兇者の末路。



学校の休みを利用して1泊2日の東京旅行に出掛けた私は、1日目の終わりに宿泊先である埼玉に住む父の所へ行った。

色々見て回り目を酷使したせいだろうか、目が痛い。
溜まらず家に着いてすぐにメガネをはずした。

出迎えた父が「今日は風呂どうする?」と聞いてきた。
梅雨時のせいか肌が何となくベタつく。
「できるなら入りたい」と答えると、父は「使えるかどうか分からんぞ」と言ってきた。
どういう事か聞くと、もう2年以上風呂を使っていないらしい。


じゃあどこで体を洗っているのか。


いちいち風呂を沸かすのが面倒で、父はサウナ通いをしていた。

サウナって体の洗浄効果はあるんだろうか?銭湯に行った方がいいんじゃないかと思ったが、まぁ匂ってこないからいいかと口には出さなかった。


2年も開かずの間状態の風呂。

カビだらけのタイル。
錆が付いた浴槽。
天井に張られたクモの巣。
蛇口をひねると出てくる赤茶色の水。

あらゆるイヤな想像が思い浮かんだが、サッパリしたいので一応使えるかどうか確かめよう。
目の痛みがひかないので、私はメガネをかけずに浴室へ向かった。

古くて立て付けの悪くなった引き戸をどうにか開ける。


浴室は意外にもきれいだった。


気になるのは洗い場のあちこちにある、黒い葉っぱのような物。
裸眼視力の状態だと立ったままでは何なのか特定できない。
よく見ようと屈んだその時。


「どうだ、使えそうか?」

父がやってきた。

「これから確かめるところ」と返事をすると、父は私より先に浴室に入ろうとして床にある黒い物に気が付いた。


「何だこれ?・・・・・・ゴキブリか」


ゴキブリ!?

床に点在する全てのこの黒い物がゴキブリ!!?


「一体何匹いるんだ。(数えて)13匹もいるぞ」

わざわざ数えておしえてくれなくていい。


「あそこから入ったんだな」

父の視線の先には換気扇があった。なるほど、侵入経路はそこしか考えられない。しかし何だってただの浴室に13匹も入り込んだのか。
ゴキブリを惹き付ける物がこの浴室にあったのだろうか。


私は軽い目眩を覚えた。


昔読んだマンガで作者が言うには、頭部と胴体を離せば流石のしぶといゴキブリも死に至る。
だがその死因は窒息死でも出血多量死でもなく、「餓死」らしい。
つまりヤツらにとって頭は餌を摂取する器官でしかなく、それを知った作者はこいつらにだけは勝てない、やはり誕生してから数億年経っても進化してないヤツらは違うと敗北感に打ちひしがれたそうである。

まさに節足動物最強(凶)生物。

その生き物が、民家の風呂場で死んでいる。

しかも13匹。

この事実をどう受け止めればいいのか分からず混乱する私に、父はまず最初に考えなければいけない問題を投げかけた。









「で、(風呂)入るのか?」



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