きみのこえ

転校生



タイトルも、作った人もわからない。

ただ、両親の遺品の中にあったデータチップの中にひとつだけ入っていた、
この曲。


私を引き取り、突き放した叔父、

ひとりでは寂しかろうと、流華学園編入祝いにウォークマンを買って渡した叔母。


生活費だけを振り込まれ、それに慣れてしまった私。


そんな寂しさを代弁してくれる様に、ピアノの音は続く。


だけど、この曲は後からドラムが入り、そしてサックス・・・と、

ひとりで悲しんでいたピアノを励ます様に明るく鳴り響く。


それに答えたピアノも、明るく・・・・



光に向かって走っていく様に・・・・・




きみのこえ





私が住んでいる下宿『ナツキ荘』から流華学園までは徒歩10分。

そして、その流華学園は関東の中心の広大な敷地にある。

今日も、いつもと同じように

タイトルも、誰が作ったのかも解からない、悲しいけれども明るく走っていくようなこの曲を聞きながら

10分間の道を歩いていく。


流華学園、世界でもトップクラスの進学校。

幼稚園から大学院までが同じ敷地に併設されている。


私が通うのは中等部。


中等部は各学年ごとにA~Dまでの4クラスがあり、A組のみがA棟、特別棟の使用を許可される。

組み分けは毎年の進級試験で決定され、トップから30人がA、その後40人ごとに区切られる。

転校してくる場合は編入試験を受け、その成績で組が分けられる。


私は編入試験を受け、A組の一番後ろ、窓際、隣無しの特等席を頂いた。


500点満点中、500点。

文句なしの1等賞だ。


この点数の理由は簡単。



叔父への反抗心。




あと、授業中のネット遊びがOKと言うのがぐっと来たから。





今日も机に座り、システムを起動させる。


起動時に出る今日の予定、時間割を確認して、メールボックスを見る。

学級便りが入っていた。



『2-A 学級便り』

何時もの陳腐なタイトルで始まる学級便りは何時も通りの文面で、
隣人の到着を知らせた。


「転入生の月居流宇君がやってきます」

氏名       月居 流宇
転入試験成績   498/500
座席番号     D-5



「・・・隣か。」


メールボックスを閉じ、インターネットに繋ぐ。

毎朝の儀式のような物だ。

ネットの音楽サイトであの曲の事を調べるのは。


タイトルも解からない、作曲者もわからない。

解からないのにがむしゃらに探してみるのが朝の私の仕事。



隣の席に運び込まれた机に、人が座る気配がした。



「――‐・・・月居・・君?」

「何で名前を知ってるんだ?」

「学年便りに・・・にしても・・・本当に男?」

「男だ。」


一見男には見えなかった。

肩くらいまで有る艶やかな銀色の髪は癖のひとつも無く、さらりと流れていて、

とても男には見えなかったが、

やはり、髪と同じ色の瞳を見ると、この人は男だ。と思えるような
未来を見据えた光が宿っていた。



「あ、私は星川依。これから、宜しくね。」


「―俺は・・・月居流宇・・・お前を、護りに来た」

「・・・え?」


「・・・1時間目にメールを送る。」


「あ・・・ハイ。」




こういう時に便利だ。この学校のシステムは。




生徒一人一人にプロバイダのメールアドレスを入学時に授与。

そのアドレスは如何使っても自由だ。


また、メールアドレスは 名‐姓@以下略 の為、
名前さえ知っていれば誰にでも送れる。

私の場合は yori-hoshikawa@以下略 となる。



担任が来て、朝の会が始まった。


月居君が自己紹介をし、女子生徒からの熱烈な視線を受けていた。

いや、男子生徒の中にも、見惚れる人が居るだろう。


だけども私は・・・・



彼の言った「お前を護りに来た」と言う言葉があまりにも不可解で。

メールボックスを開いたまま、なにも書いていないノートを凝視していた。





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