気まぐれの風

気まぐれの風

香港・モーリシャス


もう何十回も旅しているのに、用意が悪いと言うか、抜けていると言うか…。
何か不吉な予感がする出発の時だった。

成田から十八時ちょうどに十五分遅れで飛行機は離陸した。機内での上映映画は「アンツ」。見たかった映画だったので満足。中華系の飛行機は食事も美味しい。デザートにハーゲンダッツのアイスクリームが出てきて、キャセイパシフィックが好きになった。
香港まで5時間、それから十時間の飛行が待っているので、まだ眠ってはいられない。香港の空港は新しくなったので、トランジットの時間が有意義に過ごせるだろう。時計を一時間送らせて、到着に備えた。
空港に着くとなぜか航空会社の係員がモーリシャス行きの人達を呼び止めていた。トランジットで案内があるなんて、きっと新空港になったからだろう、と思った。
何の説明も無くキャセイパシフィックのカウンターに連れて行かれた。日本人は全部で八人。これでも多いとのこと。普段なら一組か二組だそうだ。未だモーリシャスは遥か遠いインド洋のリゾート地なのか。
カウンターの一番前に並んだのは二人組のビジネスマンだった。モーリシャスにビジネスで行くの?かっこいい!と思っていると二人が私達の所へ着て、
「今の状況わかりますか?」
聞いてきた。
「へっ?何ですか?」
と聞くと半分呆れた顔をしながら
「向うが台風で飛行機が遅れているらしい。ホテルを用意してあるからそこで待機するようにとのこと」
と言う。
え~ぇ、台風?青い海、白い雲、真っ赤な夕陽は~?
ホテルが用意してあるってことは泊まるのぉ~?
泊まるってことはモーリシャス滞在日数が減っちゃうのぉ~?
そんなことが一度に頭に浮かんだ。
次にあんまり英語を理解出来ない私達だから、こんなトラブルに巻き込まれたらどうすればいいのかわからない。
今回日本人が多くて良かった。みんなと行動を共にしよう。
しかし、手続をしている間にみんなサッサとホテルへ行ってしまった。いくらなんでも今日会ったばかりの人に
「私達の手続が終わるまで待ってて下さい。」
とは言えない。
後ろを見ると誰もいなかった。私達が最後に並んでいたんだ。
手続が終わりどちらに行けばいいのかと思っていると、ちょっと離れた所に前に並んでいた男の人がいた。
彼は一人旅で、頼りない私達を心配して待っていてくれたそうだ。
藁にもすがる思いで彼の後をついて行った。
ゲートを出るとすぐ隣に真新しいエアポートホテルが見えた。ここが私達台風待ちのメンバーが泊まるホテルだ。
レセプションで手続をすると夕食券をくれた。これからレストランで食事ができるらしい。お腹は空いていないが暇でもあるし、行ってみることにした。
レストランはバイキング式でついお皿が山盛りになってしまう。もっとも美味しいと感じたのはゴマのスープ。ほんのり甘く、ちょっと緩めのペースト状で身体に良さそう。一通り気が済むまで食べてしまった。初日からこんなことではダイビングの時のウェットスーツが着れるのだろうか。
食事が終わって再びレセプションへ行った。何か情報が入っていないか。特に情報は無く、また、ホテルにある出発予定一覧にも表示されていなかった。
ロビーで座っていると空港で一緒だった他の人達も心配そうに来たりした。ビジネスマンの二人が来て
「取りあえず明日の九時までは待機だから、部屋に戻って平気だよ」
と教えてくれた。
明日の九時にまたレセプションへ来ることにして部屋に入った。このホテルは新しく、高級な感じもするし、納得する。しかし、シャワーを浴びようと思っても一切合切の物はスーツケースの中。ホテルの備品を使うことにした。簡単な化粧直しの道具は携帯していたが化粧水や乳液などは無い。
よく、スーツケースを預ける時は万が一の事を考えて一泊分の必要なものは機内に持ち込むといい、と旅行ガイドブックなどに書かれているが十回に一回あるかないかのトラブルのため手荷物が増えるのは嫌だ。
最悪でもお金さえあればホテルの売店で購入できる。しかし、このホテルはまだ出来たばかりだからか売店が見当たらない。館内案内にも出ていない。仕方ないのでスッピンで過ごすことになるのだろう。
まぁ、空港で待機よりも良かったのだと思わなくては…。
シャワーを浴びてベットに入るとあっという間に眠ってしまった。

朝起きると空調のせいで身体が冷たくなっていた。寝る前に空調を止めようとしたが操作方法が良くわからず止めれなかったのだ。
朝食が八時からなので着替えてレセプションへ食事券をもらいに行った。そのついでに飛行予定一覧を見たが見当たらなかった。いつまで待ったらモーリシャスへ行けるのか。
食事を済ませロビーのソファーで情報を待っていると他の人達も集まってきた。初めは差障りのない話をしていたが、一緒にいる時間が長くなってきてお互いの旅行目的やいままでの旅行履歴などを話すようになってきた。
お昼の時間が近づいてきて、昼食券をもらいにレセプションへ行くようにと言われた。このホテルで何回食事をすればいいのだろうか。
昼食が済むと新しい情報が入ってきた。
今日の二十二時に飛ぶと言う。九時に空港のカウンタ-で集合、それまでの時間は自由。
今度こそ本当に飛ぶと言うことと、九時までの時間が自由になると言うことでみんな喜んだ。
さて、与えられた時間をどう過ごそうかと考える。
この新しい空港は市内からだいぶ離れていて、街の中心に出るには一時間ぐらいかかりそう。しかも、本来は空港の外に出れなかったのでガイドブックも無い。結局ホテルの部屋で寝ているか、ここでみんなとおしゃべりをしているかしかないのだ。
しかし、誰かがレセプションで香港市内の地図をもらってきてくれた。何年か前に一度来たことがあるのでその記憶とこの地図を頼りに街に出ることにした。
空港から市内までスカイライナーで三十分。とっても近代的なものだった。切符も一日フリーのカード式だった。 駅に着くと空港利用客用にと高級ホテル行き無料巡回バスが走っていた。それを利用し、免税店へと向かった。
免税店は普通のデパートの上にあって、ハワイなどの独立した感じはない。しかし、香港は街中でも十分安いので免税店は空いていた。いくつかの化粧品を買った後、普通のデパートに入った。一Fに薬とお茶とお菓子が売っていて、十分楽しめた。両手に一杯の荷物になってしまったが、これで飛行機が遅れた分は取り戻したと喜んだ。

