よんよんとともに

(5) (6)





彼に気づいた美女は川から上がってきた。



「迎えにきたよ。さぁ、行こう・・・。」



彼女はコクリと頷いてボジャギを持とうとした。





その時、

「僕の名前はピョル・・・」



そういいながらボジャギを自分の肩にさげた・・・。



「メファよ・・・」

彼女はそう言って、歩調をあわせた・・・。



ふたりが初めてした会話である・・・。



秋のころにはあたり一面のススキの穂が風に揺れそうな景色だ。

まだ春浅い時季なので、緑も少ない・・・。



そんな川沿いをしばらく歩き、



今にも壊れそうな古木の橋を渡り、



そしてすこし山奥にむかう・・・。







そこにピョルが借りた窯元がある。



家にたどり着く間、二人はまた何も話さない・・・。



ふしぎな二人だった・・・・。


(6)



そうだよ・・・。僕にはわかっていたんだ・・・。

こうして彼女が居なくなることが・・・・。



出逢った時から、この腕に抱きしめた瞬間からわかっていたのさ・・・。



それでも彼女を愛することはやめられなかった。



僕の何がそうさせたのか、それはわからない。



それでも僕は今、後悔していないよ。



メファと過ごした日々のことを・・・・。





ただ、ごめんよ・・・・・。君がそんなに心配そうな瞳で

僕を見つめていてくれたことには、

まったく気づいてなかったよ・・・。





一緒に暮らし始めた二人は、

陽が昇っている間は、毎日散歩に出かけた。



手をつないでゆっくりゆっくり歩く。



時折疲れると川の流れに足をつけては、休む。

そして眩しいほどの日差しを浴びながら

空気を胸いっぱいに吸い込む。



髪をなで愛しむ・・・。

そんな毎日がどれくらい続いたのだろう・・・。





陽がくれると家に戻り、ピョルは自分の食事の用意をする。



メファはきれいな声で歌いながら舞っている。

薄紅色の絹を纏ってふわっと甘酸っぱい香りがしてくるような

そんな、やわらかな舞だった・・・・。





ピョルが食事を始めると

メファはうれしそうにピョルを見つめる。



メファは何も食べない。



ピョルもメファに勧めることはしない。





透き通るようなメファの身体はいつも冷たい・・・。



どんなにピョルが激しく愛した後でも

メファの身体はひんやりと冷たい。





ある日メファは一人で老木のある川にでかけていった。



ピョルは登り窯のある裏でたたずみ、

転がっていた古い陶器を地面にたたきつけた。



そして激しく慟哭したのだった。



頭の中でわかってはいても

ピョルの心はわかってはいなかった。



愛してしまった女性が

同じ世界に住んでいないことに対しての

やり場のない苛立ちだった。



愛が深まるほどにピョルの苦悩は大きくなっていた。





何もかも捨て旅にでて、死ぬほど愛する女性と巡りあえた。



それだけで、もう何もいらない。



そうだろ!ピョル・・・・。



彼は何度も何度も自分に言い聞かせた・・・・。







そのころ老木のある川でも・・・・・



いつもなら歌いながら沐浴をするメファも



様子がおかしい・・・。





長い時間、頭の先まですっぽり水中に沈めては、



時折声を殺してすすり泣いている・・・・。



メファにもわかっていた。



違う世界の人間を好きになってはいけないことは・・・。



苦しんで、苦しんで苦しみぬくこともわかっていた。



決して添い遂げることの出来ないこともわかっていた。



おそらく彼を不幸にするだろうということもわかっていた。





そして時間が限られていることもわかっていた。





ただ、誰かを愛してしまうことは、

理屈ではなく

この世で誰も止める事が出来るものではないことなのだ。





けっしてピョルの前では見せたことのないこの苦悩に満ちたメファの顔



メファは老木にしがみついて泣いた。





そしてしばらくして、何もなかったように

ピョルの元へ戻る。



ピョルもまた決してメファの前では苛立ちを顔には出さなかった。



ふたりとも痛いほどお互いを愛しぬいていた。


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