日常・・・

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最終章 【決着の時】



序節【悲しみの波・・・ ネイオvs スーパーアンデット】

スコットは先を逃げるカルロスたちと合流した。
カルロスは振り返って、あることに気付いた。
「・・・ネイオは?」
「・・・戦いにいったよ」
スコットは小さめの声で言った。
「戦い?」
アフタショットは疑問符を付け話す。
「決着を付けにいったんだ。・・・さっきの奴とな」
スコットがそういうと、一同は驚きを隠せなかった。
「無理だ・・・」
「死んでしまうぞ・・・」
スコットはネイオに言われたことを思い出した。
―よろしく頼む―
スコットは突然叫んだ。
「皆、海岸に逃げるぞ!」
皆は海岸に向かった。
しかし、ジムだけは一人立ち止まっていた。

ネイオは先ほど来た道を逆戻りした。
なんとしてでも倒さないと・・・命が危なかった。
もう他のメンバー達を危険には晒せなかった。
自分ひとりで決着を・・・付けたかったのだ。
すると、急に木々は減った。
草は高く、倒木もあるがうまい具合のスペースだ。
そこで戦えという風に、正面からスーパーアンデットがやってきた。
「なんだと・・・」
ネイオは銃を持っているゾンビ、スーパーアンデットを見て驚愕した。
するとスーパーアンデットはネイオに銃口を向けた。
ネイオはとっさに前方に前転して弾をかわした。
そしてそのままダッシュしてスーパーアンデットに向かっていた。
特殊部隊で鍛えた肉体を駆使し、スーパーアンデットに跳び蹴りをくらわせようとする。
しかし、持っている銃で殴り飛ばされた。
ネイオは倒木の後方に身を潜めた。
また弾が一発飛んでくる。倒木に当たって、一部砕けた。
相手が連射銃を持っていないことに、感謝をしながらネイオは弾を避けた。
ネイオは自身の連射銃で銃を持っている右手めがけ、発射した。
「うぉぉぉ!!」
ものすごい唸り声を上げるスーパーアンデット。
そして持っている猟銃のような銃を地面に落とす。
ネイオはその隙を見計らって、ゾンビを倒すよう、頭を狙った。
しかし、標的は連射されている弾を交わしているのだ。
「ありえない・・・」
そう歎きつつ、リロードをするネイオ。
すると目の前に、突如としてスーパーアンデットが向かってきた。
ネイオは慌てて銃を向けたが、凄い力に圧倒され倒れこんだ。
その上にスーパーアンデットが乗る。
ネイオは目を開くと、兇悪そうなスーパーアンデットの顔しか見えなかった。
口を開いて、喉元に噛み付こうとしている。
ネイオは何とか武器を探した。
自身の腰には拳銃、手榴弾しかついていない。
スコットに武器を借りてれば・・・と後悔もしていた。
何とか拳銃を取り出して、脳をぶち抜こうとネイオは必死に腰に手を伸ばすが
腕を押さえつけられていて動かせない。
ネイオはスーパーアンデットを見た。すると。
スーパーアンデットの腰には生前のミニが武器愛好家だったおかげか、拳銃がついていた。
しかしそれも腕が伸ばせなければ同じことだ。
ネイオはだんだん迫ってくるスーパーアンデットの口を眺めた。
―こいつにだけは・・・噛まれない・・・―
ネイオはそう思ってスーパーアンデットを一蹴りした。
後退するアンデット。ネイオはその隙に自身の拳銃を抜いた。
「終わりだ・・・」
しかし、向き直った瞬間、弾が飛んできて拳銃に命中した。
拳銃はネイオの手から離れて、地面に転がった。
ネイオは拾いなおしたが、既に使い物にならなかった。
その拳銃をスーパーアンデットに向かって投げつけた。
ネイオは、再び全身全霊をかけて突進した。

