Mayuとあなたと。

北海道新聞(17.3生活面掲載)



日本女性のおよそ三十人に一人がかかると言われる乳がん。発症年齢は四十~六十代に集中しているが、札幌市の大原まゆさん[二二]は一昨年、二十一歳の若さで乳がんと診断され、手術を受けた。闘病中の大原さんは、このほど手記「おっぱいの詩(うた)」(講談社)を出版。「統計上0%」という極めて数少ない二十歳前後の乳がん患者として、心情や治療体験を率直につづっている。

 「若くて珍しいけれど、症状や不安に思っていることは他の患者さんと変わらない。多くの人に乳がんを身近に考えてもらえたらと思い、手記を書くことにしまし
た」
 大原さんは一昨年秋、着替え中に自分で右胸のしこりを見つけ、市内の専門医で検査を受けた。結果は悪性。四つの病期に大別される乳がんの進行度では、リンパ節に転移のある2期のbと診断された。
 「母[四六]は三十五歳で婦人科がんにかかっていたので、私も無縁でないとは思っていました。医者から『娘は母親より十年早く発症する』と聞き、十八歳から婦人科検診だけはきちんと受けていたのです。でも乳がんはノーマーク。やられたと思いましたね」
毎年三万人以上が新たにかかるといわれる乳がん。うち約九割は四十代以上の中高齢者で、三十五歳未満の若年者乳がんは数%、二十歳前後は統計上0%になるほど少ないとされる。人生経験もこれからという年齢での罹患に周囲は驚き、本人も大きな衝撃を受けた。手術は九月末。「再発の危険が最も高いのは術後二年間」との主治医の助言に従い、職場を退職して治療に専念することに決めた。
 手記を書き始めたのは、抗がん剤の治療中だった昨秋から。一昨年、乳がん検診の誤診で「余命半年」と宣告された女性の告発記事を新聞で読み、その行動力に共感を覚えたのがきっけとなった。また、同じ時期に入院していた人たちと患者会を結成したり、自分のホームページを立ち上げるなどして、不足しがちな情報を交換する活動にも積極的に関わっている。
 「なぜ私が乳がんに? と最初はショックで涙も流しましたが、病気や治療から逃げたことは一度もありません。私がここまで前向きになれたのは、たくさんの人の支えがあったから」と話す。将来への不安、治療費の問題、抗がん剤の激しい副作用・・・。手記には、病気に伴うさまざまな困難に揺れながらも、家族や友人に励まされ、患者仲間、医療者と語り合うことで、気丈に乗り越えていく様子がしっかりとした言葉で描かれている。
 当面の治療が終わるのは半年後。「社会復帰して何をするかは考え中ですが、乳がんに関する活動はずっと続けていくでしょう。がんがいつ再発するかも分からない危機感を一生持ち続けなければならないのは大変ですが、この年齢で病気にならなければできなかった経験もたくさんある。悪いことばかりじゃなかった、というのが実感です」と笑顔を見せた。


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