オレンジ・ペコ

オレンジ・ペコ

ボーイ・ミーツ・ボーイ

そのいち

 ドンッ。
 と軽い物体が、道を歩いていた大柄な男にぶつかった。
 「悪りぃv」
 全然、悪びれもせず、そのまま歩いて行こうとした軽い物体=少年の襟首を掴み上げる。
 「な、なにすんだよっ!!」
 当然ながら暴れまくる少年のきつい眼差しを、にっこりと微笑みで受け止めた彼は、優しい声で言い聞かせた。
 「すりとった財布の中身は空だぞ♪」
 「えっ? あ、あんた軍人だろ?」
 びっくりしたように目をぱちくりさせる。
 普通に考えて軍人の財布が空ということはありえない。
 「軍人でも貧乏人なのもいる。俺のようにv」
 にっちゃり笑う黒づくめの男に、少年は固まった。
 これが、天界で名高い捲簾大将と、禁忌の子たる沙悟浄との出会いだった。(笑)


そのに

 「それで?なんで、お前そゆことしてる訳?」
 ぶらさがっている悟浄に聞く捲簾大将に、プイとそっぽを向く。
 「あ、そ。言いたくないのね~♪」
 にっこり笑うとおもむろに川辺へ・・・。
 「ちょ、ちょっと、待て!こらっ!!い、いたいけな子供を川に落とす気かっ!!」
 「じゃ、吐け!!」
 軍人が子供を脅迫するのはアリなんだろうか??
 なんとなく、ものすごーく釈然としないものを感じる悟浄だった☆


そのさん

 ヒシッと腕にしがみつく悟浄に捲簾大将が眉根を寄せる。
 確かに、川に落とすとは言ったが、この川は割りと浅瀬で、この界隈の遊び場である。近所の子供達はこぞってこの川で泳ぎ捲くっていた。しかも、危なくないように、大人たちが川の下手に柵も作ってあるので、万が一流されても、柵に引っ掛かるようになっているのだ。
 「なんで、そんな怯えるかな?この川は危なくねーぞ?」
 「知ってる。」
 「じゃ、怯える必要ねーだろ?」
 「・・・・・だって、俺、カナヅチだもん。」
 真っ赤になってフイと顔を逸らす悟浄に、捲簾大将が固まる。
 まさか、この川があるところでカナヅチの子供がいるとは思わなかった☆
 としみじみ思う彼は知らなかったが、この界隈の子供でカナヅチなのは悟浄一人である。カナヅチの子供に当たる確率は50分の1。捲簾大将大当たりであった☆(笑)


そのよん

 「悪かったよ。怖がらせて。」
 トン。と地面に降ろしてくれる捲簾大将を悟浄が見上げる。
 「言うきになったか?」
 「ならねぇよ。」
 膨れる悟浄に、にっこり笑うと指を差す。
 「んじゃ、あこ行くか?」
 指差された方には治安警備の役所が・・・。
 うっわ、タチ悪ぃ・・・。
 悟浄はげんなりとしながら、結局、折れたのだった☆(笑)


そのご

 しかたない。ここは、お涙ちょうだい物語で逃げよう!!
 拳を握って決心すると、少し項垂れ気味になりながら(顔を見せないのがポイントv)、せつせつと自分の身の上話をしはじめる悟浄。
 実の母親は実の父親の愛人だったこと。しかも、病気がちな母親は悟浄を産んですぐ死亡。引き取られた先の実の父親は、崖より落ちて死亡。継母は腹違いの兄に殺され、兄は行方不明。施設に入れられるはずが、禁忌の子のため受け入れ拒否にあい、いまにいたる。
 うっわーすっげーベタだけど、これが実話ってーのが、笑えないよなー。
 とか、思いながら捲簾大将に視線を移してギョッとする。思わず後退しかけるぐらいに、捲簾大将はダーダーと滝のような涙を流していた。
 「お前、苦労したんだなー。よし、まかせろ!!」
 「な、な、な、な、な、なにを?」
 「俺がお前を立派に育ててやる!!」
 「はい?」
 引き攣る悟浄の頭を優しくぽんぽんと叩く捲簾大将。
 彼は、この手の話にめっぽう弱かった☆(笑)