一方、スコットやカルロスらは砂浜に逃げてきた。
「やっと森を抜けられたか・・・」
カルロスがつぶやく。
「ほら、あそこだ!船が見える」
アフタショットが数十メートル離れた場所にある船を指差した。
スコットたちから見れば自然だが、カルロスとユアンには疑問があった。
「どうして砂浜に乗り上げてる?」
「色々とあったんですよ。カルロスさん」
スコットは身振り手振り話した。
そのとき、ユアンが気付いた。
「ジムは・・・?」
一同は静まった。

ジムはネイオの方へ向かっていた。
何故だろうか・・・
ジムは草を掻き分け、倒木を飛び越えながら進んでいた。

「うりゃー!」
ネイオはスーパーアンデットの背後から、跳び蹴りを食らわした。
スーパーアンデットは倒れこむ。
その隙にネイオは少し前まで相手が持っていた、猟銃のような単発銃を拾って、
スーパーアンデットの頭に狙いをつけた。
しかし引き金を引こうとしたとき、スーパーアンデットは起き上がり、避ける暇も無くネイオは殴り飛ばされた。
ネイオは巨木にぶつけられた。
スーパーアンデットはゆっくりと近づいてきた。
そして、倒れこんでいるネイオに向かって一吼えする。
もうダメだ・・・とネイオは思い目を閉じた。
―両親・・・故郷・・・特殊部隊・・・親友、スコット・・・カルロス・・・カプラン・・・ランコア最高司令官・・・PCゲーム・・・―
様々な思いが、ネイオの頭の中を走馬灯のように駆け巡った。
「さぁ・・・こいよ・・・」
ネイオは座って手を広げた。
もう思い残すことは・・・無いと思う・・・と、考えたりしていた。
スーパーアンデットはそんなネイオの喉元に・・・噛み付く・・・









その寸前、ジムが突然、スーパーアンデットの影から現れた。
「糞野郎!!」
ジムは拳銃をスーパーアンデットに向けて連射した。
ネイオまであと、数センチと迫っていたスーパーアンデットは背中に感じた着弾を気にした。
スーパーアンデットは振り向いた。
ジムが拳銃を構え、立っている。
スーパーアンデットの怒りに触れたか、スーパーアンデットはジムに向かって走り出した。
「ジム!逃げろぉ」
ネイオは出せる力を最大に出して、叫んだ。
しかし、ジムは逃げる間もなく・・・
「ジムー!!」
ネイオは叫んだ。
何故か頭の中で、怒りがこみ上げてきた。今日会ったばかりなのに・・・なんでだ。
そんなことは関係ない。
怒りは人を強くした。
ネイオはジムに喰らいつく、スーパーアンデットを体当たりで蹴散らすと、倒れているジムに駆け寄った。
「ネイオ・・・」
ジムは小さな声で言った。
しっかり聞かないと聞き取れないくらいの。
「ジム、大丈夫か?しっかりするんだ」
「ははは・・・なんかネイオに親近感が沸いて・・・今日の朝、初めて会ったばかりなのに・・・
ネイオ・・・もうダメだ」
ジムは瞳を閉じそうになるが、ネイオが必死に止めた。
「ダメだ、目を閉じるな!死ぬぞ!」
「どっち道・・・助からないんだろ、あいつに噛まれると・・・今、ネイオが船まで連れて帰っても、
他のみんなに迷惑をかけるだけだ・・・」
ネイオは次第に、目が潤んできた。
「あ、最後にネイオ・・・船で帰る方法を考え付いた・・・」
「何?なんだって?」
ネイオはどうもうまく聞き取れない。
「船で帰る方法さ・・・」
ジムはもう一度繰り返した。
ネイオは耳に全神経を集中させた。
「帰る方法・・・来る時に、リモート式の魚雷があると言ったろ・・・それを利用してな・・・・・・」
それ以降、ジムは喋らなくなった。
「ジム?・・・ジムー!!」
ネイオは叫んだ。
ジムは目を閉じた。もう終わりのようだ。
ネイオは悲しみにおぼれた。
「クソ!・・・クソ!」
今までメンバー達が死んでも特別な感情は無かった。
今回だけじゃない、前の任務もだ。
確かに、悲しみを覚えたが、今のように悲しみにおぼれるのは初めてだった。
ジム・・・ネイオがもっとも親しかった武装攻撃隊のメンバー。
米時刻、午後四時三十九分十三秒。
ひっそりと一つの命を終えた。

