日常・・・

日常・・・

第二章 【決断】


惑星ヴァーノンに太陽の光が差し込んだ。
ロイは荷物をまとめていた。
この外縁部にあるヴァーノンから中心部の首都惑星リカルアに行きSSF入隊試験を受けるためには
この日のうちにヴァーノンを出ないといけない。
それでも入隊試験ギリギリである。
「親父にか・・・」
昨晩フィルに指摘されてから一晩考えたが、未だに父親に試験を受けることは言っていない。
そもそも去年のことがあって以降、会っても話してもいない。
ここは、一言言うべきか・・・いうべきだ。
何があっても決断は変わらない。
ロイは父親に連絡だけ残そうと服のポケットから通信端末<コネクター>をとりだした。
そのとき、突然部屋の扉が開いた。
「おはよーーー!!!!」
「ぬぉう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ロイは驚いて、コネクターを落としてしまった。
「今日も元気に・・・って、あれ?どうしたの?」
大声一発入って来たリギアがコネクターを拾うロイを見ながら言った。
「お前さんがノックも無しで入ってきたから、びっくりしたんだろうが」
「あら、お着替えしてたわけじゃないんだから、いいじゃん」
ロイは呆れながらコネクターを拾う。
「誰にコネクトする気だったの?」
リギアがコネクターを拾うロイを見ながら聞く。
「ああ、例のことで・・・シャプナーに・・・」
それを聞いたリギアは飛び上がるほど驚いた。
「えぇぇ!!嘘!!??お父さんに話すことにしたんだ!!」
いちいち声が大きい。
「でもお前のせいでその気が失せたよ」
ロイはコネクターを放り投げると、ベッドに横たわった。
リギアは居心地悪そうに立っていたが、突然思い出したかのように表情を変えた。
「そういえばSSFに入隊するには今日でないと間に合わないんだよね」
「そうだ。」
「なら早く出ないとまずいんじゃない?リカルアまでの定期便はあと2時間くらいで出ちゃうわよ。
お父さんに電話するなら今、私と話すなら今、準備するなら今よ」
だんだん意味がわからない。でも、彼女の言ってる事に間違いは無かった。
「分かった。まだまだ準備していない所もあるしな」
ロイがそういうと、リギアは静かに切り出した。
「・・・お見送りは・・・いる?」
ロイはいつにもましてまともで静かなリギアに驚きつつも、冷静を装って答えた。
「お前がしたいならどうぞ」
それを聞いたリギアが顔を輝かせる。
「マジで!なら私も準備・・・する事無いか。でも邪魔にならないように一旦帰るわね。行く時にコネクトしてね。」
といってリギアはあっという間に部屋を出て行った。
台風の如く、訪れてはいろいろ荒らして(?)帰っていってしまった。
「ふぅ・・・つかれるなぁ」
そのとき、フィルのベッドのプライバシーシールドがあがり、いつの間にやらフィルが現れた。
「お前、おきてたのか?」
ロイが聞くと、フィルはベッドから起き上がりながら答えた。
「リギアはロイと分かれるのが寂しいんだよ」
ロイがそのフィルの言葉に無駄にドキッとする。
「マ・・・マジで?・・・」


~~~妄想の世界~~~


俺、ロイはリギアの要望を受けて、彼女を家に招くのだ。
「部屋の掃除は完了!・・・よし、これで・・・」
そのとき家のブザーがなる。
「ロイ、きたよ~」
リギアの声が外から響く。俺は迷わず開閉装置のボタンを押した。
「よぉ、遅かった・・・な・・・」
そこにいたのはもちろんリギアであった。
うん、いつもより可愛い・・・いや、可愛いいつもよりさらに可愛い。
そして服装は俺の趣味に合わせたミニスカートを履いている。
「可愛いな、今日も」
俺は全身を眺めたあとに呟いた。それを聞いたリギアが顔を赤らめる。
「べ、別に!あんたのために準備したんじゃ・・・ないんだからね!これは、偶然・・・」
そこまで言ったリギアの肩に両手を置いた。
「やっぱ可愛いなぁ、お前は・・・」
俺はそこまで言って彼女を抱きしめた。
「ちょっと・・・」
「今夜は、俺に全てを、あずけてみないか?」
「・・・うん・・・・・・・分かった・・・」
「ああ、ではこのままベッドにGO!!!!!」


~~~妄想の世界~~~


「(おお!このシチュエーションは憧れる!)」
「そんなリアルなツンデレがいるか!!!!」
早速フィルがロイの妄想に突っ込みを入れた。
「あれ?なんで俺の妄想が漏れてるんだ?」
「大人の事情だよ、ロイ」
そういってフィルは続けた。
「まぁあっちが特別な感情を持って無くても友達として別れるのは辛いと思うよ」
フィルが冷静に語りながらイオンメイトを吸い込む。
これで朝食分のエネルギーは補給できるわけだ。
「お前はどうなんだ?」
ロイはイオンメイト吸入器をいじっているフィルに聞く。
フィルは昨日の事があってか、どこかぴりぴりしているが根は優しい人間・・・いや、ヴァーニアンだ。
答えずらそうに下を向く。
「分かった。よく分かった」



―戦艦<クラッシュ>


たった今、<クラッシュ>のブリッジに第21小隊全員が集合した。
アイザックから集合の命令が出たからである。
「すいません!遅れました」
最後にザックが飛び込んできて乗員が全員集まる。
「よし、全員集まったな」
アイザックがこれ以上ないほどに深刻な顔をして話し始める。
「たった今ジュリアが船体に異常を見つけた。側面の装甲に亀裂が入って倉庫B1に多大な損傷を受けているんだ」
そういってアイザックは宙に浮くスクリーンを指差す。倉庫B1の映像が流されている。
亀裂の影響で空気が吸い出され、しまっておいた荷物が全て放り出されているという現状だ。
「吸い出された荷物は諦めるとして、この亀裂をふさがないとフラッシュ航行を行う事ができない」
アイザックの言葉に、ザックとアダムは顔を見合わせた。
フラッシュ航行とは、俗に言う光速航行のことだ。
「ってつまり・・・」
ザックが手を上げてアイザックに質問する。
「フラッシュに入れないと、リカルアまでどのくらいの時間を使うんだ?」
ザックの質問に答えたのはナリだった。
計算結果が出たモニターを凝視しながら答える。
「この船の最高速度を出し続けたとして約960年って所ですね。その前に燃料がなくなって、万事休すですが」
ナリがいい終えると、今度はベンが筋肉たっぷりの右腕を上げた。
「この近くの星に立ち寄って修理は?」
「それももちろん考えた。しかし、ここは銀河の外れだ。一番近い文明のある、かつ銀河同盟に所属する
星は通常航行で960日、約2年半かかる。その前に燃料がなくなって万事休すだが」
アイザックは淡々と述べると、スクリーンを上げて両手を叩いた。
「つまり、亀裂をふさげば解決、ふさがないと一生宇宙を漂いっぱなしってわけだ」
「他の船に救護要請をしたのか?」
アダムが間髪入れずにたずねる。
「さっきも言ったがここは銀河のはずれだ。長距離通信機の範囲からはずれてる」
「議論の暇は無いな。早く穴をふさがないと」
エクスが言うと、アイザックが真空耐性スーツを着込んでいるロックを指差した。
「いや、もう準備は出来てる。ロックが穴をふさぐ予定だ」
「・・・じゃあ、どうして俺達全員を集めたんだ?」
ザックの問いに、アイザックは咳払いをした。
「だれか、ボランティアが必要でね」



