日常・・・

日常・・・

第七章 【開戦の時】



ロイはSSFの一般向け広告の説明書きを改めて読んでいた。
試験に合格し、現在宿舎で休んでいる。私物はすべて返却され、コネクターも返されたのでとりあえず故郷の親友2人に
入隊決定の報告でもしようとしたが、気が気でないのだ。
なんせ、合格してしまった以上は既にSSF・・・宇宙特殊部隊の一員である。
遠いと思っていた世界が、一気に自分のいる世界へと変わり、縁の無いものだと思っていた戦いが近づいた気がした。
宿舎は恐らく一時的に使用するものらしく、ベッドとテーブルが一つ置いてあるスペースのみだ。
情報によるとSSFは普段宇宙のいたるところに派遣されて部隊ごとの
<専用軍艦>で生活をするらしいので、宿舎はあまり必要としないらしい。
とはいえ<マザーシップ>の一角に設置されている宿舎は、十分過去とは疎遠になっていると実感させる。
ロイはふと時計を見た。
現在時刻は20時半ば、21時になると、抽選で勝ち抜いた部隊が自分を引き抜きに来る。
礼儀やしきたりはその部隊ごとに習うらしく、非常に運にも左右されるらしい。
しかもロイは総合順位2位だ。競争率は半端ではないだろう。
そんな優秀な期待の新人を引き抜くのは、一体どんな部隊になるのだろうか・・・




第21小隊の面々は、<マザーシップ>内の格納庫に収納されている専用軍艦
<クラッシュ>のブリッジに集合していた。
なんだかんだ、1年の大半は<クラッシュ>で過ごすので外出以外はいくら本部にいようとも
ついつい<クラッシュ>内に留まってしまうのだ。自宅のような感覚もあるのだろう。
「順位が出たらしいな」
エクスがコネクターから情報を得たらしく、アイザックに言う。
「ならばスクリーンに出すか」
そういうと、普段は航路やら船体状況が映し出されるスクリーンに先ほどの入隊試験の順位が表示された。
上位50人までだが、即戦力を狙うこの小隊の面々は、そこから優秀な人材を探す。
「狙うはやっぱトップでしょ。データは・・・うん、かなり頭も切れるし戦闘能力も高いっぽい」
ザックがそういうと、ベンが頷いた。
「もちろん狙うはこのトップのやつだろ。顔が気に食わないが・・・」
ベンは詳細データと共に表示されるトップ通過者”カール・エマファットニー”の顔を見るなり指ではじいた。
どちらかと言うと、生意気そうな顔をしている。
「顔はいいじゃないか。でも競争率は高いだろうな。とりあえず一つランクを下げて2位通過者は?」
アダムが2位通過者の詳細をピックアップする。”ロイ・モース”の詳細がアップになった。
「へぇ、顔は割りと可愛いじゃない」
ジュリアが呟く。メリルは別の所を見ているようだ。
「彼、頭がいいですね、筆記試験はトップです。実技も3位ですが、バランスはいいです。」
「こいつ、どこかで見たような・・・」
メリルが解説する中、ザックが頭を捻る。
「まぁ視察のときに見たんだろうな」
「もちろん目指すは上位にランクされた初々しいやつの獲得だ。とりあえず誰にするか決めないと・・・」
エクスが呟いて、新属隊員入隊申請をさりげなく本部宛にワードコネクト ―メールと考えてほしい― で送る。
「とりあえず申請を出した。あとは運だな」
エクスが呟くと、ザックはある入隊希望者を見つけた。
「お、これ、可愛いじゃん」
見つけたのは順位50位の入隊希望者、人間の女である。まだ20歳とかなり若い部類に入る。
「名前は・・・?」
「お前はこの子が配属になるように願ってな」
ザックの切なる願いは、アダムに冷たく返された。
SSF第21小隊、彼らもまた新たな隊員の配属を望んでいた。