ネイオはしばらく動けなかった。
しかし、茂みからスーパーアンデットが邪魔をするように現れたのだ。
「くそぉ・・・」
ネイオは正直言って、こいつの存在を忘れていた。
ジムの死の悲しみにおぼれていて・・・
スーパーアンデットは落ちていた愛銃、猟銃似の銃を持った。
ネイオは走った。しかし、弾が腰に装備している手榴弾に当たった。
これでネイオの武器は完全になくなった・・・
こうなったら逃げるしかなかった。
スーパーアンデットは銃をリロードした。
ネイオは振り返ってそれを確認した。
(ヤバイ・・・このまま海岸に逃げるか・・・)
そう決心をしたとき、足元の木の根っこに足をかけてしまった。
ネイオは勢いよく前方に転がりこんだ。
「くそ・・・」
そういって立ち上がろうと、体勢を直した。
丁度、座りの体勢になったとき、額に何かが当たった。
目の前を見るとスーパーアンデットが銃を持っていて、銃口をネイオの額につけていたのだ。
「はは・・・もう終わりのようだ・・・」
スーパーアンデットはそう歎くネイオなど気にもしないで、引き金を引いた・・・。

結節【アメリカに帰ろう】

・・・・・・・・・静寂
ネイオとスーパーアンデットは十秒後も同じ体制で静止していた。
(・・・あれ)
ネイオは目を開けると、同じ未だに銃口を突きつけているスーパーアンデットを見つめた。
きょとんとしている。
すると、もう一度引き金が引かれた。
しかし、弾は発射されない。
弾切れ・・・
「ははは・・・」
ネイオは笑った。
すると、スーパーアンデットを見つめて言い放った。
「運はこちらに向いてきた!」
ネイオはきょとんとしているスーパーアンデットの腰に手を伸ばすと、装備してあった拳銃を奪った。
そして、そのままの体勢で弾を装填した。
「くたばれ・・・」
そういうと、静止しているスーパーアンデットの額めがけて弾を発射した。
「うぉぉぉ!!!!!」
ものすごい悲鳴が響き、スーパーアンデットは勢いよく・・・倒れこんだ。
ネイオは何回も弾を浴びせた。
そして、ようやく相手の死を、確認することが出来た。
「ふぅぅ・・・」
ネイオはその拳銃を自身の腰に装備し、倒れているジムの連射銃を手に取った。
ジムにネイオは手を合わせた。
そして、ネイオは海岸へと向かった。


「どうするよ!?」
「戻って二人を見つけて・・・」
「何を言う!俺はネイオから後は頼むと任されてるんだ!いまさら戻れるか・・・」
三人は言い争っている。
離れた場所で座っていたユアンが目を凝らした。
「ネイオ!」
スコット、カルロス、アフタショットの三人は一斉にユアンが見るほうを見た。
「お~い」
ネイオが手を振りながら、走ってくるのが分かった。
「ネイオ!」
スコットが叫んで、ネイオに駆け寄った。
カルロスやアフタショット、ユアンも続く。
「お前~、無事だったのか~」
「ああ!そして、あの化け物をぶっ倒してきた」
カルロスが詰め寄る。
「あの化け物って・・・リッカーか?」
「まさか~、銃を使うゾンビだよ。あいつさ」
「あいつを倒したのか!」
アフタショットは驚きの声をあげた。
一番初めに襲撃された者なので、一番恐怖があっただろう。
そのとき、後方で喜んでいたユアンが不意に、聞いてきた。
「ジムに会いませんでしたか?」
ネイオは一瞬で顔が凍りついた。
そしてうずくまる。
「なんだ、ネイオ・・・まさか!ジムは・・・」
カルロスはそこまで言ったところで、ネイオに口を覆われた。
「頼む・・・言うな」
メンバー達は一瞬にして静かになった。
その時、ネイオが口を開いた。
「そのジムが言ってたんだ・・・この島からの脱出方法を」
「何、船で帰ればいいだろ?」
カルロスが平然と喋った。
「そうか、カルロスとユアンは知らないのか。襲撃にあって、船の底に穴を空けられたんだ」
アフタショットが一通りの解説をする。
「だったら沈んでしまうじゃないか・・・」
「だから砂浜に乗り上げてるの。それで水が抜けると思うから・・・」
スコットは追記で述べた。
「よ~し、一旦船に入ろう。そうすればリッカーたちから逃げられるかも・・・」
ネイオの言葉で、一同は船に向かった。