「何で俺が!!!!!!」
ザックは真空耐性スーツを着込みながら愚痴った。
彼は今、暗くて狭い真空創生室に来ている。
「俺は真空での任務には向いてないぜ!」
「ごちゃごちゃわめいてないで、さっさとスーツを着てくれよ」
溶接器具の点検をしているロックが苦言をはく。
「ほぉ、あんたってワイルドな奴だと思ってたが、意外とせっかちなんだな」
ザックがヘルメットを被りながらロックに言った。
ロックは笑いながら顔を上げる。
「俺だって真空での任務はしんどいと思う。でも、ここは艦長にいいところを見せないとな」
そういいながらロックは、赤いはちまきを頭にしめた。
「ここ一番、って感じだな」
「ありがとう、我が同志よ」
ロックの言葉に、ザックもさすがに呆れていると、ヘルメットに内蔵されてるスピーカーにエクスの声が響いた。
『聞こえるか。エクスだ』
ザックはヘルメットに内蔵されているマイクに向かって喋る。
「聞こえますぜ、隊長殿」
『これからその部屋の空気を抜いて真空状態にするが、準備はいいか?』
ザックとロックは念入りにスーツとヘルメットを点検する。
「OKです」
「こっちもOKです」
ザックとロックが続けて言う。
『よし分かった。では、空気を抜くぞ』


「空気を抜くぞ」
エクスがインカムに向かってそう言った。
ブリッジではスクリーンに映し出された2人を見ていた。
「上手くいくだろうか・・・」
ベンが静かに呟いた。
「何言ってるんだよ。あいつらはやってくれるさ」
アダムがベンの心配を紛らわそうと明るく振舞うが、顔は汗で光っている。
もしかしたらこれで我々はおしまい・・・かもしれないからだ。


「おぉぉぉ~~~~感じるぜぇぇぇ」
空気が徐々に吸い出されている特殊な部屋、真空創生室にいるザックが感じている、もとい言う。
「気持ち悪いから、やめてくれよ」
ロックとのヘルメットのマイク越しの会話だが、ブリッジからのエクスの指令より聞こえは断然良い。
「だって外は真空なんだぜ。そう考えるとちびるぜぇ」
ザックは自らが着ている真空耐性スーツをポンと叩いた。
彼らの腰についているワイヤーも空気が抜けた影響で浮き始める。
その時、先ほどから響いていたシューという空気が吸い出される音がやんだ。
『よし、空気は抜いた』
今度はアイザックが指令を出している。
『扉を開けるぞ。いいか?』
「了解です」
「こっちも」
ザックとロックはそう言って、備え付けのカメラに親指を立てて見せた。
そして大きな扉があるほうへ体を向ける。
『では開ける・・・1,2、・・・3!』
アイザックの合図でその大きな、それもかなり分厚い扉が開いた。
その先に広がるのは、永遠の宇宙・・・
ザックはつい見とれてしまった。
輝く星、真空の世界、そこに浮かぶ母ちゃんの顔・・・
「ザック、おい!聞こえてるか?」
ロックが大声を出して、ようやく我に帰る。
「お、何だ?」
「任務開始だ。行くぞ、兄弟!」
この兄弟は同志をあらわすものなんだろうな、と想像しながら、ザックはロックの後を追い宇宙へと飛び出した。



