帰って来たかえるのへや

その14)04月10日記




アカネはアキラの敵意をようやく感じ取って
反撃をするようになってからは
さすがに今までのようにアキラと一緒には眠れなくなった。
眠っている間に更なる復讐を食らってはいけないからだ。
攻撃すればアキラに勝つのはいいが、
アカネにとって睡眠中も続く厳しい緊張状態が始まった。
以前の彼女には睡眠中は覚醒時のフラストレーションも確執も
「なかったこと」に勝手に切り替えた安息があったのに。

多分そのせいだと思う。
奇行が始まった。
夜間1階のあちこちに下げてあるタオルを引きずり落としては
銜えてあちこち持ち運び、それに体を擦り付け
さかりのような異様な声を上げる事を延々繰り返す。
アカネはうまく生き物と付き合えなかったが、
だからといって1人で平気な子ではなかった。
分離不安は以前から強かった。
アキラを挑発して追いかけっこのおつき合いを強要?した。
アカネの中にある愛情欲求をアキラで満たせなくなった今
こうした形でやむなく折り合いをつけているのは哀れな事だったが、
それでもそれなら何故わたしにもっと心を開いて甘えてくれない?と
情けなくて情けなくて仕方なかった。

彼女がわたしにせよアキラにせよ、嫌いなら嫌いでそれはいいのだ。
それなりのテリトリーを作り、お互い安全を保てる距離を取ればいい事だ。
そして比較的関係が良さそうに見えるゴウ(犬)にでも行けばいいし
お外解禁になった今なら何なら他所宅でも選べるのだ。
が、彼女にそういう気があるわけでもなかった。
...他の誰かに懐けるようならそもそもアカネの障害論など出ない。

いくら関係が悪そうに見えても昼間はアキラと昼寝したくて、
夜はKaeruの腋に入って眠りたい子だった。
これでもアカネは猫に来てもらえず寂しがるオットでなくて
両腋に猫を抱えて身動きできず、ちょっと邪険に扱うKaeruを
同衾相手に選んでいたのだ。
もっともわたしの顔を見ないように、
けしてわたしをこころに容れないように?
どんどん顔元に引っ付いてくるアキラと違って
ずっと下の腰のあたりにもぐっていたけどね(T_T)。

アキラはアカネを心底憎んでいたか?
でもアカネが亡くなって寂しそうな素振り、
左右の目の大きさが変わるような変調を見せたのはアキラだった。
一見仲が良さそうだったゴウの方はまったく変化を示さなかった。
マイペースなゴウはアカネが自分に実害を与えないと言う一点だけ把握したら、
アカネの粗暴な振る舞いに気持ちを乱す事はなかった。
が、アカネ亡き後のゴウの態度を見ると、
納得がいいだけかもしれないが、もともとアカネに
「生きている猫オモチャ」以上の関心がなかったのではと
Kaeruには見えてしまうのだった。

アカネは淋しげな様子と乱暴な挑発で相手を片手で引き寄せる一方で
もう片手では突き放し、突き倒すような行動をして
さんざんわたしとアキラを翻弄した。
わたしと多分アキラは愛憎交錯した感情に振り回されまくった。
アカネの意のままに踊らされていたんだろうか。
アカネも実はそんなわたし達に影響を受けていたんだろうか。
アカネ自身は何に踊らされていたんだろうか?

特に裏付け理論があるわけではないが、
初期にアカネに振り回されたのはアカネの世界を知り、
共有する上で大切な時期だったとKaeruは思っている。
が、その後自分が知っている別の世界、別の可能性を
彼女を引っ張って来て見せてあげる事はKaeruにはできなかった。
自分自身が戻れなくなっていた。

そんな私達の関係の中であの事故は起こった。




© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: