出会い③職場で



天王洲アイルの事業所は、当時実家から通勤していた私にはとても遠いところだった。
所要時間2時間弱。当時は仕事のパートナーの半数以上がイギリスにいたため夕方開始の仕事が多かったこともあり、連日深夜まで残業という日が続いていた。
それでも、入社3年目の私は、自分の仕事の守備範囲が広がったことでやりがいを感じ、ちょっとおしゃれなこのオフィスへの通勤も楽しんでいた。

シンガポール出張から戻って一月後。3年3ヶ月の任期を終えた「彼」が帰任し、同じ部に出社してきた。
「シンガポールではお世話になりました」「いえいえ」
というような挨拶をした後はほとんど会話することもなく、3ヶ月が過ぎていった。

私達の職場は個々人の仕事の専門性や特殊性がかなり強いところで、同じ部署に所属していても他の人の仕事を全く把握できないことすらある。それでも、気分転換に雑談するような相手だと何かしら情報があるものだが、集中しているように見える「彼」の背中は、話しかけようなんて気持ちにはさせないものだし、私は私で自分の仕事が面白くて仕方ない時期だったのだ。だからこの3ヶ月間、同じ部署にいながら全く交流のない「彼」は私にとっては遠い存在だった。

当時、仕事を離れた毎週土曜日には父とゴルフのレッスンに出かけていた。特にゴルフに興味があったわけではない。特に父と親密な親娘で一緒に過ごそうと思っていたわけでもない。それでも、レッスンに向かう車の中で仕事の話をしたり、お互いにからかい合いながらレッスンを受けるのを楽しんでいたのは、実は、いずれ親元から独立する日をどこかで予感していたからなのだろうか。

ゴルフスクールに入ってから2年が経過していた。この間、ショートコースには一度行ったことがあったがラウンド経験0。ひたすら500球打ちまくってストレス発散というのが私にとってのゴルフだった。

そんなある日。会社で営業部門の先輩から
「ゴルフやってるんだって?今週土曜日のコンペ、一人足りないんだよ。お願い参加して。」
というお誘い。でもラウンドしたこともないのに、コンペに
参加するなんて無謀過ぎる...躊躇する私に、「大丈夫。ただ参加するだけでいいからさ。」

うちの部門は元々女性従業員が極端に少ない部署だった。
なので、「女の子」は参加するだけで歓迎してもらえるという。パーティ代も女の子は無料とか送り迎えしてもらえるとか、至れり尽くせりの話に、「本当にいいんですか~?」と言いつつ参加させてもらうことにした。私の家まではその先輩が迎えに来てくれるという。

そして明日はコンペという日。その先輩から電話がかかってきた。
「ごめん。送り迎え、ちょっと調整が入ったんだ。キミは同じ部の○○さんの車ね。」

え?もしかして「彼」?だって話したこと、全然ないんだよ。
ゴルフ場まで2時間も3時間もかかるのに、一体何を話したら
いいの?好きな音楽もわからないし...どうしよう...

初めてのコンペの前日。私は二重の緊張感でドキドキしていた。


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