運命の時間まであと30分、試験総監督のドルジ・パーソンはSSF本部<マザーシップ>の中心部近くに位置する
重役達が使用する会議室に来ていた。最高司令官の補佐を務める彼も重役の一人である。
相変わらずの無精ひげを気にしながら、ドルジは席につく。
既にテーブルは10人の役人で囲まれ、彼が座ると一番年配と思しき人物が喋り始めた。
「ええ、入隊試験終了ご苦労様。今回は211人全員合格だった。これよりこれらの配属先を決めるが・・・」
そこまで言ったとき、横槍が入る。
「今回も全部抽選で決めましょう。今はそれより反乱組織による衛星オリア攻撃に関して、軍と協議を重ねましょうよ」
一同、それに賛成する。しばらく経って、先ほどの年配の男がドルジに話しかけた。
「最高司令官の意見は何か聞いているかね?ドルジ君」
「ああ、えっとですねぇ・・・」
ドルジは持っていたLEDファイルを開くと、ちょうど送信されてきた司令官のメッセージを読み上げる。
「『入隊試験の抽選は任せる。とにかく、オリア防衛作戦は、我々主体で行いたいと思う。軍の責任者とも話をつけた。
配置などはあちらが決めるらしい。とにかく、各部隊にしばらく新たな出撃は控えろと伝えろ。
あと、部隊数の点呼を取れ。』・・・だそうです」
ドルジが読み上げると、彼の隣の重役がぼそりと呟く。
「相変わらず強引な方だ。」
「しかたあるまい、最高司令官の考えは一流だ、また何か作戦でもあるのだろう」
話が横道にそれだしたので、年配の重役が声を大きくだした。
「しずかに、それじゃ会議を終えるとしよう」
ドルジは席を立った。そして、彼は次の仕事へと向かった。


ドルジが向かったのはいくつもの小さなスクリーンがある部屋。広い面積に敷き詰められたスクリーンとキーボード、
ここは本来SSF本部における事務活動や任務の振り分けを行う”プラン・アリーナ”である。
SSFにある多くの部隊とは、ここで常に交信を行い、情報を交換している。
今もここに所属する150人が、忙しそうにスクリーンに向かって仕事をしているのだ。
ドルジがそんな部屋に入ると、150人が手を止めて、「お疲れ様です」とあいさつをする。
なんとも上下関係の厳しいクラブ活動みたいだが、これもこのSSFの伝統である。
もちろん、各部隊によって礼儀、仕来りの指導は違うので、SSF第21小隊みたいに部隊長に出さえため口をきく隊員がいる部隊もあるが。
とにかくドルジは、「おつかれ」と返すと、早速一人の男のもとへと向かった。
ドルジの親友でもあり、この”プランアリーナ”一番の地位をもつダシ・バダルチのもとへと駆け寄る。
「よぉ、久しぶりだな。」
先に声をかけたのは、今まで特殊な眼鏡をかけながら、スクリーンを見ていたダシのほうだった。
「何か用か?と聞きたいところだが、もちろん何のために着たかは分かっているさ、振り分けだろう、新たな隊員の。」
ダシがしわのある顔で得意げに言うと、ドルジは頷いた。
「その通りだ。データはインプットされてるよな?」
ドルジはそういいながら、彼が見ていたスクリーンを見る。
「もちろん、送られてきたのを保存した。いつでも振り分けられる。」
ダシがスクリーンとホログラムのスクリーンを手で示しながら答えた。
ドルジはそれを聞いて安心すると、しばしの沈黙が流れたが、やがて彼は時計を見た。
「21時まで・・・あと1分か。よし、ダシ、準備にかかってくれ」
「もちろんだ!」
ドルジの指示に、ダシがキーボードを叩き始める。往年のキー式キーボードだ、彼はパネル式キーボードを嫌う。
感度が悪いとか何らかの理由であり、もっぱらのアナログ人間だ。そんな彼がキーボードを叩くと、カチカチカチと音が響く。
「さぁ、振り分けられるぞ、今回入隊申請を出してきた部隊は90。今年は一つの部隊に複数希望者が振り分けられる
ってのは相変わらず少ないかな。運がいいと3人くらいまとめて入るが。」
「まぁ10年位前に戻ったって感じだな。合格者600人、部隊300とかの時に。最近は合格者減るのに
申請する部隊は減らないから一つ一人ってのが多かったからな」
この振り分け、合格者が多く、申請を出した部隊が少ないと一つの部隊に10人近くの新規隊員が入った事例がある。
また、ある時は合格者の採用枠、部隊の数が共に多く、逆によいバランスで振り分けられる事も多かった。
今回はその規模縮小版といってもいいかもしれない。
ドルジは時計を見た。ちょうど21時を回った。
「ダシ、振り分け頼む。振り分けられたら、SSF全データベースに転送、公開してくれ」
「了解した!」
ドルジの言葉に、ダシがキーボードを一つ叩く。
途端に画面には申請してきた部隊の表と、合格者の順位の表が交じり合い、やがて一つの表が出来た。
その表は、誰がどの部隊に所属するか、振り分けられたものである。



