よんよんとともに

(4)





彼はまず、南向きにひとつある窓の汚れを拭いて、

名もない花の鉢植えを飾った。



そしてやさしく水を与えた・・・。

水はす~っと土に吸い込まれ、

しばらくすると

しおれかけていた葉がすこし元気を取り戻した。



彼はその花を見つめて

「ごめんよ、しおらせてしまって・・・。」



と呟くように言うのだった。





持ち前の几帳面な性格なのだろうか・・・。



みるみるうちに埃まみれだった窯元の部屋は

すっかりきれいな住まいになった。



もう西の空は赤く染まりかけていた・・・。

遠くでねぐらに帰る鳥の声が聞こえる。



川のせせらぎはかすかに聞こえる程度だ・・・。



裏のほうに回るとなんとか老木の先っぽが見える。



窯は斜面を利用して登り窯になっている。



もう、長い間使われていないようだ・・・。





その時大家が台車を押してやってきた。



親切な大家だ・・・。

一組の寝具と少しばかりの食材と

夕飯を届けに来てくれたのだった。



「ここにある木は使ってくれてかまわないよ。

けっこう夜は冷えるから風邪ひかんように・・・」



笑顔皺が良く似合うやさしそうな大家だ。



彼はお礼を言ってきれいにお辞儀をした・・・。





ランタンに火をともし、

囲炉裏の傍で夕食を取った。





そして彼はぐっすりと眠りに着いた。





翌朝、彼は老木に向かって歩き始めた。

人影はどこにも見当たらない。



ただ、老木の根元にふっくらとしたボジャギがひとつ。



滝つぼのほうから、鳥のさえずりに混じって

あのきれいな声がする・・・。




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