ホテルに戻るとまた飛行機が遅れるとのこと。四時間遅れて深夜二時。二回目の夕食で香港最後の食事を取ってホテルを後にした。
空港は新しくて広いのだが、なんとも殺風景でしかも使い方が乱暴な感じがした。殺風景なのは深夜でお店がやっていないからだろう。
出発ロビーで待っていて、気が付くと廻りは中華系の人達だった。そう言えばホテルで話し掛けてきた人達も中国人だった。
「モーリシャスに何しに行くの?」
と聞かれたので
「遊びに、ダイビングをするの。あなたたちも?」
と聞いたが答えなかった。その時は「通じないの?」と思ったが、このロビーで見る限り遊びに行く雰囲気ではない。疑問に思いながらも飛行機に乗り込んだ。
乗ってみると真ん中の四人席はほぼ中国人が座っていた。
窓側には日本人と他の国の人だった。団体だから真ん中の席を取っているのかと思っていたが、食事が終わると、なんと四人席に一人の割合で横になって寝ている。
なんて要領がいいの!
驚きと同時に呆れてしまいながらもやはり感心して観察していると、一人の男性がそれぞれの人を空いている席に移動させながら、上手に割り振りしているのがわかった。
恐るべし、中国人!
だから世界中どこにでも中国人はいるのか?
インド以外は何処にでも中国人は暮らしていると、誰かから聞いたことがある。
何処の国でも適応できる中国人はすごいと思う。日本でも横浜や神戸、長崎と中華街があって、みんな立派な有名な街になっている。

私達は仕方なく、それぞれの席で寝た。私は食事も断わって、寝れるだけ寝ようと努めた。
家から持ってきた安眠グッズ。空気枕にアイマスク、バッチリとセットして眠りに入った。
途中何回か目を覚ましたが、それでも無理矢理眠った。
約十時間の飛行を終えて、モーリシャスの上空に着いた。窓の外は雨で重苦しい雨雲が空一面に居座っていた。気流のせいか飛行機は思いのほか揺れて、初めの着陸は失敗してしまった。再び上空に上がって、二度目の着陸は少し恐かった。揺れながらも無事着陸した時は機内で拍手が起こっって、ますます恐くなってしまった。誰もが自分が乗った飛行機が落ちるなんて思ってない。きっとこんな状況がもう少し悪くなってしまった時なんだろうと思う。
空港は綺麗とも汚いとも言えないものだった。
税関を過ぎ、荷物を受け取って外に出ると、あのガイドブックに載っていた伊藤みどりさん(スケートの金メダリストと同姓同名)がいた。
ガイドブックの写真より若くかわいい感じだった。ホテル毎に別れ車に乗った。事務所が同じ地区とのことで伊藤さんも私達の車に同乗した。ホテルまでの一時間、私達は彼女を質問攻めにした。今回遅れた本当の理由やいつもの天候、モーリシャスの歴史、お薦めのお土産のことなど。
今回の遅れた理由はやはり台風のせいで、その台風もめったに来ないものだった。私達は運が悪いのか?
モーリシャスは昔フランスの植民地だったそうでみんなフランス語を話せる。一応現地人はクレオール人でクレオール語を話す。このクレオール語はフランス語から変化した言葉で発音など似ているらしい。その後、イギリスの領地になったが、反乱が起こることを恐れて英語は強制されなかったらしい。人口はインド系が六十八パーセント、クレオール人 、中国系 。
モーリシャスの観光客は欧米人がほとんどで、日本人は五パーセントぐらいだそうだ。モーリシャスはホテルが多くあるので、めったに日本人に会うことはない。
私達のホテルにも日本人はいないと言う。
欧米人の観光客が多いので、ホテルも高級だし、値段も高い。どんなホテルでも一泊一万円以上はする。
お土産などもブランド品のお店が多く、繊維工場もあるらしい。中国系の人達が多いのはそういう工場で働いているからだそうだ。
最も有名なお土産はバニラの香りのする紅茶とラム酒とのこと。空港からホテルまでの間もサトウキビ畑ばかりだった。
約一時間走ってようやくホテルに着いた。思ってたよりも格段良いホテルで良かった。
チェックインの時にホテルの説明をしてくれた。プールサイドでパッションフルーツのジュースを飲みながら、ほとんどわからない英語の説明を聞いた。
部屋の鍵をもらって部屋に入ると、テレビが無いだけであとは何も文句がない良い部屋だった。簡単に荷物を整理して、ホテルの中を歩いてみることにした。綺麗に整備された庭に花壇。早速写真を撮った。テニスコートもあり、プールもあり、ボートもあるし、ダイビングショップもある。
街には歩いて五分ぐらいだし、場所的にも良い。

続く。。。




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