そのろく

 「で、お人好しな貴方は、その子を育てると? 本気でいってるんですね?」
 溜息をつきながらの天蓬元帥の言葉にうんうん頷く捲簾大将。
 「だって、可哀相だろ?」
 ・・・・・犬猫と同じにしてないでしょうね、この人?
 捲簾大将が聞いたらものすごーく嫌な顔をするだろうことを平然と考えながら、天蓬元帥は肩を竦める。
 「で、僕にどうしろと?」
 「いろいろ手伝ってくれるだろ?」
 にっちゃり笑う確信犯な笑顔に、もう一度、深々と溜息をつく。
 「いっておきますけどね、僕が協力するのは、貴方のためではなく、その可哀相な子のためですからね?」
 「わかってますってv はいv」
 にっこり笑って両手を差し出す。
 「なんです? その手は。」
 「お金ちょーだいv」
 深々と溜息をついた天蓬元帥は捲簾大将の財布から抜き取ったお金を返したのだった☆(笑)


そのなな

 「我が家だぞぉ♪」
 弾んだ声で両手を広げる捲簾大将に、悟浄が胡乱な目を向ける。
 「あんた、本気で俺と暮らすの?」
 「もちろん♪」
 そのために、家を購入したのだv
 「で、あんた、この物件、いくらで購入したの?」
 「ん? 安かったぞ?」
 「だから、いくら?」
 「500万v」
 「・・・ぼったくられてるよ。」
 二人の目の前にあるのは、どう見てもあばら家だった・・・☆(笑)


そのはち

 「とにかく、物件は俺が探すから!!」
 「へぇ~い。」
 取り合えず、500万を手許に戻し、きつく言い含める悟浄に手を上げる。
 「で、いくらぐらいの予算な訳?」
 「んー? 上限はなしだぞぉ♪」
 そう大した趣味などありはしない捲簾大将は、結構、お金を貯めていた。
 酒、花、釣り、女、の順番な趣味のうち、一番、お金がかかりそうな女は別に向こうからやってくるし、釣りにそれほど金をかける趣味もなし、つまるところ、一番お金がかかるのは酒になるのだが、それにしたってタカがしれていた。
 「あんた、本当に軍人か?」
 いかにも胡散臭いといわんばかりの悟浄に、ちょっとだけ傷付いた捲簾大将だった☆(笑)


そのきゅう

 森の中の一軒の家は小綺麗ではないが、手入れをすれば十分に使えそうな物件だった。
 「コレねー?」
 「そう!」
 えっへんと腕を組む悟浄に苦笑する。
 「上限ねぇんだから、もっと上でも良かったんじゃねぇの?」
 「最低ランクを、物件見ずに決めたあんたに、言われたくねぇけど?」
 この場合、どう見ても悟浄の言い分が正しかった☆(笑)


そのじゅう

 ちょっと、任務のため帰った捲簾大将は、早速、かましてしまったがため、懲罰房へと連行された。
 思わず、額を押えてしまう天蓬元帥に悪気はない。
 「貴方ねー! 自分が子持ちだって自覚あります?」
 「あるわけねぇだろ!! 自分で産んだわけでもねぇのに!!」
 怒鳴ってからハッとする。
 「へぇ。だったら、最初から育てるなんて言わない方が彼のためでしょうに!! 可哀相に!!
 わかりました。なら、僕が彼を立派に育てます!!」
 「わぁー!! やめろ、天蓬!! 俺の悟浄に手を出すな!!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らの会話に、混乱したのは看守だった。
 「捲簾大将と天蓬元帥の間に隠し子が?!」
 もちろん、その話はまったくのデマとして認識され、彼は嘘吐き呼ばわりされたのであった☆
 ご愁傷さまv(笑)


