知的な熟講師


 北陸も梅雨入り、傘のいらない小雨がミストシャワーのように体を包み込む。昨日の要調査対象者2名の訪問をしないと。

まずは●●町の●●ビル、片町のお店もすでに辞めて今は何をしているのだろう?ここのポストはもう、だいぶん痛んできている。
ターゲットのポストがわかり辛い。なぜか男性の名前の郵便物がある?彼女の前の入居者かな?消印は新しいが、その下に目指すターゲットの彼女の郵便物があった。ガス会社の請求書である。

ポストのチェックが終わると2階に上がり彼女の部屋の前に行きドアをノックする、ドアの前にはファッション誌に混ざって男性誌が無造作におかれていた。返答がない。再度ノックをするがダメ。左上に電気メーターがありその回転速度がノックする前より遅くなった気がするが・・・。

ふと、見るとドアの右上にある排気ダクトのかさにテレビカメラがついている。居そうな気がする。カメラに向かって笑顔で手を振るわけにもいかないので、電気メーターとガスメーターをチェックして、訪問通知をドアポストに挟み込む。男性が居るような気もするが、電話がかかって来るかそれとも入金があるか、どちらかだと思うが。多分あえないかも知れないが最近の仕事だけでも聞けたらいいのだが。


 午後からは繁華街近くの●ティ●●●ンスに行かないと。きれいな夜逃げをされた物件だったが。今度は別の部屋。

 狭い裏通りをぬけていかなければならない、私の車じゃ厳しい道幅である。こんなときは感度の悪いマーチに乗ってくればと、後悔しながら車を進めた。

 ポストチェック、督促状はないが溜まっている。ん?しばらく帰っていないのか?ここの彼女は能登の出身だが、携帯はつながるがスグに留守番サービスセンターになる。

2階にあがり電気メーターを見るが暗くて見えない。ライターの火でメーターの回転盤をみるとかろうじてまわっている。居ないだろう。夜来ないといけないのかなぁ?とりあえず訪問通知をドアポストにはさみこむ。ここはもう一度訪問しないといけない。願いは元気でいることが一番だから。

 気分を取り直して、●●●ハイツへ、この前の来社約束をすっぽかしたパソで音楽製作しているオニイチャン。

サザンの桑田も若い頃は滞納者だったらしいが、この彼はすでに38歳、ブレイクするには遅すぎるのだが、「ごめんください。」ガチャリとドアが開く、こいつはいつも趣味の悪い柄パン(トランクス型)と白のU首シャツ一枚ででてくる。見たい方はご一緒してあげるけど。

「●●さん!先日のお約束はお忘れですか!急な仕事なら電話の一本でもして頂かないと困ります。このようなルーズな対応なら私ももう処理手続きしかないですね!」
とたたみ掛けるように言うと、
「すみません・・・。約束の日にお金が入ってこなかったので。」

 私「で?」 
「月末は約束できます。今かなり営業も行っていてこの他に別のクライアントから3・4つ仕事が入ってきています。」
勘弁してよ、まさかそのスタイルで営業してるんじゃないかと疑ってしまう。

「もっとキチンとした入金が出来るようにして頂けませんか?」 
「以前はしっかり出来たのですが・・・。」コイツ絶対ブレイクしない!
「これが最後です。支払い確約を書けないのなら処理を開始します。いつお越し頂 けますか?」

「18日の水曜日に・・。」 
「本当、これが最後ですよ!では10時に」 
「アッ、午後からで。」 ピキッ!コイツ追いだそうと。

 すぐ近くに例のゴミ山、彼女の部屋がある。ついでに様子をみてこよう。いたいた、お父さんが自分の車にゴミを詰め込んでいる。

「だいぶん片付きましたか?」
「何とか少し、もう4階までが大変で。」
部屋をのぞいて見ると、おや!だいぶん片付いている。フローリングが見えて来ている。

「お父さん、ここのゴミの量は過去の当社の例でもベスト3に入るくらいの量でしたよ!」 
「いやー、もうくたくたに疲れました。」
彼女の家財道具・電化製品はかなりいいものがある。父親が金もないくせにこんないいものばかりと嘆いていたが、ゴミに埋もれてしまっていたからね。
 どうやらメドがつきそうである。あとは部屋の修繕費だが、父親も高くなることは予想しているみたいだが・・・。

でも「Tさんが早く知らせてくれて助かりました。」と、本当に火事にならなくてよかったと思うよ。


6月17日
 昨日は連絡がつかない●●ガー●ン●イムの男性の調査を・・・。資料を見てみるとまだ若い30代半ばぐらいだ。

午前中に物件に着き2階に上がる、なにやら暖かい風が顔を撫でる、風はお風呂場の排気口からである。
朝風呂かな?ノックをしながら「少し待つか!」と思いながらいたら、ドアが開いた。免許証のコピーがないので、まず本人の確認である。