グルルルル・・・・・・
序盤、船を壊した大きい、成体のリッカーは獲物を求めて歩いていた。
茂みをかき分け進んでいた。
すると目の前に何かしら倒れているのが目に入った。
リッカーは近づく。
倒れていたのはスーパーアンデットの死体。
多少の腹ごなしにはなるだろうと思い、リッカーはその死骸を食べはじめた。
しかし、リッカーのこの判断が、後にネイオたちを苦しめることとなろうとは・・・
スーパーアンデットをため終えたリッカーは、体に異変を覚えるようになる。

「島からの脱出法・・・前置きに穴は大きい。それなりの速度を出さないと沈んでしまう」
ネイオは述べた。
「でも、浸水を最低限に留めるには最低でも・・・二百二十三キロ以上で走らないとダメです・・・」
ユアンが説明する。
「この船のエンジンは最高速度で二百十二キロなんです・・・パーツ改造でも、数キロ上がる程度で・・・」
その言葉に一同は黙り込んだ。
しかし、ネイオは明るかった。
「その速度を出せるものがある」
「なんだ、ネイオ。そんなのがあるのか?」
カルロスが不思議そうに尋ねた。
ネイオは深く息を吸い込んだ。そして言った。
「魚雷だ」


スーパーアンデットを食ったリッカーはうなっていた。
うごぉぉぉ!!!!
とてつもない悲鳴が響いている。
リッカーのむき出しの筋肉が、激しく脈打っている。
まるで鼓動をうっているようだ。
すると、一気に体が変化した。
そしてその数秒後、悲鳴は止まった。
リッカーは変化した・・・。
太く、筋肉が大量についている後ろ足。それに伴い、少し長くなった前足。
新たに出来た尻尾。一回り大きくなった顔。そして比例して強力になった歯。
高さ五メートル・・・顔から尾までの長さ八メートル・・・
二足歩行で、姿はまるで恐竜言えよう。
そんな新たな脅威が獲物を探し始めた。
そう、海の方へ・・・


「魚雷ぃ?」
スコットがすっとんきょうな声をあげた。
驚くのも無理は無い。
事実、ネイオ以外は驚いていた。
「魚雷って・・・海の中でやるものだぞ。それにどうやって船を動かすというんだ?」
カルロスが尋ねる。
「知っているだろ。リモート式の魚雷を・・・」
「まぁ、知っている」
「それを鎖か何かで、船の前方に繋ぐんだ。そして船内でそれをリモート操作。つまり汽車が車両を引っ張るのと同じ理論で、魚雷が汽車、車両が船・・・こういうことさ」
ネイオは一説を唱えた。
「俺達は乗客だな」
スコットはひそかにつぶやいた。
「さぁ、作業開始だ!」