「まだか?」
しばらくしてザックが亀裂の溶接にはいったロックに向かって尋ねる。
「おい、まだか?」
「うるさい。今はじめたばっかりじゃないか」
そういって亀裂にパネルを押し当て、その上に電極のようなものを貼り付ける。
「おいおい、それであってるのか?」
ザックが心配のあまり尋ねる。
「大丈夫だ。このパネルを電気で溶かして溶接する。だが、プラスとマイナスを逆にしたら・・・どうなるかな?」
その煽りを受けて、ザックが真空空間で慌てだした。
「どうなるんだ!?」
「電流が逆流して、俺が死ぬ。」
そう脅しながらロックは淡々と電極をつけていっている。
「大きい穴だぜ。時間がかかりそうだ」
「どうでも良いけど、早くしてくれよ。」
ザックはそういって辺りを見回した。
先ほど出てきた部屋からワイヤー2本のワイヤーがのびて、ザックとロックの腰に繋がっている。
遠くへと吹き飛ばされないようにするため、また船へ素早く戻るための保険だ。
遠くに転々と星が浮かび、上を見ても転々と星が浮かび、下を見ると・・・もう何もない。
そもそも上下感覚もおかしくなってきた。これが上下がない無重力の世界だ。
もし重力があってここから落下したら、どのくらいの高さになるんだ・・・?
と無駄な事を考えている時、ザックの目に何かが映った。
「・・・?」
もう一度目を凝らす。すると、今度は視界の隅のほうで何かがうつった。
「・・・ロック・・・・・・」
ザックが静かに切り出すと、電極をつけていたロックが静かに振り返った。
「どうした?」
「・・・ここはどこだ・・・・・・」
ロックは考える時間もなく、即答した。
「宇宙だろ」
「あたり。で、最近発見されただろ・・・宇宙に生息する・・・」
ザックが深刻そうな声になっていくので、ロックもさすがに真面目に考える。
「・・・宇宙に生息する・・・・・・ピラニアか?」
「それだ・・・それがどうやら・・・」
そのとき、猛スピードでロックの真空耐性スーツに何かが飛びつく。
「くそっ!」
ロックはそれを振り払おうと、腕を振り回す。
「ロック、動くな!」
真空でザックが強引にもがいて手を伸ばすと、ロックのスーツに飛びついたそれを捕まえ、
強引に引き離して、傍らからブラスターを取り出してそれに撃ちつけた。
ぐったりとしたそれを、2人はまじまじと見つめた。
鋭い歯に分厚い皮膚、それに比例しない小さな目に小さな羽・・・
「あたりだ。ロック、急いでくれ」
ザックの言葉にロックは急いで電極をつけ始めた。
電極は大きな亀裂を覆うプレートの上に配置するので、かなり時間がかかる。
ザックはロックの背後に立ち・・・いや、浮きながらブラスターピストルを構える。
「ブリッジ、聞こえますか?こちらザック」
しばらくの沈黙の後、エクスの声が返ってきた。
『どうした?完了したか?』
「それがどうやら<フライングキラー>に出会ってしまいまして。」
フライングキラーとは、言わずもかな、さっきの宇宙ピラニアだ。
『何だと!』
『被害は!?』
エクスの後に、アイザックが質問する。
「ロックが噛み付かれましたが、耐性スーツが何とか守ってくれました。スーツに穴は開いていないと思います」
『分かった。出来るだけ急いでくれ、かつ安全にな』
にわかにブリッジがざわめくのを感じた途端、通信は切れた。
ザックはロックを振り返った。
「どのくらい進んだ!?」
「電極は配置完了。後は電流を流してパネルを溶かして溶接って所だ」
ロックが腰につけている電流操作装置をいじる。
「急げよ。このお魚ちゃんに食べられる前にしてくれ!」
そういいながらザックはレーザーを放ち、直進してきたフライングキラーを一匹し止める。
「そうしたいんだが、電流の調整が難しいんだ!弱すぎるといつまでも終わらないし、かといって強すぎると外壁まで溶かしてしまう!」
ロックは電流を調整しながら叫ぶ。
ザックはもう一匹し止めると、ロックのほうを見た。
見ると部屋とロックをつなぐワイヤーにフライングキラーが噛み付いているではないか。
噛み切られると、ワイヤーを伝って<クラッシュ>に戻れなくなるのでかなり時間がかかってしまう。
「やべぇ!」
ロックは慌てて方向転換すると、ワイヤーに噛み付いているフライングキラーに向け発砲する。
見事に命中する。
「よっしゃ!」
「ナイスだ。お前は口と同じくらいの実力だな!」
褒められているのか、馬鹿にされているのか分からなくなったザックはとりあえず手をかざして応える。
「溶接の方は!?」
「丁度いい具合だ。もう完了だ・・・よし!」
ロックは電極を一斉に外す。
「分かった」
ザックはそういってヘルメット内の通信機の電源を入れる。
『隊長、艦長、これから戻ります!溶接は完了しました!繰り返します!溶接は・・・』
その時ザックのヘルメットにフライングキラーが突っ込んできた。
通信は途切れてしまった。


