Nostalgie

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第十一章 「結末?」



悪魔の道化師、死体で発見さる。
逃げ切れぬと見ての覚悟の自殺か?

信じられぬ見出しが踊る。
小生のあの冒険は、しかし、賊を追い詰めはしたのだ。泡を喰って三十六計を決め込んだ道化師一味は、数々の足掛かりを残していた。それを手繰って、御上の捜査の手は、徐々に、徐々に、せばめられていった。そこで、覚悟の自殺をせねばならぬまでに、追い詰められたのだ。
記事によれば、道化師は、てんのじ公園にたむろする浮浪者某で、あの扮装のまま、高層摩天楼から飛び下りたというのだ。フリーズした笑いの道化の化粧とその扮装が、動かぬ証拠となった。
しかし、それなれば、あの黒眼鏡の男はどこに消えたのか?
あの支那服に黒眼鏡、つば広シャッポウの男こそが、黒幕であったのではあるまいか?
小生はこの結末を信じがたい思いで眺めるばかりである。
かの美しきエナメルの君は・・・、小生の想いを狂わせた、あの官能の曲線は・・・。
電子映像受信箱の中で、いくぶん冷めた表情で、たんたんと攫われた恐怖を語り、礼を言うと、話題の中から消えようとしている。また、お堅いお役人のご主人が待つ家庭に戻ったのであろうか。二度と、小生と恋心を共有することなどあるまい。小生は、この事件を鼻の奥がツンとするような感傷をもって、蓋を閉じねばなるまい。あの愛しきYさんのためにも・・・。


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