21時を回った瞬間、彼の部屋の扉部分に設置されているディスプレイにデータファイルが送信されてきた。
「きたな!?」
ロイは早速そのデータファイルを開く。
配属先が記されているのだ。
「えっと・・・第21小隊・・・」



<クラッシュ>のメインスクリーンに緊急データファイルが送られてきた。
ブリッジにいた全員がそのスクリーンに集中する。
「きたぞ!」
アイザックが早速スクリーンにそのファイルを開く。
『第21小隊 
新規配属 ロイ・モース(17) 総合順位2位』
ファイルにはそう記されてあった。
「2位・・・て、あいつか」
ザックが驚きながら、先ほどの順位確認を思い出す。
「バランスのいい若いやつだ。これは即戦力が期待できる」
エクスが興奮気味に鼻を鳴らした。
こうなったら、合格者は、既に各部隊の所属の、正式なSSFの一員となる。
階級はファーストミッションの結果に応じて分けられるためまだ無いが、メンバーであるのは変わりない。
「ならば歓迎の準備だ。この新入りさんの」
エクスが力をこめて言うと、全員がブリッジを飛び出した。




ロイは宿舎を出て、一人指定された場所へと向かっていた。
もう”第21小隊”の所属になっているため、上層部や試験監督の人たちは指示をくれない。
各それぞれ配属された部隊から指示を受けるのである。
そんなロイには、先ほど一通の”レターリング” ―メールである― が届いた。
『ロイ・モース君、私は第21小隊長エクス・クラウンだ。我が隊への配属に感謝する。
早速だが、この<マザーシップ>の54番格納庫に来てくれ。非常時で休む時間を与える事ができないが、本当に申し訳ない。
場所は添付ファイルを参照してくれ。では、待っている。』
堅い文章だ、ロイはそんな風な印象を受けた。
堅物な性格で、真面目な隊員たち、日々の欠かせないトレーニング、そんな中で生活するという想像をする。
・・・なんとも特殊部隊っぽいではないか。
ロイが憧れのSSFに入隊したという自覚をどんどん膨らませていたとき、54番格納庫に着いた。
「・・・あっさりだったな」
ロイはそう呟くと、人気の無い廊下にある格納庫への扉を開けた。
そこはただっ広い格納庫だった。整備員の姿などは見えないが、所々作業の痕跡だけは残されている。
そして中央にあるのは、何度も資料で見た、部隊が住居とガンシップ代わりに使用するという専用軍艦ではないか!
今はドッキングされているが、宇宙を駆け抜けていく姿はなんとも格好良い・・・と想像する。
そんな想像はさておき、ロイの心臓は高鳴っていた。
「・・・えっと、どこかな・・・?」
ついに自分の運命を決める部隊の皆さんと合流だと思っていたのだが、それらしき人の姿は見当たらない。
場所を間違えたかな?と不安になっていたとき、急に声が響いた。
『着いたようだな、歓迎する。専用軍艦があるだろう、それに乗り込んでくれないか?』
「・・・あ、はい!」
ロイは指示に従い、動かない専用軍艦に近づく。回り込んで乗り込もうとした。
・・・どこから乗り込むんだろう?・・・・・・高さ20メートルはあるであろうその軍艦は、出入り口が目立たない。
しかも地面に置かれてるのではなく、台座の役割を果たす支柱の上に停まっているのでロープでもなければのりこめない。
宇宙空間で、もっと大きな戦艦とドッキングし、内部の別の扉から出入りする映像は見たことあったが
停止している軍艦に乗り込む映像や資料は、なぜか目にする事は無かった。
ロイの期待の高鳴りは、不安の高鳴りへと変わっていた。




「迷ってる迷ってる、可愛いわねぇ~」
ジュリアが<クラッシュ>のブリッジにあるモニターの映像を見て、笑いながら言った。
映し出されているのは、この場に来てウロウロ戸惑っている例の新たな隊員、ロイである。
「趣味が悪いですよ、ジュリアさん」
「可愛い子は、何をしても可愛いわね。・・・・・・・・赤いハチマキのあなたと違って」
注意するナリをさらっと受け流したジュリアは、同じくモニターを見ていたロックを見た。
「うるさい、お前もそんな皮肉ばっかり言ってると、いつまでも男が出来ないぞ」
ロックの冗談をうけたところで、ジュリアは後ろにいたアイザックを見た。
「で、この迷える子羊ちゃんをどうするのかしら?艦長」
アイザックは微かに笑いながらジュリアを見返す。
「なあに、サプライズだ、後はエクスに任せておけ」
とは言ったもの、アイザックは普段はロックが腰かけている席へ座った。操縦席である。
「・・・まぁ、少しびっくりさせてあげよう」
アイザックはそういうと、パネルをいじり始めた。