そのじゅういち

 「おお、見違えたなぁ~♪」
 口笛でも吹きそうな捲簾大将をぐったりしながら悟浄が睨み付ける。思いきり、殺気のこもった視線に、捲簾大将は怪訝そうに悟浄を見遣った。
 「あんた、ほんとは軍人じゃねーだろ?」
 「なんで?」
 のほほんと問い返す捲簾大将に悟浄の頬が引き攣る。
 「『なんで?』? 『なんで?』だとー!! 『なんで?』と言いたいのは俺だ!!
 なんで、物件決めたとたんに一週間も顔出さねぇんだよ!!
 コレ使えるようにしたの、全部、俺だぞ?」
 「だから、悪かったって!!」
 こようと思ってもこれなかったんだよなー。懲罰房に入ってたから・・・。
 「悪さして牢屋にでも放り込まれてたんだろ!!」
 どきっ!!
 悟浄の言葉に心臓が跳ね上がる。
 まさに、その通りとは言えない捲簾大将だった☆(笑)


そのじゅうに

 思わず視線を逸らした捲簾大将を、不審そうに見つめる悟浄。
 「ま、それはいいじゃん、な?」
 あからさまに話を変えようとするところが益々あやしい。
 まさか、本当に犯罪者か?
 「あんた、まさか、俺を売っ払う気じゃねぇよな?」
 「そんなことするか!!
 折角、口説いて新居も構えて、なんで売っ払わなきゃなんねぇんだよ!!
 金も掛かってんだぞ、もったいない!!」
 憤然と抗議する捲簾大将の言い分にがっくりと肩を落とす。
 「………いや、その言い分もどうかと思うんだけどさ。」
 ちょっと、疲れてしまった悟浄だった☆(笑)


そのじゅうさん

 「よし、とにかくメシにしよう。作ってやるからさ♪」
 と、捲簾大将はキッチンに入ってから、ふと気が付いた。
 「お前、俺がいない間、どーやって食ってた?」
 聞かれた瞬間、悟浄がパッと目を逸らす。あきらかに挙動不審である。
 「まさか! また悪事に手をそめたのか! あれほど、悪さしないって約束しただろ!!
 兄ちゃん情けなくって涙がでてくらぁ!!」
 「いつ、あんたは俺の兄ちゃんになったんだよ!!」(怒)
 捲簾大将は意外にTVが好きらしい・・・。(笑)


そのじゅうよん

 「で、悪さはしなかったんだな?」
 念を押す捲簾大将に、こっくりと頷く悟浄。
 「じゃ、どうやって食ってた?」
 「豆腐屋のおばちゃんが食わしてくれた。」
 豆腐屋のおばさんはちょっと・・・と言えないくらい身体の丈夫そうな女性である。
 あったかで強い、まさに日本の・・・もとい、桃源郷一のおかみさんだった。
 「それなら、そうと・・・。」
 安心したように言葉を紡ぐ捲簾大将をちょっとだけ哀れそうに見る悟浄。
 「あのおばちゃん、あんたに気があるみたいだったけど?」
 「えっ?!」
 思わず固まってしまった捲簾大将だった☆(笑)


そのじゅうご

 魚の塩焼き、冷奴に天麩羅。
 あきらかに大人用のおかずだったが、悟浄は嬉しそうだった。
 「美味いか?」
 「おう♪」
 誰かと一緒に食べる食事は美味い♪
 「にしても、よく買い物に行けたなぁ。軍人なのに。いま、暇なの?」
 ポイと口の中に天麩羅を放り込んで小首を傾げる。
 「ん?買い物には行ってねぇなぁ。だって、この天麩羅は山で取ってきた山菜だし、
  こっちの魚は俺が釣り上げた魚だし、で、この豆腐はもらいもの♪」
 「・・・も、もらいもの?」
 思わず凝視する悟浄から、捲簾大将は目を逸らした。
 「お、おう。」
 「豆腐屋のおばちゃん?」
 「・・・大当たり・・・。」
 知らないということは恐ろしいと思う悟浄に悪気はない。
 が、頑張れ、捲簾大将!!豆腐屋のおばちゃんは妖獣よりも手強いぞ!!(笑)


そのじゅうろく

 ほんとにこの人、金持ちなのか?貧乏なのか?良くわかんねぇよなぁ。などと、思いながら、御飯を口に入れようとしていた悟浄の箸がピタリと止まる。
 「ん?」
 「どうした、悟浄?」
 突然、止まった悟浄を不思議そうに見る。
 「山菜取り?釣り?」
 「うん?」
 それが、どうかしたのだろうか?
 「あんたなぁ!そんな暇があんなら、さっさと帰ってこいよっ!!俺一人で片付けてる間、あんた遊んでたってことじゃんっ!!」
 バシッと箸をテーブルに叩き付け立ち上がって怒鳴る悟浄に、捲簾大将は、びっくりしたように目を瞬かせた。
 「・・・お、お前、今頃、気付くなよっ!!」
 その一言に、悟浄のこめかみにバッテンマークが飛び交ったのだった☆