「ザック!聞こえてるか!ザック!」
エクスは通信機のマイクに向かって叫んだ。
「ザック!おい!」
「ロック、お前は大丈夫か!」
アイザックも船の操縦桿近くの通信機の向かって叫ぶ。
「ロック!聞こえてたら返事はいい!とにかく戻って来い!」
そのとき、ブリッジのスピーカーに雑音が入った。
『こちらロックです!ザックのヘルメットにピラニア野郎が衝突しました!』
ロックの声に全員が慌てだした。
「何だって!」
「嘘・・・」
アダムとジュリアがほぼ同時に叫ぶ。
「ザックは無事なのか!」
ベンが大声でロックに尋ねる。
『はい!でもひびが入って、内蔵されている通信機も壊れたようです!そしてブラスターもどこか飛んでいきました!』
なんて事だ。ヘルメットに衝突された衝撃で、ピストルをザックは真空空間に放り投げてしまったようだ。
エクスはそれを悟り、嫌な予感を覚えた。
「つまり、攻撃は行えないのか・・・」
アイザックが落胆した声で呟く。
銃がなくなった今、2人は大量のピラニアの中を丸腰で戻ってくるしかないのだ。
「いいか!急いで戻って来い!2人ともだ、分かったな!」
『了解!』
ロックの声がブリッジ全体に響いて、通信は切られた。
そして一同重苦しい雰囲気になる。
「くそ・・・」
「そもそもフライングキラー、ってなんです!?」
ナリが自然と興奮気味になって尋ねる。
「フライングキラーって言うのは今や有名で数々のメガヒットメカを創りあげたジェームソン・チャメロンの
初めての作品で、半永久的に死なない魚を作るためあろうことかピラニアで実験したら失敗して
それを葬るためにチャメロンは宇宙に放ったらいつの間にか宇宙に適応してしまった、という噂がある生物だ」
エクスが答えたとき、いつものロックの席に座っていたメリルが突然立ち上がった。
「耐性スーツありますか?」
その問いに、アイザックが沈んだような表情で答える。
「ああ、そこのロッカーにまだ2,3着は・・・」
そのとき、急にアイザックの顔に生気が戻った。といっても、驚きの表情だが。
「ちょっと待て、まさか・・・」
「はい、2人を助けに行きます」
メリルはそう言ってブリッジを飛び出した。
「おい、待て!」
アダムが叫んで、その後を追う。
「おい、お前達!」
エクスも追おうとしたが、アイザックに肩をつかまれた。
「お前は行くな!」
「どうしてだ!?」
アイザックはエクスの目をまじまじ眺めながら目だけで伝える。
エクスも分かったというように小さく頷く。
「(行っても無駄・・・ってことか)」
ベンはその様子を見ながら、そんなことを考えていた。