ロイは格納庫の中をウロウロしていた。出入り口が分からないのならば入ることが出来ない。
叫んでどこか聞いてみようかとしたが、恥じ以外の何物でもない。
「・・・どうすればいいんだよ。。。」
そのとき、突如として格納庫に轟音が響き渡った。
専用軍艦のエンジンが、突然音を上げはじめたのだ。発進でもさせるというのか?
ロイは慌てて耳をふさぐと、船体についているジェット推進部分がどんどん明るくなっている事を確認する。
「ガチで発進するのか・・・?」
ロイは慌てて後退すると、持っていたバッグで顔を覆った。



「艦長やるなぁ!あいつ驚いてるぜ!」
ザックが笑いながら言った。
第21小隊の面々は専用軍艦<クラッシュ>の船体上部に乗っていた。
まさに高みの見物というわけだ。
エクス、ザック、メリル、アダム、ベンと全員がジェットパックを背負っている。
「言っておくが、俺はこんな歓迎反対だぞ!」
ベンがエンジンの轟音に負けないよう、ゴツイ声を張り上げた。
「お前がこういうの嫌いだってのはよく分かってるさ!ただ、生涯の戦友に協力してくれ!」
「そうですよ大尉!我々の団結力を見せないと!」
エクスとザックがそう返すと、ベンも「はいはい」と呆れながら頷くしかなかった。もちろん、アダムとメリルは眺めるのみ。
しばらく格納庫をうろつくロイ・モースを眺めた後、エクスが声を張り上げた。
「よし、歓迎開始!」
その言葉で、無駄な団結力を発揮している面子は、一斉に飛び出した。



ロイは目を疑った。エンジン点火し、いつでも発進できるような専用軍艦の天辺から、いきなり人が飛び出してきたのだ。
ジェットパックをつけた人間が5人・・・
彼らは2,3分の間、ロイの目の前で無駄なアクロバティックを披露した後、全員が彼の前に降り立った。
横一列に並ぶ。その途端に轟音を上げていたエンジンも消され、格納庫に静寂が灯った。
それを合図に、端に立っていたいかにも歴戦の勇士というのがふさわしい、年配の男性がしゃべりだす。
「ロイ・モース隊員、歓迎する。私が第21小隊の隊長、エクス・クラウンだ。」
ロイはその言葉に慌てて私物を置いて敬礼する。あいさつもついでに考える。
「ありがとうございます隊長!」
それなりの台詞を言ったつもりだ。真ん中にいる傷のついた隊員に小さく笑われたのを、ロイはスルーした。
「それでは自己紹介をしていこうか」
エクスの指示で、隣にいたゴツイ坊主頭の、年はエクスと同じくらいの男性が一歩前に出た。
「ベン・クラウド隊長補佐官。エクスとは長い戦友だ。よろしく頼むぞ」
威厳溢れる自己紹介に、ロイも自然とSSFでやっていく決意を固めた。
その次に前に出た頬に十字の傷がついている隊員は、ロイの記憶の中にあった。
確か、昨日の入浴で素っ裸で浴室内を滑り回っていた人だろう。そういえば、それを投げ捨てたのは
エクス・クラウン隊長だったような・・・ロイがつい昨日のおぼろげな記憶を辿っていると、その隊員がロイに顔を近づけた。
「・・・おい、聞いてる?」
その言葉に、ロイははっと前を向いて隊員の顔を見る。
「はい、聞いてます!すいません!」
「そうか?今のギャグで笑わないなんておかしいなぁ・・・まぁいいや、本格的に自己紹介をする。
ザック・ペリー中尉だ。この小隊のアタッカーだ。好きな食べ物はカレーライス。よろしく」
「俺だな、アダム・ホール。スナイパーをやっている。えっと、お前は狙撃手志望かい?」
アダムという赤毛の隊員に質問されたロイは慌てて返答する。
「いえ!すいませんが狙撃手は志望してません!」
ロイの返答に、アダムは笑いながらそっかと頷き一歩後退する。
なんと大人な人なんだろう、外見も中身も・・・ロイはそう思い最後の一人に目を向ける。
続くのは女性隊員・・・しかもただの女性隊員ではない、どう見ても自分と同世代だ。
銀色交じりの髪の毛は肩まで下がっていて、顔はどこかあどけないが確実に戦火を潜り抜けてきた顔であると判断する。
ロイはそんな彼女の自己紹介を待った。
「えっと、メリル・ライター准尉です。えぇ、2年目で後輩は初めてだけど・・・年はいくつ?」
メリル少尉か、なかなかいいぞ!・・・ではなく、ロイは空想を押さえ質問に答える。
「はい、今年で17歳です」
その威勢のいい返事に、メリルは驚きの表情をする。
「本当に!?ああ、後輩なのに年上とかだったらどうしようかと・・・とにかく、よろしく」
ロイは一応小さく会釈をする。自分より年上の新属隊員が入ってくることを心配するとは・・・
相当若いんだな!?とロイは推理すると、再び話し出したエクスに目を向けた。
「とにかく紹介しよう、この軍艦、資料で読んだこともあるかもしれないこの専用軍艦は、
我々第21小隊の拠点であり住居である軍艦<クラッシュ>だ。普通の軍艦とは一味違う。改造が施されているんだ。」
エクスの説明を、関心の意を表しながら聞き入るロイ。
「ま、ここではなんだ。中に入って説明会じゃ説明してくれないような、詳しいシステムの説明をしようではないか」
その言葉に一同賛成、下部から垂れ下がる梯子を伝い、<クラッシュ>内へと入ったのである。
ロイと第21小隊との出会いは、順調な滑り出しを見せた。