そのじゅうなな

 「ってことは、知ってて片付けが嫌で帰ってこなかったな。こんの道楽亭主っ!!」
 その台詞に捲簾大将が頭を抱える。
 「お前なぁ、道楽亭主ってどっから覚えてきやがった。っつか、だったら、お前が妻なんかいっ!!」
 「俺にだって選ぶ権利はあるっ!!誰が妻になんかなるかーっ!!もう、あんたはメシ抜きっ!!」
 そう言うが早いか、捲簾大将の天麩羅をさっさと口の中に放り込む。
 「このアホガキっ!!人のモノを食うんじゃねぇよっ!!てか、俺が作ったんだろがっ!!」
 その後、熾烈な攻防戦と共に、捲簾大将が家を叩き出されたのだった☆(笑)


そのじゅうはち

 「天蓬!!酷いだろ、酷いだろーーっ!!」
 天界に戻ってきた捲簾大将にワザとらしく泣きつかれた天蓬元帥は深々と溜息をついた。
 「酷いのはどっちです?寂しかったんでしょう。きっと、今頃、寂しがってますよ?」
 「・・・きっとな♪」
 パッと天蓬元帥から離れた捲簾大将はクスリと笑う。
 やっぱり、冗談であったことに、天蓬元帥も苦笑する。
 「だったら、戻ってあげないと。」
 「うん。すぐ戻るつもりvで、それについてご相談♪」
 「なんです?」
 「俺、天界戻らないからvv」
 捲簾大将の落とした爆弾に天蓬元帥が固まったのはいうまでもない☆(笑)


そのじゅうきゅう

 「本気で戻らないつもりなんですか?」
 驚いたような天蓬元帥に、頷く。
 「ま、しばらく休暇でも取ろうかと思ってよv」
 人と天界人の寿命は違う。確かにそれは可能ではあるけれど・・・。
 「悟浄くんの寿命が尽きるまで?」
 「そう長い時間じゃねぇだろ?俺等には?」
 少し哀しげな捲簾大将に、天蓬元帥も瞳を伏せる。
 永遠の時を生きる天界人にとって、人の時間はあまりに短い。
 「まったく、しょうがないですねぇ。わかりました、なんとかします。」
 「さ~んきゅv天蓬♪」
 「でも、それ悟浄くんに言ったんですか?」
 「いや、全然。」
 首を振る捲簾大将に、頬を引き攣らせる。
 「まず、そっちを説得してらっしゃいっ!!」
 こうして、捲簾大将は天界からも叩き出されたのだった☆(笑)


そのにじゅう

 しばらくして、外が気になる悟浄はそっと覗いて見た。が、そこに捲簾大将の姿はなく、慌てて外に飛び出した。
 「捲簾っ!!」
 急激に不安に駆られる悟浄を後ろから抱きしめる。
 「や~い、寂しがりや~♪」
 からかうような捲簾大将の声に、ゲシッと向こう脛を蹴り上げる。
 「こんの、クソジジィっ!!」
 真っ赤になっている悟浄に、捲簾大将は苦笑する。
 照れるにしても、もうちょっと可愛く照れられないものかねぇv
 「ほんと、お前は凶暴よねぇ~♪」
 「うるせーよ、ボケ老人っ!!」
 「口もめちゃくちゃ悪いし・・・。」
 ポンポンと宥めるように頭を軽く叩かれて、グッと唇を噛み締める。
 子供扱いするな!!とでも言いたげな悟浄の瞳に、捲簾大将には苦笑しか浮かばない。
 「俺はずっとこっちに住むから。」
 「?」
 「もう、寂しくねぇだろ?」
 だが、あんぐり口を開ける悟浄の次の台詞は捲簾大将の予測を超えていた。
 「あんた、マジにひとりもんだったわけ? もてねぇの?」
 思い切り良くビシッと固まった捲簾大将だった☆(笑)


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