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おさるの日記
これからの電機メーカ
波乱を予感させる風が今中国市場に吹いている。国内で巨額の損失を出したソニーなど日本の大手電機メーカー各社は、中国市場に対する戦略の見直しを行い、一斉に新たな旋風を巻き起こそうとしている。
東芝の「白モノ」攻勢
10月のある朝、上海市の住民は、東芝の広告が街のいたるところに出現しているのを見ることになった。
事情通によると、東芝は今回の広告戦略にあたり、上海だけでも2300万元の資金を投入したという。6路線30台のバスの車体、幹線道路沿いのバス待合室150カ所の電灯、地下鉄2台の車体および待合室107カ所の電灯、繁華街の街灯90本および小旗3325本、一部の大型商業施設やホテルのホールの壁などが、すべて同じ図柄の東芝の広告で埋めつくされた。同社は、こうした広告攻勢を、北京でもかける予定だ。
このような宣伝広告キャンペーンで、東芝は冷蔵庫・洗濯機を軸に、中国の家電市場に対して新たな闘いを挑もうとしている。小天鵝との合弁で2003年2月に設立した東芝洗濯機(無錫)有限公司は、8月から操業を開始。東芝独自の技術を駆使したファジー制御の全自動洗濯機シリーズを生産している。9月5日には、北京・上海・広州・杭州などの大都市で同時発売した。またこれに先立つ7月には、西安で新たに東芝冷蔵庫(西安)有限公司を設立し、その製品はすでに市場に出回っている。
東芝と歩調をそろえ、松下電器産業も9月下旬、北京・上海・広州で、映像・音響関連の新製品を大々的に売り出した。「まったく新しいブランドイメージを形成し、25歳から35歳までの高収入層をターゲットに、松下製品の市場占有率を高める」ことを目指している。これは松下がPanasonicをグローバルブランドとすることに決定して以降、初の大規模な新製品売り出しキャンペーンだ。
今年7月21日、松下電器はPanasonicブランドの冷蔵庫を世界で初めて上海で発表するとともに、松下電器(中国)有限公司の新しいトップに就任した伊勢富一会長が、松下のグローバルブランド戦略を全面的に展開すると宣言した。このことは、中国人民が20年近くも慣れ親しんできたNationalブランドの松下製品が姿を消し、すべてPanasonicブランドに取って代わることを意味する。そして、このブランド統一のため、松下は5億元もの資金を中国に投入している。
業界関係者の分析では、東芝と松下が経費に糸目を付けずにイメージ一新を図るのは、このところずっと続く利潤低下の局面から、なんとか抜け出したいためだという。2003年第1四半期(4-6月期)に、東芝の純損失は前四半期(2003年1-3月期)の188億円から369億円と大幅に拡大し、営業収入も6.2%落ち込んだ。松下も2年連続で巨額の損失を計上している。
過去2年間の世界的不況の中、東芝は中国で事業の全面展開を敢行している。しかし、その製品展開が、カラーテレビ・ノートパソコン・半導体・システム設備など、多岐にわたっているにもかかわらず、白モノ家電はまったくの空白状態であった。そのため今回は捲土重来、市場の重点を一転して冷蔵庫と洗濯機に移してきた。
松下の中国における2002年の売上高は285億元に達し、中国市場は松下にとって海外市場の11%を占めている。松下の目標は、2005年までに中国における売上額を700億元にまで増やし、冷蔵庫の売上台数を100万台の大台に乗せることである。しかし、松下が昨年、中国で販売した冷蔵庫はわずか3万台に過ぎない。
「21世紀は中国の世紀だ。我々は中国市場に期待している」。9月19日、松下電器(中国)有限公司家電販売担当の田中英一氏は、本紙記者のインタビューを受けてこう語った。東芝と松下はブランド戦略により、彼らの海外市場における失地回復、とりわけ中国市場における優位性を回復したいと望んでいる。
ソニーの「長城計画」
東芝、松下が大々的にブランド宣伝を繰り広げているのに対し、ソニーはハイテク製品によるイメージづくりを狙う戦略だ。
