その『誘惑』について女刑事と怪盗が調べていてな。なんとか捕まえて縛っておいたら、その2人が手を組んで逃げ出したからな。追いかけて・・・今度は薬を嗅がせ海に沈めた。裸にしてな・・・。クックック・・・ハ―ッハッハッハッハ。」
その蒼波の笑いの後、沈黙があった。
「それ以上くだらないことを言ってみろ。 お前を・・・殺す。」
涼は完全にキレていた。
「殺せるのかね?もし俺を殺せばその『誘惑』の真価は何も分からないぞ。」
「こんな宝石の価値など、関係ないな。」
「そうか、ならば・・・」
バーン、 蒼波は、ピストルを撃ってきた。
「・・・お前たちには死んでもらう。」
その蒼波の声にあわせて、涼は何かしたようだが、誰にも何をしたか分からない。
「まずは探偵さんから逝ってもらうか。」
蒼波はトリガーを引く。 その瞬間・・・・・・・・・。
銃が暴発したのであった。蒼波は自分の銃で自分を殺してしまったのだった。
(もちろん涼が仕掛けたからである。本人以外は何も知らないが・・・)
「さて、それでは私は帰るとしましょうか。まぁ、これで探偵さんは真実を知ることができたようですね。」
涼は、怪盗チェリーとしての普段の口調に戻っていた。
「あなたの言った通り、知らないほうがよかったのかもね。」
「これで、探偵さんは探偵を続ける理由がなくなったということですか?
「あなたは怪盗を続けるの?真実を知った今でも・・・?」
「当然、続けますよ。私は真実を知るためでなくて、誰かの助けになるために怪盗を続けているのですから。」
「なら、わたしも辞めないわ。探偵を。そしていつかあなたを捕まえて見せるわ。まぁ、今日のところは見逃してあげるわ。」
「そうですか。私を捕まえるなんて無理でしょうが、ま、せいぜい頑張ってください。それでは、また会う日まで・・・Good Luck!名探偵君。」
-こうして、「深夜の舞踏会」の幕はあがった。
その日の朝刊には間に合わず載らなかったのだが、朝のワイドショーでは、ニューセントラルデパートの宝石展での詐欺行為、蒼波銀行頭取の突然の発砲による自殺・・・・・・と、いろいろ報道されていたのだった。
涼は雪絵に、この深夜にあったこと、聞いたことのすべてを話していた。何一つ隠さずに・・・・・・
「記憶の中では、ずっとお姉さんは生きているよ。私たちが忘れない限りはね。」
話を聞き終わった雪絵は、真剣な表情でまずそう言った。
「ありがと、でもこれで、俺は・・・」
涼の泣いている姿を見て、強く雪絵はこう言った。
「・・・あなたの心の痛みの半分は、私が持ってあげるよ。だって私たちはふたりで怪盗チェリーなんだから」
「本当にありがとな、雪絵。 ・・・・・ 」
涙交じりの最後の言葉は、あまりにも小さく雪絵には届かない。
「え、何?なんて言ったの?」
何と言ったか、聞こえず雪絵は本気で聞き返す。
「なんでもねぇよ。」
涼は、涙を拭きながら、笑っていつもの口調で言い返す。
「そう、まぁいいわ。あ、今日は日曜日よね。どこか行こうよ、涼。」
つまらないといった表情を最初見せるも、切り替えたように雪絵は提案する。
「どこへいくんだよ。」
もう涼は、泣いていなかった。
「どこでもいいんだけど・・・そうね、そうだ。行きましょ、いつものあの場所へ・・・」
そう言って、雪絵は涼の手を取り、走り出す。
「おい、引っ張るなって。」 少し照れながら涼は、走る。
「いいじゃない、ね。」 笑顔の雪絵。
-遠い昔からあるやわらかな風が吹く丘・・・・いつもそこから見える蒼い空の下・・・・舞踏会の主演の2人は・・・・。
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