Midnight waltz Cafe 

3rd Dance -第3幕ー




2月12日 午後10時 いつもの町外れの教会
涼は、怪盗チェリーとして立っていた。
「ねぇ、ほんとに行くの?」
雪絵は、心配そうにたずねる。
「ああ、そのつもりだよ。」
のんきに涼は答える。
「どうして、涼が予告状出したわけじゃないでしょ!」
実際、涼はエドワードに予告状を出していなかったのだが・・・
「間違いなく、マリー・ローズが出したんだろうな。それが?」
「そんなの、絶対に罠だよ。」
「だいじょうぶだよ。心配するな。」
涼はそう言って、雪絵の頭をポンポンとなでる。
雪絵は、「涼、あなたの大丈夫ほど心配なものはないんだけど・・・」と、思ったが口にはしなかった。そのかわり一言誓ってもらうことにした。
「だいじょうぶ・・・だよね?」
「絶対に大丈夫だよ。」
そう言って、涼は雪絵を抱きしめる。
涼は抱き締めてすぐに離れ、走っていった。
そして、東都キャロルミュージアムへとむかうのであった。

涼が出て行き、少ししてから、雪絵が家に戻ろうとした時、突然教会の扉が開く。
「こんばんは。・・・滝河君は行ったの?」
来客は真理であった。
「うん、行ったよ。」
「そう、遅かったのね。」
真理は、何かを取り出す・・・・・・・・・。

       2月13日 午前零時
怪盗チェリーは、東都キャロルミュージアムに現れる。
しかし・・・・・・
誰もいない。
(おかしいなぁ、誰もいない。そんなわけないのになぁ。)
部屋を片っ端から開けていったが、やはり誰もいない。
(あとはこの大ホールだけなんだけどな。)
そう思い、大ホールへ入ると、そこにはエドワードと、もう1人日本人のような男がいた。
エドワードが何か英語で、隣の男に話すと、その男が・・・
「君が怪盗チェリーか?」
その男が、話しかけてきた。その様子から考えて、どうやら通訳のようだ。
涼が黙っていると、通訳の男が「君の持っている誘惑の水晶を渡してもらいたい」と、言ってきた。
「嫌だと言ったら?」
涼は、そう答える。
エドワードが何か言おうとしたとき、大ホールの窓ガラスが一斉に割れた。
そして、マリー・ローズが姿を現す。しかも・・・
しかも、驚くことに、その手には虹の水晶があった。
それを見たエドワードが英語で叫ぶ。マリーは英語で何か答えてるようだ。

そして、マリーはゆっくり涼の方へ振り向くと、突然日本語で話しかけてきた。
「お久しぶりです。逢いたかったわ。ところで誘惑の水晶を渡してくれる気になってくれたかしら?」
「以前も言いましたが、お断りします。」
「そう、なら仕方ないわね。あのお嬢さんがどうなってもいいのね?」
マリーは、自身ありげにそう言って、外へ飛び出す。
「待て!!」
涼は、後を追いかける。
ミュージアムから、数百メートル離れたところでマリーは止まった。
「さて、そのお嬢さんとは誰のことですか?」
「誰だと思う? でも今は季節外れの花火を一緒に楽しまない?」
「季節外れの花火・・・?」

    ドーーーーン!!!!!

涼の言葉と同時に、東都キャロルミュージアムが爆破した。
「マリー・ローズ、まさか君が?」
マリーは、どこか冷めた瞳で、炎に包まれたミュージアムを見つめている。
「そうよ。私がエドワードごと、あのミュージアムを爆発させたわ。でもあなたが私を追いかけてきてくれてよかったわ。あなたまで死んでしまうところだったのですから。」
「水晶のためか?」
涼の声は、激しい怒りがこもっている。
「それもあるわ。」
「それも?」
「何でもないわ。」
「マリー、君は何をたくらんでいる?」
「別に・・・」
「それは、嘘だな。『あのお嬢さん』と思わせぶりな台詞を言って、俺の気を引き、外に連れ出して、エドワードだけを狙った。どう考えても計画的だが?」
涼は、いつもの口調に戻りつつあった。
「違うわ。思わせぶりじゃないわよ。」
「まだわからないのかしら?思わせぶりじゃないってことは、本当のことに決まってるでしょ。
怪盗チェリーさん・・・・・・いえ、滝河 涼君。」
マリーは、悪魔の微笑でそう言った。

「・・・・・・」
涼は、明らかに動揺していた。
「どうしてあなたの正体を知っているか知りたそうな顔ね。簡単なことよ。あなたの仕事が、ほぼひとつの都市に集中していること。盗んだものはすぐに誰か・・・本来の持ち主って所かしら? 怪盗チェリーさん、いえ、涼君って呼んだ方がいい?」
「どうぞ、お好きな方で。マリア・キャロルさん。」
「クス、セレモニーの時に気づかれたのかしら。いいわ、あなたがその名前で呼びたいなら、マリアって呼んでもいいわ。私もそうさせてもらうから。」
「・・・・・・」
「話がそれたわね。涼君、あなたの怪盗の腕はなかなかのものよ。だけどツメが甘いわ。あなたが届けた本来の持ち主たちは、みんなある教会で女の子と話をしたって言うのよ。その女の子にしか、話をしていないものが帰ってくんですもの。みんな不思議がっていたわ。」
「マリアさん、あなたの言うお嬢さんって・・・」
涼の声には、あせりがあった。
「マリアでいいって言ったのに、まぁいいわ。・・・あなたのご想像通り、教会の女の子・・・高瀬雪絵さんよ。」
「雪絵をどうした!!」
涼は、大声で叫ぶ。
「まだ何もしていないわ。ちょっと閉じ込めているだけ。でもこれからはあなた次第ね。」
「水晶を渡せ・・・か。」
「そういうことよ。この前言ったでしょ。どんな手を使ってでもあなたから水晶を奪うって。」
「くっ・・・」
涼が、悩んでいろところに、マリアは追い討ちをかける。
「どうする?最愛の彼女と水晶を天秤にかけるの?かけるまでもないでしょ?」
その言葉を聞き、涼が何か言おうとしたその時・・・