まず魚雷を外に出した。
砂浜に並べる。
その間に船の前方を海の方へ向けた。
「いくぞ・・・押せ!」
今まで、海から突っ込んで乗り上げていた状態の船は、メンバーの力作業でどうにか前方を少しだけ、海に着水させることが出来た。
「あとは魚雷の力で引っ張るのか・・・」
そしてリモート式魚雷を船の先端に持ってきた。
そして驚くべきことが判明した。
「これって・・・浮くぞ!海に浮く!」
「ジムが改良に改良を重ねて、威力を減らさずに重さを削ったんだ。俺は知ってたぜ」
アフタショットが解説をした。
ジム、ありがとう。
そして魚雷の側面の一方に鎖を繋いで、船にもフックをつけて完全に魚雷と船を繋いだ。
「よ~し、こんなもんか」
スコットが額にたまった汗をふき取りながら言う。
しかし、ここである問題が浮かびあがった。
「おい、これでアメリカまで辿り着いたとして・・・魚雷はどうやってとめるんだ?止めないと、アメリカに突っ込んで、大爆発を起こすぞ」
カルロスが問題を代弁した。
ネイオもそこは考えていなかったようだ。
しかし、魚雷のリモコンを持っていたユアンが問題を解決した。
「このリモコンで、全て操作できます。全てです、全て。魚雷が浮くようになっているのも、これで沈めたり、浮かせたりが可能だから浮くようにしたんだと思います。
魚雷は先っぽがぶつかった衝撃で爆発しますが、こっちのリモコンでも手動爆破が可能です。好きなときに爆破が出来るということです。
そしてもちろん、スピード調節も可能で、ストップさせることが出来ます。これだけの改良を加えたジムって・・・凄いですね」
ユアンが全てを解説した。
ジムは魚雷専門とは聞いていたが、ここまですごいとは思っていなかった。
「よ~し、船に乗り込め。さっさと逃げよう」
「ユアン、アフタショット。お前達で魚雷を操縦してくれ。俺とカルロスとスコットは後方の警戒に当たる。了解?」
ユアンとアフタショットは前方の甲板に行った。狭いのだが・・・
カルロスとネイオとスコットは後方の甲板でリッカーが来ないか見張っていた。
「そういや、前は出発した直後にあいつ来たよな。あの時は・・・」
スコットが思い出話を悠々と語るが突然の衝撃で話は止まった。
いきなり船が動き出したのだ。
砂浜に乗り上げていた船は、最初こそ浅瀬の影響で鈍い音を出していたものの、海に突入すると穏やかになった。
「皆!速度を上げていくから・・・気をつけて」
ユアンの声が前方から響いた。
まぁ、ユアン達の方が風をもろ受けるから危ないのだが・・・
「分かった!警戒する」
とカルロスが言った時だった。
砂浜の向こうの林から、見たことの無い怪物が現れたのだ。
「なんだ!あれ!」
見た目はリッカーだが、二足歩行で、大きさも増し、恐竜を想像する。
そう、これこそまさに、先ほど獲物を探していた新たなる脅威なのだ。
この怪物は、後に恐竜のような外見からダイナリッカーと呼ばれる。
「おいおい・・・なんだ、あれは?」
スコットが思わず口から発した。
ネイオとカルロスは唖然とする一方だ。
「おい、まさか泳いでなんか・・・」
カルロスは心配した。しかし、それはすぐ答えが出た。
「泳いできた」
ネイオは棒読みで言った。既に気力が無かった。
ダイナリッカーは泳いできた。しかもかなり早い。
強靭な後ろ足と前足を活用しているのだ。
カルロスは二階席に駆け上がり、前方の甲板にいるユアンとアフタショットに話しかけた。
