1.援助職をえらぶ
【私はなぜうつになったのか】
１.援助職を選ぶ
私はなぜ、心理士という仕事を選んだのだろうか。
「援助職」とは、文字通り、人を援助する職業である。
学校の先生、医者、看護師、ケースワーカーなど、
人のお世話をする人たちのことである。
自分の職業選択について書こうとすれば、
どうしても両親からの影響について書かなくてはいけない。
私の父親は、学歴信仰が強く、教育に関して非常に熱心な人だった。
「どの学校へ行ったかが、将来にわたって影響するのだ」と
常々言っていた。
父親の育った時代背景、地域性からすれば、それは、当然のこと
だったかもしれない。
父親が生まれ育ったところは、教育が非常に大事にされる地域
だったのである。
私は、学校の成績に対してプレッシャーを感じて育った。
けれども、おかげで、十分な教育を受けさせてもらえたので
そういう意味では、とてもラッキーだったと思っている。
母親は、「これからの女性は、手に職を持って、
経済的に自立するべきだ」と、私にいつも言っていた。
母親は、頭がよく、社会のために貢献したいという気持ちが強い人
だったが、父親を早くに亡くしたため、希望していた四年制大学には
行けなかったのである。
母は、人のために、というボランティア意識が強く、
実際に福祉関係のボランティアもしていたが、たぶん、
福祉や教育に関する仕事に就きたかったのだと思う。
そんな両親のもとで、私は、「いい学校へ行って、人の役に立つ、
いい仕事に就かなければいけない・・・」という強迫観念を持っていた。
当時、キャリアウーマンという言葉が流行し、仕事を持つ女性が
もてはやされたこともあり、経済的に自立していない女性は、
幸せになれない、と思いこんでいた。
経済力を持たない女性の結婚は、男性と対等になれず、
自由に生きられないという感覚が強くあった。
それも、何の根拠もない思いこみだった。
実際、今の自分は、専業主婦だが、自由で楽しく暮らしているからだ。
教育を大事にする両親のもとで育ち、小学校から塾に通い、
内面では葛藤を抱えながらも、中学校までは何とか優等生として
通っていた。
高校は、地元の進学校へ入学した。
しかし、そこからがいけなかった。
成績がぎりぎりで入った高校では、落ちこぼれて追試、追試の
日々だった。
それでも、親からは期待され続け、叱咤激励が続いた。
結局は、行きたかった大学は不合格であった。
しかし、滑り止めで受かった大学が、心理学科だったために、
私は、しだいに心理学にのめりこんでいった。
大学卒業後は、運良く、大学院に受かり、大学院では子供の
プレイセラピー（遊びを通じた心理療法のひとつ）の実習を中心に
勉強した。
自閉症と呼ばれる子供たちと一緒に、プレイルームと呼ばれる部屋で
５０分一緒に過ごす。
ブランコ、トランポリンなどで、風の感覚を楽しんだり、
同じ遊びや会話を何度も求める彼らが、とてもかわいかった。
あまりに一生懸命彼らの遊びにつきあいすぎて、
腰を痛めることもあったが。
同時に、大学病院の精神科でも実習をさせてもらった。
人が回復していく様子と同時に、人の力ではどうしようもならない
精神病の怖さについて肌身を持って知ったのも、このときだった。
私は、心病む人たちに、特に、神経症といわれる人たちに、親しみを
感じていた。自分も、神経症だったからである。
卒業後、就職は、精神科の病院に決まった。母親の望むような、
人の役に立って、経済的にも自立ができそうな仕事につけて、
私はうれしかった。
このとき、私は、まだ、母親の期待に応えたかったのである。
私は、中学生ぐらいから、いい学校に入り、卒業後は専門的な仕事に
就き、目標に向かって努力し、絶えず向上するような生き方をしなくては
いけないと考えていた。
そうでない人生は価値がないと思っていたのである。
そのため、自分のしたいことより、すべきことを優先して、
人からどう見られるかばかり気にして生きていた。
大人になっても、その考え方が全てであった。
気づいたら、自分がこれから何をしたいのか、どんな風に生きて
いきたいかさえ、分からくなっていた。
目の前にあるのは、「すべきこと」「なるべき自分」だけだった。
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