不機嫌な天使

『不機嫌な天使』




最近キラの様子がおかしい。
ニコニコと笑っているかと思えば、どこか遠くを見ている。
そんな様子を悟られないようにと振舞う姿が痛ましく思える。
悩んでいるなら聞いてあげたい。
でも、聞いたところで「何でもないいよ」
この一言でさっきよりも一層気付かれないようにと
より一層明るく振舞おうとする。
だから気付いていないフリをしてあげるのが懸命だと
固唾を飲み込んでから半月が来ようとしていた。
キラの様子も良くなるどころか益々酷くなる一方。
無理やりにでも聞いた方がいいのかもしれない。
一緒にいるこっちまでも不安になってしまう。

今日は急な残業で連絡することが出来ないまま仕事を終え帰宅したのが
日付の変わる数分前だった。

家の電気が全部消えてる。
急だったから電話も出来なかったら怒っているかな。
アスランはそう思いながら鍵を開けて、音を立てないように細心の注意を払いながら静に家の中へと体を滑り込ませた。
寝る時間の早いキラのことを考えると、二人の寝室で帰りを待ちくたびれて眠っているだろう。
そう思い寝室の方へ向かった。
起こさないようにそっとドアを開け窓から差し込む月明かりを頼りにキラの姿を探した。
ベッドの上にキラの姿はなく朝起きて乱れたままのシーツだけが横たわっていた。

「キラ・・・。」

小さく呟くとアスランは慌ててリビングの方に向かった。
勢いよくリビングの扉を開け、暗闇の中目を凝らしながらキラの姿を探した。
ソファーの上で丸くなっている影が見えた。

「キラ!」

近寄って声をかけるが返答はない。
アスランの顔を見たかと思うとすぐ横を向き視線を反らした。
暗闇の中ではキラの細かい表情を読み取ることは出来ない。
ただ、解るのは怒っているようだということだけだった。
アスランはリビングの出入り口に近寄り手探りで電気を付けた。
それでも変わらずキラはソファーの上で、膝を抱え丸くなったまま横を向いている。
テーブルの上には冷めてしまった料理たちが並んでいる。
アスランは額に手を当て小さくため息をついてキラの横に座った。

「ごめん。急な残業で連絡できなくて・・・待っていてくれたんだよね」

「・・・。」

「本当に急で連絡する時間さえ作れなかったんだ。」

どんなに理由を説明してもキラはアスランの言葉に返事をしない。
顔さえも向けてくれない。
どうしてここまで怒っているんだろう。
今までにも何度か、連絡をいれずに遅くなることはあった。
そんな時は、いつも決まって力尽きて眠っているキラの姿があった。
今日に限って起きて待っていてくれた。
それだけでも、アスランは少し嬉しい気持ちだった。
それなのに肝心のキラは怒っていて、一言も口を聴いてくれない。
どうしていいかわからず、色んな思いがアスランの頭の中で交差していた。
沈黙を破ったのはキラの方だった。
視線を壁にかかった時計へと移した。

「・・・今日は何の日か知ってる?」

やっと言葉を発したキラの声は静かに怒っているようで拗ねているような感じにとれた。

「今日・・・10月29日・・・」

アスランはそこまで言って気付いた。

「俺の誕生日だったのか・・・」

このところ忙しかったのもあったが、キラが悩んでいたことに気を病んでいて忘れてしまっていたのだ。

「頑張ってご馳走作ったのに、連絡も入れてくれなくて・・・今日中には帰って
こないのかなって・・・待ってったんだよ」

ソファーから立ち上がり台所の方から、ローソクの付いたケーキを持ってきた。
テーブルに置いて1本ずつ火をつけながら

「一緒に暮らして、初めての誕生日だよね」

キラは寂しく微笑んだ。

「アスランの為に何かしてあげたくて、ずっと悩んでたんだよ」

「俺のために・・・」

ローソクに火を付け終えたキラは、部屋の明かりを消した。
再びアスランの横に腰を落ち着けた。

「いいよ、アスラン。火を消して」

大きく息を吸うと勢いよく火を吹き消した。

「おめでとう、アスラン。」

キラは、アスランの唇に自分の唇を重ねた。
遠くで時計が日付の変わったことを告げている。
離れかけた唇が愛おしくなりキラを抱きしめて強引に吸い付くことで再び自分の元へ戻した。
時を忘れるほどの激しい口付けを交わした後は、場所を忘れ甘美な世界へと誘われて行った。
いつもより激しく、それでいて優しくお互いの愛を確かめるかのように朝まで続いた。

キラは思っていた。
プレゼントは渡せなかったけど二人で一緒に祝えるのは何年ぶりだろう。
お互いの気持ちを確かめ合い、何度も肌を重ねてきたけれど大切な記念日に
肌を重ねるのは特別でいて・・・どこか神聖な気がした。
プレゼントよりもお互いの想う気持ちが一番大切だと気付かせてくれた今日。
アスランに出会えて、一緒にいることが出来てよかった。

「これからもずっと傍にいて・・・ね・・・アスラ・・・ン・・・。」

全部言葉になる前にキラは、深い眠りに落ちていった。
また、アスランもキラの言葉を微かに聞きながら久しぶりに深い眠りに付くことがきた。




















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