「ソニーが誇る最新の撮影・録画・再生一体型デジタルビデオカメラ、世界初の3メガピクセル『PC330E』を11月初めに中国で発売開始する」。ソニー(中国)有限公司モバイルネットワーク製品部長の上川岳志氏は、2003年9月18日、上海で宣言した。
同氏はさらに年内にも、今年8月にベルリンで発表したばかりの世界最新モデル、4色スーパーHAD CCDとカールツァイス『バリオゾナーT*(ティースター)』レンズを搭載した800万画素デジタルカメラ『DSC-F828』を中国市場に投入することを明らかにした。
注目すべきは、この二つの「世界初」の商品がソニーの中国での合弁工場、上海索広電子有限公司で生産されるということだ。これはつまり、ソニーの中国戦略に重大な変化があったことを意味している。
ソニーは、これまで上海索広電子で行っていた8ミリビデオカメラなどの生産を、2002年初めに日本国内の幸田(愛知県)や、美濃加茂(岐阜県)の工場に戻している。昨年10月に上海で取締役会が開かれた際、安藤国威社長は本紙記者に対してこう語った。「我々はサプライチェーン・マネジメントを非常に重視している。ビデオカメラ部品の多くは日本国内で調達するので、供給時間短縮のため、アメリカへ輸出していたビデオカメラの一部を日本で生産することを考えている。ここで強調しておきたいのは、中国で販売するビデオカメラはやはり中国で生産するということだ」。
だが、業界関係者の見方は異なる。ソニーが8ミリビデオカメラの生産を日本に戻した最大の理由は、関連の中核技術が中国企業に盗まれるのを防止することにあったというのだ。事実、この10年間で、日本企業が中国市場で衰退した原因はここにある。「中国向けに販売するのはすべて二流の製品、輸出されるのは基本的に過去の技術」。日本企業のこのやり方は、かつて中国の企業やメディアから痛烈な批判を浴びた。
ただ日本企業にも苦しい本音があるのだろう。上海華虹NEC前総裁の国吉敏彦氏は本紙記者に対し、その理由をもらした。「日本は資源の少ない島国で、技術が最も重要な資源だ。もしも核心技術を輸出してしまったら日本企業の優位性は跡形もなくなってしまうだろう」。
しかし今、世界のトップ企業は先を争って中国に進出している。日本だけが中国企業の高度技術獲得の源ではない。ソニーが目指している「2005年に中国での売上高を2002年の5倍にし、2008年には2005年の目標をさらに倍にする。中国をアメリカに次ぐソニー第2の巨大マーケットにする」という目標実現には、どうしても最先端の技術と製品を中国市場に投入しなければならない。
ソニーは今年の戦略転換について検討を重ねてきた。
昨年、同社のデジタルビデオカメラは中国で年間15万台を販売した。これは中国市場シェアの約50%を占めた計算になる。しかし、ソニーはこの結果に満足しなかった。2005年に中国で年間50万台販売するという目標実現のため、昨年12月ソニー(中国)有限公司は密かに「長城計画」というものを立ち上げた。
その狙いは、デジタルビデオカメラの現地生産を通して、コストと価格を引き下げ、プロ仕様の撮影録画機能を持つ製品を一般消費者に向けて売り込むことにある。上海索広電子で生産し、中国市場へ世界初の3メガピクセルの撮影・録画・再生一体型デジタルビデオカメラを発売する、これこそが「長城計画」の重要部分となっている。
かつてソニーは、中国でのデジタル製品、特にDV製品に関しては中国の工場で組み立てを行うだけだった。部品はすべて日本から運んできたため、調達コストと市場価格はいっこうに下がらなかった。
しかし現在、ソニーは恵州に光学レンズの生産基地を建設しただけでなく、無錫のハードディスク生産工場もすでに操業を開始している。DV製品の現地生産は基本的に実現されており、ソニーは値下げ戦略のための強固な基盤を築いたといえるだろう。「ソニーがデジタルビデオカメラ市場で値下げ戦略を採るということは、中国市場でさらにハイレベルで、さらに大規模な国際競争が繰り広げられることを意味している」と、メディアが驚きの声を上げるのも無理はない。
日本メーカーの巻き返しはあるか?