見るとユアンがリモコン操作をし、アフタショットはそれをただ眺めているだけだった。
「アフタショット!」
カルロスは大声で二階席から叫ぶ。
「今何キロ出ている!!」
アフタショットはユアンに確認をとって叫んだ。
「百七十キロ!あともう少しで、浸水を最小限に・・・」
「そんなことはいい!奴が・・・リッカーが来てるんだ!」
それを聞いたアフタショットは驚愕した。
操縦しているユアンの耳にも入る。
「もう少しあげましょう・・・」
リモコンのパネルをいじくった。
もう目をつぶらないとダメな感じだ。
何しろ毎日乗っている地下鉄よりも早いんだから。
ユアンはパネルをいじくって速度を上げた。
アフタショットは思い出したとばかりに、浸水の様子を見てくることになった。
一方後方。ネイオとスコットで何とか策をとっていた。
連射銃をぶっ放すが利かない。
やっぱりリッカーだ。
「お前・・・今回は強力な銃を持ってないのかよ・・・」
「今日は忘れたよ!遅刻しそうになったから・・・」
「いつも遅刻してるじゃないか。何で今回に限って・・・」
ネイオとスコットは相変わらずな会話を繰り広げていた。
そのとき、カルロスが何かを持ってやってきた。
「どけ、二人とも」
ネイオとスコットは従うがままにどいた。
「これで、何とか奴の動きを止める」
カルロスが取り出したのはロケットランチャーだ。
丸い円柱状の発射機を肩にかずいた。
「無理だ、これじゃとても倒せない」
「倒すつもりなんて無い・・・」
間を空けた。
「動きを止めるといったろ!」
言い終わると同時に、一発発射した。
しかし、まったく当たらない。
「カルロスさんよ。お宅、俺よりミサイル射撃下手なんじゃない?」
「それは無いと思うぞ・・・」
ネイオはそういうと、船内に入った。
そして、前方の甲板に行った。
だいぶ暗くなってきた。時計を見ると・・・六時を過ぎていた。
「うすくらいな・・・」
そういって前方を見た。
すると、転々と点っている明かりが目に入った。
(帰ってこられたんだ・・・)
ネイオはそんな感情を抱きつつ、ユアンの元へと急いだ。
「ユアン!」
「なんですか!」
ユアンは顔を伏せて、レーダーで操作している。
「いいか、これくらいのスピードが出ていればある程度はなれていても、勢いと船の自力のパワーで岸までいけるはずだ。前も見ろ、もう本土が見える。
合図したら魚雷をストップさせろ!分かったな。俺は鎖を撃つから」
ほとんどダメもとの作戦であった。
成功する可能性は極めて少ない。
ネイオとユアンが話していると、アフタショットが駆けてきた。
「ダメだ、浸水が酷い・・・一番下の倉庫は、ほとんど水に浸かってる・・・」
「そうか・・・時間が無いんだな」
ネイオは考え込んだ。
「あとは神に祈るのみだな・・・」
目の前にはアメリカ本土・・・すぐそこなのに・・・
リッカーという邪魔者までついてきている。そして考え込んだ・・・
「ユアン!魚雷を止めたら、すぐに俺にリモコンをよこせ。確か爆発は手動でできたりするんだよな・・・?」
「その通りです」
「分かった・・・」
「でも魚雷を止めた時、船は勢いで前に進みます。そのとき魚雷にぶつかりますが、その衝撃で爆発するかもしれません・・・もし乗り越えられたとしても・・・
スピードは落ちてしまう可能性が高いです。どうします?」
ネイオはユアンの言った言葉から、さほど間をあけずに言った。
「もし止まったら・・・そのときは諦めよう」