メリルは走りながら羽織っていたジャケットを投げ捨てた。
そして器用に片足ずつ真空耐性スーツに足を滑り込ませる。
「待てよ!お前が行って何も救えなかったら!?」
アダムが走りながら叫ぶ。
「でも救えたのに救えなかったら!?・・・どうしますか!?」
メリルは振り返りながら、アダムにそういいつけた。
アダムが立ち止まったのを見て、メリルはヘルメットを装着し、真空創生室の扉に手をかけた。
「いや、待てメリル!」
アダムが叫ぶと同時に、メリルは開閉装置のボタンを押した。
すると扉が開くと同時にメリルは扉の向こうへと吸い込まれていってしまった。
「だろうな!!!」
アダムは瞬間的に床に伏せる。
真空創生室はザックとロックが宇宙に飛び出したままになっているので、部屋はもちろん真空状態である。
「アイザック艦長!ブリッジ!応答を!!!」
アダムが必死に無線機に叫んだ所で、真空創生室の扉が閉じた。そしてアダムの無線から声が響く。
『やっぱり遅かったか!監視カメラでそっちを見ている。メリルは吸い出されたのか?』
「そうです。そのまま・・・」
アダムは立ち上がり真空創生室の扉を眺めた。



―惑星ヴァーノン


「後悔しない!?大丈夫!?」
「戻ってきたくても戻って来れないんだよ!?」
フィルとリギアが長距離ファイターを待つロイの周りで心配そうに聞き続ける。
「あ、ハンカチは!?」
「やっぱティッシュも・・・」
「保護者かお前らは!少しは静かに・・・」
ロイが恥ずかしそうに辺りを見回す。案の定、周りの人たちの視線が集中している。
「おいおいおいおいおいおい・・・・・・」
ため息をついて近くの椅子に座り込む。
そのとき、ターミナルにアナウンスが響いた。
『お客様にお知らせします。ただ今より、長距離航行D-133、首都惑星リカルア行きの搭乗受付を開始いたします・・・』
「時間か・・・」
ロイはそういって立ち上がった。
「じゃ、行ってくる」
「絶対に後悔するなよ」
フィルが言って、ロイと抱擁を交わした。そしてリギアに視線を移す。
「じゃあな、リギア」
「絶対に死なないでよ。あと、絶対に戻ってきてね!」
リギアの言葉に、ロイは小さく敬礼をした。
「了解しました」
そしてリギアとも抱擁を交わす。
「じゃあな。」ロイはそう言って歩き始めた。
17年間過ごしてきた惑星ヴァーノンとも少しの間お別れである。
そして友とも。ロイは振り返らずただ前を見て進んだ。
角を曲がるときにふいと視線が後ろへと向いたが、それ以上は探らない事にした。



「行っちゃったか・・・」
「本当にロイは、戻ってきてくれるかな・・・」
ロイが角を曲がり、見えなくなったところでリギアが不意に呟いた。
その質問の答えは、正直なところフィルにも分からない。
「それはロイ次第だと思うよ。多分、奴なら帰ってくる・・・」
そこで間隔をあけて、次の言葉に力をこめた。
「引きずるタイプだからね」
フィルは笑顔を作ってそういったが、今にも泣き出しそうなリギアを見て笑顔は消えた。
(また・・・会えるよな・・・)
フィルは心でそう呟いた。もちろん、答えはわからない。



「よっと・・・」
大きな宇宙船、長距離船D-133号の座席についたロイは外を眺めた。
たった今出てきたターミナルが見える。そして、豊かなヴァーノンの景色も見える。
自然に感傷に浸っているのを感じ、ロイは頭を振った。
(俺はSSFに入って、戦って、平和な星に行く・・・)
ロイは不安を取り払うために将来のことを考え始めた。
(その前に、すんごい可愛い女と出会って結婚して・・・ああ、子供もほしいなぁ・・・すんごいイケメンと可愛いのが・・・)
『お客様、船は間もなく発進いたします。まず推進装置で50メートル浮き上がったあと、
一気に大気圏外まで出る予定ですので、シートベルトとショック防止剤はしっかりと・・・』
ロイの人生設計が無駄な所まで走った所でアナウンスが流れた。
彼は外に見えるターミナルにいるはずの友に心の中で別れを告げた。
そして、船はどんどんと浮かび上がった。
(さようなら、ヴァーノン・・・フィル、リギア・・・)
そして浮かび上がったと思った瞬間、一瞬で船はヴァーノンを離れた。




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