順位を公開し、新たな隊員たちを迎え入れたSSF本部は比較的落ち着きをみせていた。
先ほどまで慌しく動いていた”プランアリーナ”の面々も徐々に自宅に足を向かわせる者が増えてきた。
その最高責任者であるダシも、そろそろ一休みしようかと思い、特殊なサングラスを取り椅子の上で大きく伸びをした。
「・・・っくぅ!ああ、疲れるねぇ。飲み物でも飲むか」
ダシがそういって自分の席を立ったとき、彼の目の前に展開されているいくつものホログラムスクリーンを押しのけて
1つのスクリーンが全面的に強調された。
「ん?」
彼が座りスクリーンをアップさせる。
そこに映し出されていたのは脅迫の文章であった。もちろん、例の反乱分子からの。
どうやらSSFだけでなく、主要惑星や軍の主要外部通信端末にも送信しているらしく、内容は軍へのものと同じものらしい。

“銀河同盟に従い、流される同盟加盟星の諸君、ならび銀河同盟軍、宇宙特殊部隊SSFに公開する。
この文書ファイルが閉じた5秒後に再生される映像を見てほしい。その後、我々は行動に入る”

この部屋は全く外部の関係ない者からの通信も受け取る。このような奴らからの脅迫状も最高責任者である
ダシの端末へと送られてくるのだ。
彼はすぐさまこれを上層部のデータ端末へ転送すると、5秒後に流れ出した映像を見た。
流れ出したのはリカルア第4衛星オリアの外交省。今は住民が避難して人気が全く無いが
リカルア圏に住んでいるものなら何度も目にする、外交のメインホールである。
そして目を疑った。
そんな空高くそびえるビルである外交省の建造物が、一瞬赤く光ったかと思うと、瞬く間に崩れ落ちた。
「うそだろ!?」
ダシが叫び声をあげた瞬間、<マザーシップ>内に緊急時にのみ流れるチャイムが流れた後、照明が点滅し始めアナウンスが入った。
『各部隊は至急出撃に備え待機、各部隊に送信されるミッション内容に従え行動せよ。繰り返す、各部隊は・・・・・・』
ダシはそれを聞いて焦りだした。このアナウンスはかつて一度しか聞いたことが無い。
そのときはリカルア大気圏内にあった防衛省がテロ組織により攻撃された時だけだ。
あの時はさっさと事態は終息したが、今回ばかりは違う、まさか衛星に直接攻撃が加わるとは。
ダシは上層部からの処理命令に終われる前にと立ち上がった。
「皆!緊急事態だ、忙しくなるぞ!気を抜かないように!」
「「「了解!!」」」
ダシの声が広い”プランアリーナ”に響いた後、その場にいる優秀な部下達の声が返ってくる。
それを聞いたダシは、早速上層部から来た指令を、各部隊に振り分け始めたのである。