日本の大手電機メーカーの他を圧倒する勢いに、シーメンスなど欧州の大手家電メーカーは潜在的な圧力を感じている。
「日本企業が戦略を見直して、巻き返してくれば、我々の将来のマーケットに影響を及ぼすにちがいない」「彼らとの技術の勝負は気にならないが、価格の勝負は気掛かりだ」---。過去数年間、二桁の成長を保ってきたシーメンス家電(中国)公司の呉健科販売総経理は、こう語る。
価格競争に強い中国企業といえども、日本の大手電機メーカーの新たな攻勢には気楽に構えていられない。「世界の大手企業との競争では、我々はまだ予選リーグすら突破できていない」と熊猫電子集団の周振宇常務副総裁は言う。
しかし、業界関係者は、ソニーなどの日本企業が中国戦略を転換するのは、実は切迫した事情があるからだと指摘する。1995年にソニーと上海広電集団が合弁で上海索広映像公司を設立して以来、両社は豊かな財源を築いてきた。
しかし、中国の国産カラーテレビ産業が立ち上がってきたことから、この数年、中国市場でソニー製カラーテレビの勢いは徐々に縮小している。2001年には、上海索広映像の売上高は30億2847万元、純利益は5億3576万元だったが、2002年には売上高24億3599万元、純利益4億2202万元に減少。今年上半期には、売上高8億6040万元、純利益1億1894万元にまで落ち込んでいる。
「ソニー製品には技術があるが、規模を成していないことが損失の原因となった」。今年8月末の「IFAベルリン国際民生用エレクトロニクス展」で、海信集団の于淑敏総裁は、こう分析した。
また、ソニーは自社のトリニトロン・カラーテレビに重点を置いてきたため、液晶およびプラズマテレビ(PDP)の研究開発と市場開拓で、競争相手のシャープと松下に後れをとる結果となった。このことから、ソニーは今後の競争で不利な立場となる可能性がある。
したがって、ソニーは自社が先進技術を持ち、かつ高付加価値と巨大な市場潜在力のあるDVカメラやデジタルカメラなどの製品分野に目を向けざるを得ない。また、販売規模を拡大するため、価格引き下げを主な戦術とする「長城計画」を念入りに策定したのだ。
実は、規模と利益の問題は、松下や東芝が直面する一対の矛盾でもある。「一定の販売数量が確保できなければ、利益をあげることは困難である。PDPのような大きな投資を必要とする製品であれば、なおさらだ」と、前出の田中英一氏は言う。松下などの企業は、いずれも製品ラインを高級品に位置づけたため、販売規模は制約されていた。
しかし、古くから中国市場に食い込んでいる松下は価格を引き下げることを学んだ。「2005年には、PDPの販売規模を現在の5~6倍に拡大する。価格は必ず中国の消費者を喜ばせるにちがいない」と田中英一氏は自信たっぷりに語った。
松下の武器は生産規模の拡大だ。現在、上海広電集団との合弁で作られたPDP製造工場の生産規模は、月産2万台レベルに達しており、欧州へ向けて輸出している。ディスプレーパネルも、この工場で生産しているため、総生産コストは大幅に抑えることができる。また、田中英一氏は、同工場の生産能力をさらに拡大する計画であることを明らかにした。
戦略見直しを行った日本の大手電気メーカーは、はたして中国市場で捲土重来することができるだろうか?
これは引き続き注視していくべきだろう。呉健科氏の分析によれば、日本企業は最先端技術を中国に移転しようとしているが、他の世界の大手、例えば韓国のLG電子、サムスン電子などのメーカーとも同じ土俵で闘うことになる。このため、日本の大手電気メーカーの中国市場での勝敗は予断を許さない。「そのうえ、民族感情という影が、多かれ少なかれ売上にマイナス影響を与えるはずだ」。
このほか、「内部管理における等級制度のような日本の企業文化も、中国市場で拡販していくためには不利である」という。
(記者:楊瑞法=「21世紀経済報道」、上海発)
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