ゆかいなカメライフ

土地を購入するまで



2002年の秋まで我が家はまったく家を建てるつもりもなく
一生賃貸生活で十分という考え方であった。
しかしながら年々デカくなるカメたちのことを考えると
現在の日当たりに問題のある庭のテラスハウスでは
近い将来に限界が来ることは容易に予想がついた。
夏ごろから庭付きの日当たりの良い「賃貸の」一戸建てを探して
かなりの時間を費やし、10月に入ってとうとう条件に合致する
好物件に出会ったのだが
大家さん側の身勝手な理由から引越日の1週間前にキャンセルにあうという
ハプニングに見舞われてしまった。
半年以上探しに探してやっとたどり着いた物件だったので
我々もかなり落胆してしまった・・・。
その後気を取り直してまた賃貸を探し始めたものの
やはり簡単には見つからず、これは!と思っても
日当たりに問題があってやはりダメだったりで
もうこの地域の不動産屋のブラックリストに載ってもおかしくない程
探しに探して疲れ果ててしまっていた。


その週の週末の新聞広告に
お流れになってしまった賃貸一戸建ての近所の場所の
新築建売の売り出し広告が目に留まった。
やけっぱちの暇つぶしで(?)ダンナとチャリでふらりと行ってみると
案の定待ってましたとばかりに営業マンが愛想よく出てきた。
体育会系の「いかにも営業!」という感じの男性が
どうぞどうぞと中へ案内しようとしてくれたが
我が家はまずカメのための庭を最初に見なければならないので
「庭はありますか?」と尋ねた。
広告では南側に広い庭とあったのだが
実際見てみるとあまり広くもなく
前に家が建ってしまっている場所で日当たりも良くなかったので
家の中をほとんど見ないままに
「すみません。うち、ペットを飼ってるんで
日当たりのいい庭がないとダメなんです。」と言って帰ろうとした。
すると「何を飼っているんですか?」と聞かれたので
「大きいリクガメなんです。」と答えると
「えーーっ!ここのお隣を買う予定の方も大きなリクガメを何匹もかっているんですよ!」
と言われてその後家の説明をほったらかしにして
近所に住むそのリクガメを飼ってるお宅に案内してくれた。
結局そのお宅でカメのはなしばかりをして帰ってきてしまったのだが
営業マンの人たちはまったく家のことを説明しないまま
私たちを帰してしまったことになった。
その翌日家のポストにその不動産会社R社の営業マンからの手紙が入っていて
その後その営業マンから頻繁に電話が来るようになった。
はじめはちょっと迷惑な気もしたし
家など買えるはずもつもりもなかったので
あまり乗り気でもなく話をしていたが
家を買うにあたってのいろいろな基礎知識のようなものを
かなり詳しく話してくれる人だったので
今後何かの役には立つかなというくらいの気持ちで話していた。
話しているうちにその営業マンKさんの人柄が
結構信用できるなと思ってきたので
家に説明をしにきてもらったが
実際会ってみてもっと中堅の男性社員の人なのかなと思っていたところ
大学を出てまだ数年の25歳。
キムタクを素朴にしたような端正なルックスで
それでいて実に真摯な対応ぶりだったので
そんなにイイ男好きでもない私もついつい心を許してしまった。(笑)

そうこうしているうち
そのR社が手がけた建売を見てみませんかという誘いがきたので
ダンナと一緒に出かけてみることになった。
片瀬山で土地が50坪以上ある新築物件は
広くて明るい家だった。
キッチンやバスなどの設備もたぶん普通よりグレードが高いと思われる仕様であったし
なにせはじめてみる物件だったので
「わぁ~!」とか「すごーい!」の連発だけで
今から思うとあまり冷静に見ていなかった気もする・・・。

資金面のことも
自分たちが思っていたよりも現在の税制などの優遇措置や低金利の恩恵で
今ある貯蓄額くらいでも月々の支払いが家賃とほどんど変わらずに返済が出来ることがわかり
「それじゃもしかしてうちでも家が買えたりするのか??」
という思いも寄らない方向への進展がそこから始まったのであった。


R社の物件は確かにものはいいということはわかる気がしたが
我が家は永久的に日当たりが確保される立地の土地が見つからない限りは
どんなにお得な物件だとしても購入する意味はまったくない。
土地と建物を一緒に販売することを基本としているR社の物件の中では
希望に合致する逗子葉山の土地は見当たらなかった。


そこでまあ地元の不動産屋にもちょっとあたってみるかと
たまたま入った家から一番近い不動産屋のS社に軽い気持ちで入ってみると
まだ30歳そこそこの若い店長のTさんが対応してくれた。
こちらのある程度の希望を伝えて
2日後にまとめて現地案内をしてもらう約束をした。

我が家の希望は数は少ないが
良く考えるとかなり難しいものだったと思う。

A.最重要視するのは永久的に日当たりのいい庭を確保できること。
B.逗子もしくは葉山で自転車で逗子駅まで通える範囲

もともと売りに出る土地が少ない逗子や葉山では売物件自体の数がない。
あったとしても山の際だったり道が狭かったり
逆に大きな幹線道路に面していたりなんらかの弱点がある。
S社のTさんに案内してもらったいくつかの物件も
なんらかの難点があるものがどうしても多かった。
しかしその中でひときわ日当たりが良く
きれいに整備されていた20区画ほどのまとまった分譲地だけは目に留まった。
土地からオーラが出ているような光を感じたことを今でも鮮明に覚えている。
某企業の保養所の跡地を開発したというその分譲地はまだ未公開の物件らしく
2社だけしか扱っていないということだった。
週末にドサっと新聞広告に入ってくる不動産物件の広告を見ても
いい場所はチラシに載る前にもう売れてしまっているのが常だという
その訳がわかったような気がした。