大気圏外の防衛ラインは補強が続いていた。
軍の戦艦を全方位、全区画からの侵入にも耐えられるように配置している最中だ。
衛星オリアに侵入は許すまい、と軍の判断により行われている。
「配置、完了しました!」
「よし、防衛ラインは完了だな。」
とある戦艦でそんなやり取りが行われている。
上官と思しき人物が宇宙空間を眺める形で、ブリッジの中央で腕組みして仁王立ちになった。
「我らが銀河同盟統一軍の力を見くびるんじゃないぞ・・・・反乱分子め!」
ちょびヒゲの上官はそう叫んで、宇宙空間に向けて中指を立てた。
そんな彼が優越感に浸っていた時、後ろにいるレーダー手が突然叫んだ。
「提督!突如レーダーに30機の機影を捉えました!」
「なんだと!」
上官は慌ててそのレーダー手に駆け寄る。
「くそ・・・この距離まで近づいてヴロウ ―フラッシュ航行を解除し、通常宇宙空間に戻る時の事― できるのか・・・
普通なら衝突を恐れてこんな近くまで・・・」
「攻撃してきます!」
上官が呟いている隙に、その機影はどんどん近づいて、そのブリッジからも目視できるようになった。
彼が目を凝らすと、その小さく思えるファイターの大群はその戦艦目掛けて弾幕をレーザーの浴びせてきた。
シールドレベルを低下させていたため、たちまち戦艦はダメージを受ける。
「くそ!全砲等、目標に向かって!・・・」
上官がそう叫んだとき、そのブリッジの上をファイターの大群が飛び去っていった。
つまりこれは、防衛ラインを越えて行ったことを意味する。
「あっさり通過されました!」
「言われなくても分かってる!」
部下の言葉に、上官が苛立ちながら返した。
「くそ!全ファイター、スクランブル!なんとしてもあいつらをオリアの地に下ろすな!」



先ほどの映像は軍のネットワークにも送られていた。
早速、大気圏外で監視をしていた15人規模の一中隊が衛星オリアに向かった。
住民は避難完了し、軍の人間だけがうろついている夜の衛星オリア上空を飛んでいる。
「くそ静かだな・・・」
輸送機の中で一人の隊員が言った。
「普段ならこの時間、夜の騒ぎや犯罪が起きてるはずなのに・・・」
別の隊員が静かに呟く。
そのまま輸送機は破壊された防衛省の上空へと向かった。
他にも多くのビルが建ち並ぶ、いわばビル郡の真ん中に建っていた建物であったため、遠目で見ると意外と目立たない。
しかし近くに来るとやはり外交のシンボルのビルが跡形もなく消し去られていたのは虚しい。
「ああ、やっぱりなくなったのか・・・」
「感傷に浸るのは後からだ。とにかく、怪しいものは無いか上空から確認だ」
一人の隊員がそう締めたとき、突然輸送機が大きく揺れた。
「何だ!?パイロット!何が起きた!?」
「攻撃です!4時の方向から攻撃!回避します!!」
パイロットが操縦桿を捻ると、輸送機全体が大きく傾いた。
「レーダーに反応なし!」
パイロットが叫ぶ。しかし、攻撃は確実に加え続けられている。
「脱出だ!全員脱出!!」
部隊全員がヘルメットをつけ、座席に腰を下ろし、脱出バーを引いた。
座席がジェットのように浮き上がったかと思うと、天井が開き隊員15名が次々に脱出した。
残されたパイロットはこの輸送機を、墜落だけはさせまいと奮闘している。
「くそ!悪い冗談だ!」
そう呟いて前方を見ると、数時間前に目にした例の機体が向かってくるのが見えた。
「・・・あれが、、、無人機!・・・」
かれがそこまで言った所で、同盟軍の輸送機は、夜のオリア、上空にて散った。


それからすぐだった。
無人機の増援が絶え間なくオリアの上空に現れた。
地上では既に配備されていた軍の部隊が、それを迎え撃つ。
「あいつの好きなようにはさせんぞ!対空砲、撃て!!!」
部隊長が叫ぶと、オリアのビル軍の影に配置されている戦車から強力なエネルギー弾が発射される。
その一つが地上攻撃しようと低空に下りてきたファイターに命中した。
しかし、その爆炎が消える前に、その向こう側からきたファイターがレーザーを発射して戦車と部隊を焼き払う。
そのたびにオリアの文明が一つ、また一つと破壊されていった。
オリアの上空には、未だ無機質な無人機の増援が現れ続けている。