後方では、迫ってくるリッカーを撃つということが行われていた。
「くそ・・・船が速すぎ。あたらねぇ」
「仕方ないよ。これより落とすと、沈んじまうよ、カルロスさん」
スコットはカルロスの肩に手を当てた。
一体リッカーはどうやって泳いでいるのだろうか・・・?
そんな疑問を抱いていると、ネイオがやってきた。
「ネイオ!暗くなったな!」
「そうだな。それより二階席に行って前方を見ろよ」
「はぁ、風圧で死ぬぞ!」
と訳の分からない事を言いながら、ネイオとスコットは二階席に上がった。
二階席は確かに、猛スピードで走る船の影響で目が開けられないほどの風だった。
「ほら言ったろ、風圧で死ぬって」
「お前な・・・前を見ろ!」
ネイオは前方を指差した。
スコットは何も分からず前を見た。
すると、前方にはまだ薄暗いものの、綺麗なアメリカ本土の夜景が目に入った。
「綺麗だろ・・・俺達はそこに帰るんだ・・・」
スコットは目に入ったアメリカ本土の夜景のついでに、あるものも目に入った。
「あ、目にゴミが入った・・・」
「・・・・・・」

ダイナリッカーは必死の追撃をみせていた。
そしてついに船まで追いついた。
ダイナリッカーは約時速二百キロで動く船に、難なく乗り込んだ。
「くそぉ・・・」
カルロスは驚愕した。
すぐ目の前にダイナリッカーがいるのだ。
カルロスはそのまま動けなかった。
ダイナリッカーの舌がカルロスのすぐ近くまで伸びる。
これこそリッカー、舐める舌だ!
カルロスは腰を抜かした。
しかし、その拍子にロケットランチャーの引き金が引かれて、ダイナリッカーの腹に命中した。
ダイナリッカーは海に落下しかける。
平常心をカルロスは取り戻した。
「この醜いバケモノヤロウがー!!」
カルロスはそう叫ぶとあえて、足に命中させた。
胴体や頭に命中させたところで、そんなに代わらない。
足に当てれば泳げなくなるし、落下もする。
予想通り、ダイナリッカーは海に落下した。
「やったぁ!」
カルロスは歓声を上げる。
そのとき二階席からスコットとネイオが降りてきた。
「カルロス。すまないが、そのランチャーをくれ」
「ははは・・・もうあいつは追ってこないからな。いいだろう」
カルロスは上機嫌で貸した。
ネイオは別の方向へと向かっていった。
カルロスは海の方を見た。
見たものはしぶとく、スロースピードで追ってくるダイナリッカーだった。

ネイオは前方の甲板にいた。
ついに、アメリカ本土との距離は一キロ少しになった。
「きちんと合図したら魚雷を止めろよ・・・分かったな」
ユアンにネイオは念を押した。
アフタショットの叫ぶ声が聞こえた。
「アメリカ本土まで、一キロを切った!」
「よし、いまだ!魚雷を止めろ!」
そういうと同時に、ネイオは身を乗り出しカルロスから借りたランチャーで、魚雷と船を繋いでいる鎖を撃った。
鎖は切れ、魚雷は止まった。
そして勢いで船は走り続けた。
「魚雷に当たります!」
ユアンの一言で、ネイオは衝撃に備え柵に捕まった。
かなりの衝撃が来て船は大きく揺れ、ネイオは転がった。
しかし、スピードは衰えない。
「やったぁ!成功だ!」

後方にいたスコットとカルロスは思い切り倒れこんだ。
「大丈夫か・・・スコット」
「ああ、大丈夫だ・・・カルロスさんよ」
しかし、そんなに喜んで入られなかった。
ダイナリッカーが追ってきているのだから。