「●●さん?」 
「アッはい・・。」不審そうに返事をする。
名刺を差し出し事情を聞くが、彼は入居者保険や更新処理もしていない。

家賃は2ヶ月遅れだが、それにもまして彼を保証する人がいない状況になっている。彼は保証協会を使用せず信販会社の保証審査を選択したのだが、その審査書類を返送しないまま、この状況にきている。すでに4年が経過していた。

「携帯番号はすでに当社の登録より、変更されていますね。」 
彼「前に修理に来た人にお伝えしましたが。」 
「文章でのご連絡がなかったので正式な通達になっていません。携帯番号は何番ですか?」

滑らかにかつ、ちょっときつめに喋らないといけない。
「エーット、090の●●●・・・です。」
「お仕事先も変更になっていますね。」
「はい、独立して3人で●●●●と言う学習塾を始めました。」聞いたことがある。「場所は?」
「●●です。」そうか、支店横のテナントだ。たしか生徒数が増えて、手狭になったとか言っていたらしいが・・・。

塾の電話番号も聞き出し、
「●藤さん、明日10時に当社のほうに来社して頂いて、支払い計画を一緒に考えましょう。そうしないと私の部署に書類が来た以上、このままでは、事務的処理しかできませんから。」
 「事務的処理というと?」 
「貴方は更新もしていなく、保険もなく、ましてや保証人さえいない状態になっています。この状態でどこの家主さんがどうぞって言いますか?当然退去して欲しいと思うでしょ!だから法務処理をしますよという事です。そうなると困るのはご自身ではありませんか?」

彼はインテリジェンスを持っている、塾の講師の顔で私を見ている。「わかりました・・・。」  

 と言う訳で、今日の10時に至ったがその彼が来た。簡単に終わるだろうと思っていたが・・・。

 彼の支払い計画書の案がほぼ完成したころに彼が来社してきた。10時03分、約束通りだった。私の時計は3分ほど早い。管理部のSさんが来客を告げる。

 私「昨日はお邪魔しました。どうぞお入りになって下さい。」管理部の一角に小さい事務所があり、そのまた角に来客用のテーブルとイスがある。

「●●さん、塾のほうは順調ですか?」 
 「なかなか厳しいです。」 
「今生徒数はどれくらいですか?」  
「50名ほどです。」  
「月々の月謝は?」  
「平均すると25,000円ぐらいです」  月125万か、3人でやって店舗の経費を払うと決して多いとは思えないが、家賃支払いまで食い込むとは思えないが。

「●●さんの収入は月どれくらいですか?」  
「最低で17万ほどです。」  
「それなら当社の支払いも十分できると思いますが。」攻撃開始である。
「父が入院してそれで毎月10万ほど病院に支払いしていますので。」

反撃開始である。 
「それでも月7万残りますね。お父さんが入院したのはいつですか?」  
「2ヶ月前で、もう退院してそのお金が今月までかかるのですが。」 

「貴方のこれまでの入金履歴を調べると必ず単月か2ヶ月遅れで推移していますね。」  
「すみません、入金さえしてれば少し遅れても大丈夫だと思っていました。」  「民法上は原則、月末支払いになっています。」  
「法律詳しいのですか?」 
「弁護士ではありませんが一応法務部の看板をあげている以上は不動産に関する民法上の事は把握しておく必要があります。」

私は元来勉強が嫌いである。が、この手のインテリと戦うには数少ない覚えている法律用語や条文をならべたてるほうが得策である。

彼は2ヶ月くらいだと管理会社と信頼関係が崩れず退去まで行かないだろうとたかをくくっているようだ。実際、裁判をしても大体この程度だと負ける割合が強い。

「貴方は更新も保険もまして保証人もいません。契約時に貴方は信販会社の保証をお使いになるといって、書類を返送しないまま現在に至っています。ですからこの手続きを全てしていただきたいのです。」

保証協会入会、手続き料、保険料が明記された更新料金をみせる。
彼「保険料だけじゃないのですか?」 
「保証人になっていただける人がいますか?毎月収入があって貴方の債務を弁済する能力をもった身内の人がおいでるのですか?貴方は契約時に信販会社の保証を選んでおいて、自らそれを放棄したからこの状況になっているのではないですか!」

ガックリうなだれながらも反撃をしようとしている。
「そんなに難しいことなら、別にここにいる必要も・・・。」 
私「貴方のご自由な意志で構いません。」と冷たく突き放す。

私「最初から出ていただくつもりなら私も支払い計画案を作成していません。解約書をお持ちしましょうか?」
彼「・・・・・・。」

「Tさんから見て僕は悪い人間に見えますか?」
どう言う意味やねん?
彼「このまま解約したら僕はブラックリストに載るのですか?」
コイツをブラックに載せる暇があれば、他の仕事をするよ!一つ一つ説明してあげないといけないのか、こういうインテリには。

30分もかからず終わると思っていたのに1時間半もかかってしまった。彼はどうやら本当に父の病院費用を捻出していたらしい。保険料を今日支払うと残金13,000円しか残らないみたいだった。チョットかわいそうになってきて今月の家賃支払いを半分にして残り半分を次月にまわし確約書を書いた。

やはりいざと言うときの蓄えは必要である・・・。


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