緊急事態があらわになったのはついさっき、ロイが<クラッシュ>内を案内されている時だった。
突如艦内にブザーが響いたかと思うと、今まで案内をしていたエクスがどこかに行ってしまった。
ちょうど誰も使わないような階下の暗い、倉庫の類があるようなところを案内されていたので
ロイはなぜか見知らぬ軍艦<クラッシュ>の一角に取り残されてしまった。
「えぇ・・・うそでしょぉ・・・」
ロイが呟いていると、近くにあった扉が開いて、中から人が出てきた。
人間の女性だ、赤毛のロングヘアーの髪をした、20代くらいの、さらに綺麗な。
「あ、君が新しい隊員ね。私、この第21小隊専属の技術士をやってるリーナ・カトス」
カトスといってパッと思い浮かんだのは、対人用レーザーを始めて実戦向きに改良したあのカトス家である。
まぁ今はそんなことはどうでもいい、とりあえずもっと人のいる所に行きたいのが本音である。
「なんでこんな所にいるの?」
リーナが聞いてきたので、ロイは慌てて返事をする。
「あ、いや、エクス隊長に案内してもらってたんですよ、この軍艦を。そしたら緊急事態になって、
エクス隊長はどこかに行っちゃいまして・・・」
ロイが説明すると、リーナは突然笑い出した。
「うそwwwそれはそれはかわいそうにw、ちょうどいいわ、多分ブリッジまで行っただろうから一緒にくる?」
「はい、是非」
つい本音が出てしまったロイだったが、何とか希望を見つけることが出来た。



一方<クラッシュ>のブリッジはそんな希望など漂ってはいなかった。
ついに実行されたオリアへの攻撃に、皆驚きと不安を隠せない。
よりにもよって首都惑星の、さらに都市と文明が広がっている衛星に加えられた攻撃は、全員の不安を掻き立てるのに十分だった。
「・・・というわけだ。全員気を引き締めろ」
エクスの言葉に、隊員たちは頷く。それと同時に、アイザックも動いた。
「たった今本部から指令だ。衛星オリアの615区画の防衛に回れとの指示だ。了承するぞ?」
アイザックが聞き返すが、答えを待たずに本部へ了承のサインを送った。
そんなアイザックがブリッジの中央の席につくと、目の前のスクリーンに衛星オリアの図を表示した。
「これから向かう615区画はこの位置だ。」
表示されたホログラムのオリア、その一部が光り、その区画がアップになる。
どうやら中心部から遠く離れた農村地帯のようだ。
「リアルタイムで映像を回すわ」
同じく自分の席で目の前のパネルを忙しくタッチしていたジュリアがそういうと、アイザックの前のスクリーンの、
さらに前にある大きなスクリーンに映像が映る。
まさに農村地帯、林や森もまだ生い茂っている、攻撃も加えられていないようだ。
「分かったな、我々はこの地へ向かう。ロック、ナリ、発進準備。」
アイザックが席から指示を飛ばす。操舵席についた2人が、目の前のキーボード、計器類をチェックし始める。
「全エンジン点火、冷却システム共に正常」
「火気管制システムオールグリーン、装置レベルすべて安定!いつでも飛べます!」
ナリとロックが続けて報告する。
「電気システム、外傷は主に見られないわ。飛行、戦闘にも支障はないでしょうね」
ジュリアが離れた席で電気類の確認をする。
そしてアイザックは手元にあるスイッチを押した。通信が本部の、おそらく”プランアリーナ”へと繋がる。
「第21小隊、軍艦<クラッシュ>、ミッション開始する」
アイザックが叫ぶと、程なく本部からの返答がある。
『了解。格納庫開放。』
慣れた女性オペレーターの声が響くと、目の前の壁一面がスライドしたかと思うと、一気に開いて
目の前には漆黒の闇が見える。
「発進!」
アイザックの声がブリッジに響いた。ロックが手前のレバーを倒し、ナリがキーボードを叩く。
次の瞬間、<クラッシュ>は轟音を立てて浮き上がり、外部と接続されていたコードを切ると、
ゆっくりと格納庫を出て夜のリカルア上空へと飛び出した。



SSF本部<マザー>は首都惑星リカルア上空に浮かぶ巨大な球体型の要塞・・・
そこから<クラッシュ>現れた。そして大気圏外を目指しさらに上空を目指す。
しかし、今<マザー>からは多くの専用軍艦が衛星オリアの救援のため、多くある<マザー>の格納庫から出ては
皆同じ方向に向かっていく。<クラッシュ>もそんな中に紛れ込み、しばらくして大気圏外へと消えていった。