「やれやれ、雪絵ちゃんが本当にさらわれたかどうか調べるのが先ではありませんか?涼君。」 そう聞こえた。
「誰!?」
マリアが叫ぶ。
声の主が、ゆっくりと姿を現す。
「マリー・ローズさん、あなたは本当に雪絵ちゃんを誘拐したのですか?」
現れたのは、スーツ姿の楓であった。
「どういうことだ、楓さん!」
「涼君、少しは落ち着いたらどうです。あなたは、この女性が雪絵ちゃんが誘拐されたところを見ましたか?」
「い、いや、見てない。」
「でしたら、本当に誘拐したかどうかなんてわからないでしょう?実は彼女がそう言っているだけかもしれませんし。」
「なるほど・・・」
涼は、感心している。
「単純な言葉のトリックですよ。」
「トリック?」
「そうです。相手を動揺させて、無いことも有ることのように見せかける。もっとも本当に誘拐している場合も考えられますが。そうでない可能性もないとはまだ言えませんので。」
楓は、淡々と説明する。
「そういう考え方もあったわね。気づかなかったわ。証拠がなければすぐに信じられないのも当然よね。でも、教会に行って、いなければ信じてくれるでしょ? 教会に行けば、全てわかるわ。それじゃあ、待ってるわね。」
そう言ってマリアは、消えていった。
マリアのいた場所には、また薔薇の花吹雪が舞っている。そう可憐なほどに・・・

「ちっ。」 
涼は、教会へと走って行く。

「やれやれ、まだまだですね。涼君は・・・。それとも雪絵ちゃんが危ないと思ってよく周りが見えていないのか・・・。どう思いますか? マリー・ローズさん?」
 楓は、誰もいない闇夜にそう語る。

「・・・・・・どうして、私がまだここにいることが、わかったのかしら?」
消えたはずの、マリアが現れた。

「マリー・ローズさん、あなたは普段、わざと目立つ赤い衣装を身にまとっていますね。それは、『マリー・ローズ=赤』の図式を成立させるためですね。そうすれば、消える時に黒い衣装に変えれば、マリー・ローズの存在を消してくれますかね。この夜が・・・。
そして、この薔薇の花吹雪が、さらに注意をこちらにそらすための細工ですね。
なかなかのトリックですが、涼君は騙せても、私は騙せませんよ。」
楓は、冷静に説明している。
「あなた、いったい何者なの?」
マリアの顔は、少し青ざめている。
「ただの作家ですよ。ただ・・・元怪盗チェリーですがね。」
楓は、笑いながら答える。
「そう、あなたが初代怪盗チェリーの一人なのね。・・・いつからここに来てたの?」
「季節外れの花火からですよ。」
「・・・気づかなかったわ。」
「まぁ、一応引退したとはいえ・・・プロでしたからね。」
楓は、くすくす笑っている。
「・・・そのあなたにお願いがあるわ。」
マリアの瞳は真剣である。
「なんでしょうか?」
「明日は、明日だけは・・・邪魔しないでくれないかしら?」
マリアは、そう言う。
「ご心配なく。もともとあなたたちの邪魔をする気はありませんでしたよ。あまりにも涼君の修行不足が目に余ったものですから、つい現れただけですから。
それよりも、あなたは何を企んでいるのですか?言いたくないのなら、別にかまわないんですが。」
「私は・・・」
マリアは、何かを言おうとした時
「・・・・・・・・・・・・ですね?」
楓が何か一言言うのだが、冬の凍える風が言葉を2人だけの物にする。
その言葉を聞き、マリアは、本当に姿を消す。


その頃、涼は教会にたどりつき、そして愕然としていた。
マリー・ローズの言ったとおり、雪絵の姿はない。
そのかわりに、一切れの紙と地図が置いてあった。
紙切れにはこう書かれていた。


          親愛なる怪盗チェリーさんへ
あなたの大切な 高瀬 雪絵 嬢を無事に返して欲しいのでしたら、2月14日の午前零時に、私の指定する場所に「誘惑の水晶」を、1人で持参すること。

                                               Mary・Rose


涼は、その紙を強く握り締めていた。



そして2月13日 午後11時・・・
涼は、暗い教会に、怪盗チェリーの姿をして、1人で立ち尽くしていた。
もちろん、「誘惑の水晶」を手にして・・・・・・
「さて、そろそろ時間だな。待っていろよ、雪絵。今行くからな・・・」
涼は、そう言って教会から出て行く。
向かうは・・・・・



―涼は愛する雪絵を守るために、淡く儚い桜の華となる。

          そして、最後の舞踏会のすべては・・・・・・・




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