その区画を見て「いいなぁ・・・」と思いつつも
土地だけで5千万以上の物件はとても我が家が買えるような代物ではないと
完全にあきらめモードでその日はそのまま家に帰ってしまった。
ところがその日の夕方にまたS社のTさんから電話があり
昼間好感触だったその分譲地の区画割が急に変更になって
いい場所が買いやすい値段になったので
検討してみてはいかがでしょうか?と言われた。
FAXもすぐ送られてきてそれを見てみると
確かに50坪の区画が並んでいたところを
34坪ほどに落として線引きしなおしてあった。

その分譲地は敷地内をぐるりと開発道路が回っているのだが
その中でちょうど家の前が南道路で車返しのT字路になっている
区画を担当のTさんは勧めた。
東側にやや出っ張って三角形に近い形に変形しているその土地は
一見使いにくそうに見えた。
しかし南道路の土地では駐車場を作ると庭が狭くなってことが弱点になるところ、
その区画は東側にせり出した部分を駐車場に当てれば
南側をまるまる庭にできることになる形だったので
カメのための日当たりの良い庭の確保には持って来いの形であった。

土地の裏には森戸川が流れていた。
川の近くは地盤が弱い可能性があると聞いたことも頭をよぎったが
最初に感じた土地から発せられるオーラ(?)が
なぜか不思議とその不安を無意識に消し去っていた。
後日の地盤調査では意外に地盤は固いという結果が出たので
直感は正しかったことになる。
川には様々な野鳥が戯れていた。
水がきれいな証拠かもしれない。
海岸にも5分ほどで出られることや
夫がヨットを置いている葉山マリーナにも近くなることなど
様々な条件を満たし
且つ日当たりが半永久的に確保される立地の物件は
おそらくもう出てこないと思えるものであった。

仲介不動産屋のTさんに再度購入についての説明を受けた。
今までまったく不動産になど興味がなかった私たちは
住宅ローンというものがどういうものかということも
税制のことも、金利のことも知識はほとんどなく
淡々と説明を続けるTさんの言う話も
「ホントにそうなのかなぁ・・・」
「だまされてるんじゃないかなぁ・・・」
と最初は半信半疑であった。
しかしその後自分でいろいろ調べてみると
Tさんから説明されたことはすべて正しいことがわかった。


いちおう声をかけた他の不動産屋では妙に愛想がよく何でもイエスマンの営業マンがいた。
格好もよく、よくしゃべり、いかにも不動産屋らしい人であったが
どうも落ち着きがなく信用できなかった。
案内先で脱いだ靴のかかとがつぶれていたことが
なぜかどうしても許せず(?)その人からは買うにならなかったことを思い出した。
それにひきかえS者のTさんは私たちの話を良く聞いてくれた上で
じっくりとわかりやすく説明をしてくれるその地味ながら誠実な粘り強さが
信頼するに足ると思えた。
(直感で人柄を読み取る能力だけはなぜか備わっている・・)
Tさんいわく
この土地は西以外がすべて開放されていて日当たりも風通しもいい。
そうなると家の耐久性も良くなる。
葉山の中でも立地の良い場所は土地の値段が下がらないから
資産価値も落ちにくいだろう。
資産価値が落ちにくい土地が一番価値がある買い物だということを
落ち着いた言葉でじっくりと説明してくれた。


売主の情報だと
すでに同じ区画に他の購入希望者が出てきているらしかったので
とりあえず申込だけはしておくことになった。
この時点ではまだお金の動きはないので
後で断っても損をすることにはならない。
しかし2日以内に決めないと2番手に渡ってしまうということになり
私たちはあわてて資金面の見直しをして
本当に大丈夫なのかを自問自答する時間をとった。
一生の買い物をするのに
こんなに時間が取れないということは
おそらく誰もが同じところで戸惑いを感じるところであろう。
こんなに未確定要素が多いままで
数千万円の買い物を決めねばならないという状況は
ほとんど賭けに近いものがあるなと実感した。
本当にこういうことはほとんど運だけかもしれない。
まぁ人生なんてそんなものさと
最初に直感で感じたその土地から立ち上るオーラを信じて(ほとんどいい加減な理由・・)
土壇場のときはきっとカメたちが守ってくれると
このままこの土地を購入する方向に向けて
進めることを決断した。


今まで本当に土地を買うつもりなどなかったので
購入に十分といえるような貯蓄はないと思っていたが
結婚後よくわからないままただなんとなく金利が良さそうという理由だけで
住宅金融公庫に積み立てていたお金が
ここにきて一気に役立つこととなった。
ダンナがなんとなく中途入社した会社も
ほとんどイメージだけで(?)聞こえがいいような印象もあるらしく
実態のダンナ本人はまるでダメ人間なのにもかかわらず(笑)
Tさんの会社に出入りのあるM銀行で
融資のほうも大変有利な条件のもとあっという間に決まってしまった。


こうして手付金200万円を納め仮契約、
年末にはローンも確定して本契約と
滞りなく土地の契約は終わった。
ほんの2ヶ月前までは土地を購入することなど
まったく考えもしていなかった自分たちのことを振り返ると
なんだか不思議な気持ちになった・・・。




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