銀河統一軍の衛星オリアに敷いていた防衛ラインが破られた。軍の本部や戦艦では埋め合わせのべく、
飛行部隊も続々と投入されていた。
軍の本部・・・宇宙空間に浮かぶ巨大な戦艦の発着所では、また新たな部隊が出撃準備に入っていた。
戦闘に配置された、ひときわブラックでカラーリングされたファイターにいるパイロットは、
機内の計器類のチェックを終え、通信をいれた。
「・・・フォース中隊、出撃準備完了。」
そんな通信を入れたところで、今度はコックピットのスピーカーから声が聞こえてきた。
初老の男性の声だ。
『スペンス、失敗の埋め合わせと考えるのもいいが、あまり感情的になるなよ、分かったな?』
パイロットのスペンサー・デイ大尉は、そんなアドバイスをさらっと流した。
「マッケン少佐、アドバイス感謝します。ただ自分は、自分のためにこのファイターを飛ばします」
スペンスがそう返すと、再びマッケンの声が返ってくる。
『相変わらずだな。失敗はしていいが、絶対に死ぬんじゃないぞ。』
「心配は無用です。死ぬ予定はありません。失敗する予定もありません」
スペンスがそこまで言った所で、今度は別の男性の声が響いた。
『こちら本部<ベース>。フォース中隊、出撃せよ。』
スペンスはこの命令を待っていた。
「了解。」
そして一言そう返すと、操縦桿を握る。
「フォース中隊、出撃する!」
スペンスのその一言で一斉に発着所から10機のファイターが宇宙空間へと飛び立った。




ロイはリーナについて行きながら、<クラッシュ>のブリッジへと向かっていた。
発進したことについては、リーナからの教えで何となく分かっている。
「もうすぐブリッジよ。」
リーナがそういって廊下の一角を曲がった所で、数人の一団と出くわした。
我らが第21小隊である。
「あ、ロイ発見」
ザックがそういうと、アダムと目を合わせる。
「・・・リーナとデートしてんじゃないか?」
「うっさい、今はそんなこと言ってる場合か」
アダムに一喝され、ザックは口をつぐんだ。
「エクス隊長、迷子ちゃんを連れてきましたよ」
リーナがそういいながらロイを前に出すと、「じゃ、ブリッジ行ってくる~」といって颯爽と去っていった。
それを見ながらロイは、先頭にいるエクスの前に出た。
「すいません!勝手にはぐれてしまって!」
「何を言う、私の責任だよ、すまなかったな」
エクスが謝りながらこっちに来いと手招きする。そして神妙な面持ちで喋り始めた。
「・・・これから任務に向かう。知っているだろうが、衛星オリアの防衛任務だ。我々は割りと田舎の地区の防衛に回された。
恐らく激しい戦闘はないだろう。だが、巻き込まれたら巻き込まれたなりの対応をしなければならない。応戦だ。
お前はどうする?まだ正式に入隊して1時間、試験を受け始めてからも1日しか経ってないが・・・
経験を積むか?それとも今回は見送ってここで待機し見取り稽古といくか?どっちでも構わない。お前が決めていい」
エクスがそういった後、まじまじとロイの顔を眺めた。お前が決めろ、その眼差しだ。
そんなエクスの背後にいる21小隊の面々、アダムはすかさず付け加えをする
「正直キツイと思う。無理だと思うなら、正直に無理と・・・」
「何を言うかアダムさんよ、ここで出撃してでの第21小隊のメンバーだ。だよな?」
アダムの注意に割り込む形で言ったザックが、エクスをみた。
「ああ、そうだ」
エクスはそう呟いて、再びロイの顔を見る。
ロイの心は決まっていた。
そんなわざわざ入隊して見取り稽古してろ?いや、そんなのごめんだ。ダサい、ダサすぎる。
ロイは顔を上げるとエクスの顔を見て声を荒げた。
「行きます・・・一緒に出撃させてください!」
その言葉を聞いて、なぜかエクスの瞳は一段と輝いた。
「よく言った!それでこそ我らが第21小隊だ!」
「ロイさんよ、歓迎するぜ」
エクスとザックが続けて声をあげる。一歩下がってみているアダムが髪をさっとかき上げる。
「・・・入隊して数時間の新入りを実戦投入?・・・そんな馬鹿な話がありますか・・・」
「決まったなら仕方ない。」
歎くアダムに、フォローに入ったのはベンだった。
「俺達が全力でサポートするだけだ。分かったな?」
ベンの言葉に、アダムも仕方ないかといった具合だが顔を上げることが出来た。
「よし、ならば出撃の準備といこう。21小隊、6人全員でな!」
エクスのその大きい声が廊下にこだました。
盛り上がっている男5人と対照的に、ただ1人メリルだけは乗り気にはなれなかった。


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