とりあえず、遮断には成功した。
あとはタイミングよく止まってくれればいいだけだ・・・
しかし、船は勢いを失わず、アメリカ本土の港めがけて突っ込んでいった。
「やばい・・・やばい」
アフタショットは前を見ながら言う。
船に設置されているスピード計ではまだ時速百キロ近く出ていた。
そんな中、カルロスとスコットが二階席から叫んだ。
「ネイオー!リッカーがまだ追ってきているぞ!」
「マジでか!?そんなもんがアメリカに入ったら、パニックになるぞ!」
「ネイオ!ランチャー返せ!ランチャーで撃つ!」
そんな会話を繰り広げていた。
ネイオにはある案が浮かんだ。
「あいつがもし、俺達を一直線上に追いかけてくるとすれば・・・」
「ああ!ぶつかる!」
ネイオが喋っていたのを、ユアンの叫ぶ声で遮断される。
目の前を見た一堂は唖然とした。
既に百メートル足らずで、突っ込むところだったのだ。
「ユアン!俺に魚雷のリモコンを!」
ユアンは言われるがまま、ネイオにリモコンを投げた。
そしてそれをキャッチしたネイオは叫んだ。
「とびこめぇ!」
ネイオが一番に飛び込んだ。
「な、何。ネイオ馬鹿・・・」
そう歎くスコットをカルロスが強引につかんだ。
「ほら、突っ込んで死ぬぞ!」
カルロスはスコットを海に放り出すと、自らも飛び込んだ。
前方の甲板ではアフタショット、ユアンも飛び込んだ。
一同が飛び込んだ瞬間、船は港に突っ込んで大破した。
港には人だかりが出来ている。
海の中からカルロスが出てきた。スコットも近くから出てくる。
「大丈夫か、スコット」
「大丈夫だ・・・皆は?」
周りを見渡すと、少しはなれたところでアフタショットが手を振っているのが見えた。
ネイオは・・・なんと!沖に向かって泳いでいる!
「馬鹿かー!死ぬ気かー!」
ネイオはスコットの声は耳に入ったものの、泳ぐのをやめなかった。
数十メートル先には放置された魚雷。
そしてダイナリッカーがその魚雷を丸太に見立て、泳ぐのを休憩しているのが分かった。
「ネイオー!喰われちまう!」
スコットは大声で叫んだ。あいつとは長く付き合っているが、今回の行動は頭がおかしくなったとしか思えない。
ネイオはようやく泳ぎをやめた。
そして水の中から魚雷のリモコンを取り出した。
依然、ダイナリッカーは怪我で弱っているせいか、魚雷で傷を癒している。
ネイオはそれを見て、こうつぶやいた。
「それは休むための丸太じゃねぇ・・・」
ダイナリッカーが一吼えする。
「危険な魚雷さ!」
そういってネイオは魚雷のリモコンで、爆破ボタンを押した。
押した瞬間に魚雷は爆発した。
上で休んでいたダイナリッカーと共に・・・

その衝撃で、ネイオは吹き飛ばされた。
水中でも勢いで体が飛ばされる。
近くの人々の手をかり、岸へと登っていたスコットたち、爆破の音と衝撃で、全員が振り向いた。
驚いて、スコットを岸へ上げるために手伝っていた女性は手を離した。
「あ」
スコットは再び落下した。
「ネイオ!」
既に岸に上がっていたカルロスが叫んだ。
ネイオがいた辺りに、人影はまったく無かった。
「ネイオ・・・」
アフタショットは小さい声でつぶやき、下を向いた。
ユアンは既に、泣いているようにも見える。
「ネイオ・・・ネイオー!」
海に落下したスコットは叫んだ。
友人を失ってしまった・・・この悲しみは大きかった。
しかし、遠方の海に何かが見えた。
カルロスやユアン、アフタショットには少なくとも見えた。
よくみると・・・まさしく人間である。
そしてこちらに向かって手を振っているではないか。
スコットにもそれが確認できた。
まさしくそれは、ネイオ・ワークであった。








そんな頃、「あの島」では・・・
草に血がべっしょりついている。しかし、死体は無い。
これはリッカーが、スーパーアンデットを喰ったところだ。
その近くに横たわる、一つの死体。
いや、死体ではなく、まだ生きていた。
意識は無いが・・・器官は正常に作動していた。ウイルスに汚染されている点を除けば・・・
そのジムの元へ、ある人間がやってきた。
大柄な人間。
ガッシリとした肉体、太い腕と脚、髪は後ろで束ねている、服は黒ずくめだ。
その人間はジムの体を調べ始め、通信機越しに話し出した。
「まだ生きている。うん、ウイルスに感染はしている。しかし、どういうわけか変異はしていない。ああそうだな。あの実験の材料として使えそうだ」
そういうと、男は通信を切った。
そしてジムの死体を持ち上げ、袋に入れると、それを持って何処かへと消えた。




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